日本作物学会紀事
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75 巻 , 2 号
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研究論文
栽培
  • 高橋 行継, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 119-125
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    群馬県稲麦二毛作地帯への水稲育苗箱全量施肥栽培導入のための育苗法について検討した. 育苗は, 県下で普及しているプール育苗によって実施した. 水稲箱育苗全量基肥専用肥料「苗箱まかせ」(N400-100とNK301-100の2種類)を供試し, 育苗期間は20~22日とした. 育苗時期, 肥料の種類, 育苗箱内の施肥位置, 覆土の種類, 播種量について3年間試験を実施した. その結果, 4月育苗は問題なかったが, 5~6月育苗は育苗期間後半に肥料の過度の溶出が始まりやすく, 苗は伸長し, 苗マット強度も低下する傾向がみられた. 肥料の種類及び施肥位置は, 苗の生育にほとんど影響を及ぼさなかった. 供試した覆土資材中, 粒状培土は苗の出芽, 生育に問題はなかった. 一方, 粒状熔性燐肥ではほとんど出芽しなかった. 砂状熔成燐肥も生育障害や苗マット強度の低下が発生しやすく, 実用上問題があった. 粒状培土による覆土で発生する比較的軽度の苗マット強度低下であれば, 播種量の増加で問題を解決することができ, 移植作業上支障のない育苗が可能であった. 以上の結果から, 群馬県稲麦二毛作地帯においても育苗箱全量施肥栽培技術の導入が可能であることが示された.
  • 高橋 行継, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 126-131
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    群馬県東部平坦地域を中心とした稲麦二毛作地帯の水稲栽培の新育苗技術と施肥技術による低コスト・省力化を経済性, 省力性両面から評価した. 経済性に関しては10 a当たり経費, 省力性に関しては育苗の技術では取り扱い育苗箱積算重量, 施肥技術では10 a当たりの労働時間によって評価を行った. その結果, 新育苗箱育苗法及び培土減量育苗法は経費, 労働時間がそれぞれ30~36%の低減, 平置き出芽法, 本田全量基肥法は作業時間のみ30~33%の低減, 育苗箱全量基肥法は経費が17%, 労働時間は94%の低減となった. 個々の技術を体系化した「新育苗箱育苗法+平置き出芽法+本田全量基肥法」及び「培土量減量育苗法+平置き出芽法+育苗箱全量基肥法」の2つの体系を「従来育苗箱育苗法+標準培土育苗法+無加温積み重ね出芽法+本田分肥法」から構成される標準技術と比較したところ, 経費が前者で6%, 後者で30%, 労働時間は共に33%の低減となった. また, 後者による現地試験を2か年間実施した結果, 水稲の生育・収量は標準体系とほぼ同等であり, 収量・品質への影響もなく, 導入可能な技術であると判断した.
  • 岩渕 哲也, 尾形 武文, 田中 浩平
    2006 年 75 巻 2 号 p. 132-135
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    播種後の降雨とその後の乾燥によって形成される土壌のクラスト(土膜)によるダイズの出芽・苗立ちの不安定化を解消するため, 土壌のクラストが形成された場合の1穴の播種粒数が出芽・苗立ちと芽ばえの抽出力に及ぼす影響について検討した. 1穴3粒以上の置床では, 1, 2粒播と比較して苗立株率(株当たり苗立率)が顕著に高まり, 最終的な苗立株率は96~100%となった. また, 非接触型ストレーン・ゲージ荷重変換器を用いた芽ばえの抽出力は, 3粒播で測定直後から1, 2粒播の2倍程度で増加し, 最大抽出力は378 gで1粒播の3.5倍, 2粒播の1.6倍と大きかった. 以上のことから, クラストが形成された条件下において, 直播の場合, 1穴3粒以上で播種を行うと芽ばえの株当り抽出力が大きくなるとともに速やかに増加するため, 苗立株率が向上した.
