認知心理学研究
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4 巻, 2 号
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原著
  • 藤木 大介, 井上 雅美, 中條 和光
    2007 年 4 巻 2 号 p. 49-56
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    形容詞と名詞とからなる名詞句の概念表象は,形容詞のスキーマと名詞のスキーマとが結合し,形成される.例えば,典型名詞句“赤いリンゴ”の概念表象は,形容詞“赤い”が名詞“リンゴ”の色スロットのデフォルトの値“赤い”を上書きすることで形成されると考えられる.また,非典型名詞句“茶色いリンゴ”の概念表象は,“茶色い”が名詞の色スロットを“赤”から“茶”に書き換えることで形成されると考えられる.もしそうであるならば,典型名詞句と比較して,非典型名詞句の理解時間は,スロットの値の書き換えの分,長くなるだろう.また,典型名詞句の意味表象の構造は,形容詞のない裸名詞句と同様なので,記銘の後,再生された場合,非典型名詞句よりも多く形容詞が脱落しているだろう.この予測は実験でも確認され,仮説が支持された.
  • 武澤 友広, 宮谷 真人
    2007 年 4 巻 2 号 p. 57-64
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,競合と自動的な反応の活性化の抑制との関係を明らかにすることである.14名の実験参加者は単語刺激(‘ひだり’,‘みぎ’)の表示色に対してボタンを押し分ける課題に取り組んだ.課題に関連のない刺激属性(刺激の呈示位置と単語の意味)は参加者が反応すべき位置と一致する場合と競合する場合とがあった.われわれは競合の量が異なる3つの刺激条件を設定した.競合なし条件では,刺激の呈示位置も単語の意味も反応すべき位置に一致した.小競合条件では,単語の意味だけが反応すべき位置と競合した.大競合条件では,刺激の呈示位置と単語の意味の両方の刺激属性が反応すべき位置と競合した.自動的な正反応の活性化の促進効果が反映される競合なし条件における反応時間は,前試行における競合の量が大きいほど増加した.自動的なエラー反応の活性化が反映される大競合条件におけるエラー率は前試行における競合の量が大きいほど減少した.これらの結果から,競合の検出処理は競合の量に基づいて自動的な反応の活性化の抑制を調節していることが示唆された.
  • 室井 みや, 笠井 清登, 植月 美希, 管 心
    2007 年 4 巻 2 号 p. 65-73
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    ストループ課題および情動ストループ課題を用いて,統合失調症における情動的情報,非情動的情報に関する選択的注意機能について検討を行った.その結果,ストループ課題において,統合失調症者では不一致条件と中性条件の反応時間の違いは有意ではなかったが,統制群に比べて,不一致条件と中性条件の誤答率の違いは大きかったことから,無関連情報の処理を抑制する機能が低下していること,課題要求の保持が難しいことが示された.
    また,情動ストループ課題では,単語の種類による反応時間の違い,誤答率の違いは全体として有意ではなかったことから,情動的情報の認知機能障害は,情動的情報への注意バイアスによるものではなく,情動的情報に関する処理機能自体が低下しているためである可能性が示された.
  • 平岡 斉士
    2007 年 4 巻 2 号 p. 75-85
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    先行研究によって,示差性の高い顔は低い顔に比べて,記憶再認課題の成績がよいことが知られている.しかし,それらの研究では,示差性という用語が明確に定義されていない点や,示差性の高い顔と低い顔とは別の人物の顔となるために,顔刺激の固有の特徴と示差性の効果とが交絡している点が問題であった.
    そこで本研究では,学習した顔の示差性が,顔の記憶表象にどのような影響を与えるかを検討するために,二つの実験を行った.実験参加者は示差性の異なる複数のターゲットを学習し,ターゲットの示差性を操作した画像群の中からターゲットを選択する二つの実験を行った.ターゲットは示差性を3段階(誇張化・オリジナル・平均化)に操作した顔画像であった.二つの実験は難易度と遅延時間が異なった.
    その結果,ターゲットの示差性が高い場合は,示差性が誇張された画像が選択されたが,その他の条件では,オリジナルに近い示差性の画像が選択された.これらの結果から,顔の示差性が高い場合に,記憶表象では誇張されており,記憶を容易にしていることが示された.
  • 成本 忠正, 牧野 義隆
    2007 年 4 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,認知課題が統合処理とその処理結果保持の交互連続的作業を必要とする事態においても,作動記憶の処理と保持が機能的に独立(認知資源の非共有)しているのかを検討することである.被験者は,一次課題のイメージ統合処理と処理結果の保持の遂行中(処理・保持妨害条件),もしくは処理結果の保持のみ遂行中(保持妨害条件)のいずれかで二次処理課題を遂行した.実験1では二次処理課題の視空間性および言語性課題を遂行した.その結果は,妨害条件にかかわらず視空間性課題のみが一次課題に妨害効果を示した.二次課題難度が高すぎたことにより,妨害条件が効果をもたなかった可能性を検討するため,実験2では視空間性二次課題の難度を実験変数とした.その結果,低難度条件においても保持妨害条件の成績が二次課題を伴わない統制条件の成績と同じになることはなかった.つまり,統合処理と保持が交互連続的活動を必要とする事態では,それらが認知資源を共有しており,完全な独立機能ではないことを示したのである.
