日本作物学会紀事
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67 巻, 1 号
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  • 小柳 敦史
    1998 年 67 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    根系の深さは作物の収量性や環境ストレス耐性と密接な関係にあるといわれる.しかし, これまでは深さの定義があいまいで, 根系の深さの定量化は遅れていた.そこで, 深さを根量で重み付けして平均する「根の深さ指数」を導入して, これまでに発表されたイネ, コムギおよびダイズのいくつかの文献データを用いて根系の深さの平均値を求めた.その結果, 同じ栽培条件でもイネが他の作物に比べて半分程度の浅い根系を作ることや根系の深さに統計的に有意な品種間差異があることが示された.また, 同じ品種でも根系の深さは栽培環境によって変化し, 土壌の乾燥で最高4割程度, 低窒素条件で1割程度深くなることが確認された.これらの知見に基づいて, 作物の耐乾性の向上には根系が深くて根の水分反応性の高い品種を開発すること, 耐倒伏性の向上には栽培土壌の物理的な特性に応じた根系形態が必要であることなどを指摘し, 多収を目指した根系の遺伝的改良と栽培管理の方法についての考察を行った.
  • 江原 宏, 森田 脩, 金子 忠相, 藤山 堯然
    1998 年 67 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    苗立ち密度が散播水稲個体の生育と収量に及ぼす影響を明らかにすることにより, 収量補償作用が発現する要因を明確にするため, 偏穂数型品種ヤマヒカリの湛水土壌中散播栽培において, 32, 64, 96, 160本/m2の苗立ち密度を設けて生長解析と収量調査を行った.生育初期の相対分げつ速度(RTR)と相対生長率(RGR)は高密度側(96本区, 160本区)で大きく, 生育中期以降は低密度ほど大きく維持された.RGRの密度間差は, 生育初期は高密度ほど葉面積比(LAR)が大きかったこと, 生育中期以降は低密度ほど純同化率(NAR)が高く維持されたためであった.比葉面積(SLA)は生育期間を通じて密度間差が認められ, 高密度で大きく, 低密度側で小さい傾向にあった.従って, 生育初期のLARの差はSLAの違いに基づくものであり, 生育中期以降のNARの差に対してもSLAの違いが影響を及ぼしているものと考えられた.各収量構成要素には密度間差が認められたが, 苗立ち密度に対する各々の変動は異なっており, 単位面積当たり籾収量に有意差はみられず, 収量の補償作用が確認された.その内容としては, 低密度側(32本区, 64本区)では生育後期までNARが高く, RTRが高く維持され, 個体当たり穂数は低密度ほど多かったことが収量補償に向けた第1番目の変動といえた.しかし, 苗立ち密度の差が大きかったため, 個体当たり穂数の変動で補償しきれなかった分を1穂籾数の変動が補償したものと考えられた.また, 播種後58日以降, NAR並びにRGRと1穂籾数との間には正の関係が窺われた.
  • 山本 由徳, 池尻 明彦, 新田 洋司
    1998 年 67 巻 1 号 p. 20-25
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    乳苗と稚苗の移植直後の生育と苗体内(地上部)の成分含有率の変化を比較し, 移植に伴う体内成分の変化の様相から乳苗の活着特性について検討した.1)稚苗では移植後3日目にかけての草丈の伸長および出葉が停滞したが, 乳苗ではこのような停滞は認められなかった.乳苗では移植後2~3日目頃から第1節冠根の発生がみられ, 葉齢4.0付近までは葉齢に対する発根時期が稚苗にくらべて早かった.2)乳苗の窒素(N)含有率は移植後直ちに, またリン(P)とカリ(K)含有率は移植後3日目から増加に転じたが, この時期は稚苗にくらべて2~3日早かった.移植直後の乳苗地上部の無機成分蓄積に対する胚乳の寄与率は成分によって著しく異なり, P>N>Kの順に高かった.3)乳苗では移植直後から全糖含有率が減少したのに対して, 稚苗では移植後3日目にかけての植え傷みに伴い, 全糖含有率の増加が認められた.4)乳苗では移植後も停滞することなく胚乳中のデンプンの糖化が進み, 生長に利用されたものと考えられた.胚乳中のデンプンは移植後7日目にほぼ消尽した.5)活着後の無機成分含有率は乳苗で, また炭水化物(全糖+デンプン)含有率は稚苗で高く推移した.6)以上の結果より, 乳苗では稚苗にくらべて移植に伴う植え傷みが小さく, 活着がスムーズで移植直後の苗地上部に糖の蓄積がみられず, 無機成分含有率の回復が早いことが明らかになった.
