日本大腸肛門病学会雑誌
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62 巻, 8 号
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臨床研究
  • 金澤 周, 塩澤 学, 稲垣 大輔, 菅野 伸洋, 赤池 信, 今田 敏夫
    2009 年 62 巻 8 号 p. 497-501
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    目的:下部直腸癌患者の低位前方切除術の際にdiverting stomaとしてileostomyを造設後にイレウスを発症した症例を分析し,イレウス発症の危険因子を明らかとする.対象·方法:下部直腸癌手術の際に同時にileostomyを造設した23人を対象とした.イレウス発症群,イレウス非発症群の2群に分け,術前因子,手術因子の各項目について比較検討した.結果:イレウス発症群は10例で,イレウス非発症群は13例であった.単変量解析では男性および腹直筋の厚さ≥10mmが危険因子として選択された(p<0.05).多変量解析では腹直筋の厚さ≥10mmが危険因子として選択された(p<0.05).考察:腹直筋の厚さ≥10mmの危険因子を有する症例に対しては,diverting stomaとして腹直筋以外の回腸挙上経路あるいは横行結腸人工肛門の造設なども考慮して手術を施行する必要があると考えられる.
  • 佐藤 ゆりか, 安部 達也, 鉢呂 芳一, 國本 正雄
    2009 年 62 巻 8 号 p. 502-505
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    目的:内痔核の重症度は脱出程度によって診断するGoligher分類を用いるのが一般的で,内痔核の大きさや厚みを定量化した報告はない.今回,内痔核症例における肛門管の粘膜下層(SM層)の厚さを測定し,その値とGoligher分類との関係を検討した.対象:内痔核と診断され肛門管超音波検査を試みた492例のうち,同検査が施行可能であった376例(1度28例,2度51例,3度287例,4度10例).方法:外径20mmのコンベックス(周波数10MHz)·リニアプローブ(周波数12MHz)を用いて肛門管全域を観察し,SM層が最も厚い部分を計測しSM厚とした.結果:1度から4度のSM厚は,それぞれ2.30±0.56mm,3.39±1.00mm,4.20±1.26mm,5.86±0.49mmで,内痔核の重症度に比例して厚くなっていた(R=0.98,p<0.001).結論:SM厚は内痔核の重症度判定の指標の1つとなる可能性がある.
  • 岡本 貴大, 田村 竜二, 門脇 嘉彦
    2009 年 62 巻 8 号 p. 506-510
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    虫垂憩室症は比較的稀な疾患である.術前診断が困難であり,急性虫垂炎の診断で手術され,術後検索にて発見されることが多い.今回われわれは経験した15例の虫垂憩室症について臨床病理学的検討を行った.
    虫垂炎,虫垂粘液嚢胞腺腫,虫垂憩室症と診断し手術を施行した242例のうち,病理診断で虫垂憩室症と診断したのは15例(6.2%)であった.術前診断が可能であったのは3例(20%)であり,その他はすべて術後に確定診断された.病理学的診断では11例(73.3%)で憩室に高度な化膿性炎症がみられ,うち9例(81.9%)に穿孔が確認された.また憩室の腔内や周囲間質に粘液鬱滞を認めるものが6例(40.0%)あり,その内3例(50.0%)は穿孔をきたしていた.
    以上,虫垂憩室症は高度な炎症をともなうと穿孔をきたしやすいことが病理学的に示唆された.
症例報告
  • 渡辺 洋行, 松島 誠, 田中 良明, 下島 裕寛, 完山 裕基, 松村 奈緒美, 宋 江楓, 鈴木 和徳, 柳田 謙藏, 松島 善視
    2009 年 62 巻 8 号 p. 511-515
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    下部直腸に発生した直腸サルコイドーシスの1例を経験したので報告する.症例は64歳,女性.主訴は肛門部違和感.現病歴は,近医にて内痔核に対し保存的治療を受けていた.この時,下部直腸に腫瘍を指摘され手術を勧められた.当院での精査加療目的に受診した.直腸肛門所見で,下部直腸左側壁を中心に約1/3周性の,粘膜下腫瘍様硬結を認めた.肛門7時·11時にGoligher 3度の内痔核を認めた.経肛門的超音波検査では,1∼4時方向で肛門挙筋上に3×4cmの等エコー輝度主体の腫瘤像を認めサルコイドーシスが疑われた.経肛門的超音波ガイド下に穿刺生検を行い,病理組織学的検査の結果サルコイドーシスを示唆する所見であった.Gaシンチなどの全身検索を施行し,前上縦隔にGaの集積,胸部CTで同部に異常陰影を認めた.QOL向上の目的で内痔核に対し,痔核結紮切除術を施行した.現在,さらにサルコイドーシスに対して詳細な検査を行いつつ経過観察中である.
