日本作物学会紀事
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70 巻, 1 号
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  • 小林 和彦
    2001 年 70 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    FACE(Free-Air CO2 Enrichment = 開放系大気CO2増加)は,何の囲いもしない圃場の空気中に直接CO2を吹き込んで,植生の周りのCO2濃度を高める実験手法である.FACEにより,大気CO2濃度が上昇した時の植物や生態系の変化を,現実の圃場で観察できる.1987年にアメリカで始まったFACEは,今ではアメリカとヨーロッパを中心に世界中で,農作物,牧草,樹木,自然植生を対象にした研究に用いられており,日本でもイネのFACE実験が1998年から行われている.大気CO2濃度の上昇が植物に及ぼす影響については数多くの研究があり,初期の温室や環境制御チャンバーでのポット実験から,近年のオープントップチャンバー等のフィールドチャンバー実験に至っているが,いずれもチャンバー自体が植物の生長を変化させ(チャンバー効果),それがCO2濃度上昇に対する植物の応答を変化させている可能性がある.これに対してFACEは,チャンバー効果が無い上に,大面積の圃場を高CO2濃度にできる特長があり,今や実用的な実験手法として確立しつつある.FACE実験の結果は,農作物の収量増加率については従来の実験結果をほぼ支持しているが,さらに収量増加に至る生長プロセスの変化やメカニズム,生態系の変化について,多くの新しい研究成果を生み出しつつある.今後は,FACE実験結果のモデリングへの利用,複数地点でのFACE実験実施と実験結果の比較解析,そして特に発展途上国でのFACE実験の展開が期待される.
  • 新田 洋司, 山本 由徳, 河村 剛英, 関野 亜紀, 松田 智明
    2001 年 70 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の移植栽培における一層の効率化の1方法として,乳苗の移植前貯蔵が考えられる.本研究では,乳苗の低温貯蔵による苗素質の変化を内部形態の光学顕微鏡観察により形態学的に検討した.乳苗を5.0℃で貯蔵すると,育苗終了時の乳苗(無貯蔵苗)に較べて,葉鞘が薄くなり,第2節分げつの形成が劣ったが,冠根原基数は多くなる傾向にあった.10.0℃および12.5℃での貯蔵では,茎の長さや大きさ,葉鞘の厚さ,分げつ芽の有無や大きさ,および葉鞘や茎の内部組織・細胞の形態は無貯蔵苗と変わらず,冠根原基の数は多くなった.そして,貯蔵した苗を移植すると,貯蔵中に増えた冠根原基が出現に至ることが確認された.これらのことから,乳苗は貯蔵すると無貯蔵に較べて冠根原基の数が増えることが明らかとなった.また,10.0℃および12.5℃で貯蔵した苗は,茎,葉鞘,分けつ芽等の形質は無貯蔵苗と変わらないまま冠根原基数が増えるため,無貯蔵苗よりも内部形態的な素質が優れるものと考えられた.
  • 菅井 恵介, 後藤 雄佐, 斎藤 満保
    2001 年 70 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    段階的に水位を上げる処理が水稲分げつの生長に及ぼす影響を,処理開始時の分げつ齢の差異に着目して解析した.主茎葉齢7.5の時に主茎第7葉の葉節を水没させ,その後,主茎葉齢が1進むごとに,その時点での最上位葉の葉節を水没させる処理を行った.主茎と分げつの生長の指標として,本来,個体の大きさと齢を表すために用いる草丈と葉齢とを個々の分げつの大きさと齢を表すために用いた.草丈は,深水処理開始時に出現していた2号分げつ(T2)とT3,T4では深水処理開始後6日目から,処理開始後に出現したT7では18日目から,深水処理区で高くなり,主茎の草丈の推移における傾向と類似した.T2,T3,T4の葉齢は主茎葉齢の推移と同様に35日目から対照区より深水処理区で進んだが,T7の葉齢では区間差が認められなかった.T2,T3,T4の相対葉齢差は対照区より深水処理区で小さかったが,その区間差は深水処理開始時の生育段階が若い分げつほと大きかった.主茎と各分げつとの葉齢の推移と止葉葉位との関係から幼穂形成開始期を推定した.主茎では幼穂形成開始期に区間差が認められなかったが,T2,T3,T4,T7では深水処理により幼穂形成開始期が遅れる傾向が見られた.さらに,対照区では主茎と各分げつとでほぼ同時期に幼穂形成を開始したと見られたが,深水処理区では各1次分げつの幼穂形成開始期は主茎より遅れた.以上から,段階的深水処理に対する分げつの反応は処理開始時における生育段階によって異なることが明らかとなった.
