日本作物学会紀事
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70 巻, 4 号
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  • 平沢 正
    2001 年 70 巻 4 号 p. 477-488
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    比較的おだやかな水ストレス条件下では,気孔の開閉は体内水分を調節するとともに個葉あるいは個体の光合成に大きな影響を及ぼす.そこでまず,気孔の開閉に及ぼす葉の水ポテンシャルと表皮(孔辺)細胞の膨圧の影響,葉面における不均一な気孔閉鎖,そして葉の水ポテンシャルの低下を介さない気孔閉鎖についての最近の知見を紹介した.ついで,体内水分維持,気孔の開閉に影響を及ぼす水輸送について,問題となる根系の量的性質,根の吸水に関わる性質と水の移動経路,そして併せて水ストレス下で問題となる水移動に対する木部の抵抗に関する最近の研究を紹介した.以上を基礎に,水輸送に関して今後展開しうる研究の方向を考えた.
  • 佐々木 良治, 堀江 武, 鳥山 和伸, 柴田 洋一
    2001 年 70 巻 4 号 p. 489-498
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲品種コシヒカリ,越路早生およびキヌヒカリを同様の肥培管理で栽培して得られた1988年から1994年の生育データを用いて,稈長の年次変動とそれに関与する要因を解析した.コシヒカリや越路早生では,成熟期の稈長は穂首分化期頃の葉面積指数(LAI)と有意な正の相関関係が認められ,短稈性の遺伝特性を有するキヌヒカリにおいても比較的高い正の相関関係が認められた.そして,稈長の増大には,下位節間の伸長増大が関与していると推測された.穂首分化期頃のLAIに対する稈長の回帰直線の傾きには,品種間差が認められた.コシヒカリや越路早生の回帰直線の傾きは,それぞれ11.4cm/LAIと16.1cm/LAIであったが,いずれもキヌヒカリ(5.3cm/LAI)よりも明らかに大きく,下位節間や稈の伸長に対するLAIの影響はキヌヒカリの方が低いという結果を得た.また,穂首分化期頃のSPAD値と成熟期の稈長との間にも正の相関関係が認められたが,その傾向はキヌヒカリよりもコシヒカリや越路早生の方が明瞭であった.つぎに,穂首分化期頃のLAIの年次変動要因を検討したところ,LAIは窒素吸収量の差異を反映したことによると推察された.そして,穂首分化期頃のLAIは水田湛水前約1ヶ月間の春期の積算降水量と関連し,降水量が少ない年には乾土効果発現量が多く,その結果土壌窒素供給量が増加し,穂首分化期の葉面積指数を増大させた可能性が強く示唆された.
  • 福嶌 陽, 楠田 宰, 古畑 昌巳
    2001 年 70 巻 4 号 p. 499-504
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    暖地における早播きした秋播性コムギ「イワイノダイチ」の穂の発育過程と小穂数,小花数,粒数,1粒重,1穂粒重等の穂の諸形質との関係を標準期播き,および春播性コムギ「チクゴイズミ」との比較を通じて解析した.1穂小穂数はイワイノダイチがチクゴイズミより多かった.この原因としてイワイノダイチはチクゴイズミより播種期から1穂小穂数が決まる頂端小穂形成期までの期間が長かったことが考えられた.1穂小穂数と播種期の間には明確な関係が認められなかった.1小穂小花数はイワイノダイチがチクゴイズミより少ない傾向が認められた.この原因としてイワイノダイチはチクゴイズミより小花の形成に重要な頂端小穂形成期から開花期までの期間が短かったことが示唆された.これらの結果,イワイノダイチはチクゴイズミより1穂小花数が多かった.1穂粒数はイワイノダイチがチクゴイズミより1998年播きでは多かったが,1999年播きでは少なかった.これは1999年播きではイワイノダイチの稔実率が低かったためであった.また,1穂粒数は播種期が早いほど少なかった.以上のように早播きしたイワイノダイチの穂の諸形質はチクゴイズミや標準期播きとは異なる場合があり,その中には穂の発育過程との関連が示唆される場合もあった.しかし,穂の諸形質は互いに負の関係となることが多く,1穂粒重には品種や播種期による明確な差異は認められなかった.