  • 藤本 浩一, 大西 始, 山本 康久, 大西 長久, 大西 信行, 大西 博
    2009 年 62 巻 8 号 p. 516-521
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    比較的稀な虫垂粘液嚢腫には,粘液嚢胞腺腫と嚢胞腺癌があり,腹膜偽粘液腫の一因として知られる.今回我々は,回盲部腫瘍の診断で,虫垂·卵巣を含め一塊に外科的切除し,原発部位を免疫染色から同定し得た虫垂粘液嚢胞腺腫の一例を経験したので報告する.症例は77歳の女性,排便異常を主訴に当院受診し,大腸内視鏡下に虫垂根部に隆起性病変を認めた.腹膜偽粘液腫は発症していないものの,諸検査の結果より,虫垂粘液嚢胞と判断し手術した.
    切除標本は虫垂と卵巣が一塊となっており,肉眼的には原発巣の同定は困難であったが,免疫染色CK7,CK20,MUC1,MUC2を用い,病理組織学的に虫垂原発の粘液嚢胞腺腫と診断された.腹膜偽粘液種の原発巣同定,治療方針決定などに大いに役立つものと考えられる.
  • 名波 竜規, 船橋 公彦, 大嶋 陽幸, 小池 淳一, 渡邊 正志, 金子 弘真
    2009 年 62 巻 8 号 p. 522-526
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    背景: 慢性の腸間膜動脈虚血によって右側結腸に狭窄型の虚血性腸炎をきたすことは大変稀である.今回われわれは上行結腸に発症した狭窄型の虚血性腸炎の1例を文献に考察を加えて報告した.症例: 71歳,男性.腹部膨満と便秘を主訴に当院に紹介となった.注腸検査では上行結腸の広範な狭窄所見を認めた.大腸内視鏡検査では狭窄部はびらんを呈しスコープの通過は不能で,生検はGroup1であった.腹部血管造影検査では下腸間膜動脈から左結腸動脈,辺縁動脈,中結腸動脈を介して上腸間膜動脈や回結腸動脈が造影されたが,右結腸動脈は造影されなかった.約3カ月に及ぶ通過障害が持続したため,結腸右半切除術を施行した.上行結腸に6cmにわたる全周性狭窄を認め,組織学的には炎症性浸出物や肉芽形成を示す潰瘍性病変をともなう虚血性変化を認めた.術中および術後は特に合併症はなかった.
  • 関岡 敏夫, 齊藤 昌彦, 田中 俊樹, 竹田 彬一, 熊本 新一, 梶原 正章, 仲井 理, 山田 拓司
    2009 年 62 巻 8 号 p. 527-533
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/06
    ジャーナル フリー
    症例は82歳女性で主訴は疝痛.普段から便秘がちで少量の下剤を常用していた.原因薬剤のランソプラゾール服用開始6カ月目の2008年10月臍中心に疝痛を催した.上腹部に腹膜刺激症状を認めた.腹部CT検査で横行結腸中央から脾弯曲にかけて壁肥厚を認め周囲の脂肪織の濃度上昇をともなっていた.大腸内視鏡検査では横行結腸中央から脾弯曲にかけて約10cm長の縦走潰瘍を2条,10cm程の間隔を置いて認めた.潰瘍の辺縁は明瞭であり周囲粘膜には異常を認めなかった.いわゆるfractured colonと称する形態であった.入院後腹膜炎症状は2∼3日で軽快した.3カ月後の大腸内視鏡検査では前回認めた横行結腸の縦走潰瘍はいずれも癒痕化し襞集中をともなっていた.生検標本の病理学的検査にて膠原線維性大腸炎と確診した.ランソプラゾール関連膠原線維性大腸炎では大腸内視鏡検査で縦走潰瘍が特徴とされる.この縦走潰瘍は欧米の文献上fractured colonと呼称されているが,印象に残る邦訳として本論文にて地割れ潰瘍の名称を提唱したい.腹膜炎を併発した膠原線維性大腸炎の報告は本邦ではなく欧米でも13例しかなかったが,今後膠原線維性大腸炎は急性腹症の一つとして認識しておく必要がある.
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