酸性水溶液中における鉄の腐食をおもな題材にして,平衡電位と腐食電位の相違点,腐食電位の上昇・低下と腐食速度の増減との関係,不働態皮膜による耐食性材料が示す腐食電位の特徴などを概説した.
分極曲線は電気化学測定の中でも重要な測定の一種であり,材料の耐食性を評価,あるいは,腐食を理解する上で欠かすことができない測定法である.電流と電位の関係を理解すること,および,分極曲線から腐食速度を求める方法を理解することを目的とする.分極曲線からターフェル外挿法および分極抵抗法により,腐食速度を求めることができる.
定電流電解の一種にカソード還元法と呼ばれる電気化学測定法がある.銅の酸化物および硫化物皮膜厚さを測定するためにカソード還元法を適用した.市販の酸化銅,亜酸化銅,硫化銅の粉末試薬を−1mA/cm2の定電流でカソード還元すると,電位-時間曲線に電位が一定となるプラトーが現れた.酸化銅,亜酸化銅,硫化銅のプラトー電位はそれぞれ−0.7,−0.8,−1.15Vであった.1000ppm NaClおよび1000ppm Na2S溶液に浸漬した銅板上に形成された皮膜をカソード還元法により定性・定量分析した.カソード還元曲線から,NaCl溶液中で形成された皮膜の主成分は亜酸化銅であり,Na2S溶液中で形成された皮膜の主成分は硫化銅であることが判明した.断面観察から求めた皮膜厚さとカソード還元から求めた皮膜厚さは比較的よく一致した.
経年劣化した鋼構造物に対する新しい塗り替え工法を確立するために,素地調整が不十分で錆が残存した状態に塗装された際の塗装防食性について検討した.沿岸にて暴露した錆鋼板に対し,素地調整方法を変えることで,表面の特性と塗装による防食性の関連について検討した.塗装防食性は残存塩分量や残存錆厚みでは説明できなかった.サイクリックボルタンメトリーから導かれた電気化学特性と,レーザー変位計から解析した凹凸情報が,錆残存面上における塗装防食性に大きな影響を与えることを明らかにした.
硫酸溶液中,レーザ照射により形成された表面テクスチャを調べた.レーザ照射は溶液中の局所的な腐食を加速させたがレーザを照射していない部分も腐食された.不動態域の電位を負荷することによりレーザ照射による腐食深さは自然電位に比べ深くなり,レーザ照射していない部分は腐食されなかった.腐食深さはレーザ出力の増加及びレーザ走査回数の増加とともに増加した.
銅は,加工性に優れ,腐食に強い金属として一般に知られており,空調用銅管をはじめとし,幅広い分野で使用されている.しかし蟻の巣状腐食と呼ばれる腐食がまれに発生して,早期に貫通にまで至ってしまう事例が散見されている.近年では銅に添加されたりんが,蟻の巣状腐食の進行に影響を及ぼすことが判明している.今回,種々の銅中のりん含有量を変量した銅管における蟻の巣の腐食の試験を行い,蟻の巣状腐食に及ぼすりんの影響について明らかにした.
最近,筆者らは鱗片状Al粉と粒子状Ni粉とを混合添加したエポキシ樹脂塗膜を電気亜鉛めっき鋼板上に被覆することにより燃料タンク内面の耐食性が改善されることを報告した.この有機被覆電気亜鉛めっき鋼板の腐食挙動に及ぼす塗膜中のNi粉およびAl粉の各々の役割を理解するために,Ni粉またはAl粉のいずれかを含むエポキシ樹脂被覆電気亜鉛めっき鋼板を作製し,蟻酸,酢酸およびNaClを含む水溶液中での腐食浸漬試験,動電位分極測定,電気化学インピーダンス分光法(EIS)測定,ならびに酸素ガスおよび水蒸気透過測定を実施し腐食挙動を調査した.その結果,塗膜中のNiおよびAl粉は,いずれも腐食を加速した.分極曲線よりアノードおよびカソード電流の増加を,EIS測定においては,NiおよびAl粉の添加による塗膜抵抗の減少が確認された.NiおよびAl粉の両方を含有するコーティングの改善された耐食性は,NiまたはAl粉のみを含有する被覆鋼の腐食挙動によって単純に説明されないことから,両粉の耐食性改善の相乗効果について議論した.