  • 中村 順行, 高野 浩, 森田 明雄
    2001 年 70 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    チャのペーパーポット(無底)を用いた育苗では,挿し木苗の移植時におけるポットからの挿し土の崩壊・脱落を防ぎ,ポット内に残る挿し土の割合(挿し上保持率)を高める必要がある.本報では,ポットの大きさ,アルギン酸ナトリウム処理及び挿し土の種類が挿し土保持率に及ぼす影響を検討した.その結果,内径の小さなポットで挿し土保持率が高かった.アルギン酸ナトリウム0.3%溶液をポット(内径6cm,深さ15cm)当たり80mL以上処理することで挿し土の固着化が進み,保持率を80~90%以上に高めることができ,その効果は,処理後無潅水で育苗することにより持続した.また,挿し土の種類ごとに挿し上保持率は異なり,砂質土あるいは赤黄色土にピートモスやもみがらくん炭を混合したもので高かった.これら9種類の挿し土にアルギン酸ナトリウムを処理した結果,いずれの挿し土でも保持率は高まったが,その効果の程度は挿し土の種類により異なった.
  • 小林 和広, 中瀬 寛子, 今木 正
    2001 年 70 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    密植は単位面積当たり穎花数を確保する上で重要な栽培技術であり,しかも1次技梗に着生する穎花数の割合(1次枝梗着生穎花率)が向上するので,登熟にも有利であると考えられてきた.この実験では栽植密度と穎花数の関係を1次枝梗着生穎花率に着目しながら行った.穂数と1穂穎花数の関係を明確に出すために,分げつ力の高い品種日本晴を用いた.4つの栽植密度(11.1~44.4株m-2)に,1穂穎花数を効果的に増加させる穂首分化期の窒素追肥(0~7.5gm-2)を4段階組み合わせた処理を行った.その結果,単位面積当たり分化穎花数と現存穎花数は密植ほと増加した.密植の効果は,窒素追肥が多いはど゛顕著に現れた.密植によって,穂数が増加したが,1穂分化1次枝便数は減少し,分化1次技梗当たり分化2次枝便数,穎花退化率はほとんど影響されなかった6予想に反して,密植によって1次技梗着生穎花率はほとんど増えなかった.この理由は分化1次枝梗当たり分化2次枝便数が栽植密度の影響を受けなかったことと,1次技梗に分化した穎花の退化率が高いことの2つである.分化1次枝梗当たり分化2次枝梗数は穂首分化期から穎花分化始期までのシュート窒素含有率の増分と高い相関関係にあった.以上のことから密植で穎花数を確保するときに必ずしも1次枝梗着生穎花率を高く維持できるとは限らないこととが示唆された.
