日本大腸肛門病学会雑誌
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63 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
臨床研究
  • 安部 達也, 鉢呂 芳一, 國本 正雄
    2010 年 63 巻 5 号 p. 265-269
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    目的:直腸脱に対する会陰術式の1つであるGant-三輪-Thiersch法は,再発率が高く術後出血や直腸穿孔,Thiersch材料の感染や排便困難などの合併症が少なからず報告されている.今回Gant-三輪法の代わりにALTA治療を行い,Thiersch材料には伸縮性ポリエステルテープを用いた「ALTA-Thiersch法」を行った.対象:2005年10月から2009年5月に同法を行った完全直腸脱13例.方法:脱出直腸の口側から粘膜下層に少量ずつALTAを注入し,肛門の前後に小切開をおき,テープを肛門管外周に環状に通して両端の紐を結紮した.結果:手術時間は平均38分,合併症は便秘5例,肛門痛,蕁麻疹,創感染,発熱が各1例.全例で直腸脱は改善したが,3例で怒責時の粘膜脱出が残存した.結語:ALTA-Thiersch法は安全・簡便に施行でき,脱出の還納効果も十分に期待できる.
症例報告
  • 中村 信治, 藤井 久男, 小山 文一, 中川 正, 内本 和晃, 大槻 憲一, 植田 剛, 中島 祥介
    2010 年 63 巻 5 号 p. 270-275
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は66歳の男性で,下腹部痛と下血を主訴に来院,S状結腸憩室穿孔による急性汎発性腹膜炎と,多発性直腸肛門部潰瘍出血の診断にてHartmann手術,腹腔ドレナージ術を施行した.術後高熱と下血が続くため病歴を再聴取し腸管型ベーチェット病の潰瘍性病変と診断した.ステロイドの静注療法で解熱し,ステロイドの局所療法で下血は消失,潰瘍は縮小した.組織学的検査ではS状結腸穿孔部は潰瘍ではなく憩室の穿破と考えられ,潰瘍性病変は直腸肛門部のみであった.腸管型ベーチェット病の直腸肛門病変はまれであり,またそれに対する治療は確立していない.今回我々はステロイドの局所療法を行い非常に有効であった.また,直腸肛門部に潰瘍を有する場合,非典型的ながらも腸管型ベーチェット病の可能性も念頭に置く必要があると考えられた.
  • 甲斐 敬太, 隅 健次, 田中 智和, 明石 道昭, 森園 剛樹, 能城 浩和, 宮崎 耕治
    2010 年 63 巻 5 号 p. 276-280
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は40歳女性.腹膜播種をともなう卵巣癌の診断で当院紹介となった.精査でS状結腸に全周性の2型病変を認め,大腸原発か卵巣原発か議論となった.症状緩和と腸閉塞の回避目的に外科切除を施行した.S状結腸の腫瘍は腸間膜に穿破し,腹膜播種をきたしていた.左卵巣は径20cmと腫大し,術中迅速病理検査で大腸粘液癌の卵巣転移の診断であった.形態的に正常であった右卵巣にも微小転移を認めた.大腸原発粘液癌は比較的まれで,その卵巣転移はさらにまれである.大腸癌の卵巣転移の鑑別には一般にサイトケラチン7と20の免疫染色が有用とされるが,自験例においては大腸病変で腺腫成分の混在や正常粘膜との移行像を認めたのに対し,卵巣では単一な癌成分のみであった点もその鑑別に有用であった.
  • 桑田 亜希, 香山 茂平
    2010 年 63 巻 5 号 p. 281-284
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    患者83歳の男性で,右下腹部痛を主訴に当科を受診した.触診で右下腹部に軽度圧痛認めたが鼠径部腫張は極軽度であった.CTで右鼠径ヘルニア,ヘルニア内容は虫垂であると診断した.用手的に還納し症状は一時的に改善したが,右下腹部痛増強認めたため手術施行した.術中所見では右外鼠径ヘルニアであり,ヘルニア内容は虫垂で,Amyand’s herniaと診断した.虫垂に炎症所見を認めなかったため虫垂切除は行わず,Mesh plug法にて鼠径ヘルニア根治術を施行した.経過は順調で,術後2日目に退院となった.鼠径ヘルニア内容が虫垂であることは稀である.今回我々はAmyand’s herniaの1例に対して虫垂切除を行わずヘルニア修復術のみを行い良好な結果であったので,虫垂切除を行った過去報告例23例と比較し文献的考察を加え報告する.
