日本大腸肛門病学会雑誌
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67 巻, 8 号
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原著
  • 秦 史壮, 荒川 高志, 岡田 邦明, 西森 英史, 池田 慎一郎, 山田 真美, 平間 知美, 矢嶋 知己, 石山 元太郎, 阿部 伸一
    2014 年 67 巻 8 号 p. 495-503
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    傍腟組織と直腸・肛門管は,直腸間膜によって遠く隔てられた構造と思われがちだが,両者の間には神経連絡があると推測される.成人女性献体10体から前頭断類似の組織切片を作成,平滑筋および神経の免疫組織染色を施した.傍腟組織は多数の神経および神経節を含み,恥頸筋膜とデノビエ筋膜がそれぞれ前後の境界を,上骨盤隔膜筋膜が外側縁をなしていた.肛門挙筋が腟に近接する高さでは,傍腟組織の前後をはさむ筋膜が不明瞭になり,傍腟組織内の神経は肛門挙筋によって前後2群に分断された.骨盤神経叢直腸枝下群(すなわち内肛門括約筋神経)は後方群から起こり,上骨盤隔膜筋膜に始まる連合縦走筋(外)と直腸縦走筋(内)の間を下降,アウエルバッハ筋間神経叢に加わって括約筋間神経を形成した.骨盤臓器脱手術などにおけるデノビエ筋膜外側部ないし傍腟組織の不注意な取り扱いは,内括約筋機能を損なう可能性があると考えられた.
臨床研究
  • 木村 聖路, 田中 正則, 福田 真作
    2014 年 67 巻 8 号 p. 504-512
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    大腸腫瘍の内視鏡治療後に再治療を要する5mm以上の腺腫または癌,およびindex lesion(10mm以上の低異型度腺腫,高異型度腺腫,または癌)の発生する危険因子を検討した.5mm以上の腺腫または粘膜内癌を内視鏡治療した患者403例(66.2±9.9歳,1.55:1)を対象としてサーベイランスを行った(観察期間73.9±55.7月,検査回数3.4±1.7回).初回治療における年齢と性別,腫瘍数(単数 vs 複数),サイズ(10mm未満 vs 10mm以上),局在部位(左側のみ vs 右側または両側),病理所見(低異型度腺腫 vs 高異型度腺腫と癌)の項目毎に分類し,累積新生病変発生率および累積index lesion発生率をLogrank検定で比較した.累積新生病変発生率は,男性(p<0.001),複数切除群(p<0.0001),大型病変切除群(p<0.001),右側または両側病変切除群(p<0.05),高異型度腺腫(癌)切除群(p<0.005)で有意に高かった.また累積index lesion発生率は男性(p<0.01),複数切除群(p<0.01),大型病変切除群(p<0.0001),高異型度腺腫(癌)切除群(p<0.0001)で有意に高かった.内視鏡治療後の経過観察では,男性患者で,初回治療の際に病変数が多く,サイズが大きく,高異型度腺腫と癌を切除した場合に,新生病変発生率やindex lesion発生率が有意に高かった.
症例報告
  • 䕃地 啓市, 中塚 博文, 住谷 大輔, 藤森 正彦, 奥川 浩一, 谷山 清己
    2014 年 67 巻 8 号 p. 513-518
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.排便時出血,肛門痛を主訴に当院を受診した.腹部造影CT検査では肛門から下部直腸に60mm大の腫瘤を認め,右鼠径部にリンパ節腫脹も認めた.大腸内視鏡検査では肛門管に粘膜下腫瘍様の隆起を伴う潰瘍性病変を認め,生検にてGroup 5(粘表皮癌)であった.進行肛門管癌と診断し,外科にて右鼠径リンパ節廓清も含めた腹会陰式直腸切断術(D3郭清)を施行した.病理所見では肛門周囲皮膚から下部直腸にわたり粘膜下腫瘍様の隆起を伴う潰瘍性病変を認めており,肛門管癌mucoepidermoid carcinoma,pA,int,INFb,ly0,v1,pN2(5/24)と診断した.術後経過は良好であり,現在まで再発なく経過している.肛門管癌のうち粘表皮癌は非常に稀な組織型であり,本症例は興味深い形態も呈していたため,文献的考察を含めて報告する.