  • 渡辺 治郎, 大下 泰生, 本多 健一郎, 小西 和彦, 辻 博之
    2006 年 75 巻 2 号 p. 136-140
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    北海道におけるダイズの重要病害にダイズわい化病(わい化病)がある. ユキホマレを用いた遅まき栽培を行い, わい化病の発病率と収量性の点から耕種的防除法としての有効性を検討した. 試験は2001年から2004年にかけて, 北海道農業研究センター羊ヶ丘圃場で実施した. 試験1として, 2001年から2004年にダイズ(供試品種はユキホマレ)の播種期を, 早まき(5月第3~4半旬), 標準まき(5月第5~6半旬), 遅まき(6月第1~2半旬)の3処理で栽培し, わい化病発病率と収量について検討した. 試験2として, 2003年と2004年に時期を変えてダイズ苗を圃場に放置して, 各時期にわい化病ウイルスに感染・発病した個体の割合から, ウイルス感染の危険期を推定した. 遅まきは台風の影響により顕著に減収した2004年を除き, 標準まきと同等の収量を示した. わい化病の発病率は早まきで最も高く, 遅まきでは低かった. 試験2から推測されたダイズわい化ウイルス(SbDV)感染の危険期ピークは5月第6半旬で, 6月第3半旬までは感染の危険が比較的高かった. 本試験におけるダイズの出芽期は標準まきで6月1~3半旬, 遅まきで6月2~4半旬であり, 遅まきしたダイズの出芽はジャガイモヒゲナガアブラムシ有翅胎生雌虫の飛来ピーク(SbDV感染の危険期終盤)を過ぎた時に出芽するため, わい化病の発病が少なかったと考えられた. また, わい化病発病率が低い場合にはダイズの密植により減収が軽減され, 遅まき栽培と密植を組み合わせることにより, わい化病による減収を軽減できるものと考えられた.
品質・加工
  • 藤冨 慎一, 住吉 強, 北原 郁文
    2006 年 75 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    生産現場におけるイグサ畳表の色調表現である「青味」および「白味」の程度を数値で表す官能評価法を考案するとともにその妥当性を検証した. 「青味」および「白味」程度の官能評価値と分光光度計による測定値のL*およびa*との間には高い負の相関関係が認められた. 評価の反復, 試料およびパネルを要因とする分散分析の結果, 試料間差およびパネル構成員間差は1%水準, 反復間差も5%水準で有意に認められた. また, 反復とパネル, 試料とパネルとの間の交互作用が各々1%水準で有意に認められた. 各パネル構成員の識別能力をパネル構成員ごとに試料を反復として分散分析して得られた試料間差のF値から判断すると, 約70%のパネル(9名中6名)が5%以下の有意水準であった. さらに, 個々のパネル構成員の評価値と全パネル平均値との間の相関係数を評価の指向性の指標とした場合, 各パネル構成員の指向性は全体と概ね一致していた. これらのことから, 「青味」および「白味」の程度を用いた官能評価法による畳表色調の識別精度はパネル全体として妥当性が認められた.
品種・遺伝資源
  • 趙 仁貴, 劉 建, 塩津 文隆, 豊田 正範, 楠谷 彰人, 武田 真, 一井 眞比古
    2006 年 75 巻 2 号 p. 148-152
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    水稲品種オオチカラとその短根性準同質遺伝子系統IL-srt1を供試し, 出穂期における地上部と根の形質, 出液速度および止葉の光合成関連特性を比較した. IL-srt1の草丈はオオチカラより有意に低く, 株当たり茎数と地上部乾物重も有意に少なかったが, 茎当たり地上部乾物重に有意差はみられなかった. 株当たりの出液速度はIL-srt1の方がオオチカラよりも有意に低く, IL-srt1/オオチカラ比は56%であった. そこで, この差を根量と根量当たり出液速度に分けて検討した. その結果, 総根長と総根重のIL-srt1/オオチカラ比は30%と35%, 総根長および総根重当たり出液速度の同比はそれぞれ188%と163%であり, いずれにも有意差が認められた. すなわち, 根量はオオチカラの方が多く, 根量当たり出液速度はIL-srt1の方が高かった. これらより, IL-ssrt1は根の量が少ないために根全体の生理機能はオオチカラより低くなったが, 個々の根の生理活性はオオチカラを上回っていると推測された. また, 光合成関連特性に関してはIL-srt1とオオチカラとの間に有意差は認められず, 短根遺伝子srt1は光合成に影響しないと考えられた.
  • 重宗 明子, 三浦 清之, 笹原 英樹, 後藤 明俊, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    水稲の育成地における材料の遺伝的多様性を把握し, 優良形質の集積を図る品種育成戦略を構築することを目的として, 中央農業総合研究センター北陸研究センター(旧北陸農業試験場)で過去80年以上にわたって育成された水稲品種系統(配付済みの北陸系統115系統と未配付系統28系統)について家系分析を行った. 総祖先数は, 20年前から増加し始め, 最近10年で2倍に増加し, 未配付系統の平均は1122に達していること, 祖先品種との寄与率からみて遺伝資源の幅が狭いことが明らかになった. 供試系統とコシヒカリとの近縁係数は1960年代に増加した後は頭打ちになっており, 2004年に奨決に供試した北陸系統16系統では, コシヒカリとの近縁係数は平均で0.463であった. また, コシヒカリとの近縁係数と食味との相関係数は有意ではなかった. 供試した全143系統はキヌヒカリと血縁関係があり, さらに現在育成中の系統(44系統)の86%がキヌヒカリの後代であることから, 育成当初から改良を積み重ね, 現在もコシヒカリの改良後代であるキヌヒカリの寄与が大きいことが示唆された.