  • 平 俊雄
    1998 年 67 巻 1 号 p. 26-29
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    1993年の低温と1994年の高温が水稲品種の食味と理化学的特性に与えた影響について検討した.1993年は登熟期の低温のためアミロース含有率は高かった.また, 7月, 8月が低温であったため水稲に不稔が多く玄米窒素含有率が高まった.一方, 1994年は登熟期の高温のためアミロース含有率は低かった.アミロース含有率と玄米窒素含有率の増加はブレイクダウンを低下させ, 登熟期の低温と高温によるアミロース含有率の変動はブレイクダウンの変動に大きな影響を与えた.1994年はアミロース含有率の低い品種は食味が良かった.一方, 1993年はアミロース含有率が高まり食味は低下したが, アミロース含有率と食味の間に明らかな関係はみられなかった.
  • 今林 惣一郎, 尾形 武文, 松江 勇次
    1998 年 67 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    米の理化学的特性値の年次間および産地間変動を明らかにし, その変動要因を検討した.年次間と品種間の分散成分の値を比較するとアミロース含有率, 最高粘度およびH/A3では年次間の分散の方が品種間の分散より小さく, 逆に, タンパク質含有率, ブレークダウンおよびH/-Hは年次間の分散が品種間の分散より大きかった.年次間の変動は, アミログラム特性およびアミロース含有率は登熟温度の影響が大きかったが, テクスチャー特性は登熟温度以外の影響が考えられた.理化学的特性値からは1994年の食味が良かったと推察された.また, 米の理化学的特性の年次間変動の大小には品種間差が認められた.同一品種を用いて理化学的特性における産地間の変動をみると, テクスチャー特性のH/A3, H/-Hとタンパク質含有率は産地による変動が大きかった.一方, アミロース含有率およびアミログラム特性は, 産地による変動が小さかった.テクスチャー特性の変動が大きかった要因として, 窒素施用量の違いによるタンパク質含有率の変動によってテクスチャー特性が大きく影響を受けたことが考えられた.アミロース含有率およびアミログラム特性の産地間の変動が小さかった要因としては, これらの形質が作期が大きく異ならない場合においては栽培環境受験よりも品種固有の遺伝的特性に強く支配されているためと考えられた.
  • 大里 久美, 浜地 勇次, 川村 富輝, 今林 惣一郎
    1998 年 67 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    米の食味はアミロース含有率と相関がある.しかし, アミロース含有率は出穂期と相関が高いため, アミロースの低い品種を選抜することは早生に偏る危険性がある.そこで, 出穂期に対する精米のアミロース含有率の一次回帰式を計算し, 得られた回帰からの偏差に全測定値の平均値を加えた値を補正アミロース含有率とした.気象条件の異なった3年間ともに補正アミロース含有率と食味との相関係数は有意であり(r=-0.535&lt:**&gtl:, -0.439&lt:**&gtl:, -0.589&lt:**&gtl:), 補正アミロース含有率の低い品種は良食味となる傾向にあった.補正アミロース含有率と翌年の食味との相関係数は3年間とも有意であり(-0.470*, -0.417&lt:**&gtl:, -0.479&lt:**&gtl:), 補正アミロース含有率の低い品種ほど翌年の食味が優れる傾向であった.このように, 補正アミロース含有率は良食味品種を選抜する際の有効な指標であった.したがって, この値を指標とすれば早生に偏ることなく, 良食味品種の選抜が可能であると考えられる.また, 搗精を省略した玄米の補正アミロース含有率でも精米と同様に食味との相関が認められ, 良食味品種を選抜するための有効な指標となることが明らかになった.
