日本大腸肛門病学会雑誌
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62 巻, 2 号
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原著
  • 村上 英嗣, 緒方 裕, 赤木 由人, 石橋 生哉, 笹冨 輝男, 白水 和雄
    2009 年 62 巻 2 号 p. 77-81
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    大腸癌の肝·肺同時転移例や肝または肺切除を行った後に肝あるいは肺転移をきたし切除を行った例(以下,二臓器目転移例)に対する外科的治療の適応や成績は不明な点も多い.1990年から2007年までに肝切除および肺切除を行った大腸癌肝·肺転移症例24例を対象とし大腸癌肝·肺転移に対する外科治療の適応と問題点を検討した.肝切除先行が19例,肝·肺同時切除が5例で,肺切除先行例は認めなかった.二臓器目切除以降の生存期間の中央値は39.5カ月であった.残肝または残肺再発を15例(62.5%)に認め,このうち再切除を施行できたのは残肺再発例で9例中6例(66.7%),再切除後の生存期間は平均28カ月であった.残肝再発例,残肝·残肺再発例についてはいずれも制御困難であった.大腸癌肝·肺転移例に対する外科治療後の再発は高率であった.しかし,肝および肺切除後の生存期間の中央値は39.5カ月で,長期生存が得られている症例もあり積極的切除の意義は大きいと考えられた.
  • 須藤 剛, 池田 栄一, 高野 成尚, 盛 直生, 石山 廣志朗, 佐藤 敏彦
    2009 年 62 巻 2 号 p. 82-88
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    目的: 近年大腸癌罹患率の増加と診断治療成績の向上により他臓器重複癌症例も増加している.そのため臨床病理学的特徴とその意義について検討した.対象: 1982年から2002年までの21年間に当科にて手術施行された2,359例.結果: 手術症例のうち重複癌は384例(16.3%)であり,同時性106例(27.6%),異時性278例(72.4%)であり,異時性多発大腸癌症例の39.2%,特に男性は48.1%に認めていた.重複臓器は,男性は胃,肺,前立腺,女性は胃,乳腺,肺の順であり,当県の癌登録臓器に一致していた.重複癌例と非重複癌例で予後に差は認められないが,重複癌例では重複癌死が多く,大腸癌先行例では死因の約75%に認めた.結語: 他臓器重複大腸癌症例は重複癌により予後の悪化を認めるため,画一的でなく地域性を重視したフォローや検診を施行すべきであり,それらの早期発見で予後の改善する可能性があると思われた.
臨床研究
  • 高山 鉄郎, 辻仲 康伸
    2009 年 62 巻 2 号 p. 89-93
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    目的: Coring out筋縫合は痔瘻の手術術式としてよく用いられるが,しばしば術後に縫合不全や再開通を認める.日帰り手術におけるこれらの縫合不全や再開通を防ぐ手段として,筋縫合部を覆うようにexpanded polytetrafluoro-ethylene sheet(以下ePTFEパッチ)を縫着,その保護効果を検討した.方法: 67例においてcoring out筋縫合創上に約長さ4cm,幅1.5cm,厚さ0.3mmのePTFEパッチを3-0バイクリルの結節縫合で縫着した.また16例では一期的lay-open and primary closureを行いePTFEパッチ縫着を行った.ePTFEパッチは術後約1.5カ月頃縫合糸の脱落にともなって自然排出されるまで局所に留まり,筋縫合部を覆っていた.成績: 全例において術後急性期より16∼22カ月までの遠隔期の観察において縫合不全や再開通を認めず,良好な創癒合が完成された.結論: ePTFEパッチ縫着は筋縫合部を便などより保護し筋縫合後の縫合不全や再開通の防止に有用な役目をしていると思われた.
症例報告
  • 直井 大志, 知久 毅
    2009 年 62 巻 2 号 p. 94-98
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    消化管手術後の合併症として,難治性の腸管皮膚瘻を経験することがある.今回我々は,医原性の難治性結腸皮膚瘻に対して,内視鏡併用下にフィブリン糊充填を行い著効した1例を経験したので報告する.症例は65歳男性.上部消化管穿孔に対する開腹手術後に,ドレーンによる腸管の圧迫壊死のため結腸皮膚瘻が形成された.1カ月以上の保存的治療で改善しないため,大腸内視鏡併用下にフィブリン糊の瘻孔内充填を行った.結腸開口部からフィブリノゲン液を,皮膚開口部からトロンビン液を同時に瘻孔内へ注入するというこれまで他に報告のない注入方法を用いて,1度の施行で再発なく完全瘻孔閉鎖に至った.内視鏡を併用し,フィブリン糊を注入する方法は,瘻孔全体を充填できる有効な手段であると考えられた.