  • 中野 尚夫, 河本 恭一, 石田 喜久男
    2001 年 70 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    1990年にタマホマレとトヨシロメ,1991年と1992年にこれらに銀大豆を加えた3品種を水田転換畑において,35cm×36cm(正方形播)と70cm×18cm(長方形播)の1株2個体(1990,1991,1992年)あるいは同1個体(1990年)で栽培し,栽植様式と収量および収量構成要素の関係を節位別の分校発生と分校の生育から検討した.播種日は1990年が6月20日,1991年と1992年が6月22日であった.いずれの品種,1株個体数においても正方形播は長方形播に比べ,分校数が多くて総節数,花数が多く,さらに結莢率が高く,莢数,収量が多い傾向であった.主茎節位別にみると,3品種とも正方形播では長方形播に比べ,第5,6節の分校発生個体数率が高く,さらにタマホマレの第3~6節,トヨシロメの第4~6節,銀大豆の第5,6節では分枝の節数も多かった.開花前の7月26日の地際相対照度についてみると,正方形播長方形播に比べ,条間では低かったが,株際ではかえって高かった.開花後の8月12日においても,正方形播と長方形播の差は小さかったが,同様の傾向がみられた.また,正方形播では長方形播に比べ,主茎長が短く,茎径が太く,比葉面積が小さかった.これらのことから,正方形播では長方形播より群落が早く密閉状態になるが,相互遮蔽は小さいと推察され,この相互遮蔽の小さいことによって下位の分枝数が多く,それら分技の節数が多くなったと考えられた.さらに正方形播では,この有利な光条件がその後も継続し,下位節の結莢率も高くなり,莢数,収量が多くなったと考えられた.
  • 高橋 一典, 松田 智明, 新田 洋司
    2001 年 70 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    炊飯に伴うデンプンの糊化についての基礎知見を得るため,1998年産コシヒカリ,きらら397およびタイ米(インド型長粒種,単一銘柄)を供試して,米粒中のデンプン粒の糊化過程を経時的な微細構造の変化として走査電子顕微鏡により詳細に追跡した.炊飯開始後10分(炊飯釜内中央部の温度45.0℃)でコシヒカリではアミ口プラスト包膜の表面から分解が開始された.炊飯開始後15分(51.3℃)には,炊飯開始前に長径で約3~4μmであったデンプン粒は約4.5~5μmに膨潤し,精白米の第1層目の胚乳細胞内のデンプン粒で,表面から繊維状の糊が伸展した.網目状の構造はデンプン粒の表面から内部に向かって形成が進行した.アミ口プラスト内のデンプン粒は互いに網目状構造で融合し,一体化して多孔質の糊となり不定形化した.炊飯開始後20分(98.5℃)には,コシヒカリの米粒の表層部では,きらら397やタイ米と比較して網目の拡大した微細骨格構造が形成された.アミ口プラスト単位で一体化した不定形の糊状構造は,炊飯開始後25分(98.5℃)には,さらに胚乳細胞を単位として一体化するのが認められた.炊飯に伴うデンプン粒の膨潤と網目状構造および不定型の糊状構造の形成は,米粒の表層部ほど早く始まり中央部では遅かった.網目の大きさは米粒の表層部で大型化し,中央部では小型であった.本観察からデンプン粒の糊化とは「緻密」な構造体であるデンプン粒が,その主成分であるアミロペクチンの分子内に氷分子を取り込み,膨潤し,分子密度の低下した構造体に変化することであると考えられた.
  • 吉岡 秀樹
    2001 年 70 巻 1 号 p. 54-58
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    早期水稲品種の「コシヒカリ」と「きらり宮崎」の出穂期の早晩は移植から幼穂形成までの気象要因によって大きく影響される.本報では移植後時期別に処理した日長が出穂反応に及ぼす影響を宮崎県総合農業試験場内でポット試験で検討した.移植期から出穂期までの短日条件下において栽培した場合,コシヒカリの出穂はきらり宮崎より1日早くなり出穂期の逆転現象が確認された.両品種の出穂期の逆転現象はコシヒカリときらり宮崎における基本栄養生長性の違いによるものと考えられた.早期水稲コシヒカリおよびきらり宮崎の感光性は幼穂形成始め前約30日(分げつ始め5日後)から幼穂形成期にかけて短日に感応し,その程度が最も大きい時期は幼穂形成始め前18~9日と推察された.きらり宮崎では短日処理による出穂日数の減少はコシヒカリより小さかった.本実験の結果から,1998年において観察された両品種の出穂の逆転現象は,4~5月の高温および寡照で可消栄養生長期間(感温性部分十感光性部分)が大きく短縮し幼穂形成が促進され,その程度が基本栄養生長期間の短いコシヒカリにおいて特に大きかったことによると考えられる.
