遺伝的に雄性不稔性を示す, ヒマワリ(P 21 ms)の花粉退化現象について, 稔性, 不稔性個体の種々の発育段階の葯を供試し, 組織学的な調査を行なつた. 花粉の発育段階の4分子期までは, 両稔性間にとくに明らかな差異は認められなかつた. 4分子期以後, 小胞子期にかけて, 稔性葯では, タペート剤朋包壁が消失し, 原形質が葯腔内に充満し, プラズモジューム型のタペートの行動をとり, 発育にしたがつて, 花粉粒は充実し, 完全な形となり, 葯腔内に充満していた原形質は消失する. 一方, 不稔性個体の葯では, 小胞子期になつても, タペート細胞壁が存在し, このため, タペート細胞の原形質は葯腔内に流出することなく, タペート細胞は異常に肥大して小胞子は正常な発育を示さず. 不整形のままで退化する. また, 小胞子期のタペート細胞核は, 稔性のものでは, 細胞の葯壁側に一様に片寄つて配列し, 形はいびつとなつて存在するが, 不稔性のものでは, 細胞の中心部に位置し, 大きく, 形も整つている. タペート細胞質はタンパク質の反応を示す黄色に染色され, また, 多糖類の反応を示す赤色顆粒は, 葯の発育初期の葯壁に多量に見いだされた, 組織化学的な反応は組織によつて明らかに異なつているが稔性による差異は明らかでなかつた. これらの観察結果より, このヒマワリの雄性不稔性は, タペート細胞壁の崩壊の遅延と密接に関係しており, また, タペート細胞の核の位置, および形とも, 密接に関係していると推定された.
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