  • 永井 俊太郎, 田辺 嘉高
    2014 年 67 巻 8 号 p. 519-523
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.検診目的の下部消化管内視鏡検査で直腸腫瘍を指摘され,当院外科を紹介受診となった.腹部CT検査で腸重積症に特徴的なmultiple concentric ring signを認めた.下部消化管内視鏡検査,注腸造影検査と併せ,直腸絨毛腺腫を先進部とする直腸重積症と診断された.腸閉塞症状がなかったため,待機的に腹腔鏡下手術を施行した.腹膜翻転部付近で口側直腸が肛門側直腸に重積し整復不能であり,一塊となったまま低位前方切除術を施行した.成人腸重積症は小児に比して比較的稀な疾患であるが,その中でも直腸重積症は稀であるとされている.さらに,直腸絨毛腫瘍による直腸重積症は極めて稀である.今回われわれは直腸絨毛腺腫による直腸重積症に対し腹腔鏡下低位前方切除術を施行した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 阿南 匡, 宇野 能子, 武田 光正, 友利 賢太, 北川 和男, 中島 紳太郎, 小菅 誠, 衛藤 謙, 小村 伸朗, 矢永 勝彦
    2014 年 67 巻 8 号 p. 524-528
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    症例は79歳の女性,変形性股関節症のため1990年に他院で両側人工股関節置換術が施行,2004年に左股関節のゆるみが認められ再置換術が行われた.2011年に創部瘢痕の疼痛と発赤・腫脹が出現,自壊して皮膚欠損部から浸出液の漏出が認められた,人工関節感染と診断され保存的治療が行われたが,2013年に血液成分の混じった浸出液となり当院に紹介・転院となった.転院後,性状が便汁様に変化し,画像検査で留置プレートの骨盤内迷入によるS状結腸瘻と診断し,整形外科と連携し準緊急で人工股関節抜去・病巣掻把とハルトマン手術を実施した.人工股関節置換術の骨盤内合併症は血管損傷が最も多く,尿路損傷,消化管損傷が続くとされているが,晩期発症の消化管合併症は非常に稀である.今回,われわれは人工股関節再置換術9年後に骨盤内に迷入した部品の一部がS状結腸に穿通して瘻孔を形成した症例経験したので文献的考察を加え報告した.
  • 岡本 亮, 川島 市郎, 松田 直樹, 辻仲 康伸
    2014 年 67 巻 8 号 p. 529-535
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    症例は64歳男性.慢性腎炎にて血液透析中.S状結腸癌(T1N0M0:stage I)術後2年目に発症した切除不能多発肺転移再発に対してmFOLFOX6療法施行中に嘔吐と意識障害を発症した.血中アンモニア異常高値を認め,高容量5-FU投与による高アンモニア血症が原因の意識障害と診断した.緊急血液透析を行い速やかに症状の改善を認めた.
    mFOLFOX6療法による高アンモニア血症は主に5-FUの代謝異常により起こると考えられている.血液透析患者などの慢性腎不全患者ではアンモニアの尿中排泄が障害されるため,重篤化する可能性があり注意が必要な合併症と考えた.腎障害患者での化学療法施行中の高アンモニア血症に対しては速やかな血液透析の施行が必要かつ有効と考えられる.
  • 金子 奉暁, 船橋 公彦, 小池 淳一, 栗原 聰元, 塩川 洋之, 牛込 充則, 新井 賢一郎, 甲田 貴丸, 鏡 哲, 松田 聡, 鈴木 ...
    2014 年 67 巻 8 号 p. 536-541
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    大腸憩室炎によるS状結腸膀胱瘻3例に対し,腹腔鏡下手術を行った.全例が男性で,平均年齢71歳.主訴は2例が気尿,1例は認めなかった.全例で腹腔鏡下に瘻孔を含めたS状結腸切除を施行後,一期的に腸管吻合した.虚血性腸炎の既往が認められた1例に一時的回腸ストーマを造設した.膀胱に対する瘻孔切除は行わなかったが,再発は認めなかった.手術時間,出血量の中央値は359分(344-403分),120ml(少量-250ml),開腹移行例はなかった.術後合併症はなく,術後在院日数(中央値)は17日(15-19日)であった.本邦報告24例の文献的考察から,腹腔鏡下手術に際し,膀胱に対する瘻孔切除は必ずしも必要ではなく,瘻孔を含めたS状結腸切除で良好な結果が得られていた.
  • 渡海 義隆, 小泉 浩一, 桑田 剛, 久保田 至, 大塚 新一, 山本 哲久
    2014 年 67 巻 8 号 p. 542-548
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/31
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.前医で内痔核に対してALTAによる四段階注射療法を施行した3週後に頻便および粘血便が出現した.下部消化管内視鏡検査では直腸下部歯状線直上のびらん.潰瘍と,直腸S状部までの不整形潰瘍の多発を認めた.下部直腸のびらん・潰瘍は比較的早期に治癒したが,上部直腸から直腸S状部にかけての全周性の深掘れ潰瘍は遷延し,潰瘍の口側および肛門側に高度の狭窄をきたし,頻便,排便困難となった.直腸AV7cmから長軸5cmにわたる全周性潰瘍は保存的に徐々に治癒傾向となったが,潰瘍の縮小とともに潰瘍の両端に高度狭窄を認めた.狭窄に対し約1年,計13回のバルーン拡張術を施行後,潰瘍は治癒し,症状も軽快した.
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