日本大腸肛門病学会雑誌
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67 巻, 10 号
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主題 I:大腸癌に対する化学療法と放射線療法
  • 佐々木 一晃, 大野 敬祐, 今野 愛, 及能 大輔, 村上 武志, 沖田 憲司, 古畑 智久, 平田 公一
    2014 年 67 巻 10 号 p. 869-876
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    進行度II,III大腸癌症例の術後成績は良好であるが,いったん再発するとその治療は困難である.術後補助化学療法は治癒切除術後症例の治癒を目指す治療で,欧米や本邦から多くのエビデンスが報告されている.欧米のガイドラインでは進行度III症例にオキサリプラチン(l-OHP)を併用した化学療法を第一に推奨している.また,再発高危険因子を有する進行度II症例に対しても化学療法を行うことを示唆している.欧米のl-OHP併用化学療法の成績は,本邦の併用しない治療成績とほぼ同等である.本邦の手術成績は良好である.国内でも世界標準の治療法は保険の範囲内で施行可能となっている.しかし,l-OHPは高頻度に有害事象が発生するため,本邦の新たなエビデンスを念頭に,症例ごとに適切なレジメンを選択することが大切である.
  • 加藤 健志
    2014 年 67 巻 10 号 p. 877-887
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移に対する唯一の根治的治療法は外科的切除である.しかし切除術後の再発率は高く,5年生存率は切除可能肝転移に対して行った肝切除術では約50%であった.化学療法前は切除不能肝転移症例であったが,化学療法が奏効したため切除可能となった,いわゆるconversion切除症例では約30%であり,他癌のstage IVや再発癌と比較すると良好な成績ではあるが,決して満足すべきではない.一方,近年の新規抗癌剤の開発により切除不能大腸癌の生存期間は急速に延長しており,肝切除術後の生存率向上のため化学療法が併用されている.
    本稿では,大腸癌肝転移に対する肝切除術の前後に行う周術期化学療法について,過去に報告された第3相試験の結果とガイドラインを中心に述べる.
  • 大矢 雅敏, 鮫島 伸一, 奥山 隆, 纐纈 真一郎, 竹下 恵美子
    2014 年 67 巻 10 号 p. 888-896
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    直腸癌切除手術において局所制御は重要である.欧米での無作為化比較試験により,術前放射線療法(RT)が手術単独との比較で術後の局所再発率を低下させること,化学療法を併用する術前化学放射線療法(CRT)が術前RT単独に勝り,術前CRTが術後CRTよりも局所制御と有害事象の面で術前RTに勝ることが明らかになった.欧米では術前CRTは欧米では標準治療であり,本邦でも実施する施設が次第に増加している.しかし,short courseの術前RTとlong courseの術前CRTの優劣は結論が出ておらず,RTに併用する化学療法の内容や,術前CRTの効果予測なども重要な課題として残っている.また,RT・CRTには排便機能障害などの長期的な有害事象があり,術前に強力な化学療法を先行して行い,有効な場合には術前CRTを省略して切除手術を行う治療方針も検討されている.
  • 三嶋 秀行, 木村 研吾, 池永 雅一, 安井 昌義, 内野 大倫, 岩田 力, 大橋 紀文, 伊藤 暢宏, 鈴村 和義, 佐野 力
    2014 年 67 巻 10 号 p. 897-905
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    切除不能大腸癌に対する化学療法は進歩し,3種類の殺細胞薬だけでなく,3種類の分子標的薬が使用できるようになった.生存期間中央値は2年まで延長したものの,未だに治癒を望むことは難しいので,化学療法の目的は,治癒ではなく延命である.抗VEGF抗体は単剤では効果がなく,殺細胞薬との併用により延命効果が期待できる.抗EGFR抗体にはバイオマーカーが存在し,RAS変異があると効果が期待できない.殺細胞薬と併用でも,単剤でも使用できる.FOLFOXとFOLFIRI,抗VEGF抗体と抗EGFR抗体どちらを選んでも効果に大差はないので,有害事象や腫瘍の状態に応じて選択する.注射のFUは効果を下げずに経口FUに置き換えることができる.重篤な有害事象の発生を好まない患者に対しては,支持療法だけでなく,分子標的薬をベースにすることや,用量調節により,QOLを維持した延命が可能になる.経口の分子標的薬レゴラフェニブの用量調節が困難な場合,titration法などを用いた工夫が必要になる.
