日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
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53 巻, 10 号
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  • 吉岡 和彦, 米倉 康博, 中野 雅貴, 岩本 慈能, 吉田 良, 高田 秀穂, 日置 紘士郎
    2000 年 53 巻 10 号 p. 957-961
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    近年,直腸肛門における種々の機能的検査が可能となり,rectoceleの再評価が行われるようになったきた.rectoceleをキーワードとしてMEDLINEを検索し,得られた文献を中心に,今日までの研究を振り返った.rectoceleは直腸膣中隔において,直腸前壁と膣後壁が膣腔内に突出し,主に便秘や残便感を呈する疾患である.その解剖学的変化は視診と直腸指診,直腸内超音波検査,defecography,MRIによって確認されてきた.機能的評価により,排便機能障害の原因として恥骨直腸筋のいわゆるparadoxical patternの関与も示唆されている.保存的療法としてのバイオフィードバッグが有効な場合もある.外科的療法では経肛門的および経膣的手術が行われ手術成績は比較的良好である.
  • 天野 信一
    2000 年 53 巻 10 号 p. 962-968
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    Rectoceleの病態を直腸肛門内圧から検討した結果,安静時,収縮時の直腸肛門内圧からは,安静時肛門管内圧,肛門管長,収縮時肛門管長の高値など肛門排出抵抗の増大が認められたが,直腸肛門反射,直腸壁感受性,直腸貯留能には異常を認めなかった.怒責時の直腸肛門内圧では,肛門管内圧は高く,怒責時肛門管内圧腹圧較差(anismus index:AI)が正であり,paradoxical sphincter contraction(PSC)を認め,負の対照例とは明瞭に判別された.怒責時,安静時,収縮時の肛門管内圧の関係からみた便排出能(evacuation grade:EG)は,rectoceleでは排出困難の高度な例が多く,AIとは正の相関を認め,便排出困難の原因はPSCに伴うpelvic outlet obstructionによると考えられた.恥骨直腸筋の前方縫縮を加えた直腸前壁補強はrectoceleの直腸前壁膣腔内膨隆を改善し,AI,PSC,EGも改善され,有効な方法と考えられた.
  • 体格,排便習慣,分娩との関連性
    貞廣 荘太郎, 鈴木 俊之, 石川 健二, 徳永 信弘, 安田 聖栄, 田島 知郎, 幕内 博康
    2000 年 53 巻 10 号 p. 969-972
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    Rectoceleは頑固な閉塞性排便困難の原因の一つであるが,rectoceleの病態については議論が多い.そこで直腸膣中隔の伸展性に影響を与えている因子を明らかにする目的で,消化器外科外来を受診した635人の女性患者の直腸膣中隔の伸展性を直腸指診で評価し,質問用紙で調査した年齢,体格,排便習慣,経膣分娩数,直腸肛門症状の有無と比較した.直腸肛門症状が認められる頻度は,rectoceleがみられる患者では63%であり,rectoceleがみられない患者での34%に比し有意に高率であった(p=0.001).rectoceleがみられる頻度は,経膣分娩数が増加するに従って増加した.多変量解析では,年齢,体格,排便習慣と直腸膣中隔の伸展性との関連性ははっきりしなかったが,直腸肛門症状を有することと経膣分娩数が密接な関連性を有していた.一方大きなrectoceleを有していた21例の患者の中に,排便困難を訴えた患者はみられず,排便困難を訴えた7例の患者の中に大きなrectoceleを有した患者はみられなかった.以上の結果から,直腸膣中隔の伸展性は経膣分娩と密接に関連しているが,排便困難を呈するrectoceleの病因は,rectoceleの大きさばかりではなくで,併存する他の直腸肛門病変の存在と関連性があることが示唆された.
