日本大腸肛門病学会雑誌
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66 巻, 8 号
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原著
  • 片山 雄介, 塩澤 学, 澤崎 翔, 沼田 幸司, 沼田 正勝, 樋口 晃生, 五代 天偉, 利野 靖, 益田 宗孝, 赤池 信
    2013 年 66 巻 8 号 p. 585-590
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    当科における切除不能stage IV大腸癌の原発巣切除例の予後因子を検討した.2000年から2010年までの大腸癌stage IV症例で原発巣切除を行い,根治度Cであった177例を対象とした.単変量解析では血清CEA値が5.0ng/ml以上,H2以上の肝転移症例,遠隔転移因子数が2個以上,静脈侵襲あり,分子標的薬の未使用例が有意に予後不良であった.これらの因子で多変量解析を行うとH2以上の肝転移症例,遠隔転移因子数が2個以上の症例,分子標的薬未使用が独立予後不良因子となった.また肝転移がH2以上とH1以下の症例で層別化すると,分子標的薬の有無においてH1以下の症例では生存率に有意差を認めなかったが,H2以上の症例では分子標的薬の使用で有意に生存期間の延長を認めた.切除不能stage IV大腸癌において,進行した肝転移を持つ症例では原発巣切除を行うより,まず分子標的薬を含めた積極的な化学療法を導入するのが望ましい可能性が示唆された.
臨床研究
  • 渡辺 誠, 村上 雅彦, 大中 徹, 松井 伸朗, 小沢 慶彰, 青木 武士
    2013 年 66 巻 8 号 p. 591-595
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    【目的】当科にて実証したエビデンスを含むERASプロトコルの有用性について検討した.【プロトコル】1.術前の患者教育.2.栄養対策;手術前日夕まで食事摂取.第1病日昼より3分粥開始.第2病日朝より全粥開始.3.疼痛対策;腹腔鏡使用.硬膜外麻酔,NSAIDs静注,経口,閉創時0.25%マーカイン局注.胃管,ドレーンなし.4.消化管機能対策;機械的前処置の省略,第1病日からProkineticsの内服開始,院内歩行開始.5.第3病日退院評価.【結果】結腸癌25例を対象とした.術後第1病日の食事摂取量は50(0-100)%,第3病日は90(10-100)%であった.院内歩行距離は第1病日300(33-770)m,第3病日600(300-3,630)mであった.術後初回排便は31(12-53)時間であった.術後合併症率は4%(1/25)で内容は皮膚切開部SSIであった.術後在院期間は5(4-17)日であった.再入院はなかった.【結語】著者らが作成したERASプロトコルは大腸癌術後回復強化に有用であると考えられた.
  • 上神 慎之介, 大毛 宏喜, 清水 亘, 渡谷 祐介, 繁本 憲文, 末田 泰二郎
    2013 年 66 巻 8 号 p. 596-600
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    2006年1月から2010年12月までの5年間に潰瘍性大腸炎に対して回腸嚢肛門吻合術を施行した76症例を対象に,骨盤内ドレーンの早期抜去の妥当性について検討した.骨盤内ドレーンは全例に閉鎖式ドレーンを使用し,原則として術後48時間で抜去した.男性46例,女性30例,手術時の年齢中央値は40.5歳で,術直前ステロイド使用率は78.9%,免疫調節剤使用率は25.0%であった.実際のドレーン留置期間は平均2.6日で,総手術部位感染発症率は31.6%,うち臓器/体腔感染症発症率は9.2%であった.臓器/体腔感染症の診断時期は術後平均13.2日と遅く,全例ドレナージにて軽快した.骨盤内膿瘍から外因性感染を疑わせる菌種は,表皮ブドウ球菌1株のみの検出にとどまった.潰瘍性大腸炎のような術後感染高リスク手術であっても,閉鎖式ドレーンの短期間留置は安全で,外因性感染を最小限に抑えることが出来た.
  • 鉢呂 芳一, 安部 達也, 國本 正雄, 菱山 豊平, 海老澤 良昭, 阿部 清秀
    2013 年 66 巻 8 号 p. 601-604
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    目的:痔核治療において,同一痔核の外痔核部位を切除し内痔核部位にaluminum potassium sulfate and tannic acid(以下ALTA)療法を行うEA法について,治療成績を中心に報告する.対象:症例は2011年2月より2013年1月までに,EA法を1主痔核以上に施行した296例を対象とした.EA法以外の部位はALTA療法による単独治療を施行した.術前のGoligher分類は,II度51例,III度216例,IV度29例であった.外痔核切除ラインは歯状線付近まで切り込み,ligation and excision(以下LE)法に準じて根部を収束させるように結紮した.成績:EA法1ヵ所(1群)が209例,EA法2ヵ所(2群)が75例,EA法3ヵ所(3群)が12例であった.3例(1%)に再発症状を認めたがいずれも1群の症例であった.再発部位はALTA療法による単独治療を選択した痔核であり,外痔核の残存が原因であった.結語:EA法は,外痔核治療に不十分と考えられているALTA療法の欠点を補うだけでなく,LE法における術後合併症の一つである晩期の内痔核根部出血を回避しうるものである.EA法は,今後LE法に代わるより安全な痔核根治術として期待できる.