  • 土井 綾子, 設楽 紘平, 土井 俊彦
    2014 年 67 巻 10 号 p. 906-918
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    大腸癌の化学療法は,近年の新規分子標的薬の導入により,目覚ましい進歩を遂げている.RASをはじめとした,がん関連遺伝子変異と化学療法の有効性に関する報告やBRAF変異例に対する新規治療開発により,治療方法も個別化されつつある.現在明らかになっている遺伝子変異と化学療法の有効性に関する情報や,新規抗癌剤を含めた今後の治療戦略と将来展望について最新の知見を交えて報告する.
  • 中山 季昭
    2014 年 67 巻 10 号 p. 919-927
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    近年,大腸癌の領域においては様々な新薬の登場により生存期間が飛躍的に延びている.しかし,同時にその治療方法は複雑多様化し生じる副作用も同様である.抗がん剤による副作用は気づかずに放置することにより重篤化,結果として治療の継続自体に影響を及ぼしかねないため,薬剤の恩恵を十分に引き出すためには副作用の予防と早期治療が必要である.ただし,適切な予防・治療方法を選択するだけでは十分とはいえない.外来化学療法が主流の今般,副作用の予防や治療の実施は患者自身に任されるため,患者が適切にセルフケアを行えるようにする教育も必要となる.そこで今回,大腸がん化学療法において発現する副作用の対策を概説すると共に,薬剤師から見た適切な患者指導について解説する.
主題 II:専門医としての肛門科の存在意義
  • 岡空 達夫
    2014 年 67 巻 10 号 p. 928-929
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    日本大腸肛門病学会は肛門科を専門とする医師が構成メンバーの一部を担い,肛門病学を研究・発表する我が国唯一の学術集団である.ところが,肛門科という診療科が消滅し,肛門病を診療する専門医がいなくなるという危機が発生したために,本学会を構成する肛門科医の間に不安が広がっている.しかし,肛門疾患に悩む患者さんにとって肛門科は不可欠であると同時に,肛門病を取り扱う専門医をなくしてはならないのはいうまでもない.そこで,肛門科の存在意義を肛門科医自身が検討して主張していかなければならないとの思いで,本年度の本学会誌の特集号の主題の一つとして取り上げさせていただいた.
  • 丸田 守人
    2014 年 67 巻 10 号 p. 930-933
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    2014年5月から「日本専門医機構」が発足した.しかし,日本専門医機構がいう「専門医」は,われわれが考えている,“より高度な熟練した専門医”とは内容が全く異なっている.2020年から新しい専門医がスタートするが,問題は,日本専門医機構が考えている29領域のsubspecialtyの中に,「大腸肛門病専門医」が入っていないことである.どう対処すべきかを考えることは重要である.日本大腸肛門病学会として日本外科学会,日本消化器外科学会に積極的にアピールし,NCD(National Clinical Database)登録をして肛門外科の専門性を認めさせることと同時に,場合によっては,厚生労働省にも,専門医機構にも全く関係のない独自の肛門外科熟練医認定制度を立ち上げるのも,1つの考えである.
  • 杉田 昭
    2014 年 67 巻 10 号 p. 934-938
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    学会によって認定されてきた現在の専門医について制度の標準化の観点から以前から検討が行われ,厚生労働省による「専門医のあり方に関する検討会」で改革の方針が示された.専門医制度の見直しの実務は日本専門医制評価・認定機構から平成26年6月に日本専門医機構に引き継がれ,現在,基本領域18学会の専門医,サブスペシャリティ領域29の専門医が認定され,日本大腸肛門病学会を含めた34学会の専門医が今後認定を検討する専門医とされている.日本大腸肛門病学会の専門医である「大腸肛門病専門医」は,大腸肛門病を内科系,外科,肛門科で各領域の観点と総合的な見地から診療できる専門医として「国民の健康を守る」ために不可欠との位置付けであり,肛門科の専門性は重要な要素である.今後は新しい専門医としての早期の認定を要請していくとともに,学会として本専門医を堅持していく方針である.