  • 林 茂一
    1998 年 67 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲ササニシキを供試し, 好気発芽はシャーレの吸湿濾紙上で, 嫌気発芽は水深が5cmになるように蒸留水を注入した100mL容三角フラスコ内で, それぞれ12-72時間発芽させ, 置床時間の経過に伴う根端原中心柱細胞の微細構造を, 電子顕微鏡で観察した.細胞内小器官のうち, 呼吸と深いかかわりをもつミトコンドリアは, 置床時間の経過に伴って発達し, 好気発芽の根では棍棒状ものが観察され, さらにクリステの増加も嫌気発芽のものに比べ, 置床時間のより早期に生じ, 発達も良好であった.小胞体は主に粗面小胞体がみられたが, 好気発芽の置床48時間以降は滑面小胞体も観察された.小胞体の形成は最初袋状のものが多数生じ, 以降管状に変化した.このような変化は好気発芽で置床後の比較的早い時期に認められた.また, 小胞状のものが好気発芽で48時間以降に多数観察された.リボソームのポリソーム化が好気発芽で盛んであった.ゴジル体も好気発芽の根で発達が良好であった.脂質体は好気発芽では置床後48時間で消失したが, 嫌気発芽では72時間になっても存在した.プラスチドへのデンプンの蓄積は好気発芽でのみ観察された.以上のことから, 好気発芽においては嫌気発芽におけるよりも, 根の物質代謝が旺盛となるような微細構造が確認された.
  • 小柳 敦史, 南石 晃明, 土田 志郎, 長野間 宏
    1998 年 67 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    転換畑や田畑輪換など水田の汎用的な利用を前提とした水田営農において不耕起栽培技術の導入が検討されている.そこで, 1994年~1995年に灰色低地土の水田転換畑の圃場に冬作コムギと夏作ダイズを耕起および不耕起栽培した.また, 1995年~1996年に泥炭土の水田圃場で冬作にコムギ, 夏作に乾田直播で水稲を耕起および不耕起栽培し, それぞれについて根系の調査を行った.各作物の生育の後期または収穫後に改良モノリス法で深さ30cmまでの土壌を採取して, 5cm角の立方体に分けて根を洗い出し, ルートスキャナーで根長を測定した.その結果, 根長密度はダイズと水稲では深さ5cmより浅い層では不耕起区で高く, それより深い層では逆に耕起区のほうが高い傾向にあった.一方, コムギについては全層において不耕起区で根長密度が低く, 特に深さ5~15cmの層で差が著しかった.これらのデータから根系全体の平均的な深さを示す根の深さ指数(RDI)を算出した結果, 水稲とダイズでは耕起区に比べて不耕起区で値が小さく不耕起栽培による浅根化がみられたが, コムギでは深さ指数に大きな違いはなく, 不耕起栽培による浅根化はみられなかった.不耕起栽培したコムギで浅根化がみられなかった理由のひとつとして, 冬期間の降水量が少なかったことが考えられる.
  • 新田 洋司, 山本 由徳, 藤原 富起
    1998 年 67 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の伸長茎部の連続横断切片を光顕観察し, 節横隔壁形成部と冠根原基との関係について検討した.その結果, 1)伸長茎部の各節横隔壁形成部も不伸長茎部と同様, 辺周部維管束環の形状にもとづいて, 茎の頂端側から基部側に向かって, 分断部I(葉鞘の中肋側で1~2箇所で分断)→分断部II(葉鞘からの大・小維管束の貫入によって多数箇所で分断)→非分断部の3部位に分けられた.2)冠根原基は, 辺周部維管束環が認められた止葉節と, それより基部側の各節横隔壁形成部の分断部IIのなかの茎軸方向の短い範囲に形成されていた.分断部IIでは, 辺周部維管束環が葉蛸からの大・小維管束の貫入によって分断されて冠根原基が形成される「場」が小さいために, 冠根原基の直径が小さく, 出現する冠根も細いと考えられた.3)頂端側の伸長茎部(止葉節とその基部側2節)では, 冠根原基数の多・少について, 節位の上下による一定の傾向は認められなかった.また, 伸長茎部では, 冠根原基と葉蛸の大・小維管束の数の対応関係は認められなかった.4)不伸長茎部における冠根原基の形成の様相と考えあわせると, 冠根原基形成部位を節横隔壁形成部付近の頂端側・基部側の2箇所と限定した従来の考え方は, 水稲では改めなければならないと考えられた.
