日本大腸肛門病学会雑誌
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68 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
会長講演
  • 松島 誠
    2015 年 68 巻 6 号 p. 381-390
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/31
    ジャーナル フリー
    肛門良性3大疾患である痔核,痔瘻,裂肛診療の要点について,肛門科専門病院の立場から述べる.痔核の手術は痔核結紮切除術,内痔核結紮術,ALTA,などの方法を随時選択して行う.ポイントは病変部をすべて切除するのではなく「如何に残すか」である.裂肛は肛門の外傷と考え,発生原因を明らかにしその治療は,繰り返しによる慢性化や狭窄を回避する事が重要である.痔瘻は括約筋の障害を少なからず伴うため,根治と機能温存の高次元でのバランスが必要で,さらに年齢による括約筋機能低下を見据えた治療が求められる.日本の肛門良性疾患で悩む人口はおよそ32,500,000人くらいと推計される.実際診療を受ける患者数は26.7%ほどで,徐々に増加している.我が国における肛門科診療の将来は医療経済上負担の縮小を求められながらも専門的な,必要不可欠な医療と認められていくものと考える.
原著
  • 渡辺 誠, 村上 雅彦, 青木 武士, 高橋 慶一, 安野 正道, 正木 忠彦, 板橋 道朗, 吉松 和彦, 斉田 芳久, 船橋 公彦, 菅 ...
    2015 年 68 巻 6 号 p. 391-402
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/31
    ジャーナル フリー
    【目的】大腸癌患者に対する術後の回復促進に向けたenhanced recovery after surgery (ERAS®)の概念が,どこまで認知されているのかを明らかにするために東京大腸セミナー参加55施設に対して郵送法にてアンケート調査を行った.【結果】回答率は56%(31/55施設).ERAS®の概念は94%の施設で認知されていた.ERAS®22項目中,8項目(術前情報提供,麻酔前投薬省略,血栓予防,皮膚切開前の抗菌剤投与,硬膜外麻酔,術中低体温予防,胃管留置の廃止,術後早期離床)が80%以上の施設で実施されていたが,6項目(機械的前処置省略,術前絶食廃止,炭水化物飲料水負荷,術中輸液制限,消化管蠕動亢進薬使用,早期経口摂取)は25%以下の実施率であった.局所的,全身的合併症の発生頻度は低く,80%以上の施設がともに10%未満と回答した.【結語】術後回復促進の概念は日本の待機的大腸手術において十分浸透していたが,ERAS®の回復促進策はわずか36%しか実施されていなかった.手術手技を含めた複数の因子が術後早期の良好な回復に寄与していると思われた.
臨床研究
  • 及川 芳徳, 梅谷 直亨, 田村 徳康
    2015 年 68 巻 6 号 p. 403-408
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/31
    ジャーナル フリー
    目的:1997年1月から2014年4月までに当院で切除した原発性虫垂癌10例について検討する.
    方法:上記10例の臨床病理学的特徴,術式,化学療法,予後について検討した.
    結果:年齢中央値71歳(44~86歳),術式は結腸右半切除2例,回盲部切除7例,盲腸切除1例,組織型は高分化型腺癌6例,乳頭腺癌2例,印環細胞癌2例,深達度はT3以深9例,病期はStageI:1例,II:5例,IIIa:2例,IIIb:1例,IV:1例であった.術後観察期間中央値は48ヵ月(2~139ヵ月),予後は無再発生存5例,無再発他病死2例,腹膜播種再発での原癌死2例,同時性腹膜播種の担癌生存1例であった.穿孔合併4例中2例は腹膜播種再発で死亡し,他2例は術後化学療法を施行し無再発生存中で,非穿孔6例中5例は無再発であった.
    結論:原発性虫垂癌では穿孔や腹膜播種再発の頻度が高い傾向があり術後化学療法などの集学的治療が重要である.
