日本大腸肛門病学会雑誌
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72 巻, 10 号
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主題I:大腸外科領域における鏡視下手術の最前線(ロボットを含む)
  • 桑原 隆一, 池内 浩基, 皆川 知洋, 堀尾 勇規, 後藤 佳子, 佐々木 寛文, 坂東 俊宏, 内野 基
    2019 年 72 巻 10 号 p. 541-549
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    潰瘍性大腸炎(以下UC)とクローン病(以下CD)などの炎症性腸疾患(以下IBD)に対する腹腔鏡手術は,大腸癌に対する腹腔鏡手術手技の発達を背景に近年増加傾向である.UCに対する腹腔鏡手術は大腸全摘という広範囲の手術に加えて,回腸嚢の作成と肛門吻合などのIBD特有の手術手技もあり難易度が高く,手術時間の延長が大きな問題である.今後は手技の定型化と,その適応や安全性の評価が必要である.CDに対する腹腔鏡手術に関しては内視鏡外科学会のガイドラインで,非穿孔型の回盲部限局性病変に対する初回手術が良い適応であると記載されている.瘻孔,膿瘍形成症例や,再手術症例での適応や安全性の検討が今後の課題である.IBDに対する腹腔鏡手術は慎重に症例を選択すれば非常に有用な手術手技といえる.

  • 伊藤 雅昭, 長谷川 寛, 佐々木 剛志, 西澤 祐吏, 塚田 祐一郎, 池田 公治
    2019 年 72 巻 10 号 p. 550-558
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    内視鏡手術は大腸がん外科領域に確実に浸透しているが,直腸がんに対する内視鏡手術は今なお難易度が高く,根治性への一定懸念が示唆されている.近年ではこのような手技的課題解決を目指し,ロボット手術とともにTrans anal Total Mesorectal Excision(TaTME)が注目されるようになり,世界的に認知されている.

    TaTMEは腫瘍学的側面と機能温存の両面において,従来の直腸がん手術を凌駕する可能性がある.特に剥離層の選択を肛門からの近接視野で施行できる点において大きなメリットがある.現在,欧米では腹腔鏡下TMEとTaTMEのランダム化比較試験(COLOR III試験,GRECCAR 11試験)が計画されており,TaTMEの有用性が検証されることが期待されている.しかしながら,特徴的な解剖学的認識やラーニングカーブが課題として挙げられ,安全に施行するための教育システムの整備が急務である.

  • 木村 慶, 池田 正孝, 宋 智亨, 濱中 美千子, 馬場谷 彰仁, 片岡 幸三, 別府 直仁, 山野 智基, 内野 基, 池内 浩基, 冨 ...
    2019 年 72 巻 10 号 p. 559-566
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    近年,大腸癌に対する腹腔鏡手術の適応は拡大され,2017年4月から2019年6月までに進行・再発直腸癌に対する腹鏡補助下拡大手術を15症例経験した.初発/再発5/10例で,術式は骨盤内臓全摘:5例,仙骨合併切除:9例,恥・坐骨合併切除:1例施行した.1)切除マージンを綿密に計画した画像評価,2)術前化学放射線療法の施行,3)腹腔鏡手術による拡大視効果による局所解剖の認識,4)適切なデバイスの使用がR0切除のポイントと考えている.当院の治療成績は,手術時間中央値979(691-1,277)分,出血量中央値400(80-4,350)ml,開腹移行はなかった.93.3%にR0切除が行われた.Clavien-Dindo分類Grade3以上の合併症は33.3%に認め,術後在院日数中央値は45(21-99)日であった.さらなる手術手技の向上に伴い拡大手術に対する腹腔鏡手術は有用な選択肢の一つになりうる.

