2010年代のディープラーニング技術の進歩により,大腸内視鏡領域でのAI開発が急速に進展し,2018年には国内初のAI医療機器EndoBRAINが薬機法承認を取得した.現在,病変検出支援(CADe)や鑑別診断支援(CADx)が臨床応用され,腺腫発見率(ADR)や診断精度の向上に寄与している.CADeの複数のランダム化比較試験では,約10%のADR向上が実証され,CADxも専門医レベルの診断精度を達成している.さらに,深達度診断やSSL識別,病理画像解析によるリンパ節転移予測AI,検査品質向上のCAQシステムなど新たな応用も拡大している.一方,AI技術による長期的な癌死亡・罹患抑制効果の検証は今後の課題である.
大腸癌腹膜播種は依然として予後不良な病態であるが,従来の全身化学療法に加え,外科的集学的治療である完全減量切除(cytoreductive surgery:CRS)と術中腹腔内温熱化学療法(hyperthermic intraperitoneal chemotherapy:HIPEC)の導入により,長期生存が期待されるようになってきた.欧米では,適切に選択された症例において5年生存率が30~45%に達することが報告され,標準治療として確立されつつある.日本でもP1/P2に対しては播種巣切除による完全切除が推奨されるようになったが,CRS+HIPECは依然限られた施設でしか行われていない.CRS+HIPECは高侵襲であるため,PCI(Peritoneal Cancer Index)やCC(Completeness of Cytoreduction:CC)スコアなどに基づく適切な症例選択が重要であり,審査腹腔鏡や画像診断の活用も勧められている.近年,無作為化比較試験ではHIPECの上乗せ効果が明確に示されていないことも報告されており,今後の日本における本治療の普及には,さらなるエビデンスの蓄積と前向き比較試験による検証が必要である.
直腸癌に対する集学的治療は欧米における標準治療であり,近年では術前(化学)放射線療法の前後に全身化学療法を組み合わせたTotal neoadjuvant therapy(TNT)と呼ばれる治療が開発され,新たな治療オプションとして普及しつつある.TNTは(化学)放射線療法の局所制御効果を高め,さらに(化学)放射線療法が遠隔制御に寄与しないという弱点を補う治療として期待されている.複数の臨床研究により,TNTは局所制御や生存予後を改善することが示されているが,用いられる放射線の照射方法や化学療法などにより様々なレジメンが存在し,レジメン選択に関する一定のコンセンサスは得られていない.TNTの施行にあたっては,各レジメンの長所と弱点を理解し,局所再発リスクと遠隔転移リスクをきめ細やかに評価し患者ごとに最適なレジメンを使い分けることが重要である.
肛門管扁平上皮内病変および肛門管扁平上皮癌は肛門管領域に発生する稀な疾患である.いずれもヒトパピローマウイルス(HPV)関連疾患であり,同性間性交渉歴やヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染がリスク因子として報告されている.本邦では遭遇する頻度の低い疾患であるものの,近年では早期で発見され内視鏡治療が行われた報告も散見される.肛門病変は患者のQOLに大きくかかわることから,早期発見することが重要である.大腸内視鏡検査の際には直腸内反転を行い肛門管まで慎重に観察すること,またその際NBIやBLIなどの特殊光併用の拡大内視鏡による異常血管像の検出が早期発見の一助となる.
肛門管癌は稀な疾患であり,本邦においても発生率は低い状況である.肛門管癌の組織型は,欧米では多くが扁平上皮癌であるのに対し,本邦では多くが腺癌症例である.一方,肛門管扁平上皮癌におけるHPV感染に関しては,本邦においても欧米と同様にHPV陽性率は高率であり,遺伝子型はHPV-16が最も高率である.また,肛門管癌は発生部位や組織型によって適応される規約や治療戦略が異なり,本邦では直腸型腺癌については大腸癌と同様に『大腸癌取扱い規約第9版』が用いられ,扁平上皮癌,肛門腺由来の癌,痔瘻癌についてはUICCのTNM分類第8版が用いられている.治療に関しては,腺癌症例では手術療法が主治療法となるのに対し,扁平上皮癌症例では化学放射線療法が主治療法となる.ただし,肛門管癌に関する報告は本邦はもとより国際的にも少ないため,今後更なる症例を蓄積して,適切な規約と治療ガイドラインを作成することが重要である.
本邦では潰瘍性大腸炎では大腸腫瘍,クローン病では直腸肛門部腫瘍の頻度が高い.2024年に炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドラインが上梓され,大腸癌研究会のプロジェクト研究,厚生労働省の難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(久松班)のレジストリー研究が進行中である.
潰瘍性大腸炎関連大腸腫瘍の診断方法としてはサーベイランス内視鏡が重要で,治療は大腸全摘が推奨されるが,異時性・同時性多発病変の厳重なサーベイランスという条件の下,Low-grade dysplasiaに対して内視鏡治療も行われることがあり,レジストリー研究が進行中である.
クローン病関連直腸肛門部腫瘍の早期発見は困難なことも多く,腹会陰式直腸切断術以上の拡大手術が必要になることも多い.診断方法が確立されたとはいえないが,大腸内視鏡検査・MRIなどの複数の画像診断に加え,麻酔下診察・生検によるサーベイランスも試みられている.