  • 小川 奈保, 余語 真夫
    2007 年 4 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,思考抑制が順序記憶に及ぼす影響について検討した.実験参加者は感情価がニュートラルな映像を視聴後,その映像について考えないよう指示される抑制群,計算課題を課される計算群,教示を与えられない統制群に無作為に分けられた.10分後,実験参加者は映像に関する記憶課題を行った.実験の結果,映画の順序に関する記憶課題において,順序課題では抑制群の成績が他の2群より悪かった.しかし,自由再生課題では,順序記憶の成績に条件による差は見られなかった.このような結果の不一致を受けて,映画に関する思考抑制がその順序記憶に影響を及ぼすか否かという点については,さらなる検討が必要である.
  • 菱谷 晋介, 西原 進吉
    2007 年 4 巻 2 号 p. 103-115
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,Aプライムが,主観的なイメージ鮮明度査定能力の指標として妥当か否かを検討した.視覚イメージ鮮明度質問紙(VVIQ)の,16項目のうち半数の項目に対しては閉眼・描画動作条件で,また,残りの半数の項目に対しては,開眼・眼球運動条件でイメージ形成が行われた.前者の条件では鮮明度が増加し,後者の条件では鮮明度が減少した.前者における評定値1(実際の知覚と同じくらい鮮明)もしくは2(実際ほどではないが,かなり鮮明)の選択をHit,後者における同様な選択をFalse Alarmとみなして, Aプライムが計算された.Aプライムは,VVIQの合計評定値よりも記憶成績をよく予測した.この結果は,鮮明度評定値の合計という慣習的な指標よりも,新しい指標Aプライムのほうが,イメージ能力をより鋭敏に測定できることを示唆している.さらに,Aプライムは,視空間ワーキングメモリでイメージの生成に携わっている内的書記の機能を測ると想定される,心的回転テストの得点と相関がなかった.この結果は,イメージの査定と生成が相互に独立であることを示唆している.
資料
  • 荒川 歩, 西尾 新
    2007 年 4 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,身振りが新奇な空間的問題の解決に与える影響を検討することを目的とした.大学生・大学院生40名が実験に参加した.円盤移動イメージ課題を行った結果,前半セッションにおいて腕組みをする必要があり後半セッションで腕組みをする必要がない群は,前半で誤答率が高いことが認められた.他方,前半セッションで腕組みをする必要がなく後半セッションで腕組みをする必要のある群は,正答率に変化は認められなかった.また,この課題において身振りをしないことが確認されている男性においても同様の効果が認められた.このような効果が現れた原因として,腕組みによって,身振りだけではなく,身体動作が規定されたこと,身体動作の抑制が課題に影響する可能性が考えられた.
  • 守谷 順, 丹野 義彦
    2007 年 4 巻 2 号 p. 123-131
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,社会不安に見られる脅威関連刺激に対する選択的注意が,刺激からの注意の解放の欠如によるか検討した。社会不安高群と社会不安低群を選出し,実験を行った。プライム刺激には社会的脅威語,中性語,記号を用い,画面中央に100 ms,または800 ms提示した。その後,ターゲット刺激がプライム刺激の左右の一方に提示されるので,実験参加者にはプライム刺激を注視しながらターゲット刺激の位置弁別をキー押しで判断するよう求めた。結果,社会不安高群は社会不安低群に比べ,社会的脅威語を800 ms提示時に反応時間が遅延した。また,刺激提示時間が800 msでは,社会不安高群は中性語・記号よりも社会的脅威語で反応時間が遅れた。しかし,刺激提示時間が100 msの際は,社会不安高群と低群の間で差はなかった。社会的脅威刺激が800 ms程度長く提示されると,社会不安高群は刺激からの注意の解放が困難であることが明らかになった。
特別寄稿
  • 浜田 寿美男
    2007 年 4 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 2007/03/31
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    わが国では刑事取調べにおいて無実の人が嘘の自白をする例が少なくない.この虚偽自白の典型例は強制下の迎合によるものである.身柄を拘束された被疑者に対して,取調官が被疑者は犯人に間違いないと確信して取り調べるが,それはしばしば証拠なき確信である.この状況のもとで,被疑者は一般に想像されるよりはるかに強い圧力をこうむる.被疑者は身近な人々から遮断され,生活を警察のコントロール下に置かれ,屈辱的なことばを投げつけられ,弁明しても聞き入れてはもらえない無力感にさいなまれる.しかもこの苦しみがいつまで続くかわからず,見通しを失ってしまう.そこでは有罪となったときに予想される刑罰が自白を押しとどめる歯止めにならない.取調べ下の苦しみはたったいま味わっているものであって,それを将来に予想される刑罰の可能性と比べることはできないからであり,また,無実の人にとっては予想されるはずの刑罰に現実感をもてないからである.虚偽自白の心理は,第三者の視点からではなく,まさに渦中の当事者の視点からしか理解できない.この渦中の視点からの心理学をどのように展開するかは,今後,刑事事件を超えた課題となりうるはずである.
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