  • 藤井 道彦, 堀江 武
    2001 年 70 巻 1 号 p. 59-70
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水ストレス強度と施肥レベルを異にしたイネ3品種のポット実験と,10品種に異なる期間の水ストレス処理を与えた圃場実験に基づき,イネの干ばつ抵抗性の品種・施肥レベル間差異に対する耐性と回避性の寄与度を乾物生産を中心に定量的に評価した.耐性を,ポット実験における各品種・施肥レベルの湛水区に対する相対値で表した乾物生産が基準値まで低下したときの葉身水ポテンシャル(LWP)で表すと,耐性の品種間差異は日中のLWPで約0.21MPa,夜明け前のLWPで約0.04MPaであった.一方,施肥レベル間では日中のLWPで約0.74MPa,夜明け前のLWPで約0.16MPaと,より大きかった.葉身枯死率と個体生存率でみた耐性には顕著な品種間差異があった.水ストレス下でのLWPとしてとらえた回避性の圃場における差異は,ポット実験に供試した3品種ではロ中のLWPで0.29MPa,夜明け前のLWPで0.14MPaと,耐性の差異よりも約50%以上大きかった.ポット実験においては回避性の方が約2倍大きかった.さらに,圃場での10品種の乾物生産と葉面積の生長の差異と回避性との間には密接な相関関係が認められた.また,ポットでの回避性の施肥レベル間差異は品種間差異よりも大きく,また耐性の施肥レベル間差異よりも大きかった.さらに,栄養生長期から継続した干ばつ条件下の収量は収穫時乾物重と密接な関係にあった.これらの結果から,回避性の差異は耐性の差異より約50%以上大きく,LWPは異なる品種や栽培方法間での干ばつ抵抗性の評価に有効な指標となり得ることが示唆された.
  • 槙原 大悟, 津田 誠, 平井 儀彦, 黒田 俊郎
    2001 年 70 巻 1 号 p. 71-77
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    塩ストレスがイネの登熟に及ぼす影響を明らかにするために,塩ストレスによる収量の低下程度が異なるとされる2品種(Kala-Ratal 24とIR28)を供試し実験を行った.植物は砂耕により育成し,登熟初期および中期に塩水潅滌(150mM NaCl)と1次技梗切除処理を組み合わせた処理を行った.塩ストレス下における強勢穎花と弱勢穎花の玄米の乾物増加,登熟期の全地上部の乾物生産および出穂前貯蔵物質の穂への見かけの転流量を調査した.登熟期間中の乾物生産は,塩水潅流によって抑制された.玄米の乾物増加は,登熟中期に玄米への乾物供給が一時的に不足したため遅延したが,その後茎葉部から穂への乾物の転流の増加によって補償され,回復した.登熟完了時の穎花乾物重には,塩水潅?組こよる抑制はほとんど見られなかった.玄米の乾物増加の遅延は,1次枝梗切除処理を行わなかった植物の弱勢穎花で著しかった.1次枝梗切除処理によって1穎花当たりの乾物供給を増大させた植物では,塩水潅派によって玄米の乾物増加は抑制されなかった.また,玄米の乾物増加に遅延が見られた植物においても,塩水潅流終了後に乾物が十分に供給されると登熟完了時の玄米乾物重は回復した.これらのことから,玄米自体の生長ポテンシャルおよび転流過程のうち同化産物の輸送は,塩ストレスによって阻害されなかったと考えられた.乾物が一時的に玄米に供給されなくなった原因として,塩ストレスによる糖代謝の抑制が示唆された.
