日本サンゴ礁学会誌
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19 巻, 1 号
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原著論文
  • 矢代 幸太郎, 中地 シュウ, 目崎 拓真, 田中 亮三, 金城 孝一, 岩瀬 文人
    2017 年 19 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/13
    ジャーナル フリー

    閉鎖性内湾である石垣島川平湾において有藻性イシサンゴ(以下,サンゴ)群集の現況把握調査を実施した。川平湾のサンゴ群集は地形の違いに依存し,湾外から水道,湾内へと次第に内湾性の構成種が多くなり,湾内では強内湾性の特異なサンゴ群集が形成されていた。湾中央部の東岸では,枝状・洗瓶ブラシ状ミドリイシの死んだ骨格が見られ,主に2007年の高水温による白化が原因と考えられた。一方,湾奥部の西岸を中心に,枝状・洗瓶ブラシ状ミドリイシが生残していた。湾内の濁度は湾奥部の方が高い傾向にあり,白化が濁りにより抑制されたと考えられた。

特集セクション
資料
原著論文
  • 川越 久史
    2017 年 19 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    環境省では,各地のサンゴ礁研究者を中心に,研究機関,コンサルタント,ダイビング事業者等の専門家,NGO/NPO等のボランティアによる協力を受けて,重要生態系監視地域モニタリング(モニタリングサイト1000)の一環として,2004年度からサンゴ礁のモニタリング調査を実施している。

    2016年は,奄美群島から八重山諸島にかけての広い海域で夏季の高水温が主な要因と考えられる白化現象の発生が確認された。特に宮古島周辺や八重干瀬,石西礁湖,崎山湾(西表島西部)周辺の各サイトでは,白化現象の発生に伴う被害が顕著であり,八重干瀬では平均白化率が70.1%,平均死亡率が67.5%であった。また,石西礁湖内及び崎山湾(西表島西部)周辺の各サイトでは,いずれも平均白化率が90%以上であり,平均死亡率は34.8~67.9%であった。

  • 中村 崇
    2017 年 19 巻 1 号 p. 29-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    2016年夏期に石西礁湖で起こった異常高水温状態が主要因と考えられるサンゴ群集の白化状況についての調査をおこなった。調査は環境省が実施している石西礁湖自然再生事業のサンゴ群集モニタリング調査の一環として,2016年9月に石西礁湖の計35地点でスクーバ潜水により実施した。本調査では,ミドリイシ科4種,ハナヤサイサンゴ科4種,キクメイシ科2種やハマサンゴ科1種を含む11種について,目視観察により計6400群体以上について,白化状態を5段階で評価した。その結果,コブハマサンゴを除く,10種で,98%以上が白化,もしくは死亡している状態であったことが判明した。また,コブハマサンゴでは58.5%の群体が白化・死亡状態であった。一般的に白化被害を受けにくいとされる塊状サンゴ種群での白化および死亡も目立っており,2007年の大規模白化調査時(同じく9月実施)に対して,2016年では同時期に高い死亡率が記録されており,2016年の被害が甚大であったこと,成長速度の比較的遅いサンゴ種で比較的高い死亡率がみられたことから,景観の回復には過去の大規模白化より長い時間がかかることが示唆される。

総説
  • 山野 博哉
    2017 年 19 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    サンゴ礁は近年急速に衰退しており,その大きな原因の一つが高水温による白化現象である。気候モデルによる予測によって,サンゴ礁の将来は気候変動シナリオによって大きく異なり,サンゴ礁の保全には温室効果ガスの排出削減が必要であることが示された。温室効果ガスの排出を削減するとともに,現在起こっているサンゴ礁の衰退に対処し保全を行うことが必要である。サンゴ礁保全に関して国際・国内において様々な取組がなされており,日本では,2016年に起こった大規模白化現象を受けて「サンゴの大規模白化現象に関する緊急宣言」が取りまとめられた。今後,気候変動対策との連携を深め,温室効果ガスの排出削減とともに,気候変動の影響の適応策を立案し実施することが必要とされている。

解説
  • 藤田 道男, 山崎 麻里, 藤田 和也
    2017 年 19 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    気候変動等により影響を受ける脆弱なサンゴ礁生態系を保全するためには,国,地方公共団体,事業者,研究者,国民といったあらゆる主体が気候変動対策及びサンゴ礁生態系の保全に向けた取組を理解し行動していくことが重要である。本稿では,環境省の取組として,サンゴ礁生態系に影響を与える気候変動の現状及び将来予測を紹介し,パリ協定の目標達成に向けて各主体が取り組むべき気候変動対策について解説するとともに,「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」について概説し,最後に,西表石垣国立公園の石西礁湖におけるサンゴ礁生態系保全の取組の内容について解説する。