  • 沢口 敦史, 佐藤 導謙
    2001 年 70 巻 4 号 p. 505-509
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    春播コムギの初冬播において,根雪前20-25日に播種すれば越冬が良好であることを既報で示した.本報では初冬播栽培において春播栽培よりも安定的に多収を確保する技術として,発芽抑制剤と播種量について検討した.発芽抑制剤試験では,薬剤により越冬後の出芽個体数を増加させ,早期播種においても多収のコムギを生産することが可能な剤が認められた.また試験結果から,最大収量の95%以上を得るためには,178個体m-2以上の生存個体が必要であると判断された.播種量試験では,播種量を春播栽培の標準量(340粒m-2),1.5倍あるいは2倍量を検討した.播種量を増やしても穂数は増えるが穂長と千粒重がやや低下し,収量は標準量播種量とほぼ同じであった.越冬率は越冬可能な播種時期においても40%~89%であった.これらより,最大収量の95%を得るためには,必要生存個体数178粒を最低の越冬率である40%で除して得られたm2当たり445粒が播種量として適正であり,これ以上は収量増加に効果的でないと判断された.
  • 六笠 裕治, 大潟 直樹
    2001 年 70 巻 4 号 p. 510-514
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    テンサイ直播栽培における初期生育の向上を図るため,北海道農業研究センター育成の69一代雑種系統(三系交配)および3品種の初期生育性と種子特性との関係を調べた結果,真正種子重が大きく,平均発芽日数が短い系統ほど,初期生育における全乾物重が大きい傾向にあった.標準偏差を基準に比較すると,平均発芽日数の影響が相対的に大きく,真正種子重の影響は生育のごく初期で大きい傾向があった.また,一代雑種系統の真正種子重に対する両親系統の遺伝的な影響を検討したところ,4倍体を含む花粉親の影響よりも単交配の種子親の影響が大きく,それらの交互作用は小さかった.一方,細胞質雄性不稔系統の抽苔茎で生産される種子親自身の真正種子重と,単交配の種子親の抽苔茎で生産させる一代雑種系統の真正種子重との相関は明らかではなく,一代雑種系統の真正種子重はそれらの種子親系統よりも全般的に大きかった.これは,種子親を育成する際の細胞質雄性不稔系統と細胞質雄性不稔維持系統との一次交配によるヘテロシス効果が,一代雑種種子の真正種子重に発現したものと考えられ,真正種子の大粒化に向けての育種では,三系交配法が有利であることが示唆された.
  • 三王 裕見子, 大川 泰一郎, 相沢 奈美江, 平沢 正
    2001 年 70 巻 4 号 p. 515-524
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    日本晴,中国153号,タカナリを播種密度を3段階にかえて散播湛水直播栽培した.苗立ち密度は日本晴,中国153号は約60~240本m-2,タカナリは約40~130本m-2の範囲にあった.湛水直播水稲は,慣行移植栽培した水稲に比較して,すべての苗立ち密度で茎数の増加が大きく,穂数が多く,単位面積当たり穎花数は多くなる傾向があった.日本晴は登熟期に著しく倒伏し,苗立ち密度の高い水稲で倒伏程度が大きく,収量の減少程度も大きかった.方,中国153号,タカナリでは登熟中期に軽微な倒伏が認められただけで,収量は慣行移植水稲に比較して低くなることはなく,むしろ高い場合もあった.倒伏はすべてなびき型であった.以上の結果から,散播湛水直播栽培した水稲は倒伏しなければ,高い生育補償能力と密植適応性を示し,苗立ち密度の適正域の幅が広いことがわかった.なびき型倒伏に関係する下位節間の茎(葉鞘付き)の曲げ剛性は,中国153号は葉鞘の寄与率が大きいことによって,タカナリは稈の曲げ剛性が大きいことによって,それぞれ大きく,日本晴は稈の曲げ剛性が小さいことによって小さかった.日本晴では断面二次モーメントが小さいことによって稈の曲げ剛性が小さかったが,倒伏程度の小さかった苗立ち密度の低い水稲は,ヤング率が大きいことによって稈の曲げ剛性が大きくなっていることも併せて認められた.このことはなびき型倒伏に関係する稈の曲げ剛性を高めるためには断面二次モーメントとヤング率の両方を高めることが重要であることを示している.
