インド型3品種, 日本型2品種の水稲を用い, 葉齢3.0の苗に昼夜8℃, 10℃, 12℃, 14℃の低温条件で, それぞれ3, 6, 9, 12日間処理を施し, 低温処理中の苗の諸形質の変化および本田移植後の生育の回復過程について検討を行った. 低温処理中においては, 葉面積, 地上部乾物重および根数の増加はいずれも温度が低く処理期間が長いほど抑制され, インド型品種と日本型品種の間に差は認められなかった. クロロフィル含有量もまた温度が低く処理期間が長いほど著しく減少したが, その減少程度はインド型品種でとくに顕著であった. 低温処理後, 常温(20℃)に戻すと数日で個体の枯死の発生が認められ, 枯死率は処理温度が低く処理期間が長いほど著しく, またインド型品種でより顕著であった. 本田移植後, 生長は回復傾向を示し, 葉齢, 茎数, 地上部乾物重および根数は生育の進行とともに増加し, 次第に対照区との間の差は縮まった. その回復程度は形質によって相違が認められた. 葉齢は強度の低温処理区ほど早く増加する傾向が認められ, インド型品種および日本型品種ともに最終葉齢が対照区とほぼ同じレベルに回復した. 一方, 茎数, 地上部乾物重および根数の回復程度は強度の低温処理区ほど緩やかであり, とくにインド型品種でその傾向が著しかった. また最終的な有効茎数もこれら諸形質の場合と同様の傾向を示した. このように本田移植後の生長回復に差が生じた理由として, 低温処理後の根の吸収機能の回復や光合成系の回復が各処理区間あるいはインド型品種と日本型品種によって異なり, これが移植後の初期生育に影響を与えたのではないかと推察された.
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