日本大腸肛門病学会雑誌
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63 巻, 3 号
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原著
  • 永田 浩一, 伊山 篤, 花塚 文治, 加藤 博之, 山田 理恵子
    2010 年 63 巻 3 号 p. 127-133
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    目的:ブチルスコポラミン臭化物注射剤(ブスコパン®注)が大腸3D-CT検査における腸管拡張程度の改善に寄与するか検討した.対象・方法:大腸3D-CT検査を受けた150例を対象として,75例はブスコパン未使用群,75例をブスコパン使用群の2群に分けた.大腸を6区分に分類して合計1,800の大腸区分の腸管拡張程度を評価者3名が互いに独立して4段階の腸管拡張スコア(4点:十分に拡張している.3点:観察できる程度に拡張はしているが,十分な拡張ではない.2点:拡張が不十分で観察に支障がある.1点:拡張していない.)で評価した.結果:両体位の全部位における腸管拡張スコアの平均はブスコパン未使用群で3.59,ブスコパン使用群では3.57であり,両群間で有意差を認めなかった(p=0.48).結論:大腸3D-CT検査においてブスコパンの使用が腸管拡張程度の改善に寄与するという有用性は確認できなかった.
  • 高野 正博, 緒方 俊二, 野崎 良一, 久野 三朗, 佐伯 泰愼, 福永 光子, 高野 正太, 田中 正文, 眞方 紳一郎, 中村 寧, ...
    2010 年 63 巻 3 号 p. 134-146
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    会陰部に慢性の鈍痛を訴える症例があり,括約不全・排便障害・腹部症状・腰椎症状を加え5症候が症候群を形成する.我々は2001~2005年に537例を経験し,女性に多く,平均58.5歳である.
    症候別に他症候を合併する率は,肛門痛では括約不全27%と低い他は,排便障害67%,腹部症状56%,腰椎症状56%である.括約不全で排便障害78%,肛門痛72%,腹部症状56%と高い.排便障害で括約不全31%,肛門痛71%,腹部症状63%,腰椎症状54%.腹部症状でも括約不全が29%と低い他は肛門痛75%,排便障害80%,腰椎症状60%.腰椎症状では括約不全が31%と低い他は,肛門痛77%,排便障害77%,腹部症状71%と高い.括約不全が低いのは肛門機能障害のあと一つの排便障害が第3症候の排便障害と混同されたことによる.その他の症候の合併率は60~80%と高く,この症候群の存在意義は大きい.
    この症候の病態はS2,3,4より出る仙骨神経と同じ部位の骨盤内臓神経との障害で,前者支配の会陰・肛門部と,後者支配の直腸の機能障害との合併発生によると考える.
臨床研究
  • 武田 元信
    2010 年 63 巻 3 号 p. 147-151
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    肛門部慢性疼痛患者の新しい治療法とその効果の精神的な側面を検討した.
    抗うつ薬SSRIと抗不安薬の併用する治療により著しい改善をみる症例を多数経験し,その治療法の精神的評価として患者にSDSテストを行いその治療効果を評価したのでそれぞれ報告する.抗うつ薬SSRIと抗不安薬による治療経験治療としてロラゼパム0.5~1.5mg/日,スルピリド50~150mg/日,パロセキチン10~20mg/日を投与した.疼痛評価はVASスケールによる10段階評価とした.67%の患者で有効が確かめられた,次に抗うつ薬SSRIと抗不安薬によって治療した患者の精神的側面の検討をした.疼痛評価はVASスケール,精神的側面の評価はSDSで評価した.SDSが50点以上の患者はSSRIの投与が特に有効だった.慢性疼痛の治療には疼痛そのものに対する治療と疼痛によるうつに対する治療が必要である.
症例報告
  • 佐々木 邦明, 川村 武, 野口 忠昭, 島村 隆浩, 河野 洋一, 川村 統勇
    2010 年 63 巻 3 号 p. 152-156
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    S状結腸癌術後1年目に下部直腸への転移を認めた症例を経験したので報告する.症例は52歳女性.S状結腸の2型進行癌に対し,S状結腸切除,D3郭清を施行した.病理所見は,中分化型腺癌,SSN2 P0H0M0,stageIIIbであった.術後7カ月目に孤立性肝転移を認め,肝S8部分切除術を行った.初回手術後1年目の大腸内視鏡検査にて下部直腸に隆起性病変が認められた.生検にて,S状結腸癌と同様の中分化型腺癌の診断であった.同時に多発肺転移を認めたため,経肛門的局所切除を選択した.腫瘍は前壁に存在し,粘膜下層から筋層に及ぶ病変であった.切除標本の病理所見では,粘膜病変はわずかで粘膜下層から筋層を主座とする中分化型腺癌でありS状結腸癌からの転移に矛盾しない所見と診断した.原発S状結腸癌から約15cm離れた直腸への転移で稀な症例と考えられた.