  • 鳥越 義房, 後藤 友彦, 高月 誠, 窪田 覚, 寺本 龍生
    2000 年 53 巻 10 号 p. 973-978
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    24例のrectocele治療症例のdynamic defecography所見を正常対照群18例と比較し,その病態,治療法について検討した.rectoceleは直腸の前壁の膨隆(RC)として描出されるが,対照と比較すると有意に膨隆しており,会陰下垂,粘膜脱症候群(MPS)を伴うものが多かった.なお,便排出障害の一因とされている恥骨直腸筋の奇異性収縮の所見はみられなかった.これらの所見より,便排出障害を訴え,RCが3cm以下で,会陰下垂をともなっていない場合には経肛門的縫縮術を,RCが3cm以上で会陰下垂を伴っているか,便排出に膨隆部の圧迫を要するものにはlevatorplastyをおこなっている.MPSを伴っている場合にはlevatorplastyに脱出粘膜の切除を付加している.defecographyにてrectoceleが認められても,臨床症状と一致しない症例に対しては軟便剤,催便坐剤の投与に加えてbiofeedbackなどの保存療法をおこなっている.手術効果の判定にもdefecographyは有用であり,定期的にdefecographyにより経過を観察し,再発をきたさないように管理することが重要である.
  • 前田 耕太郎, 丸田 守人, 内海 俊明, 佐藤 美信, 小出 欣和, 松本 昌久
    2000 年 53 巻 10 号 p. 979-983
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    Rectoceleは,直腸前壁が前方に突出した形態学的異常の状態で,症例によっては排便障害などの原因になる.有症状のrectoceleは,主に排便困難などの症状を呈し,治療の対象となる.治療は,まず保存的治療を行い,改善がみられない場合に外科的治療を選択する.rectoceleに対する外科的治療として,これまで経膣的もしくは経肛門的に余剰の直腸壁や膣壁を切除,縫縮する術式が行われているが,術後の排便機能の改善が不十分な例や,直腸壁の突出が十分改善されない例がみられる.さらにrectoceleにしばしば合併する便や尿の失禁に対しては,従来の術式では十分対応できないことが多い.著者らは,保存的治療で改善しない有症状のrectoceleに対して,経膣的に余剰な膣壁の切除縫合と同時に,恥骨直腸筋および肛門挙筋の縫縮を行うanterior levatorplastyやsphincter plicationを付加した治療を行い良好な結果を得ている.
  • 高野 正博
    2000 年 53 巻 10 号 p. 984-993
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    Rectoceleを単に直腸膣壁間のpouch形成と捉え,これをなくせばいいという考えではこれを完全に治療することはできない.まずはrectoceleの複雑な病態を承知したうえで諸検査により客観的に把握し,そのデータを分析して包括的治療を行わなければならない.Rectoceleにしばしば伴う病態を説明すると(1)pouchの形成,(2)前方括約不全・菲薄化,(3)括約筋のparadoxical movement,(4)陰部神経障害,(5)会陰下垂・骨盤内多臓器、下垂,(6)痔核など肛門疾患合併,(7)直腸・結腸過敏,などである.以上の病態はrectoceleの発生・増悪要因となり,または互いに悪循環を形成し継続要因あるいは症状の一部分となっている.以上からrectoceleの治療は多方面からのアプローチで病態の全容を可及的に把握し,それに対して薬物療法,食事療法,排便習慣改善,BF療法,手術等の適切な組合わせで治療することが肝心である.
  • 島田 安博
    2000 年 53 巻 10 号 p. 994-999
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    進行大腸癌に対する全身化学療法について,最近の進歩を中心に概説した.メタアナリシスにより,化学療法が無増悪期間や生存期間の延長に寄与していることが示され,高い奏効率が生存につながる可能性が示されている.化学療法も40年来の5-FUから,Leucovorinの併用による奏効率の向上,irinotecanによる二次治療法の確立と一次治療への組み込み,第3の薬剤としてのoxaliplatinの臨床導入など大きな変革が興っている,現時点において進行大腸癌に対する標準的化学療法は,5-FU+Leucovorin+/-irinotecanの2剤または3剤併用療法と考えられる。これらの治療法の臨床評価は海外で実施されたものがほとんどであり,今後急激に増加することが予想される大腸癌に対して国内においても大規模比較試験の実施可能な臨床試験グループの設立が急務と考えられる.
