日本大腸肛門病学会雑誌
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69 巻, 2 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
理事長就任挨拶
原著
  • 藤解 邦生, 松尾 恵五, 新井 健広, 北山 大祐, 岡田 滋, 鵜瀞 条, 川西 輝貴, 森 康治, 望月 暁
    2016 年 69 巻 2 号 p. 59-65
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    痔核の脱出症状の時間的進行経過と,発育進展に影響するリスク因子を明らかにする目的で,手術症例計200例を対象にアンケート調査を行った.脱出程度はGoligher分類に準拠して,II度をIIa(脱出したと初めて感じた時期)・IIb(排便時ほとんど毎回脱出すると感じた時期)に細分類し,1年=1cm間隔のVAS(Visual Analog Scale)を用い病期間隔を計測した.II-III,III-IV,IIa-IIb,IIb-IIIの中央値(年)はそれぞれ5,1,3,0.2で,全期間とも7割以上が10年未満であった.患者因子別(性別,便の硬度,機能性便秘の有無,便秘スコア,食物繊維摂取の多寡,職業,痔核肉眼形態)に脱出症状の病期間隔を検討した結果,進行を速める因子は便秘スコア7点以上であり,II-IIIとIIa-IIb期間で有意に病期間隔が短かった(P=0.04).便秘スコア高値は痔核進行を速める可能性が示唆された.
臨床研究
  • 藤井 渉, 角田 明良, 高橋 知子
    2016 年 69 巻 2 号 p. 66-74
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    【目的】直腸瘤に対するtransanal anterior Delorme(TAD)法の治療経験を報告する.
    【方法】排便困難を主症状とし,排便造影で直腸瘤と診断された症例を対象としてTAD法を行い,術後の臨床症状,肛門内圧,直腸容量を評価した.便秘と便失禁の数値化には Constipation Scoring System(CSS)とFecal Incontinence Severity Index(FISI)を用いた.また術後半年で排便造影を行い術前と比較した.
    【結果】対象患者11例はすべて女性で,手術により排便造影で有意な直腸瘤の縮小がみられ,臨床症状の改善がみられた.CSSは術後有意に改善し,FISIは一過性に悪化したが半年以後で改善した.肛門内圧と直腸容量は術前後で有意の差がなかった.
    【結論】TAD法は直腸瘤に対する有用な経会陰的手術の1つと思われる.
  • 三浦 康誠, 白畑 敦, 松本 匡史, 石田 康男
    2016 年 69 巻 2 号 p. 75-80
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸悪性狭窄によるイレウスに対して,従来Hartmann手術や人工肛門造設術などの緊急手術が行われることが多かった.近年,経肛門イレウス管留置や大腸ステントが導入され,治療戦略が変わりつつある.今回われわれは大腸癌イレウスおよび他臓器癌の播種による大腸狭窄に対して緩和療法として8例の大腸ステント留置症例を経験した.処置中の偶発症はなく,留置後に合併症として閉塞2例と穿孔1例,経口摂取不能例1例を認めた.その他は生存期間中に特記すべき異常を認めなかった.術前一時的留置(Bridge to Surgery-BTS)に関しては否定的な報告も散見されるなか,緩和目的の大腸ステント留置は安全性も高く,人工肛門造設を含む姑息的な手術を回避でき,患者のQOLの向上が期待される有用な治療法であると思われた.
