日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
Print ISSN : 0047-1801
ISSN-L : 0047-1801
73 巻, 4 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • 水本 明良, 高尾 信行, 一瀬 真澄, 基 俊介, 野口 耕右, 平野 正満, 米村 豊
    2020 年 73 巻 4 号 p. 143-150
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    大腸癌腹膜播種に対するcytoreductive surgery(CRS)と温熱化学療法の手術成績を,peritoneal cancer index(PCI)と本邦P分類から検討した.CRS後の5年全生存率(5生)は36%で,66%の症例で肉眼的完全切除(completeness of cytoreduction(CC)-0)が行われた.P1とP2症例のCRS後の5生は59%,P3症例では24%であった.P3でも51%の症例がCC-0の手術で,その5生は40%であった.P3症例をPCI0-9,10-19,20-29,30-39でみると,CC-0は92%,67%,20%と0%で,3生は53%,36%,17%,0%であった.大腸癌腹膜播種はP3症例であってもCRSと温熱化学療法により長期生存が得られる症例が存在する.PCIによる腹膜播種の定量化とCC-0が期待される症例の選択が重要である.

臨床研究
  • 久留宮 康浩, 菅原 元, 加藤 健宏
    2020 年 73 巻 4 号 p. 151-156
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    【背景】近年,切除不能進行大腸癌において右側大腸癌は左側大腸癌より予後不良であることが知られている.しかし大腸癌肝転移切除症例において,原発巣の部位(右側左側)が肝切除後の生存期間に与える影響を検討した報告は少ない.【患者と方法】2013~2018年の期間に当科で肝転移の切除を施行した大腸癌61例を対象に,原発巣別に右側群(盲腸~横行結腸脾弯曲)と左側群(下行結腸~直腸)に分け,臨床病理学的に両群間で比較検討した.【結果】右側群13例,左側群48例の間で,臨床病理学的背景では差を認めなかった.5年全生存率は,右側群50.1% vs. 左側群32.5%(p=0.66)で,両群間に有意差を認めなかった.【結論】大腸癌肝転移切除症例において,右側群で原発,肝転移とも病状が進行した症例が多かったが,生存率において有意差はなく,右側大腸癌の肝転移症例においても積極的な切除が支持され得ると考えた.

症例報告
  • 松本 朝子, 荒木 靖三, 野明 俊裕, 小篠 洋之, 的野 敬子, 石見 雅人, 石見 拓人, 鹿毛 政義
    2020 年 73 巻 4 号 p. 157-162
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    巨大結腸症は大腸の機械的な閉塞を伴わないにもかかわらず,大腸が病的に拡張している状態を指す.X線不透過マーカーによる大腸通過時間検査が結腸切除範囲決定に有用であった特発性慢性巨大結腸症の1例を経験したので報告する.

    症例は67歳,男性.既往歴に糖尿病,精神疾患などあり.嘔吐,左下腹部痛で近医受診し,横隔膜を圧排する巨大なS状結腸と便貯留を指摘され当院紹介入院となった.保存的加療に加え,大腸通過時間検査を含む排便機能検査と消化管検査を施行し,待機手術の方針であったが,摘便後に敗血症性ショックを呈し,予定術式のHartmann手術を施行した.術後は下剤不要で経過良好である.

    大腸通過時間検査を施行することで小腸機能障害の有無が判断でき,マーカーの分布により切除すべき腸管範囲が決定できると考える.

  • 八木 寛, 小林 孝, 渡邊 隆興, 田中 花菜
    2020 年 73 巻 4 号 p. 163-167
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳男性,痔瘻を合併する慢性臀部膿皮症として当科で膿皮切除,瘻管切開術,シートン術を施行し,治癒となった.治癒後10年目に臀部の瘻孔からの排膿を主訴に外来を受診した.CT・MRIで会陰・仙骨前面にガス像を伴う皮下膿瘍を認め,急速に増悪する臀部痛を認めたことからFournier症候群と診断し,緊急手術を施行した.術後所見では痔瘻の再発・新規病変は認められなかった.慢性臀部膿皮症は毛孔閉塞に起因する感染を反復することによって生じる慢性皮膚障害であり,病変の主座は皮下であることが多い1).一方Fournier症候群は痔瘻・痔核などの肛門疾患を背景として発生する会陰,肛門周囲を中心とした劇症型の壊死性筋膜炎として知られている2).本症例は皮下病変が中心である慢性臀部膿皮症が治癒後長期間を経て再燃し,壊死性筋膜炎であるFournier症候群へ移行した稀な1例と考えられた.

