日本作物学会紀事
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70 巻, 2 号
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  • 堀内 孝次
    2001 年 70 巻 2 号 p. 143-150
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    わが国の作物生産は, 耕地率が低いという地理的条件から土地生産性の向上を図った集約栽培に頼らざるを得ないと同時に, 社会的課題である環境保全問題に配慮しながら食糧自給率の向上を目指す必要がある. その生産基盤としての耕地土壌の作物生産性は, 一義的には地力がどの程度であり, いかに維持増強されているかにかかっている. その地力維持対策の基本技術は現在も存続している多くの慣行的集約栽培の中にみられる. そして今日, これらの栽培基本を踏まえた新たな応用研究のもとに, 高度技術を駆使した多様な環境保全型の地力維持法が検討されている. 本報では有機物の投入と作付体系を一体化させることの必要性に論議の焦点を当てた.
  • 野並 浩
    2001 年 70 巻 2 号 p. 151-163
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    作物の水分状態を計測するために使われるサイクロメーター, プレッシャーチャンバー, プレッシャープローブの計測原理に触れ, 計測器相互間で計測値の比較を行い, それぞれの計測法の違いについて検討した. また, 土のマトリックポテンシャルを計測するために使用されているpF値と水ポテンシャルの関係について説明し, 作物を取り囲む環境の水分状態計測と作物の水分状態計測について解説した. とくに, プレッシャーチャンバーを用いての水分状態計測の意義について詳しく説明し, 生長に伴った水ポテンシャル勾配がアポプラストに働く張力に関連したマトリックポテンシャルに依存していることを説明した. また, 養分欠乏, 塩ストレス, 低温ストレス, 高温ストレス, 植物ホルモン添加による生長阻害下における細胞伸長速度が, 生長に伴った水ポテンシャル勾配の大きさと直接比例して関連していて, いかに伸長している細胞内へ水が流入することができるかが細胞伸長の速度を決定することを述べている.
  • 山内 稔
    2001 年 70 巻 2 号 p. 164-172
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    再生紙マルチ直播栽培は開発途上の技術であるが, 除草剤を必要とせず, また育苗と移植作業がなく省力的である可能性を持つ. 1997年および1998年に品種'コシヒカリ'と'どんとこい'を用いて再生紙マルチ点播, 再生紙マルチ条播, 再生紙マルチ移植, 粉衣湛水土中散播および無粉衣湛水散播により栽培試験を行い, 苗立ちと籾収量を測定するとともに併せて倒伏と雑草の発生を観察した. その結果, 防鳥網を張った条件下では苗立ち率に関して, 再生紙マルチ点播≧粉衣湛水土中散播≧無粉衣湛水散播, また再生紙マルチ条播≒無粉衣湛水散播の関係が成り立った. 倒伏の発生した面積は再生紙マルチ条播≧再生紙マルチ点播≒移植であった. 雑草の乾物重については栽培方法の間に統計的に有意な差は認められなかった. 再生紙マルチ点播と条播における籾収量に差はなく, 移植に比べて同等か若干低い傾向があった. 以上の結果は, 再生紙マルチを用いて無除草で直播栽培が可能であることを示している.
  • 福嶌 陽, 楠田 宰, 古畑 昌巳
    2001 年 70 巻 2 号 p. 173-178
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    暖地のコムギ作における収穫の早期化を実現するための基礎的知見を得るため, 早播きした秋播性コムギの分げつの発育の特徴を明らかにした. 秋播性程度の高いイワイノダイチ(秋播性程度IV)と対照品種のチクゴイズミ(同I~II)を, 1998年の10月26日(極早播き), 11月5日(早播き), 11月24日(標準播き)に播種し, 栽培した. 単位面積当たりの最高茎数は, イワイノダイチがチクゴイズミより著しく多かった. 単位面積当たりの穂数は, イワイノダイチがチクゴイズミよりやや多く, また播種期が遅いほどやや多かった. 個体を対象として分げつの発育過程をみると, いずれの播種期や品種においても分げつは主茎の出葉にともなってT1, T2, T3およびその同伸分げつのT1P, T4およびその同伸分げつのT11とT2Pの順に規則的に出現した. イワイノダイチはチクゴイズミよりT4, T11, T2Pなどの高位・高次の分げつの出現率が高かったが, これらの分げつは無効化することが多かった. 有効分げつでは出葉速度は主茎とほぼ同じであったが, 無効分げつでは出葉速度は次第に低下し, 出葉の停止, 枯死に至った. そこで, 無効分げつは, その出葉速度が主茎の半分以下となった時点で無効化したとして, 個体当たりの分げつ数の推移をみたところ, 早播きのイワイノダイチの分げつ数が最大となる時期は早播きのチクゴイズミより遅く, 標準播きのイワイノダイチ, チクゴイズミより早かった. このような分げつ数の推移は幼穂の発育と密接に関連していることが示唆された.
