目的:大腸癌患者は胆嚢結石(胆石)の保有率が高いが,併存した胆石症に対する治療に関し,一定のコンセンサスはない.大腸切除症例において術後の胆石症に関連した症状の発生頻度とその術後経過について検討した.方法:2012年4月から2018年12月までに大腸切除術を行った590例を対象とした.術前の胆石併存の有無で患者背景を比較した.さらに胆石併存例で大腸手術時に胆嚢摘出術を施行しなかった症例の術後経過について検討した.結果:胆嚢摘出後の37例を除くと,術前のCTで胆石を認めた症例は86例であった.胆石あり群となし群の比較では,年齢以外に差はみられなかった.手術時に同時に胆嚢摘出を行った3例を除いた83例の術後経過で,8例(9.6%)に胆石に関連する症状が出現した.1例は手術,7例は内科的治療で軽快した.結語:大腸切除術後に無症状の胆石による症状が出現する頻度は,一般成人より多い可能性がある.
症例は32歳,女性.血便を主訴に来院し,下部消化管内視鏡検査にてS状結腸に18mmのIsp型腫瘍を認め内視鏡的切除術を施行した.病理組織学的所見は粘膜下層へ浸潤する高分化型腺癌で,腫瘍の一部分にmicropapillary carcinoma(以下MPCと略)成分を認めた.粘膜下層内のリンパ管侵襲が陽性であったためリンパ節郭清を伴う追加腸切除を施行した.摘出標本に所属リンパ節転移を認めた.MPCは悪性度の高い乳癌の一亜型として提唱された概念で,高率に高度のリンパ管侵襲やリンパ節転移を伴い予後不良であるとされる.MPCは大腸においても通常の大腸癌と比較し悪性度の高さが指摘されているが,MPCの診断が容易ではなく,MPCの概念普及が課題と思われる.
症例は82歳男性.主訴は肛門部痛.肛門部皮膚に突出する黒色調の隆起性病変を認めた.下部消化管内視鏡検査で主病変は肛門から連続して肛門管上縁まで続き,下部直腸には主病変とは連続しない多発病変を認めた.腹部CTでは腸管傍リンパ節,左鼠径部リンパ節に腫大を認めた.生検で悪性黒色腫の診断となり,腹腔鏡下直腸切断術を施行した.病理標本では肛門から肛門管に広がる病変とそこから下部直腸の粘膜下層に広がるリンパ管侵襲病変を認め,他3ヵ所の多発病変を認め,腸管傍リンパ節に10個の転移を認めた.術後は局所IFN療法が選択された.術後肺再発をきたしたが術後10ヵ月で永眠するまで局所再発は認めておらず,直腸切断術は局所制御効果があったと考えられた.
症例は73歳,男性.心房細動などで当院外来通院中,抗血栓薬(エドキサバントシル酸塩水和物)を内服している.3日前より続く1日1,2回程度の暗赤色の有形便を主訴に来院し,大腸内視鏡検査を行った.上行結腸内に憩室が散見されたが出血源は同定できなかった.エドキサバントシル酸塩水和物の内服を再開すると大量の血便を認め,緊急大腸内視鏡検査を施行すると虫垂開口部からの多量の湧出性出血を認めた.内視鏡検査直後の腹部造影超音波検査では虫垂憩室から虫垂内腔へ血流を疑うバブルの流出を認め虫垂憩室出血が疑われた.翌日腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.病理所見では憩室内腔に血液成分を認め虫垂憩室出血として矛盾しない結果であった.虫垂憩室出血は稀な疾患であり,消化器内視鏡検査と腹部造影超音波検査で虫垂憩室出血と診断した症例を経験したので報告する.
消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)に対する薬物療法はイマチニブの400mg/日が標準治療であるが,高齢者では有害事象により減量投与を余儀なくされることが少なくない.また,これまで本邦で80歳以上の直腸GISTに対して低用量イマチニブの投与が長期間有効であった報告はない.今回80歳の直腸GISTに対してイマニチブ100mg/日を投与し,62ヵ月が経過した現在も病勢コントロールが良好な症例を経験したため報告する.