日本大腸肛門病学会雑誌
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66 巻, 10 号
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主題 I:内視鏡下大腸手術の最近の進捗
  • 稲木 紀幸, 金平 永二
    2013 年 66 巻 10 号 p. 931-940
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    大腸の内視鏡手術には,消化管内視鏡による内視鏡的切除から,Transanal Endoscopic Microsurgry(TEM),Natural Orifice Transluminal Endoscopic Surgery(NOTES),腹腔鏡手術そしてロボット支援手術まで多岐にわたる.それぞれの大腸の内視鏡手術手技の概要を述べ,筆者らが精通しているTEMの基本と実際について詳述し,NOTESと他の手技との融合,展望についても言及する.そのほか,単孔式内視鏡手術やNeedlescopic Surgeryを含めたReduced Port Surgeryも有望な分野である.また,Natural Orifice Specimen Extractionの概念のもと,経肛門や経膣,経口的に臓器を摘出する方法は手術手技の革新を推し進める技術となる可能性がある.それぞれの内視鏡下大腸手技の横断的な技術の融合が,新たな手技を生み出すことになる.内視鏡下大腸手術は,内視鏡手術の中でアドバンス手術の代表として,今後も内視鏡手術の進歩を牽引していくであろう.
  • 樫田 博史
    2013 年 66 巻 10 号 p. 941-949
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    大腸腫瘍の内視鏡切除には,有茎あるいは亜有茎性病変に対するポリペクトミー,表面型や広基性病変に対する内視鏡的粘膜切除術:endoscopic mucosal resection(EMR)および分割EMR:endoscopic piecemeal mucosal resection(EPMR),内視鏡的粘膜下層剥離術 endoscopic submucosal dissection(ESD)が存在する.大腸腫瘍の大部分は腺腫であり,また,内視鏡治療の対象となる早期癌もかなりの割合が腫瘍径2cm未満であるため,従来法のEMRで治療可能である.大きくて一括切除が困難な腺腫もしくは粘膜内癌に対して,EPMRが許容される場合もある.ESDは,内視鏡治療の中で,一括切除に最も優れた方法である.EMRでは一括切除が困難な2cm以上の早期大腸癌で,十分な術前評価により根治性が期待できる病変では,ESDが推奨される.
  • 石田 文生, 日高 英二, 向井 俊平, 和田 陽子, 竹原 雄介, 大本 智勝, 前田 知世, 内田 恒之, 高柳 大輔, 島田 翔士, ...
    2013 年 66 巻 10 号 p. 950-958
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    大腸領域の腹腔鏡手術は大腸癌を治療対象として研究され発達してきた歴史がある.一方で大腸癌に対して開発され,実証された術式,手術器具を駆使することが大腸良性疾患に対しても応用されてきている.腹腔鏡下虫垂切除術(急性虫垂炎),腸管部分切除術(憩室炎,憩室出血,腸管穿孔など),大腸全摘出術(炎症性腸疾患),直腸固定術(直腸脱)などが代表的なものである.このうち虫垂切除術と直腸固定術は大腸良性疾患に限られる代表的な術式であり,本稿ではこれら二つの術式について概説する.
  • 関本 貢嗣, 池田 正孝, 三宅 正和, 原口 直紹, 池永 雅一, 宮崎 道彦
    2013 年 66 巻 10 号 p. 959-970
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    2004年以降,結腸癌に対する腹腔鏡下手術を評価するいくつかの大規模比較試験の長期成績が報告された.いずれも腹腔鏡下手術は癌に対する根治性で開腹手術に劣らず,短期成績は良好という結果であった.これを受けて各国で腹腔鏡下手術の普及を目指した動きが進んでいる.結腸癌に対する腹腔鏡下手術について,現時点での評価と普及状況を概説する.