事例紹介
解説
  • 金城 賢, 出井 航, 津波 昭史
    2017 年 19 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    沖縄県は,「沖縄21世紀ビジョン基本計画」の下,サンゴ礁の保全や再生について様々な取り組みを行ってきた。赤土等の流出防止対策,下水道や農業・漁業集落排水施設,浄化槽など各種汚水処理施設の整備,保全利用協定制度の普及など,環境部だけでなく他の関係部局とも連携して実施してきたところである。本稿では,沖縄県が取り組む事業内容について報告するとともに,自然保護課において実施しているサンゴ礁保全再生に係る事業についても報告する。

  • 中野 義勝
    2017 年 19 巻 1 号 p. 77-85
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー
  • 金城 孝一
    2017 年 19 巻 1 号 p. 87-94
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    沖縄県周辺のサンゴ礁は,陸域に接した裾礁タイプが多く,比較的コンパクトで礁池のような半閉鎖的な地形を形成していることが多い。農地や開発現場等から礁池内に赤土等が流入すると,礁池内を広く長期にわたり濁らせるうえに,赤土等は外海まで到達せずに礁池内に堆積する傾向が強い。また生活排水,畜舎排水および化学肥料等のサンゴ礁への過剰な流入は,礁池内の栄養塩濃度の上昇を引き起こすとされる。サンゴ礁生態系を今後も健全に保つためには,その中心である造礁サンゴを保全することが必要である。そのため陸域からの環境負荷物質,特に土壌や栄養塩の流入を日頃から減らすよう努めることで,水環境を良好に保ち地域規模のストレスを軽減することにより,サンゴ礁生態系がもつ回復力を高めておくことが重要である。土壌流出対策に関しては,沖縄県赤土等流出防止条例や沖縄県赤土等流出防止対策基本計画など行政施策が施行されており,その効果が期待される。栄養塩流出に関しては,栄養塩各因子のサンゴへの影響の度合いや,影響のメカニズムなど,十分解明されていない事項も多いが,生サンゴ被度には栄養塩濃度が有意に関与していることが示唆されることから,栄養塩の過剰な流入を抑制するなどの対策が必要である。そのためには,目標となる水質環境指針値策定に向けた取り組みが急がれる。

原著論文
  • 中野 拓治, 畑 恭子, 金城 健正, 渡辺 暢雄
    2017 年 19 巻 1 号 p. 95-108
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    与論島周辺海域のサンゴ被度と数値解析から得られた水温や硝酸性窒素の値には明らかな負の相関が示されるなどサンゴ生態系への影響要因として与論島周辺海域の潮流条件や窒素等の陸域由来の栄養塩が関与していることが示唆された。環境保全型営農手法の導入による陸域の栄養塩管理と海域潮流場・物質輸送モデルの構築・モニタリングを通じて,陸域に由来する栄養塩等の負荷低減対策の重要性の認識と啓発を図りながら,サンゴ礁創生推進エリアを設定して効果的な対応策を講じることが必要である。与論島におけるサンゴ礁生態系の保全・再生を図るためには,沖縄県糸満市地下ダム流域での取組も参考にしつつ,地域の暮らしとサンゴ礁生態系のつながりを意識して,環境の創造・保全に地域自ら取り組んでいくことが重要である。農林水産・観光産業の振興と自然環境の保全・再生の両立を目指して,都市と農山漁村の交流を深めつつ,地域の暮らしとサンゴ礁生態系のつながり構築に向けて,積極的に対応することが求められる。

解説
  • 中西 康博
    2017 年 19 巻 1 号 p. 109-118
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    本来貧栄養である熱帯・亜熱帯海域において,特筆的に高い生物多様性と生産性を育むサンゴ礁生態系が近年急激に衰退しつつある。そのおもな原因として,海水温の異常上昇のほか,陸域由来の過剰な栄養流出によるサンゴ礁海域,とくに礁池の富栄養化が指摘されつつある。そこで本報告では,南西諸島のサンゴ礁島嶼を対象とした既往研究成果から,当地の基幹作物であるサトウキビ栽培の初期に短期集中する不合理な施肥が,最終的にサンゴ礁海域の富栄養化と酸性化を引き起こす危険のあることを示すとともに,硝酸態窒素による地域水環境への負荷低減と,サトウキビ栽培農家の収益増の双方利益をもたらす施肥改善策を提示する。