  • 岡本 毅, 鈴木 裕志, 梅崎 輝尚, 長屋 祐一, 谷山 鉄郎
    2001 年 70 巻 2 号 p. 179-185
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    丹波ヤマノイモ栽培におけるウイルスフリー利用による増収効果を多収品種の新丹丸を供試した圃場試験において検討した. 栽培試験は1998年から2000年までの3カ年にわたり実施した. 茎頂培養により作出したウイルスフリー個体の収穫イモ重はヤマノイモモザイクウイルス罹病個体のそれより有意に大きく, ウイルスフリー利用による増収効果は1998年が27%, 1999年が17%, 2000年が23%であった. ヤマノイモモザイクウイルスに罹病すると葉にモザイクを生じたほか, 葉の変形や小型化, 萌芽や生育の遅延といった特有の病徴を呈したことから, 罹病個体が外観で容易に判別できた. 外部病徴の有無から罹病個体を判別する方法は, その結果が血清反応によるウイルス検定の結果とよく一致し, 有効性が高かった. 同法は簡便で低コストなため, 大量個体の検定が必要なウイルスフリー種イモの生産において実用性が高いと認められた.
  • 吉永 悟志, 脇本 賢三, 田坂 幸平, 松島 憲一, 冨樫 辰志, 下坪 訓次
    2001 年 70 巻 2 号 p. 186-193
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    打込み式代かき同時土中点播機を用いた安定的湛水直播栽培法の確立のため, 異なる苗立ち密度(40, 80および160本m-2)における耐倒伏性を散播水稲と比較して点播水稲の耐倒伏性に関する特性解明を行った. その結果, 点播水稲は散播水稲に比較して稈が長くなるために稈基部にかかる力が大きくなるが, 有効茎歩合が高いために耐倒伏性に関連した稈の形質が優れること, 押し倒し抵抗値が顕著に大きいことにより稲株の耐倒伏性が強化され, 倒伏を生じにくいことが明らかとなった. また, このような播種様式間差は苗立ち密度の高い条件で顕著となった. 押し倒し抵抗値の変動要因を検討した結果, 散播水稲において1株穂数が10本以下の株は押し倒し抵抗値の変動が大きく, 1株穂数の減少により抵抗値が顕著に低下するのに対し, 1株穂数が10本以上の株は押し倒し抵抗が安定して高かった. このことから, 散播水稲では苗立ち密度40本m-2以上の条件では1株穂数が10本以下となるために, 苗立ち密度の変動により1株穂数が変動するのに対し, 点播水稲は標準的な播種条件(条間30cm, 株間20cm)では苗立ち密度が40~160本m-2(1株苗本数が2~10本)の間で変動しても1株穂数が20~26本と安定して多いことにより, 苗立ち密度が変動しても点播水稲の耐倒伏性が安定して高いものと推察された. 湛水直播栽培では苗立ち密度の変動が避けられないため, このような特性を有する点播栽培は湛水直播栽培の安定化に有効であると考えられる.