  • 長谷川 傑, 肥田 侯矢, 河田 健二, 坂井 義治
    2013 年 66 巻 10 号 p. 971-981
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    直腸癌に対する腹腔鏡下手術は,腫瘍が狭く深い骨盤内に存在し,鉗子操作や直腸の切離が困難であること,また周囲に排尿性機能を司る自律神経系が存在し,根治性と機能温存を両立させる必要があり,手術難度は高いとされる.そのため,結腸癌に比較してその普及は遅れてきたが,近年手術手技の向上ならびに光学系・手術機器の進歩により徐々に直腸癌に対する普及も進んできた.エビデンスの面からも主に海外のものではあるが,長期予後も含めた大規模臨床試験の結果も得られるようになり,ガイドラインにおける推奨度も高くなってきた.最近では側方郭清や内括約筋切除術など,より困難な領域にも適応が拡大されてきている.今後,長いlearning curveを短縮するためには更なる手術技術の進歩や手術機器の開発が望まれる.ロボット手術は腹腔鏡手術の弱点を補うものとしての役割が期待されるが,その高いコストが最大の問題点である.高難度で手術の稚拙が患者の予後に直接かかわってくる術式であることを忘れずに,きちんとした指導者のもとでトレーニングを積むことが望ましい.
  • 勝野 秀稔, 前田 耕太郎, 花井 恒一, 佐藤 美信, 升森 宏次, 小出 欣和, 松岡 宏, 塩田 規帆, 遠藤 智美, 松岡 伸司, ...
    2013 年 66 巻 10 号 p. 982-990
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    da Vinci Surgical System®を使用したロボット手術の導入後3年半余りが経過し,これまで56例を経験した.ロボット手術の利点である高解像度3次元画像や多関節機能などは骨盤内の解剖を詳細に把握し,繊細な手術を行ううえで有用である.手術時間の延長や自費診療などの課題もあるが,今後本邦においても症例数の増加が推測される.これまでの経験から定型化されつつある直腸癌に対する手術手技を紹介し,43例の短期成績について報告する.また,欧米や韓国からの報告を踏まえて,ロボット手術の現状や今後の展望について述べる.
主題 II:痔瘻診療の標準化をめざして(IBDを除く)
  • 斎藤 徹, 上月 雅友, 野田 裕子, 瀬下 巌, 佐々木 宏和
    2013 年 66 巻 10 号 p. 991-998
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    痔瘻の疫学に関する前向きのコホート研究はなく,retrospectiveな研究結果からは下痢の症例に痔瘻は多く,圧倒的に男性に多い.痔瘻の発症は肛門小窩から細菌が侵入して内外括約筋間に存在する肛門腺に感染巣(原発巣)を形成するcrypt-glandular infection theoryが支持されている.肥満症例に痔瘻が増加していることは非肥満の脂肪組織内ではM2マクロファージが炎症性変化を抑制するが,肥満の肪組織内では活性型M1マクロファージが多くの炎症性サイトカインを分泌して逆に脂肪組織内の炎症性変化を促進することから説明できる.正しい診断を得て,痔瘻根治術を正確に施行できるためには痔瘻の原発口,原発巣,瘻管の走行,二次口の各々の位置と立体的な全体像を正確に把握できる分類が必要である.広く認められているParksの分類と隅越の分類を図示して詳記した.後方深部隙と坐骨直腸窩中隔により分類した栗原の分類は新しい観点からの分類である.
  • 栗原 浩幸, 金井 忠男, 金井 慎一郎, 金井 亮太, 赤瀬 崇嘉, 黒田 敏彦
    2013 年 66 巻 10 号 p. 999-1010
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    肛門周囲膿瘍や痔瘻を診断するということは,その病変が肛門管内に原因があって発生した膿瘍あるいは瘻管なのかを判断し,それがどのような型なのかを分類することである.したがって診断には肛門周囲膿瘍と痔瘻の分類を述べることが不可欠であり,本稿ではわれわれが提唱した痔瘻の新分類を取り上げ,それに則した診断について述べた.診断には症状を問診するとともに視診・指診を行う.必要に応じて瘻管造影やMRIなどの画像診断も加える.深部の膿瘍や痔瘻は表面には現れないので注意が必要である.痔瘻診断で最も重要なのは指診,特に双指診である.手術は視診と双指診で病態を判断しながら進めてゆくので,普段から指診の精度を高めてゆく姿勢が望まれる.肛門周囲膿瘍はフルニエ壊疽など命にかかわる壊死性肛門周囲感染症の場合もあり見逃さないようにしなければならない.鑑別を要する疾患には,癤,膿皮症や毛巣洞,バルトリン腺嚢胞・膿瘍などがある.