  • 太田 久稔, 安東 郁男, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 159-164
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    育成系統の遺伝的背景を明らかにし, 今後の品種育成について検討した. 農業・生物系特定産業技術研究機構作物研究所において育成されている関東系統229系統の相互の近縁係数を計算し, クラスター分析を行い, 関東系統を分類した. 関東系統は, コチカゼ, 日本晴との近縁係数が高い古い育成系統群とコシヒカリとの近縁係数が高い新しい育成系統群に分類できることがわかった. また, 新しい育成群の中に, コシヒカリとの近縁係数が比較的低い群があることがあることがわかった. 関東系統22系統とコシヒカリとの近縁係数と食味および葉いもち発病程度との関連を検討した結果, コシヒカリとの近縁係数と食味, 葉いもち発病程度との相関は低いことが明らかとなった. コシヒカリとの近縁係数が比較的低く, 良食味でいもち病に強い関東系統の改良を進めるとともに, 外国稲などから有用遺伝子源を導入することで, 遺伝的背景の広い品種の育成が可能と考えられる.
  • 小林 俊一, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 165-174
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    栃木県産麦類の品質向上および原種, 原々種の混種防止を目的に栃木県の奨励品種及び有望視している品種を中心に関東周辺地域に作付けされているコムギ17品種、二条・六条・裸オオムギを含むオオムギ19品種についてRAPD分析による品種識別技術を開発した. これらの品種識別はコムギでは5種類のランダムプライマーを用いてDNAを増幅した後, 1.5%アガロースゲルで電気泳動しエチジウムブロマイド溶液で染色し, 現れた6種類のDNAマーカーの多型を確認することで可能であった. オオムギでは6種類のランダムプライマーで現れた9種類のDNAマーカーの多型を確認することで可能であった. 1945年育成の古い品種である小麦農林61号は原種の採種地により多型が認められた. 雑種第13世代の二条オオムギ関東二条35号の系統間に多型は認められず, 固定しているものと考えられた.
  • 小林 俊一, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    品種育成において, 交配親を選定する際に遺伝的背景を把握しておくことは, 育種の効率化のために有効である. そこで, 関東周辺地域のムギ類品種を用い, 交配記録の系譜から統計的に近縁係数を算出した. 次にこれらの品種間でRAPD分析による同一のバンドを示すDNAマーカー数と根井の遺伝的距離Dを算出した. 同一のマーカー数と近縁係数の間の相関係数はコムギで0.581~0.904, オオムギでは0.731~0.805であった. 遺伝的距離と近縁係数の間の相関係数はコムギで-0.511~-0.892, オオムギでは-0.659~-0.770であった. このことは, コムギ, オオムギにおいて今回の分子マーカーから得た遺伝情報は, 育成の過程で後代にほぼ均等に分離していったことを示すと考えられた. 遺伝情報を利用したDNAマーカーおよび近縁係数による簡易な血縁関係の推定は利用価値が高いと考えられる. なお, 同一マーカー数と遺伝的距離の相関係数は極めて高かった. 遺伝的な多様性の維持を意識しながら品種育成するためにもこれらの情報の有効利用が必要と考えられた.
作物生理・細胞工学
  • 古畑 昌巳, 岩城 雄飛, 有馬 進
    2006 年 75 巻 2 号 p. 182-190
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    水稲の湛水土中直播栽培において出芽・苗立ちに影響を及ぼす種子の物質代謝と諸形質との関係を検討した. 早期の出芽により最終的な出芽率は高まり, 同時に地上部形質が向上して播種後14日目の出芽率と同日の草丈, 葉齢, 茎葉部乾物重との間には高い正の相関関係が認められた. また, 播種後3日目の出芽率と種子のα-アミラーゼ活性, スクロース含量との間には相関関係は認められなかったが, グルコース含量ならびにフルクトース含量との間には正の相関関係が認められた. さらに基肥由来のアンモニア態窒素濃度が高まるにつれて出芽率は低下し, 種子のグルコース含量が同時に低下する傾向を示した.
