裂肛は排便時に受ける外傷によってはじまるが,肛門に内在し,それを難治化する因子があるため困定化するものである.裂肛を発生機序の因子別に1.狭窄型,2.脱出型,3.混合型,4,脆弱型,5.症候型の5型に分類し,過去7年間臨床的に応用しているが,これによって正確な病像が把握され,適切な治療が行なえ,処置,手術に伴う合併症が防がれているのでここに発表する.
狭窄型は疼痛,内括約筋のspasm,狭窄(内括約筋の硬化)が悪循環を形成したもので,後方正中に深く,感染を起こしたcryptを伴うことが多い,
治療は肛門の用手拡張,内括約筋側方切開,Cryosugery,内括約筋切開sliding skin graft等,内括約筋の硬化を解消する手段が選ばれる.
脱出型は痔核等の脱出によりその脇が裂けて裂肛となりその反復により固定化する.狭窄を伴わないのが特徴である.
治療は硬化療法あるいはMcGivny式結紮による脱出物の縮小,除去,結紮切除法など脱出の解消に向けられる.決して拡張術を施行してはならない.
混合型は前二者の合併したもので,従って治療法も二者に対するものを併せ行う.
脆弱型は肛門上皮が脆く裂けやすい状態になっている場合で,湿疹,皮膚炎に由来する場合が多く,保存的に治療する.まれに生来肛門上皮の脆弱な例があり,強度のものはsliding skin graft法を応用する.術後瘢痕部の脆弱による例は最近少なくなった.
症候型は潰瘍性大腸炎,クローン氏病,結核などの肛門部病変として現われるもので,多発性のことが多い.下痢,粘液便のため増悪する.
治療は主病変に向けられるべきであるが,裂肛部に対する保存,処置,手術の効果は十分得られる.
諸家の発表による諸種肛門拡張術後のかなり高率なガス,便の洩れ,下着の汚れなどは,脱出型を狭窄型と誤まって処置を行ったことに由来していると推測され,このことも,裂肛の病態を病因別に正確に診断,治療することの重要性を示している.
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