  • 松山 貴俊, 絹笠 祐介, 徳永 正則, 中島 康晃
    2019 年 72 巻 10 号 p. 567-574
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    ロボット支援下手術は,多関節を有する手術器具,手ぶれ防止機構やmotion scalingによる精緻な動作によって,従来の腹腔鏡手術での操作困難性などの短所を補うことができ,特に直腸癌手術のような,狭い骨盤腔内で精密な手術操作を行うことに適している.本邦では2009年にintuitive社のda Vinci Surgical Systemが薬事承認,2018年4月からはロボット支援下腹腔鏡下直腸切除・切断術が保険収載され,ロボット支援下直腸手術の件数は増加している.現在のところ開腹手術,腹腔鏡手術に対する優越性に関する強いエビデンスはないが,技術的難易度が高い症例での有用性が示唆されている.現在いくつかの企業で,新技術を搭載した新型手術支援ロボットが開発されており,今後手術システムの改良による治療成績の向上や,企業間の競合によるロボットや周辺機器の低価格化が期待される.

  • 大木 岳志, 井上 雄志, 小川 真平, 板橋 道朗, 山本 雅一
    2019 年 72 巻 10 号 p. 575-582
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    2018年4月より本邦でロボット支援下直腸癌手術が保険適応となり,症例数が増えつつある.ロボット支援下手術を開始するには,日本内視鏡外科学会(JSES)の「ロボット支援下内視鏡手術導入に関する指針のガイドライン」に準拠し,術者基準と施設基準を満たす必要がある.術者は日本内視鏡外科学会技術認定取得医で,ロボット支援下内視鏡手術のcertificationを取得していること,施設認定を得るためには10例のロボット支援下直腸癌手術の経験を有する常勤医がいることである.当院では安全にロボット支援下直腸癌手術を導入するためにプロクターを招聘し2017年2月より開始した.本稿では当院でのロボット支援下直腸癌手術の導入の経験を提示し,今後導入される施設の参考になれば幸いである.

主題II:慢性便秘症の診療
  • 味村 俊樹, 本間 祐子, 堀江 久永
    2019 年 72 巻 10 号 p. 583-599
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    2017年に本邦初の慢性便秘症診療ガイドラインが発行され,その中で「便秘」は,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義された.また便秘症は,症状によって排便回数減少型と排便困難型に,病態によって大腸通過遅延型,大腸通過正常型,便排出障害に分類された.慢性便秘症の病態は多数あるので,正しい診断に基づいて適切に治療する必要がある.初期診療では,症状と身体診察で排便回数減少型と排便困難型を鑑別した上で,食事・生活・排便習慣指導や慢性便秘症治療薬で治療する.それで症状が改善しなければ,専門施設で大腸通過時間検査や排便造影検査にて病態を診断するが,その際には,真の便秘ではない機能性腹痛症,機能性腹部膨満症,排便強迫神経症を鑑別することが重要である.専門的治療にはバイオフィードバック療法,直腸瘤修復術,ventral rectopexy,結腸全摘・回腸直腸吻合術などがある.

  • 安部 達也, 鉢呂 芳一, 小原 啓, 稲垣 光裕, 菱山 豊平, 國本 正雄, 村上 雅則
    2019 年 72 巻 10 号 p. 600-608
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    新規下剤には排便回数の増加のみならず,腹痛や腹部膨満感,排便困難といった便秘の諸症状に対する効果も期待される.急性便秘とは異なり,慢性便秘の場合は長期間使用しても耐性や依存性,偽メラノーシスが生じないことも求められる.2012年に処方箋医薬品としては実に30年振りとなるルビプロストンが発売され,2019年のラクツロース経口ゼリーまで合計6種の新規下剤が登場した.慢性便秘症診療ガイドライン2017において最も推奨されている下剤は,浸透圧性下剤と上皮機能変容薬の2種類であり,新規下剤6剤のうち4剤がその2種類に含まれている.前治療がない場合は一般的には浸透圧性下剤が第一選択薬となり,効果がない場合は上皮機能変容薬やエロビキシバットへの変更を検討する.新薬同士の選択は,便秘の病態や重症度,予測される副作用を考慮して行うが,個々の患者との相性は実際に投与してみないと分からないこともある.

