日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
Print ISSN : 0047-1801
ISSN-L : 0047-1801
68 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
総説
  • 齋藤 典男, 白水 和雄, 前田 耕太郎, 森谷 宜皓, 望月 英隆, 幸田 圭史, 長谷 和生, 山田 一隆
    2015 年 68 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    従来の肛門吻合(CAA)やIntersphincteric resection(ISR)の発達により,外科的肛門管に及ぶ直腸癌でも肛門温存の可能な症例が増加している.しかし現時点で行われているISRにおいて,この手術法に対する考え方の混乱も見受けられる.腹腔側よりIntersphincteric planeを確認し,器械吻合を行った症例もISRとされていることも1つの理由である.現在のISRに対する認識は,SchiesselやRullierらが提唱するように経腹経肛門操作によるintersphincteric plane内での直腸剥離とDentate lineを指標としてその直上や肛門側の解剖学的肛門管で直腸と内肛門括約筋をen blocに切除し,CAAにより再建する手術法である.これは本学会の用語委員会において統一の見解とされ,(経腹経肛門的)括約筋間直腸切除術と呼ぶことで一致した.
    本手術法ではある程度の多彩な排便障害を伴うが,最近の長期観察の報告では腫瘍学的予後および排便機能,QOLは許容範囲内とされている.
原著
  • 酒匂 美奈子, 河口 貴昭, 西尾 梨沙, 岡田 大介, 古川 聡美, 岡本 欣也, 山名 哲郎, 吉村 直樹, 佐原 力三郎, 高添 正和
    2015 年 68 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    【目的】炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease,IBD)は,妊娠,出産を経験する20~30代に疾患活動性が高いことが多い.IBD合併妊娠症例,特に疾患活動期においては低出生体重児のリスクが高いことも知られているが,この研究では,このような症例での妊娠中の管理に際し注意すべき点を明らかにすることを目的とした.【方法】社会保険中央総合病院(2014年4月東京山手メディカルセンターに改称)産婦人科における1991年から2012年までのIBD合併出産101例,107回(潰瘍性大腸炎(UC)61例,63回,クローン病(CD)42例,44回における疾患重症度と治療内容,出産の結果についてretrospectiveに検討を行った.【結果】UCにおいては85%以上が寛解もしくは軽症での妊娠であり,経過中の疾患活動性上昇は軽症・中等症の30%にみられたが,98%は2,500g以上の児を得ていた.CDでは活動期での妊娠も40.9%と多く,うち27.8%で増悪,33.3%で活動性持続がみられた.妊娠期間中活動期にあったCD患者では半数以上が低アルブミン血症を合併し,そのうち87.5%は腸管切除歴のある症例であった.低アルブミン血症合併例では子宮内胎児発育不全,早期産の割合が各々15.8%,10.5%と高く,低出生体重児の割合は29%に上った.【結論】IBD合併妊娠の管理においては特に術後CDの栄養管理と活動性コントロールに留意すべきである.
臨床研究
症例報告
  • 武藤 桃太郎, 稲葉 聡, 矢吹 英彦
    2015 年 68 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    症例は79歳女性.肛門から腫瘤が脱出し,出血と疼痛が出現したため当院受診となった.視診で肛門から約3cm大の発赤した腫瘤が脱出しており,容易に用手還納可能であった.下部消化管内視鏡検査では表面は鬱血による発赤が強く,1部絨毛状のIsp型腫瘍であった.注腸X線造影では下部直腸に境界明瞭で丈の高い,表面不整な隆起性病変を認めた.側面変形は認めなかった.腫瘍下縁と肛門縁との距離は2cmほどであった.内視鏡,注腸X線造影所見より腺腫や粘膜内癌を疑い,内視鏡での視野確保が困難なことより,経肛門的腫瘍切除術を施行した.病理組織結果はVillous adenoma, high gradeであった.肛門外に脱出した腺腫の本邦報告例は自験例を含め4例のみであり,きわめて稀であると考えられた.
  • 脇 直久, 吉田 亮介, 山下 和城, 田口 孝爾
    2015 年 68 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代男性.右下腹部痛と発熱を主訴に来院.虫垂炎を疑われCTを撮影したところ盲腸に腫瘍を認め,多発肝腫瘤も認めた.大腸カメラで盲腸に1型の腫瘍を認め,生検では中分化腺癌と診断された.多発肝転移を伴う盲腸癌と診断し,術前化学療法を行ったが奏効せず,腸閉塞を回避するために回盲部切除術,D3廓清を行った.病理組織学的にリンパ節転移を伴う盲腸GISTを主とし,腺腫,腺癌および内分泌細胞癌が混在した複雑な腫瘍であると診断された.術後化学療法を行ったが効果なく,診断から約10ヵ月で死亡した.結腸GISTの報告は散見されるが,リンパ節転移を伴い,さらに腺腫,腺癌,内分泌細胞癌を混じた腫瘍の報告はこれまでほとんどなく,非常に貴重な症例と思われる.治療方針についても非常に示唆に富む症例と考えられた.
