日本大腸肛門病学会雑誌
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62 巻, 4 号
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原著
  • 井上 靖浩, 大井 正貴, 岩田 崇, 森本 雄貴, 廣 純一郎, 問山 裕二, 小林 美奈子, 三木 誓雄, 楠 正人
    2009 年 62 巻 4 号 p. 207-213
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    当科での大腸癌集学的治療をretrospectiveに検討し,多様化する化学療法の位置付けを考察した.治療的化学療法を施行した進行再発大腸癌181例を対象に,SD,PR症例に施行した2次手術やRFAによるCytoreductionの有無と治療成績を検討した.全体のMSTは24.7カ月で,Cytoreduction群61例は化学療法群と比べ有意に予後良好であった(MST 43.7 vs. 19.0カ月,p<0.0001).またCytoreduction群の44.3%が根治度Cであったが,化学療法群<根治度C<根治度BのCytoreduction群の順に有意に予後良好であった.進行·再発大腸癌に対し,強力な化学療法導入を行い,Cytoreductionの機会を増加させる‘De-escalation chemotherapy’は,さらなる長期生存をもたらす一つの治療コンセプトになりうると思われた.
  • 辻 順行, 緒方 俊二, 田中 正文, 佐伯 泰愼, 福永 光子, 高野 正太, 久野 三郎, 山田 一隆, 野崎 良一, 高野 正博
    2009 年 62 巻 4 号 p. 214-220
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    平成18年11月から平成19年5月に便失禁,脱出などを主訴として来院した直腸脱症例の中でALTA法,ALTA+Thiersch法を行い,1年以上経過観察した20例と三輪-Gant+Thiersch法を行い経過観察した8例を対象として検討を加え以下の結果を得た.1.性差では男性に対し女性に多かった.2.平均年齢は高齢者に多かった.3.手術時間はALTA法単独が平均7分,ALTA+Thiersch法が平均19分,三輪-Gant+Thiersch法では平均41分で,手術時間は有意にALTA法が三輪-Gant+Thiersch法よりも短かった.4.術後合併症は,直腸が硬化し排便障害を来した1例のみであった.5.再発はALTA法単独が1/5例(20%),ALTA+Thiersch法が3/15例(20%)であったが,この20例を脱出腸管の長さで5cm未満と5cm以上で分けると前者が0/4例(0%),後者が4/16例(25%)であった.6.抗凝固剤内服症例(4例)に対しも休薬せずにALTAの注入は可能で,施行後も全く問題なく退院した.
  • 松井 伸朗, 角田 明良, 中尾 健太郎, 成田 和広, 渡辺 誠, 古泉 友丈, 竹中 弘二, 草野 満夫
    2009 年 62 巻 4 号 p. 221-226
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    目的: 回腸瘻閉鎖術(IC)患者における術後Gastric ileus(GI)の有無を明らかにする.方法: IC患者11例および,開腹結腸切除術(OC)患者21例を対象とし,腹部超音波検査にて胃幽門部面積(PA)を測定し,GIの有無を評価した.また術後第1病日の朝にX線非透過性マーカーを内服,6時間後に腹部単純X線写真を撮影し胃内の残存数を数えた.結果: ICでは,術後3時間·術後第1病日におけるPAはいずれも,術前に比べ有意差を認めなかった.一方,OCでは,術後第1病日におけるPAは術前に比べて有意に増大し(p=0.019),術後第2病日にはほぼ術前値に復した.OCにおける胃内マーカー残存数は13(0∼20)個であったが,ICでは0(0∼13)個であり,胃運動が回復していた.結論: ICでは術後のGIはほとんど認められないと考えられる.