  • 前田 忠信
    2001 年 70 巻 4 号 p. 525-529
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本田初期に除草剤1回とイネミズゾウムシ防除の殺虫剤1回の農薬使用という低農薬水稲栽培条件で,1991年~2000年の10年間,堆肥連年施用(以下,堆肥連用)水田と化学肥料連年施用(以下,化肥連用)水田で,水稲品種コシヒカリを用いて収量の年次変動を検討した.施肥条件は堆肥連用水田においては化肥無施用区と化肥少肥区,化肥連用水田では化肥少肥区と化肥多肥区である.実験は同一施肥条件圃場を継続して使用し,堆肥の累積効果も検討した.収量の年次変動は堆肥連用・化肥無施用区が最も小さく,また収量も10年間の平均で38.3kg/aと低かった.これは堆肥の累積効果が穂数には現れず,穂数不足が低収の要因であった.堆肥連用・化肥少肥区は変動はやや大きいものの,高収量をあげる場合が多かった.一方,化肥連用水田では,当初,実験開始前に投入された堆肥の効果が見られ,少肥区で収量が高かったが,1993年以降は穂数が天候に関係なく一定の割合で減少し,地力低下と見られ収量も低くなった.化肥多肥区では窒素過多で,倒伏,種いもちの多発で,登熟歩合が低下し,収量が低かった.地力が低下した1996年以降は,堆肥連用・化肥少肥区とほぼ同様の高い収量水準になった.これらの結果から,200kg/a程度の堆肥連用水田における,化学肥料の無施用では穂数不足で低収となるため,化学肥料を窒素成分で0.5kg/a程度を加えることによって種いもちの発生も少なく,コシヒカリを比較的多収で低農薬栽培を継続できることが明らかとなった.
  • 齋藤 邦行, 黒田 俊郎, 熊野 誠一
    2001 年 70 巻 4 号 p. 530-540
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    岡山大学農学部附属農場の水田において,水稲品種日本晴を供試して有機栽培を10年間(1990-1999年)継続した.試験区として基肥に完熟堆厩肥と発酵鶏糞を用い,農薬施用の有無により有機・無農薬区(ヒエ抜き,油粕追肥),有機・減農薬区(除草剤,油粕追肥),有機・有農薬区(除草剤+殺虫殺菌剤,化学肥料追肥),さらに化学肥料のみ用いた慣行区(除草剤+殺虫殺菌剤)を設定した.10年間の平均収量は,有農薬区(514g/m2)と慣行区(513g/m2),減農薬区(505g/m2)でほぼ等しく,これらに比べ無農薬区(459g/m2)では減収の程度(約10%)が大きかった.無農薬区における雑草の発生量は年次により変動し,優占種コナギとの養分競合による最高分げつ数,穂数の減少が減収要因であると考えられた.紋枯れ病の発生が認められたが,収量に及ぼす影響は小さかった.害虫ではコブノメイガが1995年に多発生したが,最も発生が多く認められたのはトビイロウンカであった.無農薬区では1990年,1991年と1997年に坪枯れの発生が認められたが,いずれの年も収穫直前であったため収量に及ぼす影響は小さかった.ウンカ・ヨコバイ類とクモ類の発生個体数の間には密接な正の相関関係が認められ,被食者個体群の増大とともに広食性天敵個体群も増大していることが推察された.有機物の連年施用により,土壌全炭素,全窒素含有率が増大し,地力の向上が窺えた.本研究の結果,基肥に堆厩肥と発酵鶏糞,追肥にナタネ油粕を用いることにより,化学肥料と同等の肥効が確保され,除草剤を施用しなくても,ヒエ抜きを行うことにより,慣行区の約90%程度の収量が確保された.カブトエビによる雑草防除,天敵類による害虫個体群抑制の可能性を議論した.