  • 吉永 悟志, 脇本 賢三, 田坂 幸平, 松島 憲一, 冨樫 辰志, 下坪 訓次
    2001 年 70 巻 2 号 p. 194-201
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    打込み式代かき同時土中点播機による直播栽培では, 散播栽培や条播栽培に比較して多様な播種条件の設定が可能で, 株間や播種深度を簡易に変えることができるとともに, 播種条件にともない点播形状が変化するという特徴を有する. そこで, これらの播種条件が耐倒伏性に及ぼす影響を明らかにするための試験を行った. その結果, 株間については, その拡大により稈長の増大や稈当たりの押し倒し抵抗値の低下による耐倒伏性の低下が示唆された. このため, 播種作業の高速化等にともない株間を広げる必要がある場合には施肥法や水管理により窒素吸収を制御して稈の伸長を抑制することや, 耐倒伏性の高い品種を用いることが重要となると考えられた. 一方, 点播形状については本試験における処理条件では耐倒伏性に対する影響の小さいことが示されたため, 極端に点播形状が大きくならなければ問題は生じないものと推察された. 播種深度については, 打込み点播機による播種を行った点播水稲は散播水稲に比較して, 播種深度が浅くなる株を生じにくいとともに, 播種深度が浅くなっても耐倒伏性の低下程度は散播水稲に比較して非常に小さいことが示された. 湛水直播栽培では播種深度を均一とすることが困難であるとともに出芽・苗立ちの安定化が重要な課題となるため, 播種深度が浅くなっても安定して高い耐倒伏性を示すという点播水稲の特性は直播栽培の安定化に重要な特性と考えられた.
  • 角 明夫, 林 満, 片山 忠夫
    2001 年 70 巻 2 号 p. 202-208
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    南西諸島で栽培されたサトウキビ品種の中から不良環境に対する適応性を異にするとされるNCo310とNi1を選び, 両品種の土壌水分に対する生育反応を比較した. 両品種ともに個体重が最大となる土壌水分値(fopt)が存在し, 個体重は土壌水分含量がfoptより大きくても小さくても減少した. foptに明確な品種間差異は認められなかった. 生長が停止する土壌水分含量(f0)はNCo310で低かった. 湛水条件下では両品種ともに初期生育量が大きく低下したが, 広域適応性品種NCo310ではこの条件下で生じた生育量の低下が時間とともに縮小する傾向にあった. foptにおける個体重(Wmax)はNCo310のほうで大きかったが, Ni1はNCo310より茎の割合が大きく, foptでの茎重はNi1で勝る傾向を示した. 一方, 湛水および乾燥の両不良条件下では, Ni1は個体重と全重に対する茎の割合の低下がともに大きく, 茎重はNCo310より劣った. ここに示されたf0の低さと湛水条件下での生育回復力の大きさ, 並びに土壌水分の変化によって茎の割合が変化しにくいという特性は, 広域適応性品種としてのNCo310の特徴を代表するものと考えられた.
  • 丹野 久, 木下 雅文, 木内 均, 平山 裕治, 菊地 治己
    2001 年 70 巻 2 号 p. 209-214
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    1999年に東北以南の主要な日本水稲54品種について人工気象室を用いた新たな検定法により開花期耐冷性の評価を行った. 北海道品種についての過去の報告も参照し, その地域的特徴を検討したところ, 北海道の育成品種が最も強く, 次いで東北, 北陸, 東海・近畿の順であり, 九州が最も弱い傾向にあった. 各地域とも大きな品種間変異があるものの, 育成地の緯度と開花期耐冷性とは有意な正の相関が認められた. また, 出穂の早い品種ほど開花期耐冷性が強い傾向があった. 供試した東北以南の品種の中では青森県農業試験場藤坂支場が育成した「中母42」が唯一「極強」で, 6品種が「強」, 9品種が「やや強」, 5品種が「中」, 12品種が「やや弱」, 5品種が「弱」, 16品種が「極弱」であった. 現在の主要作付け品種である「コシヒカリ」, 「ひとめぼれ」, 「あきたこまち」は「やや弱」であった. 開花期耐冷性と既報による穂ばらみ期耐冷性との間にはr=0.462** (n=51)の有意な正の相関が得られたが相関係数は高くはなかった. また, 1975年以降に育成された東北品種について育成年次が新しくなるとともに穂ばらみ期耐冷性が強くなる傾向があったが, 開花期耐冷性とは一定の関係がみられず, 育成品種の開花期耐冷性を向上させるためには育種の場で直接開花期耐冷性について選抜することが必要であると考えた.
  • 間野 吉郎, 武田 和義
    2001 年 70 巻 2 号 p. 215-220
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    世界各地のコムギ約1,300品種について発芽時と幼植物における耐塩性の品種変異とその地理的分布を調査した. コムギの耐塩性には明瞭な品種変異が存在し, いくつかの高度耐塩性品種が見出された. 地域別に比較すると, 朝鮮半島の品種は発芽時と幼植物のいずれのステージにおいても耐塩性の強い品種の割合が高かった. Dゲノムを持たないT. durum (AABB)をはじめとするコムギ属7種の発芽時と幼植物における耐塩性は普通系コムギのT. aestivum (AABBDD)よりも弱く, 耐塩性に関連する遺伝子の一部がDゲノムに含まれている可能性が示唆された. コムギの発芽時の耐塩性と幼植物の耐塩性はオオムギと同様に無相関であり, 両者は異なるメカニズムによるものと見られた.
