日本大腸肛門病学会雑誌
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63 巻, 10 号
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特集 主題 I:痔核診療のすべて
  • 三枝 純一, 三枝 直人, 三枝 純郎
    2010 年 63 巻 10 号 p. 813-818
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    Hemorrhoidの記述は古代よりあり,人類の長い痔核との苦闘の歴史が偲ばれる.加持祈祷や貼付薬,無麻酔下痔核焼灼などの時代を経て,欧州で1800年代半ばに様々な化学物質による痔核への注射が試行されたが,腐蝕剤は施行後出血から死に至らしめることすらあった.ほぼ同時期に手術的治療法が興隆し今もって硬化注射と手術治療は痔核治療の両輪である.歴史的には英国のSt. Mark's病院創立と結紮切除法の開発が転換点であろう.本邦では江戸時代の鎖国政策により近代医学の導入が遅れたが,幕末になると西洋医学が徐々に輸入され外科の始祖の華岡青洲,本間棗軒などが痔核の治療を行った.明治になると腐蝕注射が席巻し,その後本国の英国ではとうに廃れたWhitehead法が本邦で全盛期を迎えた.漸く昭和50年頃以降より結紮切除法が標準手術とされ,現在では(ゴム輪)結紮に加えPPH法や明礬が主剤の硬化剤なども用いられている.
  • 山名 哲郎, 大堀 晃裕
    2010 年 63 巻 10 号 p. 819-825
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    痔核の疫学に関する報告は少ないが,アメリカ国内のアンケート調査では痔核の有病率は4.4%と推定され,年齢層は男女とも45歳から65歳が最も多い.病院受診者のデータベースでは痔核による受診者は年々減少傾向にある.痔核の成因については歴史的にみると18世紀から19世紀にかけて静脈組織の異常な拡張による静脈瘤説や,海綿状血管組織の過形成説などの血管系に関する諸説が唱えられてきた.しかし1970年代以降はこれらの血管を起源とする説の病理学的根拠が乏しいことが報告され,かわりに結合組織や筋組織などの支持組織減弱による肛門上皮滑脱説が有力視されるようになった.痔核の病因はその病態の多様性と複雑性から現在でもいまだに解明されてはいないが,静脈還流障害に起因するうっ血や出血症状や,支持組織の減弱化に起因する脱出症状という病態からみて,血管組織と結合組織のいずれの因子も痔核の病因に関わっていると考えるのが妥当であると思われる.
  • 吉川 周作, 稲次 直樹, 増田 勉, 内田 秀樹, 久下 博之, 横谷 倫世, 山口 貴也, 山岡 健太郎, 下林 孝好, 稲垣 水美
    2010 年 63 巻 10 号 p. 826-830
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    近年内痔核治療は多様化され,様々報告されている.そんななか患者のニーズも長期の入院治療は敬遠され,Day surgeryを望む患者が増加している.古典的治療やゴム輪結紮療法は肛門機能を損なうことなく根治手術に近い効果が期待できることから再評価の必要がある.そこで,これらの手技の紹介と成績を報告する.古典的な内痔核治療である分離結紮術は主に3度から4度の内痔核に施行され,多くの症例は外来通院で行われている.結紮された痔核は1週から3週で壊死脱落し,更に2週から3週間で上皮化し治癒する.術後の出血は1%以下であった.疼痛対策として塩酸キニーネが用いられている.ゴム輪による結紮療法は外痔核の無い2度から3度の内痔核が良い適応で,2週間程度で脱落し,痛みは0.8%から33.2%,出血は0%から18%であった.80%から90%は症状が改善し,1.2%から12%に根治手術が追加されている.
  • 松島 誠, 下島 裕寛
    2010 年 63 巻 10 号 p. 831-837
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    痔核の治療は痔核本体の大きさと形態により治療法が選択され,用手的還納を要するIII度の痔核は外科手術の適応と考えられている.その術式はMilligan-Morganを基礎とした痔核結紮切除手術が長年にわたり改良を加えられ現在に至り,肛門の機能温存と根治の永続性,重大な合併症が少なく安全に行えることなどからスタンダードと考えられてきた.本術式の問題点といわれている術後晩期出血は2.2%に見られその81%が術後14日目までにおこり,術後肛門狭窄は0.1%,再発は0.2%の頻度でみとめられた.また痔核患者の46.2%が痔核以外の併存病変を有していた.以上のことから痔核結紮切除法はどのような痔核症例に対しても永続的な治療効果を安全に得る最良の術式であると考えられる.