  • 竹原 朗, 羽田 匡宏, 芝原 一繁, 佐々木 正寿
    2010 年 63 巻 5 号 p. 285-289
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性.54歳時に進行胃癌で胃全摘・膵体尾部脾および肝左葉合併切除・double tract再建術を受けていた.H20年4月より重度の下痢と体重減少を認め,当科を受診した.腹部CT検査で左上腹部に横行結腸と小腸に連続する腫瘤を認めた.下部消化管内視鏡検査で結腸脾弯部に小腸との間に瘻孔を形成した半周性の2型進行癌を認め,上部消化管内視鏡検査で挙上空腸との瘻孔であることを確認した.消化管内瘻形成により低栄養状態であり,術前に栄養管理を行った上で手術を施行した.開腹すると左上腹部で横行結腸と挙上空腸が腫瘤を形成し一塊となっており,横行結腸部分切除と空腸部分切除を行った.切除標本上,腫瘍は横行結腸を中心に壁外性に6cm大の腫瘤を形成しており,病理組織学的に壁外発育型横行結腸癌の挙上空腸浸潤と診断した.壁外発育型横行結腸癌が胃全摘後の挙上空腸に浸潤した症例報告は稀であり若干の文献的考察を加え報告する.
  • 石川 真平, 亀山 雅男
    2010 年 63 巻 5 号 p. 290-294
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代男性.10年来の痔瘻と便潜血陽性にて当院受診.肛門3時方向に瘻孔を認め,下部消化管内視鏡では肛門縁から12cmに全周性の腫瘍を認め生険にて高分化型腺癌であった.直腸癌の診断にて手術施行.膀胱浸潤のため膀胱を合併切除し回腸導管造設,高位前方切除と一時的人工肛門造設を行った.術後3カ月目に術前から有する痔瘻2次口の口側に3cm大の腫瘤が出現.生険の結果高分化型腺癌であり,直腸癌再発の診断にて直腸切断術施行.切除標本にて痔管周囲および管内に腫瘍組織を認め,病理組織学的に直腸癌と類似していることから直腸癌管腔内転移による転移性痔瘻癌と診断した.痔瘻をともなう大腸癌に括約筋温存手術を行う場合は,転移性痔瘻癌を念頭におき,術式の決定,術後フォローアップを慎重に行う必要があると考えられた.
  • 成井 一隆, 池 秀之, 窪田 徹, 渡辺 卓央, 川邉 泰一, 佐藤 渉
    2010 年 63 巻 5 号 p. 295-299
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.直腸癌の診断で当科に紹介され受診した.局所進行直腸癌(RS~Ra,長径7.5cm,SI(骨盤壁),N2,H0,P0,M0,Stage IIIb)と診断し,横行結腸双孔式人工肛門造設術を行い,化学療法(mFOLFOX6,7サイクル)を施行した.画像診断で直腸腫瘍の縮小とリンパ節腫大の消退を認め,化学療法の効果はPR(部分奏功)であった.化学療法終了後17日目に直腸低位前方切除術(D3)を行い,合併症なく退院した.病理組織学的検査ではpSS,pN0,根治度A,化学療法の効果判定はGrade1bであった.
    局所進行直腸癌に対して欧米では放射線化学療法が標準治療とされるが,本邦では手術単独治療が多く行われている.放射線照射は様々な合併症や晩期障害を惹起する一方で,前治療なしに充分な切除断端を保持して切除するのは困難な症例がある.本症例では術前化学療法(FOLFOX)により腫瘍縮小を図り,安全に根治手術を施行し得たので報告する.
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