作物研究
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63 巻
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論文
  • 森下 星子, 辻 章宏, 杉山 高世, 池田 利秀
    2018 年 63 巻 p. 1-8
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    奈良県では「三輪素麺」と呼ばれる手延べ素麺が製造されている.手延べ素麺の加工適性には生地の伸展性や弾性といった小麦粉の生地物性が重要である.奈良県では日本麺用小麦品種‘ふくはるか’を奨励品種としているが,‘ふくはるか’は県内で手延べ素麺原料に使用されている通常の小麦原料と比べて生地物性が弱いため,作業性が劣る.今回,‘ふくはるか’のみを小麦原料として手延べ素麺を試作した結果,通常の原料と同程度の作業性を確保するためには,小麦粉のタンパク質含有率は10%以上必要であると考えられた.また,‘ふくはるか’において硫安による出穂10日後の窒素施用量と子実タンパク質含有率に高い正の相関があること,タンパク質含有率の向上によってSDS沈降量で示される生地物性が強くなることが明らかになった.したがって‘ふくはるか’の子実タンパク質含有率は出穂後窒素施用量によって調整することができ,小麦粉タンパク質含有率を10%以上とすることで生地物性が改善され,手延べ素麺加工適性の向上が可能と考えられた.また,‘ふくはるか’のみを小麦原料とした手延べ素麺は一般的な三輪素麺と比べて粘りの強い特徴的な食感であった.
  • 近藤 卓也, 渡辺 祐基, 寺石 政義, 藤井 義久, 奥本 裕
    2018 年 63 巻 p. 9-13
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    ダイズ種子の冠水障害の一因として急激な吸水による種子の物理的な崩壊が挙げられる.本研究では,ダイズ種子の物理的な組織破断を非破壊的に観測して冠水耐性との関係を明らかにすることを目的として,組換え自殖系統を用いて冠水時のダイズ種子内部における微小破断に伴う弾性波(アコースティックエミッション:AE)の累積発生数の計測を行い,冠水耐性との関連の有無について検討した.正常発芽個体群および発芽不良個体群の間のAE発生数の平均値は有意に異なっていたが,AE発生数と冠水耐性との相関を認めることができず,また,AE発生数に関するQTLを検出できなかった.今後は子葉節に発生する致命的な破断のみを把握できるように装置を改良し,冠水耐性に関わる種子吸水特性の把握を試みる.
  • 許 冲, 築山 拓司, 寺石 政義, 谷坂 隆俊, 奥本 裕
    2018 年 63 巻 p. 15-19
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究で対象としたminiature-Ping (mPing)はイネの非自律性転移因子MITEの一種であり,品種銀坊主において1,000コピー数以上存在し,自然条件下でも活発に転移している.銀坊主種子へのγ線照射より誘発された細粒突然変異系統IM294では,ユビキチン様タンパク質をコードするRurm1遺伝子がmPing挿入により機能を喪失しており,細粒形質,低発芽率,低草丈,低稔性などさまざまな生育異常を示す.さらに,IM294の自殖後代にはRurm1からのmPingの正確な切り出しによって粒形が正常粒に復帰する個体が分離する.復帰個体の中には,原品種銀坊主よりも旺盛に生育する強勢個体( 以下VGI: a vigorously growing plant in IM294とする)が含まれる.VGIではmPing転移頻度が顕著に上昇し,新たに多数のmPing挿入が観察される.このことから,mPingの新規挿入とVGIとの関連が推察されるが,復帰に伴って強勢個体が分離出現する分子機構は未解明である.本研究では,VGI個体の後代と日本晴との交雑によって得られたF2集団を用いて,VGIに関連する特性に関するQTL解析を行い,強勢形質を制御する遺伝因子が存在する染色体領域の同定を試みた.
短報
  • 貯蔵種子の発芽率への影響および土壌の水分条件の違いが苗立率に及ぼす影響
    中川 淳也, 片山 寿人
    2018 年 63 巻 p. 21-24
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    小麦については,安定供給のため種子の貯蔵が行われており,前年産の種子が生産現場に配布されることもしばしばある.そこで,2014年に採取した収穫時の穀粒水分が異なる種子について,1年貯蔵後の発芽率を調査したところ,1年間の適切な保存であれば発芽率に影響を及ぼさず,収穫時の水分は種子の保存性に影響を及ぼさなかった. 実際の小麦栽培では土壌水分などが苗立ちに影響することが想定される.そこで,ポット試験で湛水処理を変え,発芽率の異なる小麦種子について,土壌水分の違いが苗立率に及ぼす影響を調査した.土壌に播種すると,生産物審査の方法による発芽率に比べて,苗立率は低下した.発芽率に対する苗立率の低下割合は,発芽率の高いものほど小さく,発芽率の低下に伴って大きくなった.また,種子下3~4cmまで湛水すると,無処理と比べて苗立率は低下し,発芽率の低いサンプルほど苗立率の低下割合が大きくなった.これらのことから,苗立ちを確保し小麦を安定生産するためには,発芽率の高い優良種子の生産が重要であることが確認できた.
