日本大腸肛門病学会雑誌
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61 巻, 5 号
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原著
  • 長田 俊一, 山口 茂樹, 森田 浩文, 石井 正之
    2008 年 61 巻 5 号 p. 209-215
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下大腸切除術導入における術中·術後因子を,術者に着目し検討した.腹腔鏡下大腸切除導入時からの102例を対象に腹腔鏡手技取得者(n=51)と初心者(n=51)の2群に分け,年齢,性別,併存疾患,BMI,術前深達度,術前リンパ節転移,術式,リンパ節郭清,手術時間,出血量,術後合併症,食事開始時期および術後在院期間について検討した.次に術者を加え,手術時間,出血量,および術後合併症のリスク因子を単変量·多変量解析を用い,術後在院期間のリスク因子をCoxの比例ハザードモデルを用い検討した.背景因子に差を認めなかった.手術時間のリスク因子は,術式,BMI.出血量のリスク因子はBMI.術後合併症のリスク因子は,術前併存症.術後在院日数のリスク因子は,術後合併症,食事開始時期であった.術者は,リスク因子ではなく,当院の術者決定方法は,質を下げない適切な方法と考えられた.
  • 鉢呂 芳一, 安部 達也, 國本 正雄
    2008 年 61 巻 5 号 p. 216-220
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    硫酸アルミニウムカリウムおよびタンニン酸を有効成分とする内痔核硬化療法剤(以下ALTA)が臨床使用され,すでに2年が経過した.当院では2005年4月より様々な肛門疾患に対し本治療法を導入し,その使用症例は1,000例に達している.2007年5月までに経験したALTA治療は,内痔核症例885例,直腸粘膜脱症例101例,直腸脱症例30例であった.合併症として,内痔核症例において嵌頓痔核を1例,直腸潰瘍を3例経験した.ALTA単独内痔核治療526例のうち再発症状を28例(5.3%)に認め,すでに13例で再ALTA治療を行った.直腸粘膜脱および直腸脱症例では10∼20%に再発症状を認めているが,低侵襲治療としてほぼ満足する結果であった.ALTA治療において経験した合併症や再発例の多くは初年度の症例であった.現在では,ALTA治療の適応を明確にするとともに,治療上の様々な工夫を加えることで良好な成績を得ている.
  • 小原 邦彦, 佐原 力三郎, 山名 哲郎, 岡本 欣也, 高橋 知子, 古川 聡美, 岡田 大介, 金古 康, 松本 敦夫
    2008 年 61 巻 5 号 p. 221-227
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    目的: 当科で経験した肛門管epidermoid cancerに対する放射線療法(RT)および化学放射線療法(CRT)に関して有効性,安全性について検討した.方法: 1988年から2006年までに当センターで経験した肛門管epidermoid cancerに対するRT施行例13例およびCRT施行例11例の計24例における有害事象,肛門温存率,5年局所制御率,5年生存率,5年無再発生存率に関して検討した.結果: Grade3以上の有害事象に関してはRT群で認めなかったが,CRT群では食欲不振33.3%,下痢10%,好中球減少33.3%,貧血10%の頻度であった.全症例における肛門温存率は66.7%,5年局所制御率は73%,5年生存率は88.4%,5年無再発生存率は77.5%であった.結論: 肛門管epidermoid cancerに対して安全性,有効性の面から本邦においても放射線および化学放射線療法が第一選択治療としてふさわしいと考えられた.
  • 池永 雅一, 三嶋 秀行, 安井 昌義, 宮崎 道彦, 中森 正二, 辻仲 利政
    2008 年 61 巻 5 号 p. 228-234
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    目的: 当院での大腸癌治療ガイドラインに対する認識度をテスト問題形式にて調査した.対象と方法: がん診療に携わる消化器外科医19人と消化器内科医12人を対象にした.大腸癌治療ガイドラインの8つの項目より合計25問の正誤式のテスト問題を作成し,回答する.その上で本ガイドラインを一読の上,再テスト形式で回答し,その正解率につき検討した.結果: 一読前の正解率は,外科医が69.5%,消化器内科医が64.7%であった.一読後は各々83.8%,80.7%と上昇し,合計でも67.8%から83.2%へと上昇していた.ただし化学療法の項目だけが変化なく40%と低かった.結語: 認識度調査としてテスト問題を施行することをきっかけに,認識度の上昇を認めた.当院では外科医·消化器内科医の全員が本ガイドラインを読んだこととなり,ガイドラインの普及に役だったと考えられた.
