日本大腸肛門病学会雑誌
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71 巻, 2 号
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原著
  • 山本 徹, 百留 亮治, 田島 義証
    2018 年 71 巻 2 号 p. 63-69
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:大腸癌患者のクロストリジウム・ディフィシル(CD)保菌の把握とCD感染(CDI),術後合併症への影響を検討した.対象・方法:2014 - 16年の大腸癌手術症例185例を対象に,術後CDIとリスク因子,CD関連下痢(CDAD),縫合不全との関連を検討した.結果:平均年齢70.7歳,70.8%が65歳以上の高齢者であった.CDIリスク因子において25.4%が複数因子を有しておりCD保菌率が高かった(p=0.031).術後重症下痢は26例(14.1%),CDADは8例(4.3%)にみられた.縫合不全は7例(3.8%)で,重症下痢の15.4%,CDADの25.0%に認められた(P=0.001).結論:大腸癌術後のCDADや重症下痢は縫合不全の誘因となる.CDIリスク因子評価はCD保菌の予測に有用で,保菌者に対する治療や院内感染対策により術後合併症を低減できると考えられた.
  • 味村 俊樹, 角田 明良, 仙石 淳, 勝野 秀稔, 高尾 良彦, 木元 康介, 山名 哲郎, 高橋 知子, 乃美 昌司, 前田 耕太郎
    2018 年 71 巻 2 号 p. 70-85
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    目的:難治性排便障害に対する経肛門的洗腸療法(transanal irrigation,TAI)の有効性と安全性の評価.
    方法:難治性排便障害をTAIで10週間治療.主な評価項目はVASによる現在の排便管理に対する満足度と研究終了後もTAI継続を希望する患者(成功者)の割合(成功率).
    結果:32例にTAIを施行し,年齢中央値55.5歳,男性19例.25例(78%)が10週間のTAIを完遂し,成功者(成功率)は23例(72%).成功者での満足度(VAS)は,治療前後で中央値2.2から7.5と有意に改善.3例(9.4%)で大腸穿孔が発生し,1例は保存的に治癒し,2例はストーマ造設術を要した.
    結語:TAIは,基礎疾患によって異なるものの全体として難治性排便障害患者の72%に有効であるが,9%で大腸穿孔が発生するため,患者が適切かつ安全にTAIを施行出来るよう十分な情報提供と指導を行うべきである.
症例報告
  • 高見 友也, 山口 智之, 畑野 光太郎, 冨田 雅史
    2018 年 71 巻 2 号 p. 86-90
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    経肛門的直腸異物は,性的嗜好などが原因で肛門より異物を挿入し抜去困難となったものである.当院では2008年4月~2017年3月までに8例を経験した.平均年齢は42.6歳(12~64歳),すべて男性であった.異物の種類は,ペンライト1例,性的玩具2例,プラスチックの筒3例,スプレー缶1例,綿棒1例であった.摘出方法は,経肛門的摘出が5例,内視鏡的摘出が2例,自然排泄が1例であった.摘出時の麻酔法は,無麻酔が4例,腰椎麻酔が2例,全身麻酔が1例であった.合併症は粘膜の裂傷が2例で認められたが,両者とも保存的に経過観察が可能であった.
    今回われわれが当院で経験した8例に加えて,本邦での報告例について検討を行った.
  • 笠井 章次, 唐崎 秀則, 前本 篤男, 古川 滋, 伊藤 貴博, 河野 透
    2018 年 71 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    急性感染性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans:AIPF)は感染に惹起され急速に進行拡大する末梢の紫斑,皮膚壊死を特徴とする疾患である.死亡率は30%以上と高率で,救命し得た例でも最終的に四肢切断を要することが多い重篤な病態である.われわれはクローン病腸管切除手術後の重篤な麻痺性イレウス治療中にCitrobacter freundii菌血症からAIPFを発症したが,複数科の協力による集中治療で救命し得た40歳代女性の1例を経験したので報告する.クローン病患者は易感染状態であり,また血栓性イベントの高リスク状態でもあることから,AIPFを発症しやすい条件下にあるといえる.現時点で自験例以外にAIPFを合併した症例の報告はないが,クローン病の管理において知悉すべき病態であり,その治療においては複数科との協力の下,集学的に行うことが重要であると考えられた.