  • 北川 浩樹, 大毛 宏喜, 清水 亘, 上神 慎之介, 渡谷 祐介, 繁本 憲文, 嶋田 徳光, 矢野 雷太, 上村 健一郎
    2015 年 68 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    症例は47歳女性.子宮筋腫,右卵巣子宮内膜症性嚢胞に対して他院にて4年前に子宮筋腫核出術,卵巣核出術の既往がある.健康診断で便潜血陽性となり,近医にて大腸内視鏡を施行し,盲腸に粘膜下腫瘍性病変を指摘され精査加療目的に当科紹介となった.CTでは盲腸末端に造影効果の乏しい腫瘤性病変を認め,FDG-PET/CTでは同部位に軽度のFDG集積を認めるのみであった.術前診断,特に良悪性の判断は困難であり,悪性病変を念頭に置いた術式決定が求められた.腹腔鏡手術は本疾患による骨盤内炎症の評価や,病変の拡大視に有効で,迅速病理診断も併せて活用することで,有用性が高いと考えられた.盲腸子宮内膜症は腸管子宮内膜症の中では頻度が低いが,骨盤内炎症を伴う場合に鑑別診断として念頭に置く必要がある.
  • 呉林 秀崇, 高嶋 吉浩, 宗本 義則, 河野 史穂, 佐野 周生, 斎藤 健一郎, 天谷 奨, 飯田 善郎
    2015 年 68 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,女性.下血を主訴に指摘された直腸腫瘍の加療目的に当院を受診した.直腸肛門部悪性黒色腫,左副腎転移,左腋窩リンパ節転移と診断し,腹会陰式直腸切断術を施行した.術後,遠隔転移巣に対してDTIC(Dacarbazine)療法4コース施行したが,Progressive Disease(PD)であったために,2次治療としてCP(Carboplatin, Paclitaxel)療法を行ったところ,8コース終了時点でPartial Response(PR)が得られた.直腸肛門部悪性黒色腫は比較的まれで有効な治療法が確立されていない予後不良な疾患である.今回われわれは直腸肛門部悪性黒色腫転移巣に対してCP療法を行い,PRが得られた症例を経験したために報告する.
  • 岡田 晃一郎, 國末 浩範, 大倉 隆弘, 内藤 稔
    2015 年 68 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    逆行性腸重積症は非常に稀な疾患である.今回,われわれは進行S状結腸癌に起因した成人逆行性腸重積症を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は,72歳女性で,主訴は腹痛であった.多発性骨髄腫の治療中に腹痛と嘔吐で発症し,腹部CT検査にて逆行性腸重積症と診断し,緊急手術を行った.S状結腸が横行結腸まで重積していたため用手的整復を行ったところ,先進部に1型腫瘍を認めたためHartmann手術,D1リンパ節郭清を行った.病理組織診断にて中分化型管状腺癌,pSS,pN1の診断となった.逆行性腸重積症の先進部は腺腫か早期癌が多いとされているが,本症例の如く進行癌が原因となることも稀ながら存在する.逆行性腸重積症の手術に際しては,進行癌に見合ったリンパ節郭清を行うことを考慮することも重要である.
  • 木戸 知紀, 島田 能史, 中野 麻恵, 中野 雅人, 亀山 仁史, 野上 仁, 若井 俊文, 岩渕 三哉
    2015 年 68 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2015年
    公開日: 2014/12/26
    ジャーナル フリー
    同一病巣内に神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)と腺癌の成分を認める直腸腫瘍は非常に稀である.このような腫瘍の発生過程は,NETと腺癌の両者への分化傾向をもつ単一クローン由来,それぞれ別のクローンから発生した腫瘍の衝突の2つの可能性がある.症例は52歳,男性.便潜血陽性で下部消化管内視鏡検査を施行され,下部直腸に10mm大の粘膜下腫瘍様病変を指摘された.生検でNETの診断となり,同病巣に対し内視鏡的粘膜下層剥離術を施行した.病理診断では,病巣は径8 mmで,病巣内にNETと腺癌の成分があり,両成分の粘膜下層までの浸潤を認めた.病巣構築より一方から他方が発生した経路を除外できること,明らかな組織移行像を認めないこと,および免疫組織化学の染色態度の相違から,NETと腺癌が別々のクローンから発生した衝突腫瘍であると診断した.追加腸切除の適応とされ,腹腔鏡補助下超低位前方切除術,D2郭清を施行し,現在まで再発を認めていない.
feedback
Top