  • 加川 隆三郎, 荒木 吉朗, 友井 正弘
    2016 年 69 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    [目的]骨盤直腸窩痔瘻の形成の経路をMRI所見から明らかにすること.[対象と方法]7年間に当院で,ジャックナイフ位MRIを撮影後,痔瘻根治手術を施行した骨盤直腸窩痔瘻39例について検討した.[結果]骨盤直腸窩痔瘻の進展様式は7パターンであったが,「肛門挙筋穿破型」10例と「筋間上行型」29例の2つに大別することができた.肛門挙筋穿破型は再手術例が多く,ほとんどは深外肛門括約筋内に原発巣膿瘍を認めた.筋間上行型は原発口から細い瘻管が内外肛門括約筋間を上行,原発巣膿瘍を認めないものもあった.直腸瘻は筋間上行型のみに認めた.[考察]筋間上行型が骨盤直腸窩痔瘻の本態であり,肛門挙筋穿破型は坐骨直腸窩痔瘻の上方進展と考えられた.この2つはまったく異なった病態である.[結論]骨盤直腸窩痔瘻は,その形成様式から「肛門挙筋穿破型」と「筋間上行型」に分類し,それに基づいた手術を施行する必要がある.
  • 内田 正昭, 山本 佳生, 佐藤 崇
    2016 年 69 巻 2 号 p. 90-95
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    (背景)内痔核ALTA療法後の再発に対する再ALTA療法の治療成績の報告は少ない.
    (対象と方法)再ALTA療法を希望した50例を対象とし有害事象,治療成績を初回の結果と比較検討した.また初回から改善した痔核の有無,再発までの期間の層別分析を行った.
    (結果)有害事象は初回と再ALTA療法で差はなかった.初回時の再発中央値は231日で,再ALTA療法後の160日と差はなく(p=0.87),改善痔核有無別再発率にも差はなかった.層別分析にて再ALTA療法は初回からの再発期間が早期であるほど根治性に若干の上乗せ効果はあったがやはり早期に再発し,晩期再発例では上乗せ効果はなく初回とほぼ同等の根治性であった.
    (結論)再ALTA療法は初回と同様に安全に施行できるが,根治性には限界があった.姑息的には再ALTA療法は適応となりうるが,治療効果は十分に説明する必要があると思われた.
症例報告
  • 吉田 亮介, 脇 直久, 山下 和城
    2016 年 69 巻 2 号 p. 96-100
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    69歳,男性.受診の7ヵ月前に肺多形癌(T1bN0M0; stage IA)に対して右上葉切除術を施行し経過観察中であった.今回1ヵ月程出現と消失を繰り返す右下腹部痛を主訴に受診した.造影CT検査で膿瘍形成を伴う虫垂炎あるいは回盲部の腫瘍性病変との診断で,回盲部切除術とD2リンパ節郭清術を施行し,病理組織学的検査において肺多形癌の虫垂転移と診断した.術後5ヵ月現在新たな再発を認めず経過観察中である.肺多形癌の虫垂転移は極めて稀であり,検索し得た範囲で本邦において自験例が2例目であった.低分化型肺癌の既往を有する虫垂炎症例の治療にあたっては,頻度は低いものの転移性虫垂腫瘍の可能性を念頭に置いて手術や病理組織学的検索に臨むことが予後の改善に寄与する可能性があるものと考えられた.
  • 上田 和毅, 川村 純一郎, 杉浦 史哲, 大東 弘治, 所 忠男, 吉岡 康多, 肥田 仁一, 奥野 清隆
    2016 年 69 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は66歳女性.直腸S状部(RS)癌に対し腹腔鏡下直腸高位前方切除術(DST再建,R0,根治度A).術後病理診断でpStage IIであった.外来経過観察中血便を認め,直腸診で吻合部に腫瘤を触知,精査にて吻合部再発(tub2),側方リンパ節(LLNs)再発を認めた.局所および全身制御を目的として,術前mFOLFOX6を6コース施行し,内視鏡検査にて腫瘍の著明な縮小を確認,CT・MRI検査でもLLNsの縮小を認めた.初回手術後16ヵ月で直腸低位前方切除術(DST再建),LLNs郭清を施行した.切除標本の病理診断で組織学的効果判定はgrade3であり,LLNsも陰性でpCRであった.術後mFOLFOXを6コース施行し,現在再発巣切除術後3年無再発生存中である.局所制御に化学療法のみでもpCRがえられ,術後吻合部再発に対する治療として有用な選択肢になりうる可能性がある.
