日本大腸肛門病学会雑誌
Online ISSN : 1882-9619
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74 巻, 5 号
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総説
  • 田村 和夫, 唐澤 久美子, 山本 寛, 小川 朝生, 海堀 昌樹, 渡邊 清高, 桜井 なおみ, 津端 由佳里, 上田 倫弘
    2021 年 74 巻 5 号 p. 269-275
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    日本のがん診療において,重要な課題の1つは,心身機能の衰えてくる高齢がん患者のマネジメントである.元気な高齢がん患者(フィット)は非高齢者と同等の標準治療を受け,がん特異的な治療成績が得られる.一方,全身状態の悪いフレイル例は,がん治療によるベネフィットを享受できない可能性がありベストサポーティブケアが選択される.したがって,診療指針(GL)が必要なのは,がん治療は可能だが有害事象のため標準治療が困難な脆弱(プレフレイル)な高齢がん患者である.そこで,エビデンスが少なくGL作成が困難であることから,モデルケースとして大腸がんをとりあげ「プレフレイル高齢大腸がん患者のための臨床的提言」を作成する.治療に関係した5つのワーキンググループ(WG)を設置し議論を重ね,本稿では,総論・高齢者機能評価(GA)WGから,提言作成に至った経緯,プレフレイルの定義,作成方法を中心に述べる.

  • 田村 和夫, 唐澤 久美子, 山本 寛, 小川 朝生, 海堀 昌樹, 渡邊 清高, 桜井 なおみ, 津端 由佳里, 上田 倫弘
    2021 年 74 巻 5 号 p. 276-286
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    Part1総論に引き続き,高齢プレフレイル大腸がん患者の診療にあたって次の6課題をあげ,回答・解説を行った.①がん治療の目標は?⇒全生存期間だけでなく健康寿命の延伸が重要である.②医療者がとるべき基本的な姿勢は?⇒患者の意思と価値観を尊重し,医療提供の目標設定の合意形成を行う.③認知障害の疑いがある場合の意思決定能力の把握とその対応は?⇒認知機能評価ツールを利用し,本人の残存能力を最大限活かして本人が意思決定できるように支援する.④平均余命が診療方針を検討するにあたって参考になるか?⇒大腸がんの累積生存期間が推定平均余命より明らかに短い場合は,積極的ながん治療を提案する.⑤治療前後で生活の質(QOL)を評価すべきか?⇒治療前後で評価尺度を用いて評価すべきである.⑥治療前評価に高齢者機能評価は有用か?⇒がん治療による有害事象リスク,死亡リスク,入院期間の延長といった予測が可能であり有用である.

臨床研究
  • 小池 淳一, 古嶋 薫, 佐々木 愼, 佐藤 温, 渡辺 一輝, 牛込 充則, 金子 奉暁, 塩川 洋之, 鏡 哲, 大庭 真梨, 船橋 公 ...
    2021 年 74 巻 5 号 p. 287-295
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    【目的】Capecitabine + Oxaliplatin(CapeOx)療法の重要な有害事象であるhand foot syndrome(HFS)の軽減を目的に医療者による電話サポート介入の有用性を検討した.

    【方法】結腸癌の術後患者に対して,CapeOx療法の導入初期の3コースに5回の医療者側から電話によるサポートを実施.主要評価項目はGrade 3以上のHFS発現率とした.

    【結果】56例の登録のうち,非適格の7例を除く49例で検討した.HFSのGrade 3は1例(2%)のみで,Grade 2以上は計11例(22.4%).皮膚疾患特異的尺度の総合評価でもQOL低下は認められなかった.最終的に33例(67.3%)でCapeOx療法が完遂でき,3年無再発生存率は93.9%であった.

    【結論】医療者による電話サポートは,HFSの発症軽減をはじめCapeOx療法の遂行に向けて期待できるツールと考えられた.

症例報告
  • 工藤 孝迪, 諏訪 宏和, 渡邉 純, 笹本 真覇人, 佐藤 清哉, 大矢 浩貴, 柿添 学, 小澤 真由美, 石部 敦士, 津浦 幸夫
    2021 年 74 巻 5 号 p. 296-302
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    症例は26歳,男性.腹痛が増悪し,嘔気を伴ったため当院受診となった.腹部造影CTでは,虫垂から連続する径35mm大の嚢胞性腫瘍を先進部とする上行結腸重積を認めた.虫垂腫瘍,腸重積と判断し,診断と治療を目的に腹腔鏡補助下に手術を施行した.虫垂先端部は軽度腫大を認め,虫垂根部が上行結腸内に重積をしている所見を認め,腹腔鏡補助下盲腸部分切除術,腸重積症整復術を施行した.病理診断は,低異型度虫垂粘液性腫瘍(LAMN)であった.LAMNは大腸癌取り扱い規約第8版において,新たに分類された.LAMNは明確な治療法は存在せず,さらに術前診断も困難である.腸重積をきたすような場合には後腹膜と回盲部の固定が緩く可動性が良好であり,腹腔鏡の手術手技が比較的容易である.今回,腸重積を合併したLAMNに対して腹腔鏡補助下に手術で切除し大腸の温存をし得た1例を経験したので文献的考察をふまえて報告する.

  • 田中 香織, 土屋 博, 小島 則昭, 間瀬 隆弘
    2021 年 74 巻 5 号 p. 303-307
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    症例は88歳の高度脊柱後弯症(円背)の女性.他院にてS状結腸癌と診断されていたが,前日からの便秘を主訴に当科受診した.CTにてS状結腸近位に腫瘍を認め,口側腸管の拡張を認めた.S状結腸癌による閉塞性大腸炎と診断し,大腸ステント留置後,待機的に手術予定とした.術前診断はT3(SS),N0,M0,StageIIaであった.高度円背のため仰臥位は困難であったため,術前に体位simulationを施行した.通常のマジックベッドでは体位保持困難であったため,整形外科の肩関節鏡視下手術で用いるUltra Shoulder Positionerを使用したところ,無理のない角度で砕石位をとることが可能であった.手術はWorking spaceがなく郭清はD1にとどめたが,術前simulationを施行したため体位変換までがスムーズであり,手術時間の短縮により,術後の腰痛や臀部褥瘡の発生を予防できた.

  • 田村 博史, 大渕 徹, 遠藤 和彦, 宮内 隼弥, 高橋 正人, 下山 雅朗
    2021 年 74 巻 5 号 p. 308-311
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    症例は60歳,女性.cT3(SS)N0M0 cStageIIの直腸癌に対して腹腔鏡補助下低位前方切除術,D3,hemi-DSTを施行した.経過は良好であったが,7病日目に下血を認めた.一旦は禁食で軽快したが,食事の再開で再出血をきたした.骨盤部造影CT検査では吻合部に一致して強く造影される結節影を認めた.また,下部消化管内視鏡検査で吻合部に拍動する結節を認め,仮性動脈瘤からの出血と診断した.内視鏡的止血やInterventional Radiologyでの保存的治療は困難であったため,経肛門的に止血術を行い,再出血は認めなかった.術後は再出血をきたすことなく,21病日に退院した.仮性動脈瘤は破裂の危険性があり,緊急で治療を要する病態である.吻合部出血を認めた際には,仮性動脈瘤の形成も念頭に置き迅速な対応が必要である.

第92 回大腸癌研究会
編集後記
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