  • 尾﨑 隼人, 城代 康貴, 鎌野 俊彰, 舩坂 好平, 長坂 光夫, 中川 義仁, 柴田 知行, 大宮 直木
    2019 年 72 巻 10 号 p. 609-614
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    便秘症は日常診療でありふれた症状であり,本邦における有病率も高い疾患である.慢性便秘症は以前より腸機能の観点からその機序や治療法が研究されてきた.近年の次世代シーケンサーの登場とその精度向上により,腸内細菌叢の網羅的な解析が可能となり,様々な病気と腸内細菌のかかわりが明らかとなった.慢性便秘症も腸内細菌とその代謝産物が原因の1つとして明らかになりつつあり,その臨床応用が試みられている.慢性便秘症患者の腸内細菌叢の乱れを是正する方法として,プロバイオティクスやプレバイオティクスの有用性が指摘されている.最近ではより豊富な腸内細菌を投与できる糞便移植の臨床応用が試みられている.

  • 河野 透
    2019 年 72 巻 10 号 p. 615-620
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    日本の伝統薬である漢方薬が,慢性便秘症に対する治療戦略の中にどのように組み込まれるべきなのか,慢性便秘症の病態から3つのサブグループ(大腸通過遅延型,大腸通過正常型,便排出障害型)に分類されており,それぞれに適応できる可能性が高い漢方薬の中で,基礎的エビデンス,臨床的エビデンスの観点から選択した.大腸通過遅延型には大建中湯,大腸通過正常型には麻子仁丸(マシニンガン),大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ),潤腸湯(ジュンチョウトウ),便排出障害型には大建中湯を取り上げ,西洋薬学的薬理作用とエビデンスを中心として概説した.

  • 高野 正太
    2019 年 72 巻 10 号 p. 621-627
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    慢性便秘を治療する際は大腸通過時間や便排出能力を念頭に置かなければならない.食事療法,運動療法は慢性便秘全般に対する共通の治療となるが主に大腸通過時間遅延型,大腸通過正常型への治療となる.一方理学療法は便排出困難型の便秘症に対して有効である.食事療法としては食物繊維を始め,乳酸菌食品や発酵食品の摂取が推奨される.運動療法として有酸素運動が便秘の改善に関係するといわれる.便排出障害に対しては排便姿勢指導やバイオフィードバック療法,体幹筋トレーニングが効果があるとされる.特にバルーン法や筋電図,内圧計を用いたバイオフィードバック療法は多くの論文が認められ施行することが推奨される.

  • 角田 明良, 高橋 知子
    2019 年 72 巻 10 号 p. 628-634
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/15
    ジャーナル フリー

    慢性便秘症に対する外科治療の対象は,器質性便排出障害と大腸通過遅延型便秘である.前者のうち頻度の高い解剖異常は直腸重積と直腸瘤である.手術は主に3つのアプローチがあり(経肛門,経膣,経腹),解剖異常の評価を基にして性機能,肛門機能,便失禁の有無などによって,個々の患者に即した術式を選択する.経腹的手術のうち,laparoscopic ventral rectopexyは直腸重積と直腸瘤の併存,または小腸瘤の併存を同時に修復が可能で,有効かつ安全な手術である.大腸通過遅延型便秘に対する手術として,結腸全摘・回腸直腸吻合が多く行われているが,重篤な術後合併症の危険があるので適応を厳密にする必要がある.順行性洗腸法は大腸切除術や人工肛門などを回避する術式で,重篤な術後合併症は少ないが,エビデンスレベルが低い.慢性便秘症に対する外科治療は,その適応,術式の選択,成績について科学的根拠が十分とはいえない.本邦からの良質な論文が期待される.

編集後記
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