日本サンゴ礁学会誌
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12 巻 , 1 号
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総説
  • 岨 康輝, 渡邊 剛, 島村 道代, 坂本 竜彦, 長尾 誠也
    2010 年 12 巻 1 号 p. 1-15
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル フリー
    熱帯から温帯に生息する造礁性サンゴの骨格は,紫外線を照射するとバンド状に発光する(以後,発光バンドとよぶ)。これまでに,発光原因として,サンゴ骨格を構成する炭酸塩鉱物の微量元素,サンゴ骨格中に含有する有機物(特に腐植物質),骨格構造に起因する空隙(孔隙)等が挙げられている。その中でも,腐植物質は発光の主要因であるとされ,サンゴ骨格中やその周辺環境に存在する腐植物質が研究されてきた。一方,骨格の低密度部位と発光バンド部位が一致することが報告され,発光バンドの発光強度が骨格構造に依存する可能性が指摘されているものの,特定の発光要因の解明には至っていない。発光バンドは過去の降雨や河川の氾濫(洪水)の高時間分解能の環境記録として利用されてきており,サンゴの発光バンドを信頼性の高い古環境指標として用いるために,厳密な発光メカニズムの解明と環境要因との関連性の検討が望まれる。
  • 深見 裕伸, 立川 浩之, 鈴木 豪, 永田 俊輔, 杉原 薫
    2010 年 12 巻 1 号 p. 17-31
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル フリー
    造礁サンゴの分類は,個体の形状やそれらの群体上での配列様式といった,骨格の形態的特徴の違いに基づいて行われる。しかし,形質の少なさ,多型や著しい種内変異,そして生息環境への可塑的性質が,造礁サンゴの骨格形態の定量化,それに基づく記載と類似する種や属間での比較を困難なものとしている。近年,生時の特徴を重視した造礁サンゴの図鑑やフィールドガイドが普及したおかげで,日本においても造礁サンゴに関する一般的な知見が広まった。しかし,それと同時に,骨格形態の観察なしに安易な種同定を行う調査者や研究者が増えてきた。しかも,これらの出版物の中には,国際動物命名規約上の深刻な問題点を含んでいるものもあり,造礁サンゴの学名の安定性をも揺るがしつつある。最近では,種同定の統一基準が取れなくなり,既存研究との正確な比較ができなくなる事態も生じている。その一方で,造礁サンゴの分子系統解析の進展が,近縁とされる分類群間での従来の骨格形態に基づく分類方法の再検討を可能にさせつつある。しかし,これらの分子系統学的研究の中には,誤った種同定のもとで行われている可能性もあるので注意しなければならない。今後,より再現性そして汎用性の高い造礁サンゴの分類体系を再構築するためには,従来の分類形質とされてきた骨格形態を計測し,骨格形態が特に類似している種間でのそれらの定量的な比較をまず行うべきである。次に,それらの解析結果と調和的な骨格の表面形態や隔壁の内部構造といった新たな形質を探索する必要がある。また,分子系統解析を行う際は,誤った種同定が行われていた場合に備えて,対象種の軟体部から抽出した遺伝子試料だけでなく,それに対応した骨格標本も保存しておくことに心がけなければならない。
短報
  • 阿部 和雄
    2010 年 12 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル フリー
    本報告は,沖縄県石垣島及び西表島海岸線(潮間帯)における底質中赤土堆積量現状に関する調査結果の記載である。調査は前者で2008年6月から2009年5月まで一月に一度の頻度で,後者では2008年6月,10月,及び12月に実施した。赤土堆積量は調査点・調査日毎に大きく変動し,1kg/m3から800kg/m3程度の測定値を示した。また,得られた結果を1985年の沖縄県による調査結果と比較・検討した。
  • 磯村 尚子, 渡邊 謙太, 西原 千尋, 安部 真理子, 山城 秀之
