イネ葉身の巻き具合を示す巻き葉率について, 生育に伴う変化と日変化および高温低湿度条件下での葉身の水ポテンシャルへの影響について検討した.まず, 高い巻き葉率を示すC-115と対照品種としてコシヒカリを用いて, 巻き葉率と水ポテンシャルの日変化を比較した.それによると両品種の巻き葉率の最大値は大きく異なり, C-115でおよそ45%, コシヒカリではおよそ5%であった.それに対して葉身の水ポテンシャルは, ともに-0.97MPaと違いはみられなかった.このことから, 両品種の巻き葉率の違いは水ポテンシャルの差異に起因していないことが示唆された.一般栽培品種では生育が進むに従い, 日平均巻き葉率は向軸側に葉身が巻く品種では増加し, 背軸側に巻く品種では減少した.一方, 巻き葉遺伝子rl-1をもつ品種では, 終始高い値で推移した.巻き葉率の日変化では, 葉身が巻く方向に関係なく, 正午ごろを頂点とした山型の変化を示した.また, 巻き葉率の日変化は, 気温, 相対湿度, 光合成有効放射(PAR)の変化と関連が見られたが, 品種や生育時期によって関連性の強さが異なった.巻き葉率の日変化が, 気温などの蒸散に影響する気象条件の変化と関連しており, また著者は高い巻き葉率を示すほど蒸散が抑制されることを報告している.これらのことから, 巻き葉率の変化が葉身の水ポテンシャルに影響をおよぼしていると考えられた.そこで巻き葉率の異なるC-115とコシヒカリを用いて, 高温低湿度条件下での巻き葉率と葉身の水ポテンシャルの影響について検討した.その結果, C-115では巻き葉率が増加し, 水ポテンシャルも対照区よりも上昇した.一方, コシヒカリでは巻き葉率, 水ポテンシャルともに処理による変化はみられなかった.巻き葉率の増加が, 葉面境界層抵抗の増加を反映していると考えると, 高い巻き葉率を示す品種では, 過度の蒸発環境で葉面境界層抵抗を高めていると考えられた.また, このことによって, 高い水ポテンシャルを維持できることが示唆された.
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