  • 岩垂 純一
    2014 年 67 巻 10 号 p. 939-947
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    肛門科として単独での診療科名での広告が不可能となっている現在,新しい専門医制度において肛門科専門医が認定されるのは極めて厳しい状況にある.公的に近い総合病院の中の肛門病に特化したセンター(社会保険中央総合病院大腸肛門病センター)で研修を受け,スタッフとして勤務した経験から,肛門病は決して外科の中の一小分野ではなく独自性のある分野を形成しているといえる.診察に際しては羞恥,恐怖などの患者心理の理解が必要とされ,治療に際しては単に治せばよいのではなく,後障害を生じないように機能的に問題なく,如何に,きれいに,痛くなく早く治すかが問われる.そのためには多数の症例経験が必要となり,また消化器の1部という観点から大腸疾患の症例経験も必要となる.肛門科の専門性がなくなる結果,診療レベルが低下し合併症や後障害により患者を苦しめるようなことがあってはならない.
  • 金井 忠男
    2014 年 67 巻 10 号 p. 948-956
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    我が国では,以前より各学会が専門医制度を設け運用してきた.しかし,現在の専門医制度は国民には,わかり難い仕組みであり,患者が医療機関を受診する場合に専門性を確認し難く,時として,医療機関,診療科の選択に困難を感じている.また,平成14年専門医の広告が可能になったことから,学会専門医制度が乱立し,制度の統一性,専門医の質の担保にも不安が生じた.そこで,学会から独立した中立的な第三者機関が,質の担保された専門医を認定することとし,本年5月7日に日本専門医機構が発足した.肛門科医にとっての専門医の意義は,専門医を広告可能とすること,診療科名は現在,原則自由標榜性となっているが,専門医と標榜科が関連されることにある.肛門科は専門性が高い診療科であることから,養成プログラムを充実させることにより質の高い専門医を育成する必要がある.
  • 稲次 直樹
    2014 年 67 巻 10 号 p. 957-961
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    新専門医制度確立が論議される中で,「肛門科」消滅の不安が肛門病専門医の中で広がってきている.肛門疾患は患者にとっては最も診られたくない部位の病気の診察を求めることから他疾患以上にデリケートな思いでだれが専門医か,どこで診てもらったら良いか悩む疾患である.このような状況下で新しい専門医制度が患者にとりわかりやすい制度となるためには高い専門性をもった「肛門病専門医」の存在とその標榜はなくてはならないと考える.そして「肛門病専門医」はその疾患の多彩さと,診断・治療の多様性を学び,その診療に当たっては患者の心理を理解し,社会から信頼される医師でなくてはならない.そしてまた,その技術は卓越したものでなければならない.その育成においては日本大腸肛門病学会が示している専門医修練カリキュラムのIIbの条件を満たす必要がある.特にIIa領域の専門医のIIbへの移行に当たっては肛門疾患手術件数規定の順守の重要性を強調したい.
  • 黒川 彰夫
    2014 年 67 巻 10 号 p. 962-966
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    専門医としての「肛門科」の存在意義を語る前に,わが国には既に「肛門科」という呼称は既に消えていく運命にある.その原因は「肛門科医」である私たち自身が,専門医としての誇りと危機感を持っていなかったからである.
    1940年3月に第1回日本直腸肛門病学会が「肛門科医」によって創立されたが,私たちにはその時代の「肛門科医」が持っていた熱い情熱が欠如しているのであろうか.もし,私たちにも先人たちのような情熱があると信じている.
    2008年に厚生労働省が「広告可能な診療科名の改正」を告示した時が好機であったかもしれないが,今でも遅くはない,危機感を持って厚生労働省や日本専門医機構に「肛門科」の重要性を訴えることが焦眉の急と考える.
  • 鮫島 隆志, 丹羽 清志, 江藤 忠明, 今村 芳郎, 鮫島 加奈子, 鮫島 由規則, 鮫島 潤
    2014 年 67 巻 10 号 p. 967-973
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/11/01
    ジャーナル フリー
    専門医および専門医制度の見直しにより,肛門科は診療科としての存在意義が問われている.本邦における肛門疾患の有病率は痔核51~60%,痔瘻5~18%,裂肛9~25%といわれ,ポピュラーな疾患であるが,一方で専門性の高い領域でもある.その診療は古典的な治療から脈々と続いたノウハウがある.また,炎症性腸疾患の増加に伴い,それに合併する肛門病変や骨盤内臓器とも関連した治療,更に排泄臓器としての機能に関する診療や,直腸痛など神経学的な病態の解明や治療も肛門科が担う病態であることから,細分化された高い専門性が求められるようになった.肛門科および肛門領域の専門医の存在と標榜は,その疾患に対する標準的な,あるいは高度な技術を持って治療を施せる医師を患者側に知らせる役割があり,専門医や肛門科の標榜がなくなって不利益をこうむるのは患者自身に他ならない.
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