日本大腸肛門病学会雑誌
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60 巻, 10 号
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特集
主題I : 直腸肛門の機能性疾患
  • ―新しいROME IIIとの関連について―
    高野 正博
    2007 年 60 巻 10 号 p. 889-894
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    直腸肛門機能障害はこれまでsymptom-based criteriaであったが, ROME IIIで身体・検査所見が加わった.
    F1. Functional fecal incontinenceは, 4歳以上の神経や形態障害が無いもので, 漏れはstainig, soiling, seepageなどに分かれ, urgeとpassive incontinenceがあり, 前者は便に行きたい感じが強いが, 随意圧は低下, 後者は便に行きたい感覚, 静止圧が共に低下する. 内圧, 肛門エコー, MRIなども有用で, 治療は薬剤で調節し, バイオフィードバック (BF) 療法が有効である.
    Functional anorectal painは, F2a. Chronic prctalgiaとF2b. Prctalgia fugaxに分け, さらにF2a1. Levator ani syndromeとF2a2. Unspecified functional anorectal painに分ける. F2a. は慢性・再発性の痛みで, F2a1. Levator ani syndromeでは肛門挙筋の牽引で疼痛を訴える. しかし私の症例では, 該当は4/116例で, この定義に疑問がある.
    F2b. Proctalgia fugaxは短い痛みで, 原因は不明だが, 私の症例ではよく診ると仙骨神経に沿って圧痛ある硬結を触れる. 効果ある治療法も無いとあるが, 私は神経ブロックで治癒せしめている.
    F3. Functional defecation disordersはF3a. Dyssynergic defecationとF3b. Inadequate defecatory propulsionに分ける. 前者は骨盤底筋の奇異性収縮か不十分な弛緩, 後者は押出す力が不十分で, 治療はF3aにBF, F3bに排便促進療法が有効である.
  • 山名 哲郎, 高橋 知子, 積 美保子, 佐原 力三郎
    2007 年 60 巻 10 号 p. 895-900
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    便失禁は深刻な身体障害の一つであり, QOLに及ぼす影響は大きい. 肛門のコンチネンスには内肛門括約筋 (安静時のトーヌス), 外肛門括約筋 (随意収縮), 直腸肛門角, 直腸のリザーバー機能, 肛門の感覚, 便性状などがかかわっている. 便失禁の病因は外傷性 (分娩, 肛門手術), 神経原性, 特発性, その他に分類される. 便失禁に対する生理学的評価としての直腸肛門検査, 肛門管超音波検査, 陰部神経終末運動潜時測定を行う. 便失禁の保存的な対症療法として軟便の漏出性便失禁の患者には薬剤 (ポリカルボフィルカルシウム, ロペラマイド) による便性コントロールが有効である. 骨盤底筋体操とバイオフィードバック療法は切迫性の便失禁の患者を適応とする. 便失禁の外科的治療は外傷性の外肛門括約筋損傷 (分娩外傷など) が良い適応であり, 瘢痕組織のみを剥離・離断してオーバーラップ縫合を行う. 括約筋損傷のないいわゆる特発性便失禁に対しては恥骨直腸スリング手術を試みている.
  • 前田 耕太郎, 花井 恒一, 佐藤 美信, 升森 宏次, 小出 欽和, 松岡 宏, 勝野 秀稔, 船橋 益夫
    2007 年 60 巻 10 号 p. 901-905
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    直腸肛門機能性疾患の診断における画像診断の位置づけ, ならびに画像診断法としての経肛門的超音波検査, 排便造影およびその応用法, CT, MRIについて概説した. 直腸肛門部の機能性疾患では, 複数の直腸肛門機能疾患が合併して存在することがあり, さらには婦人科疾患, 泌尿器科疾患などを併存することが少なくない. それゆえ直腸肛門機能性疾患の画像診断においては, 骨盤内臓器の機能性疾患の一つとして周囲臓器の異常とともに診断する必要がある. 直腸肛門機能性疾患の治療では, まず保存的治療を行いその改善度を評価する必要がある. 改善がみられない場合には, 診断した機能性疾患が症状を充分反映し, それが解剖学的に修復可能な疾患や病態であれば, 外科的治療の対象となるが, 外科治療は慎重に選択すべきであることを強調したい.
