日本大腸肛門病学会雑誌
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48 巻, 9 号
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  • 青柳 健
    1995 年 48 巻 9 号 p. 979-991
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    大腸術後感染予防に有効な抗菌薬選択に関する基礎実験として,methicillin耐性黄色ブドウ球菌(以下MRSA)保菌ラットを用いて各種抗菌薬投与後の腸内主要常在菌叢の変動の検討,およびGAMブイヨンでの混合培養で菌の相互作用を検討した,in vivoでは,kanamycin・metronidazole併用投与群とlatamoxef投与群においてEscherichia coli(以下E.coli),Bacteroides属の菌数減少に伴いMRSAの増加が認あられたが,cefotiam(以下CTM)またはmetronidazole単独投与群ではMRSAは増加しなかった.invitroでは,EcoliとEnterococcus faecalisまたはBacteroides fragilisの2菌株の増殖が同時に強く抑制された群ではMRSAが増加した.以上より,E. coliとBacteroides属の増殖を同時に強く抑制するような抗菌薬選択は,MRSAが増加しやすいことが示唆された.よって臨床的にも大腸術後感染予防抗菌薬の第一選択には,CTMなどのE. coliを中心とした菌種に抗菌活性をもつ抗菌薬を使用するべきであると考えられた.
  • 渡辺 正志, 中崎 晴弘, 前田 利道, 花輪 茂樹, 長谷部 行健, 大城 充, 瀧田 渉, 瀬尾 章, 永澤 康滋, 辻田 和紀, 柳田 ...
    1995 年 48 巻 9 号 p. 992-1000
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移切除例52例を対象として,切除成績について検討した.肝切除後の1年生存率は77.9%,3年生存率は51.0%,5年生存率は39.7%であった.肝切除後の予後に影響を与える因子としては,原発巣の所見では転移陽性リンパ節数で,2つ以下の症例と3つ以上の症例では,2つ以下の症例の予後が良好であった.肝転移巣の所見では,同時性の肝転移が異時性より予後不良の傾向を認めたが,転移個数,H因子の程度別では差を認めなかった。肝切除方法を小範囲切除,広範囲切除,複数肝切除の3方法に分けて検討したが,3者間の予後に有意差はなかった.術後に動注化学療法を行った症例と行わなかった症例の生存率の検討では,施行症例の予後が有意に良かった.最近の動注化学療法の成績を考慮すると,同時性肝転移の治療にあたっては,原発巣の切除とともにできる範囲での肝切除術を行い,術後早期から動注化学療法を行うことが良好な結果をもたらすのではないかと思われた.
  • 中尾 健太郎, 澁澤 三喜, 角田 明良, 神山 剛一, 高田 学, 横山 登, 吉沢 太人, 保田 尚邦, 張 仁俊, 佐藤 徹, 河村 ...
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1001-1008
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    教室で1981年から1992年までに経験した大腸癌切除症例651例にみられた大腸多発癌は49例(7.5%)であった.同時性大腸多発癌は41例,異時性大腸多発癌は8例であった.同時性大腸多発癌の特徴として第1癌と第2癌が同一区域または隣接区域に存在することが多く,単発癌と比較し第2癌の壁深達度がm, sm層に多く,肉眼型も0型が多い傾向がみられた.またploidy patternにおいて第1癌ではdiploidyの頻度が高く,腺腫の合併,大腸癌の家族内発生が高頻度にみられたが,予後は良好であった.一方,異時性大腸多発癌では単発癌と比較して発症年齢で有意の差はないものの第1癌でやや若年,第2癌でやや高齢発症の傾向がみられた.また占居部位では右半結腸に好発し,第1癌と第2癌は離れた区域にあることが多く,予後は単発癌と比較し不良であった.これらから大腸癌の術前術後の検査において多発癌の存在を考慮した診察の必要があると思われた。
  • 直腸癌の骨盤神経叢温存術のために
    山本 雅由
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1009-1016
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    系統解剖遺体20例を用いて側面像から骨盤神経叢の局所解剖を検討した.骨盤神経叢は腹膜反転部より頭側の骨盤内筋膜下に存在し,大きさは平均3.5×2.2cmであった.各仙椎の下端から恥骨結合上縁を結ぶ接線(O-Sn線)と,岬角の頂点から恥骨結合上縁を結ぶ接線(O-P線)に平行で仙椎下端を通る線(Sn(O-P)線)との交点で表すと,側面からみた骨盤神経叢の上角は男女ともS1(O-P)とS2(O-P)の間に存在した,骨盤神経叢の前角は,男性はO-S3とO-S4およびS2(O-P)で囲まれる部分に,女性はO-S3とO-S5,S2(O-P)およびS3(O-P)で囲まれる部分の腹側に存在した.第4骨盤内臓神経(S4n)は,男性では前仙骨孔から分枝して恥骨結合上縁に向かう方向に走行し,女性では恥骨結合下縁方向に走行していた.直腸癌と骨盤神経叢の位置関係が明らかになることにより,全神経温存術やS4n温存術の適応が正確なものになると考えられた.