  • 槙原 大悟, 平井 儀彦, 津田 誠, 岡本 憲治
    2001 年 70 巻 1 号 p. 78-83
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    幼苗期におけるイネの耐塩性程度は,塩ストレス下における光合成維持能力と関係がある.本研究では,葉身へのナトリウムイオン(Na+)集積に対する光合成維持能力を,切り取ったイネ葉身(切断葉)を用いて調査する方法について検討した.幼苗期における耐塩性程度が異なるイネ13品種の切断葉に50mM塩化ナトリウム溶液を吸収させ,光合成速度と蒸散速度の変化を調査した.光合成速度は,葉身Na含有率の増加が3~5mg g-1までは,蒸散速度の低下とともに低下した.しかしながら,葉身Na含有率がそれ以上増加すると,蒸散速度はほぼ一定の値で推移したにもかかわらず,光合成速度はさらに低下した.光合成速度は,葉身Na含有率が3~5mg g-1までは主に気孔閉鎖によって低下し,それ以上のNa含有率では気孔閉鎖以外の要因によってさらに低下したと考えられた.葉身へのNa+集積に対する光合成の維持能力には品種間差異があることが確認され,この能力の高いことが幼苗期の耐塩性に大きく影響していると考えられた.また,葉身Na含有率の増加に対する光合成維持能力の品種順位は,切断葉と無傷の植物で同じであった.切断葉を用いることによって,イネ幼植物の耐塩性程度を短時間で調査できることが示された.
  • 張 祖建, 中村 貞二, 西山 岩男
    2001 年 70 巻 1 号 p. 84-91
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネの穂ばらみ期冷害において,根の量あるいは生理的活性が耐冷性と関係があることが知られている.著者らは前報において,地上部の量あるいは穎花数に対する相対的な根の量が耐冷性と相関があることを明らかにした.本報では,耐冷性に関する根の役割を解明する目的で,主にササニシキを用い,ポット実験(水耕あるいは土耕)によって,剪根や呼吸阻害剤の処理により実験的に相対的根量あるいは生理的活性を変化させ,耐冷性との関係を調べた.冷害危険期冷温処理の5日前(花粉母細胞分化期)頃に剪根(約75%切除)あるいは分げつ切除(全分けつ)の処理を行った場合には,冷温処理区の受精率が(無切除区に対して)変化しなかった.しがし,1次枝梗分化開始期前後に剪根処理を行った場合には,冷温処理区の受精率が低下した.また,この時期からの呼吸阻害剤(アジ化ナトリウム)処理によっても冷温処理区の受精率の低下が起こった.さらに,グルコース施用によって土壌を還元状態にして根の生理的活性を弱めた場合に,耐冷性極強のひとめぼれでは冷温処理区の受精率が低下しながったが,耐冷性弱のササニシキでは低下が見られた.以上の結果は,相対的根量および根の生理的活性が耐冷性に影響を及ぼすことを証明している.ただし,処理時期を変えた剪根実験の結果から,1次枝梗分化開始期頃の処理では耐冷性の低下が見られたが,冷害危険期直前の処理では耐冷性の低下が明らかでながった.この事実は,相対的根量あるいは根の生理的活性の影響が危険期に冷温に遭遇した状況で直接に起こるのではなく,それ以前に,例えば,花粉形成過程などへの影響を通して起こっている可能性を示唆している.
  • 杉本 秀樹
    2001 年 70 巻 1 号 p. 92-98
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    サトイモの個体群光合成に対する子イモ葉身光合成の寄与率を,閉鎖系同化箱と13CO2の供与を併用することによって推定し,子イモ葉身の光合成と塊茎収量との関係について考察した.子イモ用品種の烏播と石川早生,親子イモ兼用品種の赤芽および親イモ用品種の台湾芋を水田転換畑で栽培し,分球イモ葉(ここでは子イモ葉)を全て切除した切除区と,これを行わなかった対照区を設けた.10月中旬に烏播の個体群光合成速度を閉鎖系同化箱で測定するとともに,これに13CO2を供与した.対照区,切除区の個体群光合成速度はそれぞれ24.6,17.5μmol m-2S-1で,対照区の個体群光合成のうち子イモ葉身は29.1%を占めた.塊茎収量は,全品種を込みにしたとき,対照区が総収量では16%,上イモ収量では34%勝った.子イモ葉身の光合成産物が,各塊茎の肥大を促進することによって個体当たり塊茎重の増大に寄与したと考えられた.