  • 吉岡 和彦, 畑 嘉高, 岩本 慈能, 中根 恭司
    2007 年 60 巻 10 号 p. 906-910
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    直腸肛門の機能性疾患のうちでも便失禁は, 患者に精神的, 社会的に大きな負担を与える. 有茎薄筋移植を利用した外科的療法は重度の便失禁患者で人工肛門を造設する以外に治療法がない場合に行う最終的な外科的治療法の一つとして行われてきた. 術式に関してさまざまな工夫がなされてきたが, 有茎薄筋移植の基本的な手技は単純であり, 薄筋の遊離と薄筋の肛門管への巻きつけにより肛門管に適切な圧を得ることである. 術後合併症の頻度は高いが, 肛門機能の有効率は約70%であると報告されてきた. また, 生理学的検査の結果は一般にて安静時肛門内圧よりも収縮時肛門内圧の上昇が報告されている. われわれは今日まで, 15例の重度便失禁患者に対してこの手術を行ってきた. 術後の評価が可能となった12例のうち良好が8例, 可2例, 不良2例であった.
  • 高尾 良彦, 辻塚 一幸, 菊池 潔, 奥田 誠
    2007 年 60 巻 10 号 p. 911-916
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    排便機能を考えて直腸脱を治療するためには, 直腸脱とともに随伴する排便障害との因果関係も考慮して病態診断を行い, その病態を補正する手術を選択する. 直腸脱の発症機転は, 直腸が滑脱して肛門外に脱出するヘルニア説と口側直腸の重積に由来する重積説に大別されるが, それ以外にも多様な解剖学的構造異常がかかわっている. 直腸脱の病態を把握して診断するためには, 術前にデフィコーグラフィーによる動的診断や直腸肛門内圧測定, 感覚検査などの機能診断, MRIや超音波検査による構造異常の診断に加えて筋電図や神経伝道速度の測定などの質的診断が必要になることもある. 治療は適切な手術を選択するとともに, 年齢や生活環境などの患者背景を考えて, 術後の排便指導や緩下薬の投与などの保存的治療を含めた総括的な治療戦略を構築することが望ましい.
  • 大矢 雅敏
    2007 年 60 巻 10 号 p. 917-922
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    直腸癌切除術後には頻回排便や便漏れ, 便意促迫, 便排泄困難などの症状が複合して生じる. 術後排便機能障害には, 直腸の便貯留能低下や内肛門括約筋の機能低下など多数のメカニズムが関与しており, 術前から肛門機能が不良である例, 吻合部が肛門縁に近い例, 術後縫合不全を発生した例では症状が高度となりやすい. 切除術後の再建腸管 (新直腸) の容量を増加させ便貯留能を改善させることを企図してJ型結腸嚢再建やcoloplastyといった再建法の工夫が行われており, これらの再建法によってストレート型再建よりも術後排便機能が良好になると報告されている. 術前に放射線療法や放射線化学療法を施行された例では術後排便機能障害が重症化しやすい. また, 肛門に近い部位に生じた直腸癌に対して近年施行されるようになった括約筋間切除術後の患者は便漏れの症状を来たす例が多いが, J型結腸嚢再建が重症化の予防に有用とされている.
  • 松藤 凡, 中村 晃子, 中川 真知子, 草川 功
    2007 年 60 巻 10 号 p. 923-927
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    小児外来には便秘を主訴に来院する子は多く, また腹痛のために来院し浣腸が施行され症状が改善すれば便秘として扱われていることも多い. しかし, 本邦では小児の排便回数を広く調査した報告も少なく便秘の定義もないまま便秘の病名が漫然と使用されている. このなかには小児消化器専門医や小児外科医がかかわるような重症な便秘や内分泌代謝疾患やHirschsprung病, 鎖肛に代表される直腸肛門奇形, 二分脊椎など脊椎疾患も含まれており, このような疾患を除外する必要がある. 今回は, 乳児検診から乳児の排便回数, 便の正常を調査した. また, 便秘症例数は乳児期に多く学童期までに減少することが判明した. 欧米では小児の直腸肛門機能疾患のひとつとして重要視され診断, 治療のガイドラインも存在する. 本邦でも小児便秘の診断基準を作成し, こどもの負担が少ない検査, 治療方法を示唆できるガイドラインの作成が望まれる.