  • 田中丸 重美, 林田 慎一, 望月 俊宏, 古屋 忠彦
    1998 年 67 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネ科17種19作物とマメ科11種作物を供試し, 人工的に圧縮して作成した硬い土層への種子根・主根の貫入率および貫通率を調査し, その作物種間差について検討した.2.54mmの網目の篩を通し, 水分含量13%に調整した砂壌土を用い, 油圧ポンプで加圧して厚さ1cmの圧縮土層を作成した.圧縮土層の硬度は, 山中式土壌硬度計による絶対硬度表示で11~87kgcm&lt:-3&gtl:であった.トウモロコシ(Zea mays L.)を除く27種29作物の種子根・主根は11kgcm&lt:-3&gtl:より硬い土層に貫入したが, 貫入が認められた土層の硬度の最高値は作物によって異なり, イネ科では六条オオムギ(Hordeum vulgare L.)の73kgcm&lt:-3&gtl:, マメ科ではモスビーン(Phaseolus aconitifolius Jacq.)の59kgcm&lt:-3&gtl:が最も高かった.供試個体中の81%以上の個体の種子根・主根が11kgcm&lt:-3&gtl:の土層を貫通したのは, イネ科では7作物, マメ科では4作物であった.なお, トウモロコシを除いたイネ科作物間には, 種子根根径が大きい作物ほど貫通力が大きく, 逆にシロクローバー(Trifolium repens L.)を除いたマメ科作物間には, 主根根径が小さい作物ほど貫通力が大きい傾向がみられた.
  • 齊藤 邦行, 磯部 祥子, 黒田 俊郎
    1998 年 67 巻 1 号 p. 70-78
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ダイズ品種タチスズナリを供試し, 1992年から1994年の3カ年にわたって栽植密度3水準で圃場試験を行った.収量構成要素と収量との関係を花房の着生位置に着目して調査・解析した.収量は密植ほど高い傾向にあり, 高温多照の1994年に最も多くなった.収量と有意な相関関係にあったのは莢数のみで, 莢数と一莢粒数, 百粒重, 結実率との間には有意な負の相関がみられた.開花の推移は年次間の相違が大きく, 特に花蕾数の多かった1994年では開花が持続的かつ長期にわたった.花器脱落は莢が伸長を開始する開花始後20~30日に著しいピークを示した.莢数は高次位(2次以上の花房)に比べ低次位(0・1次花房)で多く, その程度は密植区で著しかった.密植ほど上位節の莢数構成割合は増加した.莢数は花蕾数と有意な正の相関が認められたが, 結莢率は各区で50%前後となり, 莢数に及ぼす影響は小さかった.結莢率は高次位に比べ低次位で若干高かったが, 花房の着生位置による相違は小さかった.花蕾数は総節数, 一節花蕾数との間に高い正の相関が認められた.また一節花蕾数は主茎上位で多かった.一節花蕾数を一節花房数と一花房花蕾数に分けてみると, これらの間には相互に有意な正の相関がみられた.また, 低次位の花蕾数は一花房花蕾数の, また高次位の花蕾数は一節花房数の影響を大きく受けていた.以上の結果, ダイズの収量成立過程における莢数の変動は, 花器脱落に比べ花蕾数の多少により大きく影響されることが明らかとなった.
  • 郡 健次, 齊藤 邦行, 黒田 俊郎, 熊野 誠一
    1998 年 67 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    中生品種タチスズナリを供試して圃場栽培を行った.開花前後の8週間について, 1週間ずつの短期遮光処理(遮光率89%)を行い, 各処理区の花蕾数と結莢率を調査した.開花前28~15日の遮光は低次位(0・1次花房)花蕾数を減少させ, 開花後1~21日の遮光は高次位(2次以上の花房)花蕾数を減少させた.したがって, 低次位花蕾数は生育初期の比較的短期間に決まるのに対し, 高次位花蕾数は開花後の栄養条件に応じて, シンク容量を調節する役割をもつと考えられた.結莢率は高次位花房の花蕾に比べ, 低次位花房で高かった.生育初期の遮光処理(開花前28~15日)では花蕾数の減少を補償するため結莢率は高まったのに対し, それ以降の遮光はいずれの時期でも脱落を促進し, 低次位・高次位花房ともに結莢率を低下させた.すなわち, 開花後のみならず開花前の栄養条件は開花後の花器脱落に影響することがわかった.さらに, 開花前30~10日と開花後20日間に3段階の遮光処理を行い, 花蕾数と乾物生産の関係を検討した.遮光率が高くなるに従って, 開花前の処理は低次位花房花蕾数を, 開花後の処理は高次位花房花蕾数を減少させた.NARと花蕾数の間には密接な正の相関関係が認められ, NARの低下に従って花蕾数が減少したことが推察された.花蕾数をより多く確保するためには, 初期生育を旺盛にして低次位花房花蕾数を増加させ, 開花期以降も高いNARを維持することにより高次位花器の分化・発育を促進することが重要と考えられた.