  • 岩垂 純一
    2013 年 66 巻 10 号 p. 1011-1025
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    痔瘻に対して術後の肛門変形,変位を少なくし術後の肛門機能を損なわないように低位筋間痔瘻に対しては内括約筋を切除して原発巣を処理する術式が行われ,次いで,内括約筋を,くり抜いて原発巣を処理する術式,原発口や原発巣をくり抜いた後を縫合閉鎖する方法,内括約筋に侵襲を加えない方法などが行われてきた.その後,侵襲があっても,より確実な方法としてseton法や,それに関連した方法,括約筋温存術式と切開開放術式の混合した手術が行われ,最近では肛門上皮を温存した様々な術式が試みられている.
    坐骨直腸窩痔瘻に対しては,くり抜き術の応用,筋肉充填術式,括約筋外にアプローチする様々な方法,そしてsetonを利用した方法が行われ最近では坐骨直腸窩痔瘻の病態も,より詳しく解明されている.
    痔瘻診療の標準化を目指していく上で,以上の術式の変遷,その考え方を理解することが必要である.
  • 八子 直樹
    2013 年 66 巻 10 号 p. 1026-1034
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    日常診療にあたって最も遭遇することの多い肛門後方の低位筋間痔瘻(IIL)に対して一般的に行われている切開開放術の実際について述べる.痔瘻の原発口から原発巣,2次口まで全開放する本術式は痔瘻の根治性をはかるため基本となる術式である.
    一方でIILであっても走行が複雑なもの,高位筋間痔瘻(IIH),肛門括約筋貫通型痔瘻や術前肛門機能障害のある症例などに対しては肛門括約筋を温存する術式や治療法を検討する必要がある.本邦や海外で行われている括約筋温存治療についても言及し,それらの成績について検討した.
    痔瘻手術治療にあたっては術前診断や肛門機能評価も重要であり,各症例に応じ根治性と肛門機能の両面から適応術式を選択することが望まれる.
  • 佐原 力三郎
    2013 年 66 巻 10 号 p. 1035-1043
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    前側方に原発口を有する痔瘻はほとんどが低位筋間痔瘻である.IBD症例や乳児痔瘻を除外すればcrypt-glandular infectionによるものが大半であるが裂肛から合併するタイプも多い.外科的治療では開放術式が先行したが,1980年代には機能温存術式の重要性が認識されていろいろな術式が考案実施されてきた.現在も術式の選択基準は当事者の考え方に委ねられており,本邦の診療ガイドラインはまだない.前方痔瘻は女性にも多く認められ,開放術のみでは思わぬ術後の愁訴を招くことになる.適宜括約筋温存術式など肛門の機能や形態を考慮した治療法を取り入れるべきであるが,さらに肛門上皮や粘膜に対する侵襲も可能な限り軽減することも目指し,なおかつ根治性の向上,治癒期間の短縮も追求して早く楽に治療していこうとする診療姿勢が肝要である.これまでそして現在行われている前側方痔瘻の治療法について長所短所を検討し解説した.
  • 辻 順行, 中村 寧, 緒方 俊二, 佐伯 泰愼, 福永 光子, 田中 正文, 村田 隆二, 山田 一隆, 高野 正博, 家田 浩男, 宮田 ...
    2013 年 66 巻 10 号 p. 1044-1058
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
    ジャーナル フリー
    坐骨直腸窩・骨盤直腸窩痔瘻の以前の治療法では,筋間痔瘻と同様に痔瘻の全開放術が行われている.しかし過去に出版された教科書には,深部痔瘻に開放術が施行されると,直腸が前方に移動する可能性や,症例により術後の便失禁がかなりの頻度で発生することが報告されている.事実低位筋間痔瘻で開放術後の肛門内圧(静止圧)を調べてみると,側方の開放術は後方の開放術よりも有意に静止圧が低下している.また前方,側方,後方の低位筋間痔瘻に対して開放術が行われ,「肛門のtonusが低下」を1年後に問う内容のアンケートによると,低下したとする症例は前方24.3%,側方54.9%,後方16.4%であった.
    すなわち括約筋を切断することの括約筋機能に対する影響の大きさが示されている.この結果からすれば,Hanley法においても,後方の主病変部から原発口の位置する歯状線までは全開放されるために,症例によっては術後の括約不全が危惧される.
    したがって深部痔瘻では,現在の手術法の中で最も括約筋を温存する括約筋温存術の適応が最も推奨された.
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