  • 藤村 佳子, 大場 伸哉, 堀内 孝次
    2001 年 70 巻 2 号 p. 221-225
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ソバはイネ科作物に比べ脱粒しやすく, 収穫時の損失がしばしば問題となる. 本研究ではソバ属栽培種の普通ソバ(F. esculentum Moench.)とダッタンソバ(F. tataricum Gaertner)の2種を用い, 脱粒性を調べた. 普通ソバとダッタンソバの2倍体品種・系統, 4倍体品種・系統を栽培し, 抗張強度と小枝直径を測定し, 種間, 倍数体間の脱粒性を比較した. また, 無施肥区と施肥区を設け, 肥料条件が脱粒性に与える影響を調べた. その結果, 普通ソバとダッタンソバでは普通ソバの方が脱粒し難いことがわかった. 最も高い抗張強度を示したのは, 普通ソバ4倍体, 次いで普通ソバの2倍体, ダッタンソバの4倍体の順で, ダッタンソバの2倍体が最も低かった. また, 最も太い小枝直径を示したのは普通ソバ4倍体で、 以下抗張強度と同じ順番であった. 断面積強度はダッタンソバが普通ソバよりも高い値を示した. また, 同一種内では倍数体間に差がみられなかった. 施肥の脱粒性に与える影響は少なく, 有意差はなかった. 以上のことから, 普通ソバがダッタンソバよりも脱粒し難く, 4倍体が2倍体よりも脱粒し難いことがわかった. また, 断面積強度では, 種間に差が見られ, 倍数体間には差が見られなかったことから, ダッタンソバと普通ソバの間に小枝の何らかの質的差異があることが示唆された.
  • 楊 知建, 佐々木 修, 林 満
    2001 年 70 巻 2 号 p. 226-233
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    インド型3品種, 日本型2品種の水稲を用い, 葉齢3.0の苗に昼夜8℃, 10℃, 12℃, 14℃の低温条件で, それぞれ3, 6, 9, 12日間処理を施し, 低温処理中の苗の諸形質の変化および本田移植後の生育の回復過程について検討を行った. 低温処理中においては, 葉面積, 地上部乾物重および根数の増加はいずれも温度が低く処理期間が長いほど抑制され, インド型品種と日本型品種の間に差は認められなかった. クロロフィル含有量もまた温度が低く処理期間が長いほど著しく減少したが, その減少程度はインド型品種でとくに顕著であった. 低温処理後, 常温(20℃)に戻すと数日で個体の枯死の発生が認められ, 枯死率は処理温度が低く処理期間が長いほど著しく, またインド型品種でより顕著であった. 本田移植後, 生長は回復傾向を示し, 葉齢, 茎数, 地上部乾物重および根数は生育の進行とともに増加し, 次第に対照区との間の差は縮まった. その回復程度は形質によって相違が認められた. 葉齢は強度の低温処理区ほど早く増加する傾向が認められ, インド型品種および日本型品種ともに最終葉齢が対照区とほぼ同じレベルに回復した. 一方, 茎数, 地上部乾物重および根数の回復程度は強度の低温処理区ほど緩やかであり, とくにインド型品種でその傾向が著しかった. また最終的な有効茎数もこれら諸形質の場合と同様の傾向を示した. このように本田移植後の生長回復に差が生じた理由として, 低温処理後の根の吸収機能の回復や光合成系の回復が各処理区間あるいはインド型品種と日本型品種によって異なり, これが移植後の初期生育に影響を与えたのではないかと推察された.