  • 齊藤 邦行, 磯部 祥子, 黒田 俊郎
    1998 年 67 巻 1 号 p. 85-90
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ダイズ収量成立過程を解析するには, 花器の分化と発育過程を明確にする必要がある.花房の着生位置に着目した場合, 今までの分類は煩雑で, 多くの労力を要する.光学顕微鏡による観察結果に基づいて, 花器の分化・発育ステージを, 花芽分化前(I期), 花芽分化期(II期), 萼分化期(III期), 花弁分化期(IV期), 雄ずい分化期(V期), 雌ずい分化期(VI期), 胚珠・葯分化期(VII期), 花粉・胚嚢形成期(VIII期), 開花期(IX期), の9期に分類した.特定の節に着目すると, 花芽は低次位から高次位へ花房次位の序列に従って分化した.個体内では2次の花芽が最も早く分化したが, III期以降は0, 1次の花器の発育が最も速く進行した.低次位の花芽は分化後急速に発育したのに対し, 高次位の花芽では分化後の発育はゆっくりと進行した.0, 1, 2, 3次の花芽は開花始前までに分化し, 4, 5次の花芽は開花始後に分化した.また, 0, 1次の花芽の分化・発育は全ての着生位置で開花始前の短期間に集中して行われたのに対し, 2次以上の花芽では開花始前後の長期間に及んだ.従って, 低次位の花蕾数は開花始前に, 高次位の花蕾数は開花始後に決定することが推察された.出葉日と花器の分化・発育との対応関係をみると, 主茎第4, 7節は出葉後に花芽が分化したのに対し, 10節以上は花芽分化が出葉より早くおこり, 花芽の分化は栄養生長とは無関係に, 各節でほぼ一斉に開始されることがわかった.
  • 斎藤 邦行, 杉本 充
    1998 年 67 巻 1 号 p. 91-93
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    自然光下で生育した水稲の暗呼吸速度(Rr)の日変化と日変化に影響する要因を検討するため以下の3つの実験を行った.水田に生育した水稲を用いて, 18時から翌日18時までの24時間連続して暗黒下におけるRrの経時変化を測定した(実験I).Rrは暗期移行後急速に低下して翌朝までほぼ一定で推移し, 午前5次をすぎると, 生育初期には急速に低下, 最高分げつ期以降には上昇し("morning rise"MRと略記), 最大値を示す時刻は登熟後期ほど遅くなった.各時刻のRrは生育の進みに従い小さくなった.早朝から夕刻まで3段階の遮光処理を行い, 18時以降Rrの測定を行った結果(実験II), 遮光率が大きくなるとRrは低くなったが, 暗黒下においた個体(100%遮光)のRrは80%遮光区に比べ高くなった.ポット栽培し, 野外で孤立状態にある個体を早朝6時から, 18時まで3時間おきに5回, 明所から暗黒下のチェンバーへ移してそれぞれ3時間のRrの経時変化を測定した(実験III).各3時間の測定において, いずれの測定時刻においてもRrは測定開始直後急速に低下した後に上昇して極大値を示し, その後低下する経時変化が認められた.Rrの最大値は午前中に認められ, 夜間に比べ日中のRrは1.3~2倍の値を示した.実験IIより暗呼吸速度は夕刻になるほど高くなると考えられたが, Rrの日変化のピークは午前中にみられ, この日変化とMRを示す時刻がよく一致したことから, Rrの日変化は主として内生的なリズムにより制御されている可能性が示唆された.