  • 1995 年 48 巻 9 号 p. 1017-1025
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    メラノーシスコリは便秘に対する刺激性下剤の長期連用により発生し,その器質的変化は粘膜内に留まらず,腸管内の神経叢に至り便秘状態をさらに増長するといわれているが,病態が十分に解明されているとは言えない.本病態の解明にはメラノーシスコリ発症動物モデルの有用性が高いと判断した.そこでアントラキノン系市販薬セノコット(R)顆粒(科研生薬)を用い,モルモット(Hartley雄性)でのメラノーシスコリの発症に関し検討を行った.過剰量の投与群では,モルモット大腸粘膜の黒色化が肉眼的に観察され,組織学的には粘膜固有層に褐色顆粒状の色素沈着を確認した.また沈着の程度は下剤投与量に用量依存的であった.以上の結果から下剤の投与によりメラノーシスコリが発症することが確認された.さらに実験的にメラノーシスコリを発症し得た動物は,メラノーシスコリ発症モデルとして今後本疾患の病因,病態の解明に有用であると判断する.
  • 辻 順行, 高野 正博, 久保田 至, 徳嶺 章夫, 嘉村 好峰, 豊原 敏光
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1026-1032
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    1994年1月から12月までに当院外来を受診した症例の中で,直腸肛門病変を有しない20歳代から70歳代までの男性50例,女性49例を対象として,直腸肛門機能検査を行い以下の結果を得た.(1)肛門管最大静止圧,肛門管最大随意圧,排出圧は,男女ともに20歳代から60歳代までは,有意な差を認めなかった.しかし,70歳代では他の年齢と比較して男女ともに有意な低下を認めた.また性差で比較すると肛門管最大静止圧においては70歳以上では,有意な差を認めなかったが,69歳以下においては有意に女性の方が男性より低かった.肛門管最大随意圧と排出圧においては,69歳以下や70歳以上の群でも有意に女性が男性より低かった.(2)機能的肛門管長では,男女ともに20歳代が他の年齢群と比較して有意に短く,30歳代から70歳代では男女ともに有意な差を認あなかった.また性差で比較すると29歳以下や30歳以上の群においてもそれぞれ女性が男性より有意に短かった.(3)直腸感覚閾値,最大耐用量,直腸コンプライアンス等は,20歳代から70歳代までの,どの年齢群においても,男女ともに有意な差を認めなかった.以上より,肛門機能は直腸機能に比べて性差や加齢による影響が及びやすく,直腸肛門の手術の際には性や年齢を加味して手術術式の選択をすべきであると思われた.
  • 山中 茂
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1033-1041
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    術中color doppler flow imaging(以下CDI)法を用いて大腸癌症例の腫大リンパ節の転移の有無および組織学的変化について研究した.大腸癌症例10例,29個のリンパ節に予備研究を行い,リンパ節内部の血流パターンより診断基準を作製し,32症例,76個のリンパ節にprospective studyを行った.またCDI画像が,なぜ変化するのか,病理組織標本と対比検討した.予備研究の結果,血流パターンを4型に分類した.prospective studyの結果,正診率は,CDI法94.7%,超音波断層法77.6%で,CDI法で良好な結果であった(p<0.01).病理標本と対比した結果描出された血流は,リンパ節梁柱内に存在する血管を表現していた.また癌転移によりリンパ節構造が変化し同様に血管の走行が変化した.CDI画像がこの変化を反映していることより,術中CDI法は,大腸癌リンパ節転移の質的診断にきわめて有用と思われた.