  • 杉本 秀樹
    2001 年 70 巻 1 号 p. 99-104
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    サトイモにおける13C-光合成産物の各器官への分配を検討した.生育段階を変えて地上部全体に13CO2を供与し,7日後に各器官における13C-光合成産物の分布割合を調べた.生育前期は葉身と葉柄,中期は葉身,葉柄および塊茎,後期では塊茎と,生育段階が進むにつれて光合成産物の主な受容器官が変化していった.孫イモ肥大始期に,塊茎肥大特性の異なる3品種を供試して,子イモ葉身が着生した個体における親イモ葉身および子イモ葉身に,また,子イモ葉身を切除した個体における親イモ葉身にそれぞれ13CO2を供与し,5日後に各器官における13C-光合成産物の分布割合を調べた.親イモ葉身の13C-光合成産物の40~65%が塊茎に分配されたが,このうち子イモ用品種の烏播は子イモ,親子イモ兼用品種の赤芽は子イモと親イモ,親イモ用品種の台湾芋は親イモへの分配が多かった.この傾向は,子イモ葉身を切除しても変わらなかった.子イモ葉身の13C-光合成産物の約60%が塊茎に分配された.このうち烏播と赤芽はその全てが子イモと孫イモに,台湾芋ではこれに加え親イモにも分配された.子イモ葉身の光合成産物が塊茎肥大,とりわけ分球イモの肥大に貢献していることがわかった.以上のような親イモ葉身,子イモ葉身の13C-光合成産物分配の様相は,品種による塊茎肥大特性の違いをよく反映しており,品種に特有のソース・シンク単位の存在を示していた.
  • 丹羽 智彦, 堀内 孝次, 大場 伸哉, 山本 君二
    2001 年 70 巻 1 号 p. 105-110
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    炭化汚泥は脱水汚泥に比べて,減量化,無臭化の特徴を有しているが,土壌改良資材あるいは肥料素材としての施用効果については研究例が殆どない.本研究では,下水道脱水汚泥を岐阜市と高鷲村から1998年3月と8月に採取した.炭化汚泥は,脱水汚泥を300~700℃で炭化処理して作製し,各汚泥の物理・化学特性を測定した.その結果,炭化汚泥の全窒素濃度,EC,C/N比などは,汚泥採取場所,時期,炭化処理温度によって異なった.例えば,全窒素濃度は3~7%までの幅があった.さらに,炭化汚泥に関しては岐阜炭化汚泥に比べて,高鷲炭化汚泥の硬度は2倍,密度は1.5倍であった.この結果,岐阜炭化汚泥は,高鷲炭化汚泥よりも多孔質であることが推測された.また,炭化汚泥の肥料効果を検討するために,1/5000aワグネルポットに,岐阜炭化汚泥と高鷲炭化汚泥を施用して陸稲を育てた.施用量は,両汚泥とも全窒素量が3g/ポット,6g/ポットとなるよう調節した.その結果,出芽後30日目の地上部乾物重とSPAD値は,炭化汚泥を多施用した区の方が高い値となった.また,高鷲炭化汚泥を施用した区よりも,岐阜炭化汚泥を施用した区の方が,地上部乾物重とSPAD値は高くなった.このように,全窒素量が同量となるように施用したにもかかわらず陸稲の生育が異なったことは,炭化汚泥の空隙率の違いが原因していると考えられた.炭化汚泥は,成分量や密度,硬度に差があり,これらの要因が土壌施用時に肥効に影響することを明らかにした.
  • 森田 茂紀
    2001 年 70 巻 1 号 p. 111-114
    発行日: 2001/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
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