主題II : 小腸疾患の新たな診断法―診断と治療における小腸内視鏡の進歩と意義―
  • 飯田 三雄
    2007 年 60 巻 10 号 p. 928-932
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    小腸X線検査法は, 造影剤の投与方法によって経口法, 経ゾンデ法, 経肛門逆行性造影法の3種類に分類される. 現在, 本邦では経口法の1回投与法と, 経ゾンデ法の二重造影法が汎用されている. 一方, 小腸内視鏡検査法は1970年に開発された2種類のファイバースコープ (SIF, FIS) によって可能となった. 以後, プッシュ式, ロープウェイ式, ゾンデ式の3方式の挿入法が試みられたが, 広く臨床に普及するには至らなかった. 2000年にカプセル内視鏡, 2001年にダブルバルーン内視鏡が発表され, 小腸疾患の診断に大きな変革がもたらされた. すなわち, 2000年以前の小腸疾患診断の主役は小腸X線検査のみであったのに対し, 2001年以降はカプセル内視鏡, ダブルバルーン内視鏡, 小腸X線検査をうまく組み合わせて診断を進めていく時代となった. この大きな変革によって, 小腸疾患に対する臨床医の興味は著しく増し, 症例数の増加とともに小腸疾患についての知識の向上と臨床研究の進歩をもたらすことが期待される.
  • 松井 敏幸, 平井 郁仁, 小野 陽一郎, 中島 力哉
    2007 年 60 巻 10 号 p. 933-939
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    近年, カプセル内視鏡 (VCE) に加え, ダブルバルーン小腸内視鏡 (DBE) が進歩し小腸病変を内視鏡で直接観察する時代になった. そのため, 従来法であるX線検査と新しい内視鏡検査の比較が盛んである. 本稿では, X線検査がこれまで果たしてきた役割に加え, 小腸内視鏡による診断能との比較に焦点をおいて総説的に述べた. 小腸出血には新しい内視鏡検査が絶対的に有用である. 腫瘍性病変にはスクリーニング検査目的にはVCEが有用であり, 診断確定にはX線検査も必要なことがある. 炎症性疾患では, 平坦あるいは潰瘍性病変で狭窄をともなわない場合には内視鏡検査により詳細な診断が可能である. しかし, Crohn病などの狭窄や炎症性変化が強い場合には内視鏡検査よりX線検査の役割がより大きいと思われる. さらにCT-enterography (CTE) も診断能が向上しつつあり今後の活用が期待できる.
  • 矢野 智則, 山本 博徳
    2007 年 60 巻 10 号 p. 940-946
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    ダブルバルーン内視鏡とカプセル内視鏡の登場により小腸疾患に対する診断・治療体系は大きく変化してきている. ダブルバルーン内視鏡は, 内視鏡先端とオーバーチューブ先端との2つのバルーンで腸管を把持し, 屈曲した腸管でも無用な伸展を抑制することで, 小腸全域での詳細な内視鏡観察が可能なだけでなく, 生検や内視鏡的治療まで可能にし, 胃や大腸において行われてきた診断・治療を, 小腸においても行えるようにした. 本稿ではダブルバルーン内視鏡の原理と特徴について説明し, 実際の使用に当たっての挿入経路と内視鏡機種の選択方法, 経口的挿入と経肛門的挿入の具体的な挿入法について述べる.