  • 吉永 悟志, 脇本 賢二, 田坂 幸平, 松島 憲一, 冨樫 辰志, 下坪 訓次
    2001 年 70 巻 4 号 p. 541-547
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    打込み式代かき同時土中点播機を用いた水稲の安定的湛水直播栽培技術を確立するための基礎的知見を得ることを目的に,散播および点播水稲の乾物生産や窒素吸収特性を比較し,生育や収量性との関連について検討を行った.複数個体で株を形成する点播水稲は株内の個体間競合を生育初期から生じるために,散播水稲に比較して初期分げつが少なく,最高分げつ期までの乾物増加量の低下を生じた.点播水稲では,このような初期生育の抑制により最高分げつ期から穂揃い期における窒素含有率が高まったこと,幼穂分化期以降の乾物重は散播水稲との差を生じなかったことにより,幼穂分化期の窒素吸収量が散播水稲に比較して増大した.しかしながら,点播水稲は散播水稲に比較して最高分げつ期から幼穂分化期の窒素含有率の低下が大きいために,窒素吸収量の増大にともなう総籾数の増加を生じなかったものと考えられた.また,点播水稲は成熟期のLAIが大きいこと,上位葉の面積当たり窒素含有量が高く,穂揃い期の個葉の光合成速度が高いこと等により登熟期間の乾物増加量が大きいことが明らかになった.このため,登熟性に優れる点播水稲は,窒素施肥法の改善による総籾数の増加にともない,収量性の向上が可能となることが示唆された.
  • 田村 良文
    2001 年 70 巻 4 号 p. 548-553
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ヘラオオバコの2品種を供試して,機能性成分であるイリドイド配糖体のCatalpol と Aucubin及びフェニルエタノイド配糖体のActeoside蓄積に及ぼす気温,光強度および窒素施肥量の影響を人工気象室で2段階の処理を行って検討した.気温については,昼温20℃/夜温18℃(20/18℃)と同15/10℃の2段階とした.その結果,生育は15/10℃条件で優れ,フェニルエタノイド配糖体のActeosideは20/18℃に比較して15/10℃で含有率が高まった.一方,イリドイド配糖体であるCatalpolとAucubinでは15/10℃に比較して20/18℃で含有率が高かった.これは,フェニルエタノイド配糖体とイリドイド配糖体の気温に対する蓄積反応が異なることを示している.光強度の影響を72%の遮光処理を行って検討した.遮光により生育量は明らかに減少し,AucubinとActeoseideの含有率は明らかに低下した.低下の程度はActeoseideでより顕著であった.一方,Catalpolには変化がなかった.これは,CatalpolがAucubinを前駆物質として生合成され,低濃度で飽和に達するためと考えられた.窒素施肥の影響については,水耕液の窒素濃度を無窒素施用(水道水)と硝酸アンモニウムを用い50mgL-1に高めた処理を設けて検討した.窒素濃度を高めることによる乾物生産の増加は僅かであった.一方,AucubinとActeoseideの含有率は顕著に低下し,Catalpolの含有率には変化がなかった.以上から,ヘラオオバコにおける機能性成分の蓄積は気温と光強度および窒素施肥の影響を受けること,特に,気温に対してはフェニルエタノイドとイリドイドの両配糖体で蓄積反応が異なることが分かった.これらの蓄積反応の違いを利用して,機能性成分含有率の高いヘラオオバコを生産する栽培技術の開発が期待される.
  • 楠谷 彰人, 上田 一好, 橋本 拓也, 諸隈 正裕, 豊田 正範, 浅沼 興一郎
    2001 年 70 巻 4 号 p. 554-560
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    オオセト×山田錦およびオオセト×松山三井の組み合わせにおける雑種初期世代からの葉色に対する選抜が後代のタンパク質含有率や他の酒米特性に及ぼす影響について検討した.F2集団の出穂期における葉色値(SPAD-502型による読み取り値)は正規分布に似た連続変異を示し,その分散から推定した広義の遺伝率は,オオセト×山田錦0.517,オオセト×松山三井0.397であった.F2からF5まで,出穂期の葉色が濃い方(H群)と淡い方(L群)へ選抜を続けた結果,F6系統のタンパク質含有率はH群の方がL群よりも有意に高くなった.平均値で比較した稈長+穂長はH群の方がL群より長く,1000粒重はH群の方が軽かった.また,H群の方が出穂期迄日数は短く,心白粒発現率は高かった.F6系統における葉色値とタンパク質含有率との間には有意な正の相関関係が認められた.ただし,H群内には葉色値とタンパク質含有率との関係が異なる二つのグループが存在した.葉色値のF5-F6親子相関は有意であった.これらより,酒米の品種育成においても雑種初期世代における出穂期の葉色はタンパク質含有率に対する選抜指標として有効と判断した.