  • 加藤 知行, 平井 孝
    2000 年 53 巻 10 号 p. 1000-1007
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    大腸癌治癒切除例に対する補助化学療法について内外の報告をレビューした.本邦の研究では,直腸癌症例で術後の5-FUおよび経ロフッ化ピリミジン剤の投与が術後の局所再発を抑えて予後を向上させると考えられた.最近結果が報告された化学放射線療法,免疫化学療法,5-FUcivの術前投与はその結果が期待されたが無効だった.欧米では,全身投与法はMeCCNU/VCR/5-FUの併用療法が有効な成績を上げたが,1990年のconsensus conferenceで結腸癌のDukes C症例については5-FU/levamisoleの併用療法がstandard therapyとされた.しかし近年は結腸癌に対しては5-FU/leucovorin療法がstandardとなっている.直腸癌に対しては術前または術後の化学放射線療法がstandardとされる.
  • 坂本 純一, 浜田 知久馬, 加藤 潤二, 小平 進, 安富 正幸, 中里 博昭, 大橋 靖雄
    2000 年 53 巻 10 号 p. 1008-1017
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    目的:大腸癌術後補助療法について施行された臨床比較対照試験(RCT)を精査し,そのメタアナリシスの結果をレビューすることによって欧米およびわが国で行われている標準治療の評価,検討を行う.方法:RCTはMEDLINE,学会報告,Trialistとのコンタクト等によって検索を行い,図表・データの解析,また可能な症例では症例個別データを集積したメタアナリシスを行い,すでに発表されているメタアナリシスの結果との整合性を検討する.結果:欧米における研究ではNSABPによるC-01~06,R-01,02,またIMPACTグループによるRCTとそれらのメタアナリシスによって5-FU/Leucovorinが標準治療として認められた.わが国の大腸癌補助療法臨床試験の検討では経ロフッ化ピリミジン製剤の有用性が示唆された.結論:RCTとそれらの試験のメタアナリシスはEBMによる大腸癌補助療法の正確な評価を可能とし,標準治療の確立に有用と考えられる.
  • 作用機序と今後の展望
    久保田 哲朗
    2000 年 53 巻 10 号 p. 1018-1022
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    5-FUの作用機序としてはFdUMPがthymidylate synthetaseと結合してDNA合成を阻害する系と,リン酸化されたFUTPがRNA機能障害を来す系が想定されており,分解経路としてはdihydropyrimidine dehydrogenaseによって分解されることが知られている.大腸癌検体を対象として,5-FUと5'-DFURの抗腫瘍スペクトラムを比較対照し,両薬剤の抗腫瘍効果を律速する代謝酵素との関連を検討した.両薬剤の抗腫瘍スペクトラムは一致せず,その原因は律速酵素の違いによるものと考えられ,PyNPase活性は5'-DFURの,DPD活性は5-FUの感受性を予測する因子として有用であると考えられた.大腸癌に対する5-FUを用いた化学療法は,多剤併用療法として用いられることが多く,平均的レジメンである5-FU+ロイコボリンにCPT-11を加えた方法が注目を集めてきている.
  • Tumor tailored chemotherapyにむけて
    市川 度, 植竹 宏之, 桐原 正人, 山田 博之, 代田 喜典, 田嶋 政之, 長内 孝之, 小島 一幸, 仁瓶 善郎, 杉原 健一
    2000 年 53 巻 10 号 p. 1023-1028
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/06/05
    ジャーナル フリー
    進行再発大腸癌に対する化学療法のkey drugである5-FUは,標的酵素であるthymidylate synthase(TS)の多寡により抗腫瘍効果が異なる.分解系の律速酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)は,主に副作用の観点から研究が行われてきたが,近年腫瘍内のDPD発現と抗腫瘍効果の相関に多大な興味が寄せられている.大腸癌37例の抗癌剤感受性試験では,腫瘍内DPDmRNAが高発現の腫瘍は5-FUに感受性がなかった.また,進行再発大腸癌20例に5-FUを用いた化学療法を行ったところ,DPDmRNA量単独よりもTS-DPDmRNA量の評価を組み合わせることにより,より精度の高い治療効果予測が可能であった.TS・DPD mRNA量からみると,両者とも低値の症例にはDNA指向型の5-FU療法を,また両者とも高値の症例にはCPT-11を選択することが妥当と考えられる.
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