    2010 年 12 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル フリー
    沖縄県名護市大浦湾のアオサンゴ群集は,その大きさと特異な形状から保全が求められており,大浦湾のサンゴ礁生態系を代表する存在である。2009年に見られたアオサンゴの白化は,オオギケイソウがサンゴ表面に繁茂することでサンゴにダメージを与え,健康な状態を阻害された結果起きたものと考えられている。今回,アオサンゴ上にオオギケイソウとは異なる藻体が発見された。慶良間諸島で確認されたアミメヒラヤギにからむクダモの状況と類似していたことから,藻体はシアノバクテリアであると考えた。サンゴ礁域では,栄養塩の増加によって大発生したシアノバクテリアがサンゴにからみついてサンゴが死亡した例や,複数属のシアノバクテリアが引き起こす致死性の病気が知られている。そこで本研究では,大浦湾のアオサンゴ群体表面とその周辺の岩盤から採集した藻体の形態を顕微鏡で観察し,また16SrDNA配列を調べて,既知のシアノバクテリアの配列と比較して藻体の正体を明らかにし,さらにシアノバクテリアがアオサンゴへ及ぼす影響について検討することを目的とした。解析の結果,アオサンゴと岩盤から得られた藻体は,レプトリングビア属を始めとした複数属および複数種からなるシアノバクテリアのコンソーシアムであることがわかった。この中には,海水中の栄養塩濃度が高まると大量発生することもあるLyngbya majusculaHydrocoleum lyngbyaceumが含まれていた。今回確認されたシアノバクテリアがアオサンゴ群体に与えている影響は現段階では小さいと考えられるが,微少な生物ながらその繁茂については警戒が必要である。
討論
資料
サンゴ礁保全・再生セクション
  • 2010 年 12 巻 1 号 p. 67
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル フリー
    近年,サンゴ礁の衰退が激しく,サンゴ礁の保全・再生が重要な課題となっています。この状況を受けて,日本サンゴ礁学会誌では,今号からサンゴ礁保全・再生に関わる論文を掲載する「サンゴ礁保全・再生セクション」を設け,理念・実施例・現状の紹介・討論など保全・再生に関わる内容の記事を掲載することにいたしました。投稿を希望される方は,日本サンゴ礁学会誌編集委員長山野博哉(hyamano@nies.go.jp)にご連絡下さい。通常の論文と同じく,日本サンゴ礁学会会員外からの投稿も歓迎いたします。また,内容に関するご相談も承ります。皆様からの積極的なご投稿をお待ちしております。
原著論文
  • ―バスケット型供給の経済学的考察―
    大久保 奈弥, 大沼 あゆみ
    2010 年 12 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル フリー
    熱帯・亜熱帯の海洋生態系の基盤であるサンゴ礁の劣化は,陸地生態系における森林減少と並んで最も解決すべき問題の1つである。しかし,ステークホルダーの多さから,一般的に陸上で用いられているような保全政策をそのまま適用することが難しい。一方で,サンゴ礁の積極的な修復を目的としたサンゴの移植が行われており,現在では企業ビジネスとして,数多くの移植ツアーが行われている。しかし,このツアーで使用されるサンゴ苗は,自然に生息するサンゴ群体から採取されているため,採取された親群体の繁殖量が低下するといった負の影響がある。また,移植されたサンゴ苗がどの程度生き残っているのかはほとんど報告されておらず,限られた量の群体を分割して移植苗にするので,種や遺伝的な多様性も低い。だが,移植ツアーは,修復活動の費用を節約するとともに,人々への啓蒙効果が期待できる。そこで我々は,本来なら自然界でほとんどが死亡するサンゴ胚から産出した種苗に着目し,既にビジネスとして動いている採取苗と組み合わせて販売する「バスケット型供給」を提案する。この供給方式は,採取苗の低費用性の利点と,種苗の低環境負荷性の利点とをうまく組み合わせたものである。いくつかのケースで,環境効果が最大となるバスケットを例示することで,経済的側面との関わりを説明する。将来的には,移植行為は環境配慮意識により行われることから,カーボンオフセットで見られるように,より環境効果の高いというプレミアムが付いた種苗を選好する差別需要が発生する可能性がある。