症例報告
  • 畑 嘉高, 吉岡 和彦, 岡崎 智, 徳原 克治, 岩本 慈能, 權 雅憲
    2013 年 66 巻 8 号 p. 605-609
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    便秘症が難治性である場合,患者のQOLは著しく低下する.過去約10年間に当科に便秘症の診断で紹介された患者のうち外科的治療を行った症例について検討した.2002年1月から2012年5月までに47人(男性11人,女性36人,平均年齢47.5才)が受診した.このうち手術を行ったものは5例(10.6%)で全例女性,平均年齢42.0才であった.症例1:27才の女性.内圧検査および輸送能検査でOutlet obstructionの所見を得てAnorectal myectomyを施行した.症例2:63才の女性.輸送能検査でSlow transit constipationの所見を得て大腸亜全摘術を施行した.症例3:32才の女性.輸送能検査でSlow transit constipationの所見を得て腹腔鏡補助下大腸亜全摘術を施行した.症例4:32才の女性.精神疾患および甲状腺機能低下症にて他院にて加療中であった.便秘症にて当科紹介受診となる.一時的人工肛門造設を施行した.症例5:43才の女性.摂食障害にて当科紹介受診となる.一時的回腸人工肛門造設を施行した.5例とも術後の機能的予後は良好であった.
  • 森 義之, 飯野 弥, 須藤 誠, 藤井 秀樹
    2013 年 66 巻 8 号 p. 610-614
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    症例は,78歳女性.2005年7月上行結腸癌に対し結腸右半切除術,D3リンパ節郭清術を施行した.病理所見は,中分化管状腺癌(一部に粘液癌,低分化腺癌を含む),2型,pSS,pN0,fStage IIであった.術後4年目に原発右乳癌を認め,右乳房切除術を施行した.病理所見は,T1b,N0,M0,Stage Iであった.大腸癌術後5年目,再発を認めず,大腸癌に対しては終診とした.同年11月の乳腺外来で,血清CEA86.0ng/mlと,12月には234.8ng/mlとさらに上昇し,CT検査で下大静脈腫瘍塞栓を認め,大腸癌の再発と診断した.下大静脈腫瘍塞栓は肝静脈まで伸展しており摘出不能であった.mFOLFOX6を合計4回施行したが,全身状態が悪化し,7月に死亡し,病理解剖を施行した.粘液癌の右腎,右副腎への転移,下大静脈,右心房,右肺動脈,肝静脈,両側腎静脈への浸潤を認めた.上行結腸癌の副腎転移再発が下大静脈に浸潤,増殖し,肝静脈,腎静脈に腫瘍塞栓を形成,それらの臓器の血液還流異常による多臓器不全と診断された.
  • 須藤 剛, 石井 範洋, 川村 一郎, 津久井 秀則, 石山 廣志朗, 佐藤 敏彦, 池田 栄一, 飯澤 肇
    2013 年 66 巻 8 号 p. 615-621
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    臀部腫瘤を主訴とし,肛門管の括約筋より発生したと考えられたGastrointestinal stromal tumor(GIST)の2例を経験したので報告する.症例1は50歳代女性.肛門部の3~6時方向に腫瘍を認め,精査後,経皮的に直腸粘膜および偽被膜を損傷せずに腫瘍を摘出した.病理所見で紡錘形の腫瘍細胞が束状,不規則配列を示しながら増生し,核分裂像は高倍率で7~8個程度/(50強視野)認めた.免疫染色にてCD34およびC-Kit陽性であり,α-SMA、S-100陰性で,MIB-1 labeling indexは3~4%であった.症例2は70歳代男性.肛門部の3~6時方向に腫瘍を認め,症例1同様に摘出し,核分裂像は高倍率で60~70個程度/(50強視野)認めた.免疫染色にてCD34およびC-Kit陽性でありMIB-1 labeling indexは17~18%であった.ともに高リスク症例であるが,術後補助療法としてグリベック400mg/日を内服し,約18ヵ月以上再発徴候を認めず外来通院中である.
  • 藤原 有史, 高塚 聡, 貝崎 亮二
    2013 年 66 巻 8 号 p. 622-627
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/31
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性.直腸癌に対し低位前方切除を施行し,再建はdouble stapling techniqueで行った.術後30日目頃より膣より便の排出を認め,直腸吻合部口側縁に直径約2cmの瘻孔形成を確認した.術後直腸膣瘻に対して,薄筋筋弁充填による修復術を選択した.会陰部横切開をおき膣後壁を切開し,瘻孔周囲を剥離した.直腸瘻孔部を閉鎖し,右薄筋筋弁を用いて直腸膣間隙を充填した.膣後壁および会陰部を縫合した後,横行結腸人工肛門造設を行った.術後再発なく,修復術後6ヵ月で人工肛門閉鎖を行った.修復後1年6ヵ月経過しているが,再発なく,下肢の運動機能異常も認めていない.直腸膣瘻の修復において,瘻孔切除の後に筋肉組織などの充填による膣壁と直腸部との隔絶が再発抑制に有用とされている.本例では薄筋筋弁を用いたが,過不足のないvolumeが得られ,過度な緊張もなく安全に誘導することができた.器械吻合後の術後直腸膣瘻について,文献的考察も含めて報告する.
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