  • 楊 知建, 佐々木 修, 下田代 智英, 中釜 明紀
    2001 年 70 巻 4 号 p. 561-567
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    中国湖南省のインド型水稲の二期作地帯では第一作目の育苗期の苗の低温障害が栽培上大きな問題である.そこで現在普及しているインド型品種(浙9248,湘24号)と低温抵抗性の異なる日本型I品種(コシヒカリ)および日本型II品種(胆振早稲,はやゆき)を供試し,育苗期における根の生長に対する低温の影響を調べた.処理温度は8,11,14℃とし,低温処理時および常温(20℃)回復後における根の生長と出液速度を測定し,低温下における各品種の根の生長反応と生理活性の関係について検討した.低温時においてはいずれの品種も低温強度が強いほど,また低温期間が長いほど根の生長および出液速度は抑制されたが,その抑制程度には品種間差が認められ,日本型II品種に比較してインド型品種および日本型I品種で抑制が大きかった.また,出液速度は低温の継続に伴ってインド型品種および日本型I品種で急激に低下したのに対し,日本型II品種では低下がほとんど見られず,根の生長限界温度である8℃においても処理開始時の出液速度が維持された.一方,常温回復後の根の生長および出液速度の回復は,低温強度が強いほど,また低温期間が長いほど遅れる傾向を示したが,遅れの程度は品種によって異なり,インド型品種で最も大きく,日本型I品種,日本型II品種の順に小さかった.とくに低温時における出液速度の大小と常温回復後の出液速度および根の生長回復との間には密接な関係が認められ,日本型II品種と比較して低温時における出液速度が劣るインド型品種と日本型I品種では出液速度および根の生長の回復も著しく劣っていた.以上のことから,低温ストレス下における根の生理活性の維持能力に品種間差があり,それが高く維持される品種ほど常温回復後の生理活性の回復が速く,このことが品種による根の生長回復量の差となって現れたのではないかと考えられた.
  • 湯川 智行, 大下 泰生, 粟崎 弘利, 渡辺 治郎
    2001 年 70 巻 4 号 p. 568-574
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    北海道の多雪地帯で試行されている春播コムギを根雪前に播種する栽培法において,越冬性が低下する要因と改善するための方法について検討した.発芽個体数は,播種後積雪下で30日目頃から増大し,その後,種子根および鞘葉が徐々に伸長した.根雪後40日目頃までに発芽しうる種子はほぼ発芽したが,そのうち越冬して起生できた個体数は大きく減少した.途中,雪腐黒色小粒菌核病の発生が観察され,発芽以後の越冬性の低下に関与するものと推定された.積雪下での発芽率を高めようと20℃や2℃で催芽した種子を播種したが,越冬性は改善されなかった.また,発芽率の低い種子を用いた時の越冬性は劣らないが,単位面積あたりの越冬個体数,穂数の減少を招き,子実収量は減少した.これらより,越冬性の低下要因は発芽過程にはなく,発芽後の障害が原因と考えられた.越冬性の改善について,粒径が2.2mm以上の大きい種子を用いた時には越冬性が高くなり,消雪後の生育や子実収量も高まることが明らかとなった.種子の大きさは積雪下での養分の消費と生長,特に起生時の生育に関係するものと推察された.
  • 門脇k 正行, 窪田 文武, 齋藤 和幸
    2001 年 70 巻 4 号 p. 575-579
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    サツマイモ植物体へ6%濃度のスクロース溶液を供給することによってシンク・ソースバランスを人為的に変化させ,それが葉から塊根への光合成産物の転流に及ぼす影響を確認するとともに塊根生産向上に最も効果的なスクロース溶液供給時期を検討した.その結果,スクロースを供給すると光合成産物の根への分配率が高まることが13CO2フィーディング実験により明らかとなった.塊根形成開始直前期のスクロース溶液の供給が塊根肥大に最も効果的であり,塊根内のADPグルコースピロホスホリラーゼ(AGPase)の活性が上昇した.一方,塊根肥大開始後の供給には効果がみられなかった.適期に植物体に供給されたスクロースは速やかに転流して根部の糖濃度を高め,それが引き金となってAGPaseなどのデンプン合成関連酵素の活性が高まり,シンク能が向上したものと考えられる.これによって塊根への光合成産物の転流が促進され,塊根生産が増加する結果となったものと理解される.シンク能向上に果たすソース能の役割の重要性が指摘された.