  • 安井 康夫, 藤倉 雄司, 藤田 泰成
    2018 年 63 巻 p. 25-29
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    キヌア(Chenopodium quinoa Willd.)はヒユ科に属するアンデス地方原産の擬穀類である.子実は2-3mmと比較的小さいものの,その高い栄養価がFAO(国連食糧農業機関)において高く評価されており,世界的に栽培規模の拡大が進んでいる.さらにキヌアは優れた環境ストレス耐性を有しているため,イネやコムギなどの主要作物の栽培が不可能な乾燥地や塩害土壌においても栽培可能であり,食糧安全保障の観点からも注目されている.我々は,キヌアの優れた栄養特性や環境適応性に関わるメカニズムの解明を目指して,世界に先駆けてキヌアゲノムのドラフト配列を解読し,ゲノムデータベースを構築した.そして今回,ボリビアのウユニ塩湖畔で劣悪環境下におけるキヌアの栽培方法の現地調査,および聞き取り調査を行うことができた.本資料では,現地でのキヌアの栽培管理,生産性,および育種目標について報告する.またラクダ科家畜リャマ(Lama glama)を用いた耕畜連携とマメ科野生植物(Lupinus pubescens)などの土着遺伝資源を利用したキヌアの持続的生産への取り組みについても報告する.
資料
総説(シンポジウム)
  • 東樹 宏和
    2018 年 63 巻 p. 39-41
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    生物多様性の解析技術における近年の革新により,植物をとりまく細菌・真菌類の膨大な多様性が明らかになってきた.しかし,植物共生微生物叢の構造に関する知見が蓄積されつつあるいっぽう,微生物叢を制御する技術については,本格的な開発が始まっていない.本稿では,次世代シーケンシングをもとにした微生物叢解析を概説するともに,微生物叢の制御技術を構築するために欠かせない分野横断型研究の方向性について議論する.
  • 本間 香貴, 牧 雅康, 橋本 直之
    2018 年 63 巻 p. 43-48
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    シミュレーションモデルとリモートセンシングはともに70年代より盛んに研究が行われ,直ぐにでも実用化されるような印象を受けながらもなかなかその域に達していない技術と考えられる.本論文では最近の研究動向にも触れながら,問題点と今後の展望について論じた.作物の生育・収量を予測するシミュレーションモデルは温暖化環境下における将来予測などにおいて一定の成果をおさめており,栽培支援については海外において製品化されたプロダクトなどはあるものの,一般的なツールとはなりえていない.これはインプットデータに多大な労力を必要としていたり,アウトプットが既知の知識の範囲にとどまっていたりするためであると考えられる.一方,リモートセンシングは近年になってUAV(Unmanned Air Vehicle)の技術開発および低価格化が進み,農家にとっても手の出せるものとなりつつあるが,基本的に空から写真を写す用途以上のものは提案できていない.これにはどのような栽培支援が必要で,そのためにどのようなデータが必要か,構想を明確にした技術開発が必要であると考えられる.著者らは東南アジアの農家圃場を中心にリモートセンシングやシミュレーションモデル,あるいはそれらの融合に関する研究を行い,農家の栽培管理や気候変動の影響評価を行ってきた.現在仙台において東日本大震災後に新規就農した農業法人の大区画化された圃場を対象に,栽培支援技術の開発を行っているところである.ディープラーニングなどの機械学習の進化によって,画像やマスデータからの情報の読み取り技術は今後ますます進化すると思われる.しかしながらノンパラメトリックモデルなどのデータ依存型モデルによる成果から類推すると,それだけでは既知を超える情報を得ることは難しいと思われる.シミュレーションモデルなどによる方向性を持たせた解析が必要であると考えている.
  • 飯田 訓久
    2018 年 63 巻 p. 49-53
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/10
    ジャーナル オープンアクセス
    農業従事者の高齢化と農業就業者人口の減少による労働力不足を解決するため,無人で農作業を行う「ロボットファーミング」が期待されている.国内では2017年5月にロボットトラクタの市販化が発表された.海外においても,農業機械のロボット化は大きな課題であり,これを実現するための技術開発が進められている.本報告では,著者らが開発を進めている自脱コンバインのロボット化技術について紹介し,ロボット農機の現状と可能性について述べる.
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