  • 細井 淳, 今井 勝
    2001 年 70 巻 2 号 p. 234-237
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    食用カンナ(Canna edulis Ker-Gawl.)における根の発育, 特に不定根の発生様式に注目して外部形態および内部形態面からの観察を行い検討を加えた. 根系は, 太い不定根と不定根から発生する細い1次および2次側根によって構成される典型的なひげ根型であったが, 不定根の原基が2本1組となって根茎の節付近から同時に発生する点が特徴的であった. また, 成熟した不定根の内部形態においては, 多くの導管が存在する多原型の中心柱と, 空隙を形成する皮層が特徴的であった. さらに, 根茎の中心柱には明確な節構造がなく, 節と中心柱の維管束の連絡関係は疎であり, イネ科植物のような規則性は認められなかった. バショウ属の植物と比べると, 形態学的, 解剖学的特徴は類似するが, 節における不定根原基の組数や不定根の太さ, および中心柱内の維管束数や皮層内の空隙の大きさなどが異なった. 食用カンナにおける不定根の発生様式や組織構造は, 大型地上部を支持するための根系の形成とも密接な関係があると考えられる.
  • 張 祖建, 中村 貞二, 国分 牧衛, 西山 岩男
    2001 年 70 巻 2 号 p. 238-246
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲品種ササニシキを供試し, 1次枝梗分化期から小胞子初期までジベレリン, ジベレリン生合成阻害剤とサイトカイニンを処理し, 耐冷性に及ぼす影響を検討した. 茎葉へのジベレリン処理と根へのサイトカイニン処理により小胞子初期冷温区(昼17℃-夜12℃, 5日間)の受精率は有意に低下した. 反対に, 茎葉へのジベレリン生合成阻害剤処理により受精率は顕著に増加した. また, 耐冷性が異なるササニシキとひとめぼれにジベレリン生合成阻害剤を処理した結果, 両品種ともに冷温区の受精率が高まる傾向が認められ, その程度は耐冷性が弱いササニシキで顕著であった. ササニシキについて葯当たりの花粉数を観察した結果, ジベレリンおよびサイトカイニン処理により冷温区の花粉数だけでなく常温区の花粉数も減少した. 反対に, ジベレリン生合成阻害剤処理により冷温区, 常温区の両方で花粉数が顕著に増加した. 冷温区の受精率は, 冷温区の花粉数と正の相関関係が認められ, また常温区の花粉数とも正の相関関係が認められた. 以上より, ジベレリンとサイトカイニン処理がイネの穂ばらみ期耐冷性を低下させること, そしてそれは花粉数を減少させて生じることが明らかとなった. また, ジベレリン, サイトカイニン処理は常温下でも花粉数を減少させることから, これらは体質的にイネの耐冷性を低下させると考えられた. 多窒素はイネの耐冷性を低下させること, また体内のジベレリンやサイトカイニンレベルを上昇させることが報告されていることから, 窒素はジベレリンやサイトカイニンを通じて耐冷性に影響する可能性が示唆された.
  • 中園 江, 井上 君夫
    2001 年 70 巻 2 号 p. 247-254
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    低温によって発生する水稲の不稔の防止および被害解析に必要な幼穂の発育段階を気象要素より推定する方法について検討した. 発育段階の指標に幼穂長を用い, あきたこまち, コシヒカリ, 日本晴を供試し, 幼穂形成期からの日平均積算気温に対する幼穂の伸長過程を調査した結果, 伸長過程はロジスティック式でよく表され, 式中のパラメータを比較することにより晩生の品種ほど曲線の立ち上がりが遅い傾向にあることが明らかとなった. つくばで得られたコシヒカリのパラメータを用いて郡山で栽培された同一品種の幼穂長を推定した結果, 年次によっては差が大きくなったが, その原因として20℃以下の低温による幼穂発育の遅延が考えられた. 低温感受性の高い小胞子初期の花粉を持つ危険期穎花は, 幼穂長が全長の約30%に達するころ現れ, 約70%で割合が最大になり, 出穂期に近づくにつれて減少する. この関係は日本の主要な栽培品種に共通していると推察された. 幼穂形成期間中の圃場内における発育段階のばらつきは伸長中期で特に大きくなるが, 各茎の幼穂長の実測値に先に求めた積算気温と幼穂長の関係式および幼穂長と危険期穎花率の関係式を適用することにより, 圃場内における発育段階のばらつきを考慮した冷害危険度の式を得た. この式から求められる冷害危険度に冷却量を乗じた重点化冷却量の積算値は, 冷却量のみを用いるよりも正確に不稔歩合の推定ができることを示した.