  • 西原 承浩, 鄭 容錫, 金 光司, 池原 照幸, 曽和 融生, 奥野 匡宥
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1042-1046
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    腹膜偽粘液腫は虫垂や卵巣を原発としてみられるが結腸原発は稀である,患者は71歳,男性.平成2年7月から腹部膨満感が増強し,同年10月入院となった.入院時腹部は腹水貯留を認め,右下腹部に手拳大の腫瘤を触知した.またCEA,CA125の上昇を認めた,注腸検査にて上行結腸に巨大腫瘤陰影を認めた.腹部CT検査にて右横隔膜下に肝弯入像と腫瘤周囲,脾周囲,ダグラス窩に腹水のCT値に近い病変部を認め,上行結腸癌原発腹膜偽粘液腫と診断された.開腹所見にて,上行結腸に手拳大の腫瘤を認め,腹腔内全体に粘液腫瘤塊が認められた.組織学所見では,結腸漿膜面を越えて浸潤する粘液癌であった,術前腹部CT検査にて診断された稀な結腸原発腹膜偽粘液腫の1例を報告した.
  • 大湾 朝尚, 高野 正博, 高木 幸一, 藤本 直幸, 野崎 良一, 安谷屋 浩
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1047-1053
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/12/03
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎(以下UC)の経過中,選択的にIgAが著明に低下し,γ-グロブリン療法が有効であった症例を経験したので報告する.患者は53歳女性.1989年1月,粘血便を主訴に当院を受診,直腸炎型のUCで通院加療となった.再燃緩解を繰り返し,1993年4月,粘血便の増加にて入院.中心静脈栄養副腎皮質ステロイド剤(以下SH)強力静注療法に抵抗性で全大腸炎型へ進展したため,γ-グロブリン療法を試み,血便の消失とともに大腸内視鏡検査所見も改善した.一方,本症例では初診時と退院後における血清IgAは正常であったが,入院中SHの大量投与後に選択的IgA欠損症の状態をきたした.潜在的に免疫学的異常が存在し,SHの大量投与によって,一過性の選択的IgA欠損症を発症したものと思われた.
  • 冨士原 知史, 池原 照幸, 加藤 保之, 新田 敦範, 前田 清, 山本 嘉治, 大平 雅一, 永井 裕司, 西口 幸雄, 奥野 匡宥, ...
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1054-1059
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    腸間膜脂肪織炎は原因不明の稀な非特異性炎症疾患である.われわれは結腸腸間膜に発生した本症の1例を報告するとともに,本邦報告例の文献的考察を加える.症例は73歳,男性.下腹部痛を主訴に,注腸造影検査,大腸内視鏡検査,CT検査,腹部エコー検査より直腸から下行結腸の腸間膜に発生した脂肪織炎と診断し,保存的治療を試みたものの,腸管狭窄の改善を認めず,外科的切除を施行した,自験例を含む,記載の充分な本邦報告49例の検討では,中年以上の男性に多く,部位では大腸腸間膜例が34例と多く,腹部の外傷歴や手術歴を有する症例は18例であった.本症の診断には腹部CT検査が有用であると思われた.32例に病変部の摘出術が施行され,17例に保存的治療がなされている.自験例のように保存的治療に抵抗し,著明な腸管狭窄を示すような症例では,腸管切除を考慮する必要があろう.
  • 金 昇普, 田口 哲也, 伊豆蔵 正明, 丹治 芳郎, 芝 英一, 高井 新一郎, 高見 元敞, 花田 正人
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1060-1064
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    今回著者らは,原発性虫垂癌を合併した遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)の1例を経験したので報告する.患者は59歳の男性.家族歴では母に胃癌,兄に直腸癌を認める.患者は41歳の時に初めて結腸癌を発見されてから,59歳までに同時性あるいは異時性に5重癌(大腸癌4,胃癌1)に罹患した.今回,直腸癌に対して直腸低位前方切除術を施行したところ,術中に腫大した虫垂を認めmucoceleと判断し虫垂切除術を追加したが,術後の病理組織検査にて虫垂病変は粘液嚢胞腺癌と高分化腺癌とが混在する原発性虫垂癌と診断された.HNPCCの臨床的特徴の一つとして右側優位の大腸癌発生があげられ,Lynchらは大腸癌の約70%が右側大腸に認められると報告している.しかし,著者らの調べた範囲では虫垂癌の合併はなく,自験例が最初の報告例と考えられた.
