日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
Print ISSN : 0047-1801
ISSN-L : 0047-1801
63 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
原著
  • 金澤 周, 塩澤 学, 田村 周三, 稲垣 大輔, 山本 直人, 佐藤 勉, 大島 貴, 湯川 寛夫, 今田 敏夫, 赤池 信
    2010 年 63 巻 2 号 p. 43-50
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    大腸癌根治切除例のうち,粘液癌を分化型腺癌と比較し臨床病理学検討を行うとともに,粘液癌を組織学的特徴により2群に分類し,臨床病理学的な検討と予後因子の検討を行った.粘液癌の発生頻度は5.1%で,高·中分化型腺癌と比較して,右側の発症率,腫瘍径の大きい症例,深達度T3以深の症例が有意に多かった.粘液癌の5年生存率は68.8%と高·中分化型腺癌と比較し有意に低かった.粘液癌の予後因子の検討では,由来組織,リンパ管侵襲,リンパ節転移が予後規定因子として有意差をもって選択され,因子の数が多い症例ほど5年生存率は有意に低かった.また,粘液癌をその由来組織により高分化型と低分化型に分類し検討すると,低分化型では5年生存率が40%と有意に低かった.粘液癌の中でもこれらの予後不良因子を有する症例の場合には高リスク大腸粘液癌として,高·中分化型腺癌とは異なる治療方針を考慮する必要性があると考えられた.
臨床研究
  • 吉岡 和彦, 岩本 慈能, 徳原 克治, 畑 嘉高, 中根 恭司
    2010 年 63 巻 2 号 p. 51-55
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    便失禁は患者にとっては精神的にも社会的にも大きな負担となる.当施設における便失禁患者の診療の現況を明らかにすることを目的として,レトロスペクテイブに検討した.1998年4月より2008年3月までの間に,134人(男性42人,女性92人,平均年齢57.5歳)の初診便失禁患者が受診した.受診契機は他院からの紹介あるいは事前に何らかの情報を得て受診した患者が102人(76.1%)であり,何らの事前情報なしに外来を受診した患者は32人(23.9%)であった.初診時における便失禁の推定原因は,原因が明らかでないもの(特発性)が最も多く68人であった.初診時の臨床的評価でWexner scoreは平均10.3点であった.治療を受けた114人のうち保存的治療のみを受けたものが92人(80.7%),外科的治療を受けたものは22人(19.3%)であった.ポリカルボフィルカルシウムの投与と骨盤体操を行った64人中43人(67.2%)で症状が改善した.また,外科治療を受けた22人中13人(59.1%)の術後機能は良好であった.
症例報告
  • 吉川 幸造, 島田 光生, 栗田 信浩, 西岡 将規, 森本 慎也, 東島 潤, 宮谷 知彦, 宮本 英典, 寺嶋 吉保
    2010 年 63 巻 2 号 p. 56-60
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    Bevacizumab使用中の手術は創傷治癒遅延のため投与後4∼6週間以降に施行することが推奨されているが,消化管穿孔などでは緊急手術が必要となる.今回,Bevacizumab使用中に緊急手術行った2例を報告する.症例1,50歳代男性.下行結腸癌同時性肝転移肺転移と診断され,腫瘍によるイレウスに対して人工肛門造設術を施行,その後,腫瘍の後腹膜への穿通に対して結腸左半切除術を施行.8日後に腸腰筋膿瘍に対して洗浄ドレナージ術を施行.症例2,70歳代男性.虫垂粘液嚢胞腺癌,腹膜播種と診断され治療を行っていた.消化管穿孔に対して緊急手術を施行.横行結腸に穿孔部が認められたが高度の癌性腹膜炎の状態であり洗浄ドレナージ術を施行し治療した.Bevacizumab使用時において消化管吻合が可能な場合においても吻合を行わず,人工肛門造設による2期的手術を行い,人工肛門閉鎖については,十分なBevacizumab休薬期間と原疾患の進行状況に合わせてその時期を検討する必要がある.
