外国人留学生のカルチャー・ショック対策とその指導法が日本語教育で問題になっている。これは,異文化理解教育の中心的問題でもある。日本文化はかなりの特異性を持っている。つまり,日本文化が「情」と「人間関係」を基調とするのに対して非日本文化は「論理」が中心的位置を占めている。このために日本語を学ぶ外国人学習者は様々なカルチャー・ショックを受け,悩むことになる。異文化理解教育の基本は,まず違いを知ることから始め,その違いの背景的理解を深め(違いに対する気ずき),その上に立って違いに対する寛容さを養成することである。この寛容さの中味は,共感的理解と受容である。こうして,真の国際感覚が形成される。これが異文化理解教育の目標である。筆者の実験教育によれば,文化間の違いを強調するだけでは国際感覚は十分育成できない。異文化理解教育にあたり,日本人教師が留意しなくてはいけないことが3つある(鈴木1975)。1つは,日本人は,伝統的に外国の文化をその国民と切り離して摂取することに慣れていることである。そして,それを単なる「物」として日本流にアレンジし,変形して自分の物にしてしまう。このことは,上記の異文化理解教育の大きな障害になりかねない。2つは,日本社会の徹底した同質性に関してである。言語,文化,人種,風俗習慣,などにおいて,ほぼ同質性がこれほどまでに浸透している社会はない。このことは,違いに対する寛容が欠けていることを示す。3つは,外国人は決して日本人のように流暢に日本語が話せないと信じていることである。このような日本人の態度が外国人留学生に大きな不満を与えていることを知るべきである。
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