臨床研究
  • 三吉 範克, 竹政 伊知朗, 池田 正孝, 山本 浩文, 関本 貢嗣, 森 正樹
    2009 年 62 巻 4 号 p. 227-231
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    目的: 直腸癌に対する腹腔鏡下手術(LAP)は,ガイドライン上,術前深達度T2までの直腸S状部癌に対しては外科的治療のひとつとして記載されているが,Ra·Rbの直腸癌に対するLAPの適応に関しては未だ一致した見解がない.当科では直腸癌に対して2001年よりLAPを積極的に導入している.今回その短期成績についてretrospectiveに解析し,LAPの適応を直腸癌に拡大することの妥当性を検討した.対象および方法: 2001年1月から2007年6月までに当科で手術を行った直腸癌54例(LAP 41例,開腹手術13例)を対象とし,前期と後期に分けてLAP群と開腹手術群の臨床病理学的因子,周術期因子,中短期予後について比較検討した.結果: 全期間を通じてLAP群では有意に出血量が少なく,後期では術後創感染も有意に少なかった.両群ともに局所再発症例は認めなかった.結論: 側方郭清を必要としない直腸癌に対してLAPの適応を拡大していくことは妥当であると考えられた.
  • 廣澤 知一郎, 板橋 道朗, 番場 嘉子, 小川 真平, 亀岡 信悟
    2009 年 62 巻 4 号 p. 232-237
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    目的: StageII大腸癌症例の再発危険因子,予後不良因子を選別する.対象: 1991年1月1日から1996年12月31日までに当教室で手術したStageII 186例(無再発164例,再発22例,再発率11.8%)を対象とした.方法: 各種因子(性別,年齢,占拠部位,深達度,組織型,肉眼型,リンパ管侵襲,静脈侵襲,術前CEA値,腫瘍最大径,管周率,リンパ節検索個数,術後補助療法の有無)についての再発危険因子,予後不良因子をretrospectiveに検討した.さらに補助化学療法の適応についても考察を加えた.結果: 再発に対する単変量解析では,性別(p=0.0369),年齢(p=0.0252),リンパ管侵襲: (p<0.0001),静脈侵襲: (p=0.0094)の4項目で有意差を認めた.多変量解析では性別(p=0.0488),年齢(p=0.0119),リンパ管侵襲(p=0.0008)が抽出された.予後に対する危険因子の検討でも単変量解析でly(P=0.0072)のみが有意差を認めたため,StageII大腸癌の再発·予後規定因子としてリンパ管侵襲が考えられた.ly0,1症例の5生率は補助療法あり群(n=39)88.6%,なし群(n=117)88.3%で有意差を認めなかった.ly2,3症例は補助療法あり群(n=13)76.9%,なし群(n=17)61.2%で統計学的に有意差はなかったが,補助療法あり群で5生率が若干良好であり,リンパ管高度侵襲例(ly2,3)に対して補助化学療法の効果が期待できる可能性が示唆された.結語: StageIIの再発危険因子は性別,年齢,リンパ管侵襲が,予後不良因子としてリンパ管侵襲が考えられた.
症例報告
  • 五代 天偉, 原田 浩, 深野 史靖, 田村 功, 鈴木 紳一郎, 小泉 博義
    2009 年 62 巻 4 号 p. 238-242
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    症例は60歳の男性で,肛門周囲の疼痛,腫脹を認めたため当院受診.肛門周囲膿瘍(IILHA)の診断で切開排膿を行い,膿汁の細胞診でclassVであった.さらに指診で直腸に腫瘤様病変を認めた.下部消化管内視鏡検査で肛門縁より5cmの部位に2型の腫瘤を認め,生検で中から高分化の腺癌と診断した.下部直腸癌および痔瘻癌の診断で仙骨腹式直腸切断術を施行した.肉眼所見でRb部に5cm大の2型隆起性病変を認め,さらに歯状線から肛門入口にかけて2.5cm大の腫瘍病変を認めた.病理組織学的には直腸腫瘍は中から高分化の腺癌であり,肛門腫瘤との間に連続性はないものの同一組織であることから直腸癌の管腔内転移による転移性痔瘻癌と診断した.組織学的病期はT3N1H0P0M1(鼠径リンパ節)StageIVであった.今回我々は直腸癌肛門管転移の1例を経験したので報告する.
