日本サンゴ礁学会誌
Online ISSN : 1882-5710
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21 巻, 1 号
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解説
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総説
  • 栗原 晴子, 渡邉 敦
    2019 年 21 巻 1 号 p. 35-47
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー

    パラオには限られた国土の中に多様なサンゴ礁環境が存在し,世界有数の生物多様性を誇る。これら環境資源を利用した観光産業を基盤として,パラオの社会経済は成り立っている。しかし,気候変動による影響が進行する中,近年の観光客の急増も伴い,ローカルな環境負荷の増大が報告されており,サンゴ礁環境への複合的な影響が懸念されている。今後,生態系を基盤とした持続可能な社会をいかに実現させていくかが,パラオにとって大きな課題となっている。海洋環境資源の持続可能な利用をめざす上では,現行の環境状態に将来予測される気候変動による影響を加えた状態を「ベースライン」とした上で,重畳するローカルな環境負荷に対してどのような環境政策を講じていくかが重要だと考えられる。そこで,本論文では,気候変動下における小島嶼国の適応策のあり方を検討するために,温暖化,海面上昇および酸性化とパラオサンゴ礁との関係について,これまでの科学的知見を元に,気候変動下での「ベースライン」を提示することを目的とした。その結果,パラオでは他のサンゴ礁海域に比較して,海洋環境は健全な状態に維持されており,現在までのところ白化に対する回復力が比較的高く保たれており,およそ10年以内で大規模白化から回復可能なことが示唆された。また多様な海洋環境が維持されていることに起因して,海域によっては今後50~100年後に予測される酸性化や温暖化環境に対してもある程度適応可能な性質を有するサンゴが維持されている可能性が示された。加えて海面上昇に対する適応力も高い可能性が示された。パラオサンゴ礁で,このような健全な環境と高い復元力と適応力が維持されてきた要因として,海洋保護区や環境税など国家的な環境政策が大きく関係していると考えられ,パラオ国民の環境保全に対する意識の高さが大きく寄与していると考えられる。今後パラオなどの島嶼国において持続的な社会を実現していくには,気候変動を加味した上での長期的な戦略に基づいたローカルストレスの対策により,健全で回復力の高いサンゴ礁環境を維持していくことが,益々重要となってくると考えられる。

解説
  • 鹿熊 信一郎
    2019 年 21 巻 1 号 p. 49-62
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー
  • 山野 博哉
    2019 年 21 巻 1 号 p. 63-71
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー

    熱帯の環礁上に成立する小島嶼国は,サンゴ礁に生息する造礁サンゴや大型底生有孔虫など石灰化を行う生物起源の砂礫から構成され,被覆するマングローブなどの植生が海岸を安定化させ侵食から守る働きをしている。海面上昇など気候変動による影響に小島嶼国が適応するためには,生態系保全に基づく国土の維持という視点が非常に重要である。本稿では,ツバルをはじめとする小島嶼国において,生態系保全に基づく国土の維持に向けたこれまでの取組を紹介する。

  • 大澤 隆文, 木村 匡
    2019 年 21 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー

    サンゴ礁の保全に関して,国際サンゴ礁イニシアティブ(International Coral Reef Initiative : ICRI)と呼ばれるユニークな枠組みが設けられ,研究・モニタリング,持続可能な管理,能力養成,活動の評価・再検討等が推進されてきた。2年毎に入れ替わる事務局がとくに寄せる関心事項に応じ,総会での議論や行動計画の内容は変遷を遂げてきたが,ここ数年間でとくに見られる特徴としては,ICRI独自で資金調達を行い,個別の保全事業に対して助成を行えるようになったことのほか,関連する国際的枠組み・機関との連携やモニタリングの取組を強化しようとしていることである。本稿では,こうしたICRIの昨今(主に2016年以降)の活動について概説するとともに,ICRIに関連する国際的枠組みの動向や日本が果たしている役割についても紹介する。

  • 木村 匡
    2019 年 21 巻 1 号 p. 81-90
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー

    The Global Coral Reef Monitoring Network (GCRMN) was developed by the International Coral Reef Initiative (ICRI) established in 1994 to collect scientific information to support coral reef conservation. GCRMN adopted a top-down system with a global coordinator overseeing 17 nodes that cover global coral distribution. In the beginning of GCRMN history, Northeast Asia node and Southeast Asia node were located within the East Asia region. Both nodes have fused into a single “East Asia Region” node since a joint meeting held in 2002. The network of this region has been reconstructed to recognize ownership of the region’s reefs as “Our Reef” and is building up a strong bottom-up framework for enhancing the initiative on coral conservation. The network has been attempting to adopt a formalized framework as the “Asia Pacific Coral Reef Society”.

  • 岡地 賢, 小笠原 敬, 山川 英治, 北村 誠, 熊谷 直喜, 中富 伸幸, 山本 修一, 中嶋 亮太, 金城 孝一, 中村 雅子, 安田 ...
    2019 年 21 巻 1 号 p. 91-110
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/03
    ジャーナル フリー

    サンゴ群集のおもな死滅要因となっているオニヒトデ大量発生の抜本的な対策を検討するため,沖縄県は,2012年から2018年にかけて「オニヒトデ総合対策事業」を実施し,大量発生要因に関する複合的な調査研究と,沖縄島・慶良間諸島を対象とした大量発生予測のためのモニタリングおよび実証調査を行った。その結果,1)オニヒトデ個体群の形成・維持に有効な幼生分散は比較的ローカルなスケールの可能性が高いこと,2)オニヒトデ幼生はおもな餌である植物プランクトンの他にも,デトリタスやサンゴ粘液といった有機物を補助的な餌として利用できること,3)沖縄島の沿岸海域では,降雨により陸水が流出すると植物プランクトンなど幼生の餌が増加しやすいこと,4)着底後,半年前後の稚ヒトデの密度をモニタリングすることにより2年後の成体個体群の増加を予測しえることがわかった。これらをふまえ,今後のオニヒトデ対策として,短期的には範囲を限定した繰り返し駆除と稚ヒトデモニタリングによる大量発生予測,長期的には沖縄島沿岸の水質改善が提案された。

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