  • 山本 哲久, 姜 建宇, 小林 和世
    2009 年 62 巻 2 号 p. 99-103
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    ストーマ傍ヘルニアの新しい手術治療として,メッシュによる修復術が注目されているが,感染や癒着·腸管損傷などの合併症も指摘されている.今回,合併症防止のための工夫を行ったメッシュによる修復術を報告する.症例は,左下腹部のS状結腸単孔式ストーマ保有者.感染防止のためストーマから離れた皮切による腹腔内アプローチとし,癒着防止かつ強度保持のための2層メッシュに,腸管貫通穴を作製した.これにより,腹膜·筋膜間の剥離を必要とせず,貫通腸管の損傷も防止しながら,強度を保った修復が可能となった.また,腹壁瘢痕ヘルニアの同時修復も可能であった.本方法は,全身状態の良いストーマ傍ヘルニア症例に良い適応と考えられた.
  • 大城 望史, 福田 康彦, 恵木 浩之, 松田 正裕, 漆原 貴
    2009 年 62 巻 2 号 p. 104-110
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    症例は60歳代男性.盲腸癌に対して結腸右半切除術を行った2年後,転移性右肺腫瘍に対して右肺部分切除術を行った.さらにその1年後に,FDG-PET検査で右副腎転移と診断し,右副腎摘出術を行った.現在多発性肺転移を認めており,化学療法施行中である.
    副腎は悪性腫瘍による血行性転移の好発部位であるが,副腎転移を発見された時には,すでに他臓器転移を来していることが多く,副腎転移を切除された症例は極めてまれである.結腸·直腸癌の副腎転移切除例の報告は,これまでに自験例を含めて36例であり,臨床的特徴について検討した.原発巣は左側大腸,特に直腸に多かった.直腸癌からの副腎転移は左右ほぼ均等であったが,結腸癌からは右側副腎転移が多かった.副腎転移切除後の成績は,肝転移切除後の成績と比較すると生存率が著しく低く,他臓器に再発する可能性も高かった.それゆえ結腸·直腸癌の副腎転移に対しては,手術単独ではなく化学療法や放射線療法も選択肢に加えて治療する必要があると考えた.
  • 松山 貴俊, 樋口 哲郎, 青柳 治彦, 小林 宏寿, 石川 敏昭, 飯田 聡, 安野 正道, 榎本 雅之, 杉原 健一
    2009 年 62 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    症例は72歳の男性で,2007年3月左側腹部痛で当科を受診した.横行結腸憩室穿孔の診断で緊急手術を行った.術後経過中に2度の盲腸憩室出血をおこし内視鏡的止血を要した.その後さらに,上行結腸憩室穿孔を併発し再度緊急手術を行った.大腸憩室症は多くは無症状であるが,一部に憩室炎や憩室出血,憩室穿孔など,合併症が発生する.横行結腸憩室の頻度は低く,比較的まれな疾患である.本症例は横行結腸憩室穿孔に加え,盲腸憩室出血,上行結腸憩室穿孔と多彩な合併症を発症し,治療に難渋した.全結腸に憩室が存在する症例では合併症を繰り返すことがあり,その術式については今後の検討を要すると考えられた.
  • 池永 雅一, 西田 尚弘, 安井 昌義, 宮崎 道彦, 三嶋 秀行, 中森 正二, 辻仲 利政
    2009 年 62 巻 2 号 p. 116-120
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    脳室腹腔,腰部クモ膜下腔腹腔シャントを有する大腸癌患者の周術期におけるシャントチューブの管理法について検討した.いずれも進行大腸癌症例で大腸手術に先立ってシャントの外瘻化を行った.脳神経外科と連携の上,周術期の外瘻化ドレーン管理法として症例1では髄液ドレナージ量の管理のみ,症例2ではドレナージ量の管理に,歩行時のドレーンクランプを加えた.症例3ではドレナージ量のさらなる精密管理を行い,歩行時には前胸部にバックを固定することとした.いずれも二期手術でシャントチューブの腹腔内再挿入を施行した.外瘻化チューブ管理方法として,脳神経外科医との連携はもちろんであるが,早期離床が肝要とされる消化器外科領域の術後では,ドレナージ量は体位変化時のチューブクランプや位置固定を行うことで髄液内圧が一定に保たれ安全な術後管理が可能であった.
  • 森谷 行利, 冨岡 憲明, 和泉 明宏, 瀧上 隆夫, 小林 直哉, 白川 靖博, 元木 崇之, 湯淺 壮司
    2009 年 62 巻 2 号 p. 121-126
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/02/02
    ジャーナル フリー
    Pagetoid spread(以下PS)をともなう直腸肛門管癌は稀な疾患である.今回,排便時肛門痛を主訴として来院した65歳の女性で,歯状線近傍の肛門管内に二峰性の隆起性病変を認め,経肛門的に切除したが断端陽性のため腹会陰式直腸切断術施行した症例を経験した.病理学的検査と免疫組織学検査でPSをともなった肛門腺由来の肛門管原発腺癌と診断した.術後経過は良好であった.PSをともなう直腸肛門管癌は稀で本邦報告は62例でその内,肛門腺由来症例は19例.進行癌が多く本症例は肛門腺由来の上皮内癌(carcinoma in situ)で切片標本上でPSの進展機序を証明された本邦初例であった.「PSの始まりは肛門腺の上皮内癌」であるとの可能性が強く示唆された.
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