  • 鈴木 真琴, 菅家 一成, 大木 了, 富永 圭一, 小嶋 和夫, 平石 秀幸
    2009 年 62 巻 4 号 p. 243-249
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    Hermansky-Pudlak症候群(HPS)は眼皮膚白皮症,血小板二次凝集抑制に起因する出血傾向,肺線維症や肉芽腫性腸炎を呈するセロイド様リポフスチンの組織への沈着を三徴とする常染色体劣性の遺伝性疾患である.1959年にチェコの血液学者であるHermanskyとPudlakにより初めて報告されたが,プエルトリコを除けば世界的にも稀とされている.本邦では約60例の報告があるが,皮膚科領域や肺線維症に対する報告が大部分であり肉芽腫性腸炎に関する詳細な報告はみられない.今回我々は下血を契機に発見されたHPSの家族内発症例を経験したので報告する.
  • 澤田 俊哉, 吉川 雅輝, 小棚木 均
    2009 年 62 巻 4 号 p. 250-256
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    肛門周囲に嚢胞様形態を呈して発生した粘液癌の2例を経験した.1例目は67歳男性.肛門左側の腫瘤を自覚して来院.骨盤CTで4×4×3cm大の嚢胞様腫瘍を認め,生検で粘液癌と診断し,直腸切断術を施行した.病理診断では直腸型肛門管癌であった.2例目は73歳男性.便秘を主訴に来院.骨盤MRIで直腸壁外右側に6×4×4cm大の嚢胞性腫瘍を認めた.悪性所見に乏しかったことから経過観察としたが,1年後に腫瘍マーカーの上昇があり,悪性腫瘍疑いで直腸切断術を施行した.病理診断は肛門腺由来粘液癌であった.肛門周囲に嚢胞様発育する悪性腫瘍の報告例は少なく,診断·治療には注意が必要である.
  • 寺石 文則, 鈴木 健夫, 仲本 雅子, 竹馬 彰, 根津 真司, 嶋村 廣視, 瀧上 隆夫, 竹馬 浩
    2009 年 62 巻 4 号 p. 257-261
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    症例は58歳の男性.2007年6月右下腹部痛を主訴に当院を受診し,血液検査でWBC 9,300/mm3,CRP 7.0mg/dlと炎症反応を認めた.下部消化管内視鏡検査では上部直腸に多発する粗大隆起がみられ,盲腸にも隆起する発赤粘膜を認めた.腹部CTおよび注腸造影検査では回盲部を主体とした腫瘍性病変がみられ,直腸との間に瘻孔形成を認めた.保存的加療で腹痛は消失し,生検結果も非特異的な慢性炎症像であったが,回盲部原発悪性腫瘍の可能性もあるため手術を施行した.病変は回盲部を主座として周囲に浸潤性に進展しており,回盲部切除を施行した.切除標本で病変は境界がやや不明瞭な灰白色の腫瘍であり,回盲部の粘膜下層を中心にびまん性の繊維化とリンパ球,形質細胞を主体とする炎症性細胞浸潤が認められ,病理組織学的に炎症性偽腫瘍と診断された.現在外来にて経過観察中であるが,再発は認めていない.
  • 田代 浄, 山口 茂樹, 細沼 知則, 石井 利昌, 佐藤 貴弘, 小澤 修太郎, 喜多 宏人
    2009 年 62 巻 4 号 p. 262-266
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/26
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.主訴は血便.下部直腸左壁カルチノイド腫瘍と診断され内視鏡治療を施行.径6mmだが,sm,v1,少数高度異型核を認め,転移危険因子があり追加切除となった.CT検査にて左内腸骨動脈領域に約30mmの結節を認め,リンパ節転移が疑われた.開腹低位前方切除術,D3郭清(lat,prx),回腸人工肛門造設を施行.左骨盤神経叢,内腸骨動脈を合併切除した.病理組織所見にて遺残腫瘍はなく,リンパ節転移も認めなかった.左側方リンパ節として切除した腫瘍はS-100 protein陽性,CD34陽性で良性神経鞘腫であった.3カ月後人工肛門閉鎖,術後排尿障害は認めなかった.骨盤内腫瘍の術前診断は困難な事が多く,本例のように転移危険因子を持つ下部直腸カルチノイド腫瘍におけるリンパ節転移と神経鞘腫の鑑別は現状では困難である.骨盤内腫瘍の診断治療法について文献的考察を加えて報告する.
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