  • 和田 義春, 鈴木 まや, 尹 祥翼, 三浦 邦夫, 渡辺 和之
    2001 年 70 巻 4 号 p. 580-587
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    陸稲は,水ストレスに弱い作物であり,耐乾性の強化が陸稲収量の増加と安定性に不可欠である.本研究では,耐乾性に関わる形態的,生理的性質を検討するために,陸稲品種であるトヨハタモチとIRAT109および水稲の多収品種ぞあるIR36,水原287,水原290,さらに対照としてコシヒカリの6品種を供試し,同一のポットに栽培して同一の土壌水分条件下で地上部の諸形質の違いと旱ばつ抵抗性との関係を光合成速度と乾物生産から比較した.水ストレス下での葉面積と乾物重増加の抑制程度,葉身枯死の比較からは,トヨハタモチ,コシヒカリ,IRAT109に比し,IR36,水原287,水原290の旱ばつ抵抗性が大と判断された.また,水原287と水原290は水ストレス下での光合成速度の低下が小さかった.IR36,水原287,水原290は短稈で分げつの多い品種であった.また水ストレス下ではいずれの品種も葉身への乾物分配が減少し根への乾物分配が増加したが,IR36と水原287は水ストレス下で葉鞘へ乾物を多く蓄積する性質があった.再灌水後7日間の純生産速度で比較した生長の回復は,供試した品種中水原287が最も大きかった.この品種は,再灌水後も根への乾物分配が高く保たれる傾向にあった.
  • 一ノ瀬 靖則, 桑原 達雄, 高田 兼則, 西尾 善太, 堀金 彰
    2001 年 70 巻 4 号 p. 588-594
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    多層フィルム式ドライケミストリーによる低アミロ小麦の簡易迅速選別法の可能性を検討した.α-アミラーゼ活性を簡易に測定するために基質に修飾オリゴ糖(EPS:4-Nitrophenyl-α-D-maltoheptaoside-4,6-o-ethylidene)を用いて測定用スライドを試作した.α-アミラーゼ活性とアミログラム最高粘度(以下,アミロ値と称する)およびフォーリングナンバー値は材料に北海道の主要品種であるチホクコムギとホクシンを用い,健全粒に様々な割合で発芽粒を混合して調製した小麦粉と全粒粉で測定した.α-アミラーゼ活性とアミロ値およびフォーリングナンバー値それぞれの対数値の間の相関は高く,α-アミラーゼ活性の増加に伴ってアミロ値とフォーリンダナンバー値は低下した.このことから,α-アミラーゼ活性をもとにしてアミロ値およびフォーリングナンバー値の推定が可能であることが確認された.また,農家圃場より収穫期に採取したホクシンを対象に全粒粉のα-アミラーゼ活性とフォーリンダナンバー値を測定した結果においても両者の間には負の相関関係が認められた.このときの相関係数はr=-0.672で,低アミロ小麦の基準となるフォーリングナンバー値300secに相当するα-アミラーゼ活性値はおよそ310mUであった.本試作スライドによる小麦α-アミラーゼ活性測定は,生産現場でのα-アミラーゼ活性やフォーリングナンバー値をもとにした選別にも有効であると考えられた.
  • 水田 一枝
    2001 年 70 巻 4 号 p. 595-598
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水田への潅漑水によるN,P,K流入量を福岡県内の地域別,水稲の生育時期別に推定した.値は,潅漑用水中のN,P,K含有率に既報の潅漑水量を乗じて求めた.代かきを含む全期間合計での全窒素流入量は全地域平均で10a当たり2.1~3.0kgであった.筑後地域の全窒素流入量は多く,地域間差が大きかった.穂ばらみ期以降にも約1kgの全窒素が流入していた.アンモニア態窒素と硝酸態窒素の合計は全期間で1.1~1.5kg,穂ばらみ期以降に約0.5kg流入していた.全リン流入量は0.15~0.22kg,水溶性リンは0.08~0.12kgであった.カリウムは2.9~4.2kgであった.
  • 森田 茂紀
    2001 年 70 巻 4 号 p. 599-603
    発行日: 2001/12/05
    公開日: 2008/02/14
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