  • 佐藤 幸一, 東 博, 宮倉 安幸, 堀江 久永, 濱田 徹, 鯉沼 広治, 冨樫 一智, 安田 是和
    2010 年 63 巻 2 号 p. 61-67
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.7カ月前より下血と肛門痛が出現し,当院を受診した.肛門後方に痔瘻を認め,肛門縁より5cmの直腸に腫瘤を触知した.大腸内視鏡検査で下部直腸に全周性2型腫瘍を認め,直腸腫瘍と痔瘻2次口から突出した硬結部の生検結果は,いずれも高分化型腺癌であった.直腸癌および転移性痔瘻癌と診断し,腹会陰式直腸切断術,D3郭清を施行した.直腸癌は中分化型腺癌で,直腸癌と離れた痔瘻1次口部,2次口部と括約筋間に中分化型腺癌を認めた.原発巣と組織が同一であることから,直腸癌からの管腔内転移を来たした転移性痔瘻癌と診断した.
    痔瘻は日常診療でしばしば遭遇する疾患であるが,大腸癌との合併例では転移性痔瘻癌も念頭に置き,通常の痔瘻と異なる所見に注意し,とくに瘻管内の硬結に対しては積極的な生検が必要と考えられる.反対に,痔瘻癌と診断された症例では,大腸の精査を必ずすべきである.
  • 向川 智英, 藤井 久男, 小山 文一, 中川 正, 内本 和晃, 大槻 憲一, 中村 信治, 中島 祥介
    2010 年 63 巻 2 号 p. 68-74
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代,女性.1995年10月,前医でS状結腸癌による腸閉塞と診断され緊急手術.術中にはじめて大腸ポリポーシス,また同時に微小肝転移を指摘され,S状結腸切除,肝部分切除術を施行.術後精査の結果,Gardner症候群と診断され,残存する大腸ポリープに対して定期的に内視鏡的治療が行われた.1997年初旬,腹部腫瘤を指摘され当院に紹介.長径7cm大の腸間膜デスモイド腫瘍と診断され,同年6月,手術施行.腫瘍は小腸間膜内を浸潤性に発育し上腸間膜動静脈を巻き込んでいた.完全摘出には広範な小腸切除が必要で術後quality of lifeの低下が予測されたため,切除不能と判断.術後tamoxifenとsulindacによる薬物治療を行った結果,デスモイド腫瘍は徐々に縮小,大腸ポリープの数も減少し,10年以上経過した現在もPRを維持している.今回の経験から切除による欠落症状が大きくなる場合には無理に切除を行わず,本治療法を選択することも許容されると思われた.
  • 中島 紳太郎, 諏訪 勝仁, 北川 和男, 山形 哲也, 岡本 友好, 矢永 勝彦
    2010 年 63 巻 2 号 p. 75-81
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    骨盤内臓手術や外傷後に発生する二次性会陰ヘルニアは,まれな疾患である.今回,我々は腹会陰式直腸切断術後に発生した会陰ヘルニアの2例を経験したので文献的考察を加え報告し,予防について検討した.2例とも直腸癌に対し腹会陰式直腸切断術を実施し,創感染などの創傷治癒遷延因子となるような合併症なく経過したが,術後3カ月以内に会陰部に腫瘤を認め,CTとMRIで会陰ヘルニアと診断した.経腹的にComposix® EX Meshを用いて修復術を行った.composix meshを用いた経腹的修復法は,剥離操作にともなう腸管損傷に注意して行えばtension freeの観点からも有用であると考えられた.また,その発生には小腸間膜の長さが寄与していると考えられ,術中に小腸間膜の長さを評価し,骨盤底の補強や間膜の固定を行うことで発症を防止できる可能性がある.
  • 齋田 真, 小澤 俊総
    2010 年 63 巻 2 号 p. 82-87
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/02
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性.持続する下痢と下血を主訴に入院.以前より潰瘍性大腸炎に対し治療継続されていたが症状は軽度であった.入院時の大腸内視鏡検査で,S状結腸に汚い潰瘍性病変が認められたが,病理組織検査は未施行で,潰瘍性大腸炎再燃を疑いステロイドを増量し治療継続した.症状の遷延を認めたため,第38病日,再度大腸内視鏡を施行すると,上行結腸に膿状の汚い多発潰瘍を認め,病理組織検査にてアメーバ性大腸炎と診断しmetronidazole投与を開始した.しかし,第47病日,大量下血をきたしたため結腸亜全摘,回腸瘻造設術を緊急的に施行した.摘出標本からアメーバは検出されなかったが,上記経過と併せ潰瘍性大腸炎に合併した劇症型アメーバ性大腸炎と診断した.術後より敗血症性ショックとなったが徐々に改善,第127病日独歩退院となった.診断に難渋するような慢性下痢·下血例に対し本疾患を念頭におき精査を進めることが重要であると考えられた.
私の診療と工夫
feedback
Top