  • 梅枝 覚, 松本 好市, 北川 達士, 野地 みどり, 山本 隆行, 石井 雅昭, 成田 清, 鳥井 孝宏, 肥満 智紀, 山崎 学
    2010 年 63 巻 10 号 p. 838-845
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    環状自動縫合器(circuler stapler,PPH=procedure for prolapse and hemorrhoids)による痔核脱肛の手術は,1998年Longoによって発表された手術(粘膜環状切除術,以下PPH)であり,痔核口側の直腸粘膜を環状切除し,痔核脱肛を吊り上げ固定する術式で,疼痛が少なく,QOLにすぐれているため世界で広く行われるようになった.本邦でも2001年より各施設で施行され,術後疼痛の軽減,早期社会復帰,再発率において結紮切除術と比べても差がない,などとIII度内痔核には有用な手術術式と考えられる.一時期PPHによる合併症も報告されたが,PPH機種の改良,手技の向上により合併症が減少した.PPHの特性から,すべての痔核に適応はなく,適応基準を厳格にして症例を選択する必要がある.術者は他の治療法であるLEやALTAにも精通し,長所短所を理解のうえ,痔核・脱肛の適応を的確に判断出来る能力があり,PPHの特性と実技を充分会得したうえで行う手技である.適応症例においては非常に有用な手術と思われる.
  • 鉢呂 芳一, 安部 達也, 國本 正雄
    2010 年 63 巻 10 号 p. 846-850
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    ALTA内痔核硬化療法の臨床使用がすでに5年を経過し,その使用は日本国内に留まらず年々症例数が増加している.当院では2005年4月より様々な肛門疾患に対し本治療法を導入しており,その使用症例は2,300例に達している.内痔核に対してのALTA療法には,ALTAの単独使用とLEとの併用療法が存在する.どの治療法が最適かは症例毎に異なるが,ALTA療法の適応や使用法を熟知することで,患者にとってより低侵襲な治療法が提示できる.また,ALTA投与後の副作用,合併症も散見され,それぞれの対処法についてもある一定の見解が得られてきている.この度当院における臨床経験を踏まえ,現時点におけるALTA療法の適応,臨床成績,副作用,合併症などを中心に考察する.
  • 山口 トキコ
    2010 年 63 巻 10 号 p. 851-854
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    痔核の外来手術で大切な事は,手術中における疼痛の軽減,術後疼痛や術後出血の軽減である.特に患者は病院を離れて療養しているため,もし大出血がおこった場合に止血処置が速やかに受けられないと最悪の事態を招くこともある.痔核治療の中でそれらのリスクを最も減らすことができるのは,ALTA療法―内痔核に注射をするだけで痔核が縮小する治療法である.治療後の疼痛は軽く,患者の約4割が鎮痛剤を必要としなかった.さらに術後の大出血は1例もなかった.したがってALTA療法は患者と医師双方にとって負担の少ない治療であり痔核の日帰り手術には不可欠な治療法であると考えられる.
    実際にすべての内痔核にALTA療法が適応するとは限らないが,ALTA療法を中心としてできるだけ切らない手術を行えば日帰り手術の不可能な痔核はないと考える.
特集 主題 II:クローン病の治療のアップデート
  • 平井 郁仁, 松井 敏幸
    2010 年 63 巻 10 号 p. 855-862
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    2010年4月に本邦のクローン病診療ガイドラインが公表された.潰瘍性大腸炎のガイドラインと同様にエビデンスとコンセンサスが統合された内容となっている.クローン病はいぜんとして原因不明の難治性疾患ではあるが,今日,病態に即した治療が普及してきている.インフリキシマブに代表される抗サイトカイン療法は従来治療に抵抗性の難治性患者にも高い有効性を示している.新規治療薬も開発されており,今後も治療の選択肢は広がることが予想される.したがって,適切な治療を正しく選択することが今まで以上に重要となる.本稿では,クローン病診療ガイドラインにおける治療の項を中心にその内容と活用法について概説した.クローン病診療ガイドラインはクローン病の診断,治療にあたって役に立つツールになり得るが,あくまで一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであることを理解し活用すべきである.
  • 鈴木 康夫
    2010 年 63 巻 10 号 p. 863-868
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    生物学的製剤Infliximab(IFX)は既にクローン病治療における中心的治療薬の一つとして位置づけられている.IFXの導入により腸管病変は粘膜治癒まで実現可能となり維持療法の継続で粘膜治癒状態を長期に維持することも可能になった結果,従来の治療法に比べ再燃率の減少・入院率の減少・手術率の減少が実現し,クローン病患者の長期予後を大きく改善しQOLの高い日常生活に復帰することが期待される.しかしIFX投与の実施に際しては,immuno-modulater併用の是非や維持投与中の効果減弱発現時の対応など今後解決しなければならない課題も少なくない.最近クローン病においても薬物療法とは全く異なる治療法である顆粒球吸着除去療法(GCAP)が実施可能になり,新たな治療の選択肢として注目されている.GCAPは既に潰瘍性大腸炎においては寛解導入時の標準的治療法として汎用されているがクローン病においては未だ十分な使用経験に乏しく,今後適切な運用方法に関する検討がなされ有効に実施されクローン病治療に寄与することが期待される.