  • 北川 祐資, 村田 祐二郎, 田村 徳康, 及川 芳徳, 梅谷 直亨
    2016 年 69 巻 2 号 p. 108-114
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は67歳男性.半年前からの血便を主訴に近医受診,近医にて施行した内視鏡検査にて全大腸炎型潰瘍性大腸炎と診断され入院となった.5-ASA製剤とステロイドにて初期治療を開始し,血球成分除去療法も行ったが反応乏しく腹腔鏡補助下大腸亜全摘・回腸人工肛門造設術を施行した.全結腸に渡り好中球の粘膜浸潤を伴う潰瘍性病変を認め,炎症は回腸末端にまで及んでいた.術後,人工肛門からの出血が持続したため内視鏡検査を施行したところ,回腸多発潰瘍と粘膜出血を認め止血が困難であったため人工肛門再造設術を施行した.潰瘍性大腸炎の病変は一般的に大腸に限局するが,炎症が回盲弁を超えて波及するbackwash ileitisを認めることがある.手術前に内視鏡的に回盲部まで観察しその診断をすることは困難である.今回,backwash ileitisにより術後も出血が持続し治療に難渋した1例を経験したので報告する.
  • 福岡 伴樹
    2016 年 69 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸憩室炎は頻繁に遭遇する疾患であり,周囲への穿通や瘻孔を生じた報告も散見される.しかし,これまで本邦では病変部の口側で人工肛門を造設した後に長期経過を経て多発瘻孔を形成した報告はみられない.症例は64歳女性.S状結腸閉塞に対して横行結腸人工肛門を造設,2期的に病変部の切除を試みたが周囲への癒着が強く断念した.その後の精査では腫瘍性病変を認めなかった.約1年後の注腸造影でS状結腸-回腸瘻を認めたが自覚症状なく経過観察とした.さらに約2年6ヵ月後に微熱と左鼡径部痛を訴え,腹部CTで左腸腰筋から股関節に及ぶ膿瘍を認めた.経皮的ドレナージの上で精査を行ったところ,S状結腸回腸瘻のほかにS状結腸から後腹膜への穿通も生じ膿瘍を形成していた.慢性炎症性疾患による多発瘻孔と診断し,S状結腸切除術,回腸部分切除術を行った.切除組織の病理組織学検査でS状結腸憩室の慢性炎症による穿孔と診断した.
  • 大城 望史, 平田 雄三, 岡本 有三, 吉岡 伸吉郎, 中山 宏文, 中川 健二
    2016 年 69 巻 2 号 p. 121-126
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/01/22
    ジャーナル フリー
    卵巣癌術後に直腸転移をきたしたまれな症例を経験したので報告する.
    症例は56歳女性,2年2ヵ月前に卵巣癌に対して子宮両側付属器切除術,骨盤内側方リンパ節郭清,大動脈周囲リンパ節郭清,広範囲大網切除術を施行した.術後補助化学療法を行った後は,再発転移を認めなかった.1ヵ月前より便通異常と血便が出現した.CT検査にて下部直腸に壁肥厚と内腔の狭細化,および肝S7に径26mmの環状濃染を伴う占拠性病変を認めた.大腸内視鏡検査では,直腸Rbの腫瘍性病変により内腔ほぼ閉塞しており,生検にて腺癌と診断された.手術目的で当科紹介となり,下部進行直腸癌とその肝転移の診断の下,開腹手術を行った.直腸の腫瘍はS状結腸に浸潤しており,超低位前方切除術,回腸ストーマ造設術を行った.最終病理診断は卵巣癌の直腸転移であり,直腸周囲組織および腹膜を介してS状結腸に浸潤していた.また,リンパ節30個中10個に転移を認めた.
Travelling Fellowship レポート
編集後記
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