原著論文
  • 比嘉 義視, 新里 宙也, 座安 佑奈, 長田 智史, 久保 弘文
    2017 年 19 巻 1 号 p. 119-128
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    恩納村漁協では,サンゴ礁保全に積極的に取り組むため,1998年から養殖やサンゴの植え付けにより親サンゴを育て,これら親サンゴが産卵することでサンゴ礁の自然再生を助ける「サンゴの海を育む活動」を行ってきた。この活動の一環として,砂礫底に打ち込んだ鉄筋の上や棚上でサンゴを育成する「サンゴひび建て式養殖」と呼ばれる方法を行っている。養殖しているサンゴは,2017年3月末現在で約24,000群体,養殖している種類は11科15属54種である。サンゴ養殖の効果として,一年間の養殖群体の産卵数が約57億,産卵後2日後の幼生数は約27億が供給されると期待される。また,養殖サンゴに棲み込む魚は,スズメダイ科Pomacentridae魚類を中心として約33種,約67万個体と推定された。養殖しているウスエダミドリイシAcropora tenuis 163群体の遺伝子型を調べたところ,これらは81群体由来であることが判明した。2016年夏季には,高水温により恩納村地先でも大規模な白化現象が見られたが,養殖サンゴの生存率は,養殖場周辺に植付けたサンゴや天然サンゴの生存率と比較して高かった。サンゴひび建て式養殖で大規模にサンゴを育成することは,サンゴ礁再生の一助になるものと期待できる結果となった。

事例紹介
解説
  • 鈴木 倫太郎
    2017 年 19 巻 1 号 p. 135-142
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    2016年の夏に生じた造礁サンゴ類の白化現象は,先島諸島においてその被害が深刻であった。この白化現象に際し,WWFサンゴ礁保護研究センターでは,石垣島周辺の白化現象の状況を確認する共に,NGOとして様々な分野の人々が一体となって環境問題に取り組むことがその役割との考えの基,海況の調査や情報を発信する取組を行った。石垣島では,研究者とともに白保海岸と米原海岸においてUAVを用いた共同調査を実施し,白化現象の状況を上空より把握した。また,サンゴの白化の状況について,研究者が白化現象の広がりを解析する為の情報の提供を行った。他にも,海の事業者と協働して石垣島と宮古島において白化情報発信プロジェクトを立ち上げ,白化現象の状況を発信する取組に参画と支援を実施した。このプロジェクトにより,多くの事業者と白化現象に関する情報を共有し,2016年の夏に起きた白化現象について発信を行った。今回WWFジャパンは,石西礁湖のサンゴ礁生態系の保全を目的とした,サンゴ礁保全に資する環境認証の制度構築をめざし,調査と検討を開始した。その結果,環境認証を適用することにより,サンゴ礁生態系の保全・再生に向けて,肉用牛の畜産,サトウキビ栽培,パイナップル栽培,漁業,観光業などにおいてその適用可能性を見出すことができた。

  • 宮本 育昌
    2017 年 19 巻 1 号 p. 143-149
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    2016年に沖縄を中心に発生したサンゴ大規模白化に対する民間の取り組みを概観する。また,市民が取り組めるサンゴ礁保全およびサンゴ白化対策を提案する。

総説
  • 古川 恵太
    2017 年 19 巻 1 号 p. 151-160
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    健全な海洋・沿岸域は,人々に水と酸素を供給し豊かな恵みをもたらすことで,貧困の根絶,食糧の安全保障,人々の雇用,観光,自然災害からの防護等,重要な役割を果たしてきている。この海洋・沿岸域を持続的に保全・再生・利用していくためには,「海洋・沿岸域の総合的管理」により海洋・沿岸域の諸問題を総合的に,かつ関係者が主体となって対処する制度・体制を構築してくことが肝要である。本稿では,まず海洋・沿岸域の総合的管理についての世界の現状,日本の現状を解説し,問題解決手段としての海洋・沿岸域の総合的管理を解説した。その上で,竹富町の海洋基本計画の実施などを例にとり,自然の理解に基づく対策と住民参加に基づく対策を融合させ,人材育成をしながら事業・制度を充実させ,国や世界の動きと連携した重層的な取り組みを推進していくことにより,サンゴ大規模白化対策に向けた取り組みの礎を作っていくことが肝要であることを示した。また,地域の内外の取組みをネットワーク化し,水平展開することで,対策実施を地域的な取り組みにとどめず,わが国挙げての事業として,さらには国際的な取り組みの中で世界の先進事例として実施していくべきであると指摘した。

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