  • 辻川 知之, 馬場 重樹, 安藤 朗, 佐々木 雅也, 斎藤 康晴, 藤山 佳秀
    2010 年 63 巻 10 号 p. 869-874
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    Crohn病の腸管合併症には狭窄,内瘻・外瘻や出血などがあり,一旦生ずると多くの症例では手術が必要なため,QOLが低下する原因となっていた.近年,狭窄は内視鏡的バルーン拡張術にて手術を回避できる症例が増加している.また,外瘻は抗TNF-α抗体で約3割が閉鎖可能であるが,内瘻は狭窄をともなうことも多く効果が少ない.出血に対しても抗TNF-α抗体投与はまず試みるべき治療である.ただし,これら腸管合併症を予防するためには臨床的寛解の維持だけでは不十分で,潰瘍を治癒させることが必要である.粘膜治癒を目指すために,患者個々の病態に対する有効な薬剤を組み合わせたコンビネーション療法を行うべきである.
  • 舟山 裕士, 高橋 賢一, 福島 浩平, 小川 仁, 羽根田 祥, 渡辺 和宏, 鈴木 秀幸, 佐々木 巖
    2010 年 63 巻 10 号 p. 875-880
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    Crohn病に対する外科治療の原則は,健常部をできるだけ温存する病変部の切除である.また,線維性狭窄に対しては各種の狭窄形成術が行われ,病変に応じて消化管の可及的な温存が可能である.ストーマ造設はプアリスク症例や排便機能障害例において適応となる.術後の寛解維持療法については,6~12カ月ごとの内視鏡検査により軽度の病変では5-ASAを,中等度~高度病変に対しては免疫調節薬を加え,さらにInfliximabを用いるアルゴリズムが欧米では提唱されているが,本邦においては,これに成分栄養剤を加えたより丁寧な寛解維持療法が行われている.
  • 二見 喜太郎, 東 大二郎, 永川 祐二, 石橋 由紀子, 富安 孝成, 酒井 憲見, 三上 公治, 二木 了, 納富 かおり, 前川 隆文
    2010 年 63 巻 10 号 p. 881-887
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    自験例139例のCrohn病肛門部病変の長期経過を検討した(平均観察期間178.2カ月).最終的には129例,92.8%に肛門部病変を合併した.長期経過の中でいずれの病変も増加し,なかでも痔瘻,膿瘍の増加が顕著で複雑多発化の傾向がみられた.外科治療としては,痔瘻根治術に比べseton法ドレナージの経過が良好であり,痔瘻,膿瘍に対して第1に選択すべき治療法と思われる.肛門部病変に起因した人工肛門造設例は29例,20.9%で,14例の直腸切断術のうち4例が癌合併であった.若年で発症するCD患者の長期経過の中で肛門部病変はQOLを左右する重要な因子であり,QOLの保持を第1に,癌合併も含めた長期経過を考慮した治療法の選択が肝要である.
  • 中島 清一, 根津 理一郎, 長谷川 順一, 廣田 昌紀, 水島 恒和, 竹政 伊知朗, 池田 正孝, 山本 浩文, 関本 貢嗣, 土岐 祐 ...
    2010 年 63 巻 10 号 p. 888-892
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/15
    ジャーナル フリー
    クローン病に対する腹腔鏡下手術は,瘻孔や膿瘍,巨大炎症性腫瘤形成などをともなわない回腸結腸の狭窄病変に対しては良い適応であり,近年の手術器具の改良とともに,今後は単孔式内視鏡手術のように整容性に優れた変法も試みられるようになると思われる.しかしながら,合併症を有する症例や再手術例に対しては腹腔鏡下手術は依然技術的に困難であり,結果として開腹移行率も高くなる.これらcomplexな症例に対してはHALSや小開腹の併用を含めて,柔軟にアプローチを選択する必要がある.なかでもHALSは,(亜)全結腸切除術のように切除範囲が広く,標本サイズが大きい症例には良い適応と考えられる.これら多様な低侵襲アプローチの開腹手術に対する真のアドバンテージについては,今後さらなる検討が必要である.
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