臨床研究
  • 宮崎 道彦, 三嶋 秀行, 池永 雅一, 安井 昌義, 中森 正二, 辻仲 利政, 吉川 宣輝
    2008 年 61 巻 5 号 p. 235-239
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    下部直腸癌にたいする肛門腹式直腸切除術,経肛門側端(Baker)吻合についてretrospectiveに検討した.対象と方法: 1991年1月から2004年12月の期間に肛門腹式直腸切除術,経肛門側端吻合を施行した12例(男性9例),年齢48∼71(中央値57)歳,観察期間31∼151(中央値112.5)カ月にたいして2006年1月に術後長期結果とQOLをアンケート調査した.一時的人工肛門の部位は回腸10例,結腸2例であった.全例人工肛門閉鎖を行い,閉鎖時期は3∼10カ月(中央値4.5カ月)であった.結果: 有効回答は7例であった.観察期間(一時的人工肛門閉鎖後)20∼146(中央値96)カ月.排便に関係する薬剤は全例使用していなかった.1日の排便回数は2回以上が5例(72%)であった.排便時間は5分以下が5例(72%),1回あたりの排便量は全例が「少量」と回答していた.便とガスの識別は「つく」3例(43%)であった.満足度は高かったが推薦度は高くなかった.結語: 長期経過後も何らかの排便関連症状を抱えている症例が多いことを念頭に置き肛門腹式直腸切除術,経肛門側端吻合の手術適応は慎重に決定するべきと示唆される.
  • 木村 聖路, 田中 正則, 工藤 敏啓, 相沢 弘, 福田 真作
    2008 年 61 巻 5 号 p. 240-246
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    大腸腫瘍は同時性に併存する多発腫瘍の頻度が高い.今回腺腫,粘膜内癌,浸潤癌の各患者における同時性多発腫瘍の頻度を比較した.内視鏡検査で指摘した腺腫のみの患者476例(腺腫群),一つ以上粘膜内癌のある患者184例(粘膜内癌群),一つ以上浸潤癌のある患者179例(浸潤癌群)における単発腫瘍の頻度,多発腫瘍の場合はその種類と頻度を検討した.腺腫群は単発腺腫254例(53.4%),多発腺腫222例(46.6%)であり,多発腺腫の内訳は2病変144例(30.2%),3病変50例(10.5%),4病変以上28例(5.9%)だった.粘膜内癌群は単発粘膜内癌86例(46.7%),粘膜内癌と腺腫併存73例(39.7%),多発粘膜内癌25例(13.6%)だった.浸潤癌群は単発浸潤癌113例(63.1%),浸潤癌と腺腫併存36例(20.1%),浸潤癌と粘膜内癌併存19例(10.6%),多発浸潤癌11例(6.2%)だった.多発腫瘍の頻度は粘膜内癌のある患者で最も高く,次に腺腫のみの患者であり,浸潤癌のある患者で最も低かった.統計学的には腺腫群と浸潤癌群(p<0.05),粘膜内癌群と浸潤癌群(p<0.005)で有意差を認めた.内視鏡検査における大腸腫瘍は腺腫,粘膜内癌などの粘膜内病変は同時性多発腫瘍を併存しやすく,浸潤癌はむしろ単発腫瘍として指摘されやすい.
  • 安部 達也, 國本 正雄, 鉢呂 芳一
    2008 年 61 巻 5 号 p. 247-253
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    高齢化にともない増加が予想される便失禁患者に対応すべく便失禁専門外来を開設した.週1回の外来に2年弱で250名が受診した.女性の割合が高く,女性の方が高齢であった.便失禁症状は切迫性よりも漏出性が多かった.詳細な問診と肛門機能検査などから便失禁の原因を検討した結果,分娩損傷によるものが最多で全体の2割(48例)を占めた.その他,直腸脱(25例),肛門手術後(21例),内括約筋変性症(18例)などが多く,原因を特定できない特発性も44例あった.外科的治療は少なく,多くの症例でバイオフィードバック療法や肛門管電気刺激療法などの保存的治療を行った.高齢などを理由に無治療(31例)や,治療途中で脱落する例(20例)もあった.
