窒化処理したねずみ鋳鉄(FC)の塩水環境での耐食性について塩水噴霧試験及び電気化学的測定から表層に窒化鉄からなる窒化物層を10μm前後形成させることで,耐食性は向上する.さらに窒化処理後に酸化皮膜処理を行い,表層に数μm程度の酸化皮膜を形成させることによってさらに耐食性は向上することが明らかとなった.窒化処理の際にNH3以外にRXガスなどによりCOを転嫁する軟窒化処理よりもNH3のみの窒化処理の方が表層に生成するε-Fe3N層中の窒素濃度が高くなりその分耐食性も向上する.また窒化鉄層をより厚く生成させることや緻密な酸化皮膜を表層に生成することで表層に出現しているグラファイトを覆い,且つ,表層部のグラファイトの界面には窒化鉄が選択的に生成することも認められた.なお酸化皮膜処理はできれば450℃前後の低温で数μmの緻密な酸化皮膜を生成させることにより良好な耐食性を示した.
本報では,PWR一次系模擬水における316ステンレス鋼のIG割れの感受性を報告し,メカニズムを議論する.はじめに,塩化物溶液,BWR模擬水,PWR一次系模擬水におけるステンレス鋼の亀裂伝播速度を比較する.また各溶液でのワーグナー長さを比較し,IG割れに湿食が関与するとすればアノード電流密度はカソード反応速度で担保されうるか否かを議論する.次に,PWR一次系模擬水温度(340℃)でのSCC試験で注意しなければならない応力緩和と試験法を考察する.最後に,二研究機関で行ったIG-SCC試験法と結果を報告し,いかに冷間加工316鋼は,PWR一次系模擬水中でのIG割れに対して高い抵抗性をもっているかを報告する.IG割れは切欠き付き試験片を使う限り再現できなかった.しかし疲労予亀裂試験片にK値漸増型の負荷をあたえると伝播した.PWR一次系模擬水中における316鋼の自己治癒機構を提唱する.
耐水素脆化特性に優れる高強度鋼板の開発には,鋼板への水素侵入挙動の明確化が必要である.大気腐食環境下では腐食反応に伴って,鋼板へ水素が侵入するが,水素侵入挙動と腐食挙動の関係,また温湿度や飛来塩分といった環境因子との関係は不明確である.そこで本研究では,水素侵入挙動と腐食挙動の関係およびこれらに与える環境因子の影響を明確化することを目的として,大気暴露環境での水素侵入量と腐食量および環境因子(温度,湿度,付着塩分量)の同時モニタリングを実施した.
その結果,付着塩分量が増加することで水素侵入,腐食速度は増加した.一方で湿度の影響については水素侵入,腐食挙動で異なり,腐食速度が湿度の増加に伴って増加する一方で,水素侵入は中湿度で最大を示した.中湿度での水素侵入量の増加は,Cl-濃度が高い環境におけるpH低下によるものと考えられる.