  • 新田 敏勝, 片岡 淳, 太田 将仁, 藤井 研介, 石井 正嗣, 米田 浩二, 竹下 篤, 石橋 孝嗣
    2020 年 73 巻 4 号 p. 168-172
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳の男性.直腸癌術後の術後フォローアップの経過観察のために,腹部造影CT検査を施行したところ,右下腹部の腹膜に不整形結節を指摘され,精査としてFDG-PET検査を追加したところ,虫垂の腫大と軽度の集積(SUV3.57)を認めた.

    以上より虫垂腫瘍の診断にて虫垂切除術を施行する方針とし,虫垂開口部を含めて盲腸を部分切除した.病理組織学的所見では tubulovillous adenomaで悪性所見はなく,術後6日目に軽快退院となった.

    虫垂腺腫は,稀な疾患であり,その診断も難しいが,FDG-PET検査で指摘されたのは,本例が初である.また悪性化の可能性が高く完全切除が重要であるといわれ,臨床上も忘れてはならない疾患である.

  • 操 佑樹, 市川 賢吾, 太和田 昌宏, 久米 真
    2020 年 73 巻 4 号 p. 173-179
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    ポリスチレンスルホン酸カルシウム(calcium polystyrene sulfonate:以下CPS)は腎不全患者の高カリウム血症に対して使用される陽イオン交換樹脂製剤であり,硬便を形成し便秘の原因となる.また,重篤な副作用として腸管穿孔の報告がある.今回,CPS服用中の慢性腎不全患者に発症したS状結腸穿孔の2例を経験した.症例1は血液透析中の88歳,女性.S状結腸に穿孔を認め腸間膜内に便塊が貯留していた.症例2は慢性腎不全で透析導入前の73歳,女性.S状結腸に潰瘍性病変を認め腸間膜に穿通していた.いずれも手術を施行し,病理所見にて穿孔部にCPS結晶を認めた.慢性腎不全患者は,尿毒症や動脈硬化による血流障害により腸管壁は脆弱傾向にあり,腸管内圧の上昇により腸管穿孔するリスクが高い.特にCPS服用症例は,服用期間に関係なく発症することがあり,開始時からの適切な排便管理が予防上重要である.

  • 石丸 和英, 富永 哲郎, 野中 隆, 久永 真, 福田 明子, 佐野 寿郎, 永安 武
    2020 年 73 巻 4 号 p. 180-184
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    全神経鞘腫のうち,後腹膜発生は0.7%とまれである.臨床症状に乏しく,巨大腫瘍として発見され手術操作に難渋することが多い.今回,第4仙骨神経より発生した巨大後腹膜神経鞘腫に対し経仙骨・経腹アプローチを併用し安全に切除し得た症例を経験した.症例は43歳,男性.腹痛精査のCTで巨大骨盤内腫瘤を指摘.骨盤MRIは,T2強調像で辺縁高信号,中央低信号の腫瘍で,基部はS4/5の左側椎間孔と連続しており,仙骨神経発生の神経鞘腫を疑い手術を施行した.まず,経仙骨アプローチで椎弓を切除し,S4から発生した腫瘍根部を切離.尾側より仙骨と腫瘍背側を十分に剥離した.砕石位とし,腫瘍背側で尾側の剥離層と交通し,全周性に剥離を進め被膜を損傷することなく切除した.術後経過は良好で14日目に退院した.病理組織では,HE染色で紡錘形細胞の錯綜上配列を認め,免染ではS-100陽性であり後腹膜神経鞘腫の診断であった.

Travelling Fellowship レポート
編集後記
feedback
Top