  • 平野 貢, 保坂 優子, 杉山 美保子, 黒田 栄喜, 村田 孝雄
    1998 年 67 巻 1 号 p. 94-100
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲品種ひとめぼれへの登熟期窒素追肥と, 品種あきたこまちの出穂前葉身摘除が, 登熟期における水稲の葉身および茎の炭水化物代謝に及ぼす影響について検討した.窒素追肥区では登熟初期には一時的に全乾物重および穂重の増加速度が低下したが, その後の増加速度は対照区を上回り, 最終的には全乾物重で30%以上大きくなった.葉身のショ糖含有率は登熟初期には対照区と大差なかったが, その後対照区では低下したのに対して窒素追肥区では登熟期間を通じて大差なかった.茎のショ糖含有量は登熟初期には窒素追肥区において明らかに小さかったが, 登熟中期以降は逆に大きくなった.茎のデンプン含有量は穂首節間および第II節間の茎上部では登熟初期には対照区と大差なかったが, 登熟中期以後は窒素追肥区では著しく大きくなった.第III節間以下の茎下部では対照区においては登熟初期から急激に低下したのに対して窒素追肥区ではむしろ増加した.デンプン含有量は茎下部において茎上部の数倍も大きかった.止葉のみまたは止葉と第II葉を残した葉身摘除の影響は, 穂重で見る限り10%程度の低下であったが, 下位節間の乾物重低下が著しかった.窒素含有率は, 葉身摘除により各葉位の葉身および節間において増加する傾向が見られ, ショ糖含有率は各葉身および節間で低下した.穂首節間のショ糖含有率はとくに低く, ショ糖転流との関係が示唆された.非構造性炭水化物およびデンプン含有量は, 葉身および穂首節間において小さく, 葉身摘除の影響は小さかったが, 第II, III節間では葉身摘除によって著しく低下した.
  • 吉田 智彦, 今林 惣一郎
    1998 年 67 巻 1 号 p. 101-103
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    最近育成の水稲良食味品種の遺伝的背景を明らかにし, 普及品種の遺伝的ぜい弱性を避ける方策を探った.福岡農試で良食味を目標にして育成された17品種(良食味品種群)と, 主要な新旧27品種との間の近縁係数を計算した.また九州農試と宮城農試で育成された多収耐病虫性の6品種(多収品種群)についても同様な計算をした.コシヒカリとの間の近縁係数は, 良食味品種群では平均で0.477と高かったが, 多収品種群では0.161と小さかった.多収品種群と近縁度の高かった品種はシンレイ, トヨタマ, ホウヨウ, 十石など過去に北部九州に広く普及していた品種で, 一方これらの品種と良食味品種群との近縁係数は小さかった.シンレイ, トヨタマなどは地域に適した遺伝的背景を有していると考えられので, 今後の新品種育成のためには, 良食味を維持しつつ, これらの品種に集積されてきた有用遺伝子を積極的に導入する必要があると考えられる.
  • 二宮 正士, 生出 真里, 高橋 信夫
    1998 年 67 巻 1 号 p. 104-108
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    作物の形態に関するデータベースのためにファジィ論理に基づく検索システムをWWW上に開発した.作物の形態は, 受光態勢や耐倒伏性, 機械化適応性などに密接に関連する形質である.近年, 画像解析手法の発達などで, 従来計測が困難であった各種草姿パラメータの定義が容易になり, 形状に関する数値データベースの構築が画像データと組み合わせて可能となった.形に係わる検索を実行する場合, 形状パラメータを数値として与えるよりは, 「より細長く草丈は中くらい」といった定性的で相対的な検索条件を設定する方が直感的で分かりやすい.そこで, ダイズの形状を例題にファジィ論理を用いて, そのような検索が可能なシステムを開発した.検索は自然言語的表現から選択して行うが, その表現に対する主観の違いから, 同じ検索条件に対して同じ検索結果を出すだけでは, 多くの人の満足を得ることができない.そこで, 複数のメンバーシップ関数, 可変なファジィ区間, 複数のメンバーシップ論理積を用意することで, 利用者の主観に応じて, より満足度の高い柔軟な検索を実現した.
  • 高橋 清
    1998 年 67 巻 1 号 p. 109-110
    発行日: 1998/03/05
    公開日: 2008/02/14
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