  • 緒方 晴彦, 日比 紀文
    2007 年 60 巻 10 号 p. 947-951
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    国産新型カプセル内視鏡の特徴と小腸疾患の新たな診断法につき概説した. 新型カプセル内視鏡の特徴は画像解像度の向上であり, 小腸粘膜の微細な絨毛構造も確認可能である. また光量の自動調節機能により, 近接画像においてはその光量が自動的に調節されハレーションがなくなり, 画像の解読がより容易になる. また, real time image viewerを用いることにより, カプセルからの画像をリアルタイムでLCD display上に観察することが可能で, カプセルの胃からの排泄遅延の有無を早期に診断し, metoclopramideの投与などを適宜行うことで, より効率的な小腸観察が可能となる. 本検査の第一の適応は原因不明の消化管出血である. その出血源はangiodysplasiaなどの血管性病変が最も多い. double-balloon enteroscopyとの併用により, これまで明らかにされていなかった小腸疾患の診断・治療に新しい分野が展開しつつある.
  • 松本 主之, 飯田 三雄
    2007 年 60 巻 10 号 p. 952-957
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    上部・下部消化管に明らかな出血源のない原因不明の消化管出血 (OGIB) は, 小腸内視鏡検査法の適応として頻度が高い臨床徴候である. OGIBにおけるカプセル内視鏡検査 (VCE) の所見陽性率は40%から60%で, その所見として欧米では血管性病変が最も多い. これに対して, 本邦の多施設研究では潰瘍・びらんの頻度が血管性病変よりも高かったことが報告されている. 一方, OGIBにおけるダブルバルーン内視鏡検査 (DBE) の所見陽性率は50%から80%で, さらに本法により治療も可能である. したがって, DBEはOGIBにおいて極めて有用な検査法と考えられる. OGIBの診断においてVCEは従来のX線検査やプッシュ式内視鏡よりも有用な検査法であることが多くの臨床研究で証明されている. 一方, VCEとDBEの比較では前者で所見陽性率がやや高い傾向がみられている. 以上のことからOGIBにおいてVCEとDBEは相補的な役割を担うと考えられる.
  • 渡辺 憲治, 細見 周平, 平田 直人, 末包 剛久, 青松 和輝, 鎌田 紀子, 十河 光栄, 山上 博一, 押谷 伸英, 荒川 哲男
    2007 年 60 巻 10 号 p. 958-963
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    近年進歩の著しい小腸内視鏡の炎症性腸疾患, 特にクローン病 (CD) における有用性と課題を中心に述べた. カプセル内視鏡 (CE) は, 低侵襲で全小腸内視鏡検査が行え, 鑑別診断, CD小腸病変の把握等に有用だが滞留のリスクがあり, 早急なPatency Capsuleの国内認可が望まれる. ダブルバルーン内視鏡は生検やバルーン拡張が行え, 極めて有用な検査だが, 癒着による深部挿入困難や, 小腸活動性病変を有する症例の挿入時の穿孔のリスクがある. 従来いわれてきた回腸終末部より口側の小骨盤内回腸にCD小腸病変の主座を置くCD症例が, 約2割存在し, 狭窄や瘻孔の発見が遅れる可能性があり, 臨床上注意を要する. 種々の免疫調節剤の開発により, 今後, 長期予後の改善を目指し, CD薬物療法の目標が従来の臨床的緩解から内視鏡的緩解に移行する可能性があり, CE, DBEの有用性と特徴を理解したCD症例のマネージメントが重要である.
  • 神野 良男, 中村 志郎, 荒川 哲男, 松本 誉之
    2007 年 60 巻 10 号 p. 964-969
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/10/31
    ジャーナル フリー
    これまで, 小腸領域における病変に対して, その診断とともに治療は非常に困難で外科的手法に頼らざるを得ない場合がほとんどであった. しかし, 近年開発され実用化されているダブルバルーン内視鏡によって, 小腸領域における非観血的な治療が行いえるようになった. これまでの上部・下部・胆膵領域の内視鏡治療の方法や経験が小腸領域に活かされることによって幅広く多種多様な内視鏡治療が行われている.
    現在小腸領域で一般的に行われている内視鏡治療は, 出血性病変の止血治療に加えて, 狭窄病変拡張術・腫瘍性病変切除術・異物除去・術後腸管の胆管膵領域の治療などで非常に有用な結果をもたらしている. 本稿では, ダブルバルーン内視鏡を用いた内視鏡治療について処置具・内視鏡の仕様といった基本的な知識の確認とともに報告例や自験例をふまえてその実際を示し, さらに注意点や偶発症の可能性についても言及する.
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