  • 岩瀬 直人, 大矢 正俊, 柳田 俊之, 平安 良博, 石井 裕二, 窪田 猛, 小松 淳二, 中村 哲郎, 寺田 春彦, 佐々木 勝海, ...
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1065-1069
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    痔核・裂肛などの痔疾患を有する患者における便潜血反応の意義を検討するために,肛門部症状を主訴とし,患者自らが痔疾患と考えて受診した232例に対して免疫学的便潜血反応を行った.便潜血反応は19例(8.2%)で陽性で,自覚症状や痔疾患の他覚的所見は便潜血反応率に関係しなかった.便潜血反応陽性者に対する大腸の精査により4例(5病変)の大腸癌が発見された.便潜血反応陰性者62例でも大腸が精査されたが,癌は発見されなかった.以上の結果から,痔疾患が便潜血反応陽性の原因となる場合は少なく,便潜血反応陽性者では痔疾患の自覚症状があっても,まだ肛門診で易出血性の痔疾患が認められても大腸を精査するべきであると考えられる.
  • 石井 裕二, 大矢 正俊, 廣瀬 清貴, 中村 哲郎, 小松 淳二, 高瀬 康雄, 寺田 春彦, 佐々木 勝海, 赤尾 周一, 石川 宏
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1070-1075
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    defecographyは種々の排便障害の診断に有用な検査法である.著者らは,注腸造影検査に引き続いて安静時・骨盤底収縮時・いきみ時の直腸肛門部の側面像を撮影する簡便なdefe-cographyを行ってきた.直腸肛門部の器質的病変や排便障害の自覚症状のない63例(男性32例,女性31例,平均年齢49.7歳)に対して本法を行ない,性差・年齢による差について検討した.女性は男性に比べ骨盤底収縮時の肛門管長が短く,骨盤底の位置が低位置であり,骨盤底の位置の上昇が少ない傾向が認められた.また高齢者ほど会陰の位置が低位置にあり,安静時の直腸肛門角が鈍角であった.直腸瘤は10例,enteroceleは1例で認められた.本法は,注腸造影に引き続いて行える簡便な方法であり,直腸肛門部の解剖学的異常や骨盤動態の概略を把握できると考えられる.
  • 坂井 義治, 西川 温博, 西村 和明, 久野 正治, 三浦 賢佑
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1076-1079
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    直腸癌局所再発15例に,化学療法(3例),放射線化学療法(5例),温熱併用放射線化学療法(7例)を施行し,その効果を比較検討した.延命効果に差は認めなかったが,温熱併用療法により3例のPRを得た.放射線化学療法,温熱併用放射線化学療法は局所症状緩和には有効で,とくに術後放射線治療を受けた再発例に対し,温熱併用放射線化学療法は効果があった.化学療法,放射線化学療法群の直接死因のほとんどは局所再発部からの進展による癌性腹膜炎や水腎症であったのに対し,温熱併用群では遠隔転移が過半数を占めた.温熱治療を併用することにより局所再発巣はより制御できるものの,遠隔転移を防止することが今後の課題と思われる.
  • 森 淑美, 清水 慎介, 中島 昌人, 杉浦 弘和, 宮岡 正明, 斉藤 利彦
    1995 年 48 巻 9 号 p. 1080-1085
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    Trinitorobenzene sulphonic acid(TNB)誘発ラット実験大腸炎モデルを用い,ロイコトリエン(LT)生成に関与する5-リポキシゲナーゼ阻害剤であるテルモ社製TMK777の有用性を検討した.方法:7週齢のS-D系雄性ラットでMorrisらの方法に従い大腸炎を作製し,TMK777を連日了日間注腸投与した(TMK群).3日目と7日目にdialysis bagを用い採取したLTB4と7日目の大腸炎の肉眼的,組織学的評価を検討した.対照は薬剤溶解液投与群とした.結果:LTB4は3日目でTMK群において有意に低値を示した.肉眼的ダメージスコアーはTMK群で有意に低かったが,組織学的に有意差はなかった.結論:TMK777はラット実験大腸炎において,炎症初期のLTB4生成を抑制し,肉眼的ダメージを軽減させることが示され,大腸炎の急性期に対する有効性が示唆された.
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