本稿では電気化学測定法を理解するための電気化学の速度論の基礎を解説する.まず,平衡系において,律速段階が電荷移動過程とき,および拡散過程のときの速度式(電流―電位曲線)を導出し,腐食系における速度式との関係とその導出方法について解説する.さらに,平衡系での交換電流,腐食系での腐食電流をTafel外層法および分極抵抗法から推定する方法についても述べる.
種々の基板から構成されるACMセンサの挙動を,水溶液中や塩類を塗布しての湿度サイクル試験によって評価した.その結果,ACMセンサは溶液環境においても計測が可能で,NaCl水溶液を用いた試験から,濃度に対して相関が認められた.また,基板を構成するアノードの違いによる出力差が認められた.一方,大気腐食環境模擬試験ではほかの基板もおおむねFe/Ag対センサと同様の挙動になることがわかった.
しかし,Alやステンレス鋼では相対湿度と相関がない鋼材固有と思われる出力が現れることがあった.すなわち,ACMセンサによって材料の腐食性を直接評価できる可能性が示唆された.
リン脱酸銅管(PDC)で発生する蟻の巣状腐食の対策材として無酸素銅管(OFC)がある.本研究では種々の腐食環境にPDCとOFCを曝し,これらの耐食性を比較して,蟻の巣状腐食が発生する実環境を推定した.
高濃度のギ酸水溶液にOFCを曝すことで,深さ方向への腐食がPDCと同等に確認された.OFCが実環境で耐食性が認められることから,結露水中の有機酸濃度は比較的薄いと推定された.
乾湿繰り返し腐食試験を用いて,きず(0 mm2, 0.3 mm2 and 1.5 mm2)を形成したZnめっき鋼板からの水素透過挙動を調査した.きずの面積に関係なく,腐食試験中に同じような形状を有する水素透過電流が測定された.試験終了後,試験片表面には白色の腐食生成物が生成した.水素透過電気量は3サイクルまで増加し,その後減少した.きず周辺の腐食生成物は,塩基性塩化亜鉛であった.このことから,長期間の腐食試験で水素透過電気量が減少するのは,この腐食生成物の形成によることが示唆された.3サイクルまでの水素透過電気量ときず面積の比較から,発生した水素はきず部から均一に鋼中に侵入しないことが示唆された.
フェライト系ステンレス鋼の硫酸溶液中における耐食性に及ぼすSnの影響を調査するために浸漬試験,分極曲線測定および電気化学インピーダンス測定を行った.鋼中へのSn添加および溶液へのSn2+イオン添加は,H2SO4水溶液中における腐食速度を低減させた.H2SO4水溶液中において,鋼中へのSn添加は腐食電位近傍のアノード溶解を抑制した.また,溶液へのSn2+イオン添加はアノード反応とカソード反応を抑制した.鋼中へのSn添加は,pH 0.5~2のNa2SO4水溶液中において大きなアノード溶解抑制効果を有し,その電位域はSn2+イオンの熱力学的安定域にあった.フェライト系ステンレス鋼中のSnは,Sn2+イオンとして硫酸溶液中に溶出し,Sn2+イオンに由来するSn化学種が表面に吸着して活性溶解を抑制していると考えられた.