  • 堀 武治, 天道 正成, 増田 剛, 寺村 一裕, 石川 哲郎
    2018 年 71 巻 2 号 p. 97-103
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    乳癌の大腸転移はまれであるが,今回われわれは大腸転移をきたし,2度の腹腔鏡補助下大腸切除術を施行した乳癌の1例を経験したので報告する.症例は66歳,女性.主訴は腹痛.9年前,左乳癌に対して乳房部分切除術施行.術後9年の大腸内視鏡検査にて,横行結腸に全周性狭窄を認めた.大腸癌疑いにて腹腔鏡補助下結腸左半切除術を施行した.切除標本の病理検査から乳癌大腸転移と診断された.術後16ヵ月の経過観察の大腸内視鏡検査にて,再度直腸に全周性狭窄を認めた.乳癌大腸転移が疑われ,狭窄解除の目的で,腹腔鏡下直腸切除術+回腸人工肛門造設術施行した.病理組織検査にて乳癌大腸転移と診断された.乳癌患者においては,消化管転移の可能性を考える必要があると考えられた.
  • 真船 太一, 國場 幸均, 小倉 佑太, 岸 龍一, 大島 隆一, 堀越 邦康, 大坪 毅人
    2018 年 71 巻 2 号 p. 104-109
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    魚骨による消化管穿孔は本邦の異物穿孔の中で最多で,下部消化管穿孔の場合,手術となることが多い.今回われわれは内視鏡治療を併用し保存的に治療した魚骨によるS状結腸穿孔を経験したので報告する.症例は85歳,女性.主訴は腹痛.既往の重症筋無力症でステロイドを長期間内服していた.CT上腸管壁を貫く異物とfree airを認め,魚骨によるS状結腸穿孔と診断.腹膜刺激症状や腹水,free airが限局し,また既往より手術リスクが大きいと判断し,絶飲食とし抗生剤投与を行った.症状と炎症反応は改善したが,CTで魚骨は残存し入院32日目に内視鏡で除去した.処置後再増悪なく39日目に退院した.魚骨による腸管穿孔を内視鏡治療併用で保存的に治療する場合,穿孔の影響が限局化していることが条件だが,自験例より穿孔腸管と周囲とが十分癒着していたことが内視鏡治療の成功の要因と考えられ,時間的な要素が加わる可能性が示唆された.
  • 川合 重夫, 伊藤 秀明
    2018 年 71 巻 2 号 p. 110-114
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    症例は72歳.男性.2014年5月に下部直腸癌と診断し,術前化学放射線療法後,同年7月に超低位前方切除術およびループ式横行結腸人工肛門造設術を施行した.術後補助化学療法の後,2015年3月に人工肛門閉鎖術を施行し,特に問題なく経過していた.2016年1月に肝転移をきたし,同年2月よりbevacizumabを含む化学療法を開始した.手術より2年8ヵ月経た2017年3月の定期的な受診の際に肛門からの頻回の粘液排出を訴えた.経肛門的な触診にて肛門管の口側に吻合腸管を触知し得なかった.CT検査,下部消化管内視鏡検査を施行し吻合部の離開を確診した.単孔式横行結腸人工肛門造設術を施行し対処した.
    稀ではあるが,bevacizumabなどの血管新生阻害剤投与に伴い,手術より数ヵ月あるいは数年を経て問題なく経過していた腸管吻合部が遅発性に離開する可能性もあることを念頭に置く必要がある.
  • 浅原 史卓
    2018 年 71 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/01/29
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,男性.以前より完全内臓逆位を指摘されており,肝膿瘍治療後の診断で当院消化器内科にて外来経過観察中であった.2016年7月に下部消化管内視鏡検査を施行した結果,S状結腸に径25mm大の1型腫瘍が存在し,cT2の所見であった.画像検査上リンパ節転移および遠隔転移は認めず,腹腔鏡下切除の適応と判断した.手術時間は3時間32分と通常のS状結腸癌と比較して時間を要したが,出血量は少量のみであった.術後は合併症なく順調に経過したため術後7病日に軽快退院となった.病理組織学的検査で腫瘍は高分化型腺癌,pT2, pN0, cM0, pStage Iであった.完全内臓逆位症に対する腹腔鏡下手術は,解剖学的位置が左右鏡面像となる点を十分に認識し,3D-CTにて血管奇形の有無やvariation,消化管の位置・支配血管を事前に把握することで,特殊な技術を必要とせずに安全に施行できる術式と考えた.
第197回大腸肛門病懇談会
編集後記
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