水田はイネ,雑草,ソウ類,土壌生物,土壌,田面水より構成された1つの生態系と考えることができる. 著者らは,この系の動態,これに及ばす環境要因,圃場管理の影響を,炭素の循環の面から明らかにすることを目的として本研究を開始した. 本報告では田面とそれに接する気層との間のCO
2交換の日変化,その季節的推移,ならびにそれらに影響する要因について検討した. 主要な結果は次の通りである. 1. 湛水期間を通し,夜間には田面水から大気に向けてのCO
2の放出がおこる. 日の出後時刻のすすみに伴い,CO
2放出量は減少し,イネの生育初・中期においては,やがて大気から田面水へのCO
2の吸収がみられるようになる. CO
2の吸収速度は午後最大値に達した後下降し,夜間には再び田面水から大気へのCO
2の放出がおこる. このようなCO
2交換速度の日変化は日射強度の日変化と密接な関係を示す. しかし前者の推移は後者のそれに比べかなり遅れ,日没後もしばらく田面水によるCO
2の吸収がつづく. 稲の生育がすすむと,日中における大気から田面水へのCO
2の吸収はみられなくなり,1日を通じてCO
2の放出がおこるが,放出速度は日中小さく,夜間大きい. CO
2交換速度の日変化の幅は,イネ生育初期に大きく,その後次第に小さくなる. 2. 田面水中の全炭酸濃度(DIC)は夜間増加し,日中低下する. 田面水のpHは夜間低下し日中上昇する. DIC,pHから計算により求めた遊離CO
2分圧(pCO
2)の時刻的推移はDICのものと似ているが,日変化の幅はいっそう大きい. DIC,pH,pCO
2の日変化の幅はイネの生育の初期に大きく,群落が繁茂し,その葉層の光透過率が減少するにつれて小さくなる. 以上のようなDIC,pH,pCO
2の動きは,ソウ類の光合成によるCO
2の取り込み,ソウ類,土壌および田面水中の生物,イネ地下部などの呼吸によるCO
2の発生によりひきおこされるものと考えられる. 3. 田面水のpCO
2と大気・田面水間のCO
2交換速度との関係を検討し,両者の間に一定の量的関係が存在することを認めた. このことから前記の関係を基礎に,DICおよびpHから求めたpCO
2によりCO
2交換速度を求めることが可能であることが示唆された. 4. 非作付け期間には供試水田は落水状態に保たれたが,この時期には昼夜を通じ,土壌から大気へのCO
2の放出がおこった. その速度は夜間小さく,日中に大きく,日変化は地温の日変化と密接な関係を示した. しかし同一温度下で比較した場合,昇温過程では降温過程よりもCO
2の放出速度が大きかった. 日平均地温と日平均CO
2放出速度の対数との間に,高い正の相関が認められた.
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