直腸脱は経肛門的に直腸が全周性全層性に脱出する病態で,社会生活を営む上での障害となりしばしば便失禁を伴っている.成因として,①肛門挙筋離開,②異常に深いcul-de-sac,③S状結腸過長,④外肛門括約筋の弛緩,⑤直腸の仙骨への固定不良などが考えられていて,これらが複合的に関与して発生しているものと思われる.診断は経肛門的に直腸の全周性円筒状脱出を確認することで容易に診断可能である.治療は歴史的に多くの術式が存在し各施設が習熟した方法で行われていることが多い.一般的には経腹的手術は侵襲が多く再発が少ないが,経肛門手術は侵襲が少ない反面再発が多いといわれている.高齢者に多い疾患であることを考慮しその全身状態や本人家族の希望,根治性などを十分に配慮した術式選択が重要である.本稿では直腸脱の成因,診断,治療に関して概説する.
直腸脱に対する経会陰手術において,本邦で最も行われている術式がGant-三輪-Thiersch法である.簡便で比較的安全に施行可能であり,高齢者が大半を占める本疾患において有用な術式である.一方で,再発率の高さやGant-三輪法による術後出血や直腸穿孔,Thiersch法による術後便秘,Thiersch糸の露出や感染といった合併症の問題も報告されている.
近年,伸縮性を備えたポリエステルメッシュをもとにした人工靱帯であるLeeds-Keio meshをThiersch法に用いることが保険適応となった.当院ではLeeds-Keio-Meshを用いたGant-三輪-Thiersch法を100例以上に施行しており,同手術手技の要点と術後成績についても報告する.
本稿ではGant-三輪-Thiersch法の歴史的変遷,手術手技の要点,ならびに有用性と問題点について解説する.
高齢者に多い直腸脱に対する経肛門的(経会陰的)治療は低侵襲性において優れた治療とされている.当院では脱出腸管の外管粘膜と内管粘膜を分割して剥離するDelorme手術(変法)を行っている.2017年6月から2024年4月までの6年10ヵ月間に完全直腸脱と診断した40例に対してDelorme手術(変法)を施行した.男性2例,女性38例で,年齢の中央値は81歳(50-91歳)であった.平均脱出腸管長は4cm(2-7cm),総粘膜切除長は11.4cm(5-24cm)であり,再発は6例に認めた(再発率15%).手術死亡例は認めなかったが,1例(2.5%)で縫合不全,5例(12.5%)で縫合部狭窄を認めた.再発しなかった34例を対象に術前・術後の肛門内圧検査(最大静止圧,最大随意収縮圧)と便失禁スコア(FISI),便秘スコア(CSS)を評価したが,いずれも有意に改善していた.
目的:直腸脱に対するAltemeier法の有効性と安全性について検討した.方法:2009年12月から2024年12月までにAltemeier法を施行した120例を後方視的に解析した.また同時期に施行した直腸固定術(Rectopexy)と比較検討した.結果:平均年齢は81歳,女性は117例であった.Clavien-Dindo分類II以上の合併症はAltemeier法で4.2%,Rectopexyで6.8%に発生した.再発率はAltemeier法で38%,Rectopexyで6.8%であり,再度Altemeier法を受けた5例全員が再発した.再発のリスク因子は女性,手術時間,直腸脱の手術歴であった.結論:Altemeier法は低侵襲かつ安全な術式であるが,Rectopexyと比較して再発率が高い点が問題である.再発例には経腹手術の適応を考慮すべきである.
直腸脱は高齢女性に多くみられ,種々の骨盤臓器脱と重複する複雑な疾患である.患者の背景や病態に応じて,適切な術式選択が求められる.直腸固定術としての歴史は生体組織修復の縫合固定から始まり,近年はメッシュを使用した術式も導入され,根治性の高い治療法とされている.
現在では多くの症例が腹腔鏡下に行われているが,臓器脱患者特有の解剖学的問題に注意する必要がある.深い骨盤底と種々の臓器下垂は術野の確保を困難にし,対策が不十分のまま手術を進めると,せっかくの根治性が損なわれかねない.
骨盤高位となる手術体位,臓器牽引や膣ベラによる視野確保は,これらの問題点を解決する有用な手段である.良好な視野とカウンタートラクションを維持しつつ,解剖学的ランドマークを確認しながら,過不足なく直腸を剥離する.そして術式に応じ確実に固定することで,安定した成績が得られる.
本稿では直腸固定術の歴史的背景,手術手技上の工夫,および代表的な3つの術式(縫合固定術,Wells法,腹側メッシュ固定術)について概説する.
直腸脱と経腟骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse:POP)の合併はまれではない.直腸脱,POPいずれも手術アプローチは腹腔鏡もしくは経肛門/経会陰で,術式を組み合わせることで両者の同時修復が可能である.
2000年から2025年4月までに報告された,直腸脱とPOPの同時修復17論文に,当科の87例を加えた1,371例を検討したところ,Clavien-Dindo Grade IIIb以上の合併症は1.5%,再発は直腸脱3.2%,POP 2.9%と比較的良好であった.
直近10年に報告された9論文中7編は,直腸腹側固定術と腹腔鏡下仙骨腟固定術の併施であり,当科も本術式を第一選択としている.当科で行っている本術式の手術手技について詳述する.
ただし他の術式の組み合わせも症例によっては良い適応と考えられ,術式は患者にあわせ十分考慮した上で選択されるべきである.