  • 簾田 康一郎, 森 隆太郎, 江口 和哉, 仲野 明
    2010 年 63 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は91歳男性.糖尿病に対してα-グルコシダーゼ阻害剤の投与を受けていた.腹痛,嘔吐を主訴に受診し緊急入院となった.心窩部を中心とした腹部全体に軽度の圧痛と反跳痛を認め,血液生化学検査では白血球数とCRPの上昇を認めた.腹部CT検査では小腸および右側結腸の腸管壁内に気腫像を認め,肝表面には樹枝状の門脈ガス像を認めた.腹膜刺激症状が比較的軽微で全身状態も良好なため,原因と思われたα-グルコシダーゼ阻害剤の中止と酸素投与などの保存的治療を行い軽快治癒せしめることができた.α-グルコシダーゼ阻害剤が原因となった腸管嚢腫様気腫症の本邦報告例は10例と少なく,さらに門脈ガス血症をともなうのは本症例だけであった.門脈ガス血症をともなう場合でも腸管壊死がなければ保存的治療が可能になると思われた.
  • 西森 武雄, 金 友英
    2010 年 63 巻 3 号 p. 163-168
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    経肛門的直腸異物は自慰行為などにより突発的に生じることが多い.われわれは経肛門的直腸異物の3例を経験したので,報告する.症例1は59歳,男性.ゴム製の棒を自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,腰椎麻酔下に砕石位とし,腹部を愛護的に圧迫することにより,異物を把持でき,経肛門的に摘出した.症例2は65歳,男性.化粧水の容器を自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,症例1と同様の方法で経肛門的に摘出した.症例3は43歳,男性.コルク製のボールを自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,腰椎麻酔下に経肛門的に摘出した.腰椎麻酔下では肛門括約筋の弛緩が得られ,用手肛門的に摘出可能となることがあり,試みられるべき治療法の1つであると思われた.
  • 大城 充, 長島 誠, 田中 宏, 吉田 豊, 岡住 慎一, 加藤 良二
    2010 年 63 巻 3 号 p. 169-172
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    治癒切除不能な進行・再発結腸および直腸癌に対してOxaliplatin(l-OHP)の適応が承認され,多くの施設で投与されている.末梢神経障害による神経因性疼痛はl-OHPの用量制限毒性の1つである.原因として神経線維細胞のNaチャンネルの異常が注目されたが,その機序は解明されていない.カルシウム・マグネシウム製剤をl-OHP投与の前後に施行するなどの対応策が講じられているが,我が国では未だ有効な予防法はない.当科でOxycodone投与によって,l-OHPによる神経因性疼痛が著明に軽減しl-OHPの継続投与が可能であった3例を経験した.これらの症例ではOxycodoneの低用量,短期間投与でl-OHPによる神経因性疼痛を軽減できたことから,Oxycodone併用投与はl-OHPの継続投与を可能とする一助となり得ると考える.
  • 飯野 弥, 森 義之, 三井 文彦, 藤井 秀樹
    2010 年 63 巻 3 号 p. 173-178
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,女性.右下肢痛を主訴に近医を受診し,MRIで右坐骨腫瘤と直腸腫瘍が指摘された.当科を紹介受診し,進行下部直腸癌,右坐骨転移と診断した.右坐骨転移以外に遠隔転移は認められなかった.5FuとCDDPの全身化学療法に加え,坐骨転移も含めた全骨盤へ総量40Gyの放射線治療をおこなったが右下肢痛は改善されないため,疼痛緩和の手段として腹会陰式直腸切断術と右骨盤半裁術を施行した.術後に肝転移が出現したが化学療法後に切除し,その後再発なく長期生存を得ている.消化器癌の骨転移は他臓器転移を合併していることが多く,切除の対象となることは極めてまれである.しかし,全身化学療法の有効性が高まっている現在,自験例では長期生存が得られており,時には転移巣の切除も考慮しつつ集学的治療を模索してゆく意義があると考える.
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