  • 大森 信, 谷口 洋基, 小池 一彦, LIAO Lawrence M., 保坂 三郎
    2010 年 12 巻 1 号 p. 81-89
    発行日: 2010/12/01
    公開日: 2012/02/25
    ジャーナル フリー
    海洋保護区(Marine Protected Area; MPA)には世界中でさまざまな定義があって,まだ統一的な概念には至っていないが,2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」のなかでは各国が2012年までにMPAを設定することが決議され,さらに翌年の第5回世界公園会議では「各国が2012年までに海洋の各生息地の最低20~30%の厳格な保護区を含む,効果的に管理された代表的な保護区ネットワークを構築する」ことなどが勧告された。これらは「2012年目標」とよばれて,各国政府がそれを遵守することが求められている。
    わが国のMPAについても公的または広く使われている定義はない。私たちはMPAの設定目的を「潮間帯と潮下帯の生物群集全体あるいは生物多様性を長く効果的な手段で保護することによって漁業資源の持続的な利用を図るため」とし,MPAは「漁業資源の持続的な利用を可能にするために,生育環境の人為的改変を認めず,法律やそのほかの効果的な手段によって生物の採取捕獲が禁止あるいは制限されている区域」すなわちNo-take Zoneのようなものであるべきだと考えている。そのようなMPAを直ちにわが国の沿岸海域全体に導入することは困難だろうが,漁業対象種がその資源を自己維持できる面積を推定し,それをもとに仮の保護区を設定して,一定期間後,その効果を検証するような研究が望まれる。さんご礁に的を絞れば,漁業と生物多様性が両立するMPAの設定は可能かもしれない。区域内では漁業活動はもちろん,遊漁もダイビングも研究のための生物採集も制限の対象にする。
    法的に制度化されたMPAの設定ではアジアでもっとも古い歴史を持つフィリピンで,さんご礁生態系がよく保護されているMPAはどのように管理運営され,地元の人びとはどのようにMPAに関わっているのだろうか。私達は2010年3月フィリピンのビサヤ地方を訪ねて,さんご礁に小さなMPA(=禁漁区)をたくさん作ることによって漁業資源と生物多様性の両方を護るという戦略を進めてきたフィリピン型MPAの創始者A.C. Alcala博士から意見を聞き,アポ島をはじめとする周辺の島々のMPAを視察して,地元民から聞き取り調査を行った。
    漁業資源とすべての生物群集を護るためには,MPAの面積は対象魚種が区域内で自己維持できる広さであることが望ましい。またMPAは行政主導のトップダウン方式ではなく,地元の人びとの全面的な合意と参加がなければ長続きしないと思われる。区域内を禁漁としても,MPA内で増えた漁業資源が区域外に出て周辺漁場の漁獲量の上昇に寄与するという波及効果(spillover)が実証されれば,漁民は制約にしたがう理由を理解するだろう。また,ダイバーなどの観光客から入場料を徴収すれば,費用をMPAの管理運営や漁民への生活補償に充てることができるだろう。成功の鍵は地域住民に対する継続的な教育啓発活動,住民に信頼されるリーダーの存在と,それに会計および活動内容の透明性である。
    沖縄の慶良間海域は漁業従事者が少なく,漁業規模が小さい上,ダイビングなどの観光業を支えるさんご礁の価値に対する住民の意識が高い。さんご礁の生物群集は定着性が強いものが多く,住民の生計手段に観光収入が期待できるので,そこでは望ましいMPAのモデルを試行できるように思われる。慶良間海域のさんご礁を念頭に置き,MPAの設定に向けて方法や運用について考察した。
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