症例報告
  • 久保田 暢人, 田村 竜二, 岡本 貴大, 門脇 嘉彦
    2015 年 68 巻 6 号 p. 409-412
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,男性.腹痛を主訴に前医を受診し,右下腹部に腫瘤を触知したため,精査目的に紹介となった.先に施行された大腸内視鏡検査で上行結腸腫瘍が指摘されたが,結腸の走行異常は指摘されなかった.CTおよび注腸検査では上行結腸にほぼ完全狭窄を呈した腫瘍を認め,さらにS状結腸および下行結腸が上行結腸の右背側に位置することが判明した.手術は結腸右半切除術を施行し,病理組織検査で上行結腸癌と診断された.様々な腸回転異常の報告が認められる中,右側S状結腸下行結腸に上行結腸癌が併発した症例は非常に稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 柴田 佳久
    2015 年 68 巻 6 号 p. 413-418
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/31
    ジャーナル フリー
    会陰部は婦人科臓器と消化管臓器が近接し,多種疾患が存在する.婦人科を初診し直腸脱を疑われ紹介されたAngiomyofibroblastomaの1例を経験した.50歳,女性.2年前より膣から腫瘤が突出していた.腫瘤の増大にて婦人科を受診し直腸脱を疑われた.腫瘤は可動性のある径12cmで膣後壁より発生し膣外へ露出する腫瘍で,直腸前壁筋層とともに膣後壁部分合併切除にて腫瘤切除を施行した.切除病理診断はAngiomyofibroblastomaであった.切除後3年を経て再発はない.考察と結語:Angiomyofibroblastomaは中年女性外陰部の皮下に存在し綏余に増大する.大きさは径5cm以下のものが多く,完全摘出が行われれば再発はない.本症例は膣後壁(膣後方皮下もしくは膣壁下)より発生したと考えられ径12cmと大きく,免疫学的組織診断にて確定した稀な症例である.
  • 池上 玲一, 神谷 和則, 岩重 弘文
    2015 年 68 巻 6 号 p. 419-424
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/31
    ジャーナル フリー
    当院で2013年2月から2015年1月までの2年間にHelicobacter pylori(以下,H.pylori)感染症に対し,Metronidazole を用いた2次除菌治療を行った症例は314例であった.そのうち3例が抗生物質起因性出血性大腸炎(antibiotic-associated hemorrhagic colitis:以下,AAHC)を発症した.症例1は58歳女性,症例2は54歳男性,症例3は59歳女性で,全例2次除菌治療終了後に腹痛,血性下痢にて発症した.大腸内視鏡検査または腹部CT検査にて,上行結腸からS状結腸までに浮腫や腸管壁の肥厚を認めた.治療は絶食,補液,酪酸菌製剤投与を行った.数日で軽快し,予後は良好であった.H.pylori感染症に対する2次除菌治療後に発症したAAHCの報告は稀であるが,今後増加すると考えられ,注意すべき副作用である.
  • 吉田 亮介, 脇 直久, 山下 和城
    2015 年 68 巻 6 号 p. 425-428
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は16歳,男性.2013年12月に上腹部痛を主訴に受診した.造影CT検査で腸重積症と診断し,下部消化管内視鏡で整復した.4日後に施行した下部消化管内視鏡検査で虫垂開口部を中心とした粘膜の発赤と腫脹を認めた一方で,回腸を含めて腫瘍性病変や憩室を認めなかったことから原発性虫垂重積症であったと考えた.その後の造影CT検査と下部消化管内視鏡検査で腫瘍性病変を疑う所見を認めなかったため,待機的に腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.術中所見として盲腸から上行結腸と後腹膜との癒合が緩く,虫垂起始部に糞塊を有していた.病理組織学的検査で虫垂に腫瘍性病変を認めなかった.糞塊の貯留を原因として虫垂起始部が先進部となった虫垂重積症はきわめて稀であると考えられたため,文献的考察を加えて報告する.
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