症例報告
  • 小杉 千弘, 幸田 圭史, 安田 秀喜, 山崎 将人, 手塚 徹, 樋口 亮太, 杉本 真樹, 済陽 義久, 矢川 陽介
    2008 年 61 巻 5 号 p. 254-259
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    結腸憩室炎に対する治療法は軽∼中等症の場合では絶食·抗生物質投与による治療が行われるが,穿孔ないし穿破をともなう場合,外科的治療が選択されることが多い.今回我々は穿破による膿瘍形成した憩室炎に対し,大腸内視鏡を用いて排膿術を施行,保存的治療にて軽快した2例を経験した.2症例は右側腹部痛,発熱を主訴に当院受診.CTにて上行結腸に広範な壁肥厚像,膿瘍形成を認め,穿破による憩室炎の診断となった.大腸内視鏡施行し上行結腸の広範な炎症を認め,表面に白苔をともなう排膿している憩室に対し,生理食塩水にて洗浄し,膿瘍ドレナージを施行した.術直後に腹痛,発熱が軽減し,保存的治療のみで退院した.結腸憩室炎に対する大腸内視鏡による膿瘍ドレナージは,外科的なサポート下において1つの治療オプションとして考慮できる手技と考えられた.
  • 須藤 剛, 池田 栄一, 高野 成尚, 石山 廣志朗, 佐藤 敏彦
    2008 年 61 巻 5 号 p. 260-266
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    切除不能肝転移を有する大腸癌症例に対し,原発巣切除後FOLFOX4療法を施行し,肝切除し得た2症例を経験した.症例1は74歳女性.盲腸癌多発肝転移例に原発巣と肝外側区域切除後,FOLFOX4療法11コース施行し残肝腫瘍縮小効果65%にて肝右葉前区,背側区,後区域切除術施行.症例2は41歳女性.S状結腸癌多発肝転移例に5Fuを肝動注療法としたFOLFOX4療法9コース施行し,腫瘍縮小効果56%にて肝右葉切除術施行.さらにFOLFIRI3コース後に残存腫瘍摘出術施行した.両症例ともに化学療法後のPET/CTでは異常集積を認めなかったが,病理組織学的検査では残存細胞を認めた.切除不能肝転移症例に対する化学療法は延命を目的としたものが主であったが,最近では奏効率の高い全身化学療法を併用し根治切除が可能となりつつある.今後は最も適した切除時期を見極めつつ,切除後の補助化学療法も含めた集学的治療により切除不能肝転移症例の生存率の向上につながると思われる.
  • 内野 基, 池内 浩基, 松岡 宏樹, 田中 慶太, 久野 隆史, 大嶋 勉, 塚本 潔, 中村 光宏, 外賀 真, 中埜 廣樹, 野田 雅 ...
    2008 年 61 巻 5 号 p. 267-271
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/02
    ジャーナル フリー
    症例は53歳女性.約10年の潰瘍性大腸炎(UC)加療中,サーベイランス大腸内視鏡検査でdysplasia associated lesion or mass(DALM)を指摘.結腸全摘,直腸粘膜切除,J型回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を施行.大腸に扁平上皮癌(粘膜切除部,直腸),粘液癌(下行結腸),高分化型腺癌(上行結腸,横行結腸)と多彩な病理形態のcancerを認めた.いずれもpM, pN0, stage Iで,良好に経過している.近年,サーベイランス大腸内視鏡の有用性が広く認識され,DALMが手術適応のUC症例は増加している.肛門温存術式が標準術式となっているが,IPAAまたは回腸嚢肛門管吻合(IACA)の選択には一定の見解が得られていない.肛門管粘膜の発癌に関しては低頻度であり,問題ないとする報告があるが,粘膜切除部に癌を認める症例も少なからず存在し,直腸粘膜切除が必要となる症例が存在するものと思われた.
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