  • 水田 一枝, 角重 和浩, 平野 稔彦
    2001 年 70 巻 2 号 p. 255-260
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    1996~98年に福岡県内46地点で, 水稲の代かき期から登熟期に農業用用水の水質をみた. pHの全平均値は7.4で調査総数232の28%が農業用用水の基準値以上であった. EC(電気伝導率)の平均値は179μS/cmで全体の11%が基準値以上, COD(化学的酸素要求量)の平均値は6.4mg/Lで46%が基準値以上, T-N(全窒素)の平均値は2.3mg/Lで87%が基準値以上, T-P(全リン)の平均値は0.17mg/L, SS(浮遊物質)の平均値は18.4mg/Lで3%が基準値以上であった. 水稲へ生育障害を起こすとされるCODの8mg/L以上は27%, T-Nの5mg/L以上は4%あった. これらの値は近年に報告された他県での値よりも高い場合が多かった. 地域・時期別にみると, CODは筑後や飯塚・八幡地域で高く, T-Nは農村部の筑後地域が全時期を通して高く, 特に田植え期で高く, 代かきや施肥による用水路への流出を示唆した. CODはT-Pとの間の相関が高く, 有機物による汚染がP濃度の高い排水によっており, Pを含む排水の抑制が水質保全に重要と考えられる. 1986~88年, 1991~93年での調査結果と比較すると, pHは全体的に増加, ECは飯塚・八幡や筑後地域で値が依然と高く, CODはどの地域も増加傾向, T-Nは筑後以外の地域も増加傾向であった.
  • 松江 勇次, 陣内 暢明, 馬場 孝秀, 岩渕 哲也, 福島 裕助, 古庄 雅彦
    2001 年 70 巻 2 号 p. 261-266
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    福岡県における1999年産の麦類の作況指数と10a当たり平均収量はそれぞれ小麦で132, 447kg, 二条大麦で118, 398kgと1945年以来の麦作史上2番目の記録的な豊作となり, 外観品質も優れた. 多収要因としては, 分げつ期の多照と節間伸長期の少雨により, 小麦では穂数が多く確保されたことにより, 1穂粒数は減少したものの, m2当たり全粒数が増加したことと, 登熟最盛期間中の多照により, m2当たり全粒数が多かったにもかかわらず, 千粒重が平年より重くなったことによると考えられた. 二条大麦では穂数が多く確保されてm2当たり全粒数が多くなったのに加えて, 登熟中~後期の多照のため千粒重が増加して整粒歩合が向上したことによると考えられた. 検査等級は小麦では1等比率が85%以上, 食糧用二条大麦では1等比率が90%以上, ビール大麦では2等以上が85%以上と極良質であった. また, 小麦においては, 暖冬少雨年での収量および外観品質は, 第1回追肥を減らすことで高まるとともに, 早播栽培では苗立ち本数を減らすことで高まった. 品種面からは良質で多収品種であるチクゴイズミの導入普及効果が認められた.
  • 入来 規雄, 高田 兼則, 山内 宏昭, 一ノ瀬 靖則, 桑原 達雄
    2001 年 70 巻 2 号 p. 267-270
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    硬質春播コムギ品種ハルユタ力, 軟質秋播コムギ品種ホクシンのブレンドを, 原粒あるいは小麦粉でおこない, 原粒のブレンドが製粉性に及ぼす影響と, 原粒および粉のブレンドが製パン性におよぼす影響を調べた. 原粒のブレンドでは, 両品種の種子をブレンド後に中間質コムギに準じてテンパリングする方法と, 両品種を個別にテンパリングしてからブレンドする方法を比較した. ブレンド比率は, 100:0, 75:25, 50:50, 25:75, 0:100に設定した. 原粒のブレンドでは, 製粉歩留まりはどちらのテンパリング方法でもブレンド比率にかかわらずほぼ同じであった. ミリングスコアは両品種を別々にテンパリングしてからブレンドした場合はほぼ一定の値であったが, 原粒をブレンド後にテンパリングした場合はホクシンの比率が高まるにつれて低下する傾向を示した. 原粒をブレンド後にテンパリングした場合は, 個別にテンパリングした場合に比べてアミログラフの最高粘度は低く, ファリノグラフの吸水率は高くなる傾向にあった. 粉のタンパク含量, 粒度および色, 吸水率以外のファリノグラフ特性はブレンド比率に比例した値を示した. パン比容積とブレンド比率との間に関連は見られなかった.
  • 森田 茂紀
    2001 年 70 巻 2 号 p. 271-275
    発行日: 2001/06/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
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