  • 金 和裕, 金田 吉弘, 柴田 智, 佐藤 馨, 三浦 恒子, 佐藤 敦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 191-196
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    本報告では, 主茎や分げつの発生次位・節位の違いにより着生籾の玄米重が異なる要因を明らかにするため, 出穂期以降の水稲群落における主茎や次位・節位別分げつの葉面積と葉面積あたりの葉身窒素量の垂直分布を検討した. その結果, 玄米重の重い主茎や分げつは 1)1穂籾数は多いが精玄米歩合や精玄米千粒重は低下せず, 2)葉面積は大きいが, 籾あたり葉面積に差がなく, 3)相対照度の高い群落上層に葉面積あたりの葉身窒素量の多い葉身が多く分布した. これらの結果から, 主茎や次位・節位別分げつにおける着生籾の玄米重の違いは, 出穂期以降の群落空間における各茎の葉面積および葉面積あたりの葉身窒素量の垂直分布が異なることが要因と考えられた.
  • 何 寧, 沢田 壮兵, 加藤 清明, 小嶋 道之
    2006 年 75 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    寒冷地におけるアズキの安定生産には初期生育が重要であり, この観点からアズキの生育初期における葉面成長を明らかにした. エリモショウズとしゅまりの2品種を供試して, 2003年(低温年)と2004年(高温年)に実験を行った. 両年とも同じ日に2週間間隔で6回播種した. 初生葉, 第1, 第2および第3葉の葉面積と表皮細胞の面積を調査した. 供試した2品種の葉面積は初生葉が最も小さく, 葉位が上がるにつれて増加した. この傾向は一部を除き播種日を変えても, 低温年および高温年でも変わらなかった. いずれの葉の面積も低温年より高温年で大きかった. 表皮細胞は凹凸のある多角形で, 細胞面積には191~6088 μm2の変異があった. 初生葉の細胞面積は第1~3葉の面積より大きかった. 播種日が遅くなるにつれて, 初生葉の細胞面積は大きくなったが, 第1~3葉にはこの傾向はみられなかった. 細胞面積も高温年が低温年よりも大きかった. 葉面積に対して葉長と葉幅は各葉とも高い正の相関を示したが, 葉面積と細胞面積では初生葉でのみ正の相関が認められた. 葉面積に対する葉長と葉幅の効果は後者が相対的に大きかった.
収量予測・情報処理・環境
  • 金田 吉弘, 板垣 千絵, 佐藤 孝, 田代 卓, 佐藤 敦
    2006 年 75 巻 2 号 p. 204-209
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    2004年の台風15号は, 日本海沿岸部の水稲に甚大な潮風害を発生させた. 潮風害と水稲根活性の関係を明らかにするために, 八郎潟干拓地における代かきおよび不耕起水田において水稲の生育時期別の出液速度を測定した. また, 台風前の出液中のケイ酸量および稲体ケイ酸含有率と台風後の枯葉率の関係を検討した. その結果, 出液速度は不耕起区で高く推移した. また, 台風前の不耕起区における出液中のケイ酸量は代かき区に比べて多く, 稲体ケイ酸含有率は葉身, 茎において不耕起区が代かき区より有意に高かった. 台風通過後の不耕起区の枯葉率は代かき区に比べて小さく, 葉色の低下も緩やかであった. 不耕起区では代かき区に比べて, 登熟歩合が有意に高く, 収量は49%優った. また, 不耕起区では粒厚が厚い玄米の割合が多かった. 以上のことから, 不耕起区では水稲根活性の向上により代かき区に比べて, 強風による水分ストレスが軽減され, 生育後半まで葉身窒素濃度が維持されたため, 潮風害による大幅な減収が軽減された可能性が示唆された.
  • 上地 由朗
    2006 年 75 巻 2 号 p. 210-216
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/14
    ジャーナル フリー
    生産性が高く低環境負荷的な窒素施肥管理に資する窒素動態の簡易モデルを構築する基礎データを得るため, 基肥と穂首分化期追肥を組み合わせた試験区を設けて水稲を1/2000 aワグネルポットを用いて栽培し, 地下浸透や表面流出による流出水の窒素濃度および流出量を調査して窒素収支の中味について検討した. 供試品種はコシヒカリとタカナリで, 成熟期までの無機化量は0.66 g/ポット, 雨水や灌漑水からの供給量は0.06~0.08 g/ポットで, 施肥窒素などを含めた窒素インプット合計は1.09~1.91 g/ポットであった. 窒素施肥区における地下浸透による窒素流出量は0.23~0.31 g/ポットの範囲にあったが, 表面流出窒素はほとんど認められなかった. 植物体の吸収量は0.51~1.27 g/ポットで, コシヒカリ, タカナリともに窒素施肥区間では流出量や吸収量に有意な差はなく, 窒素施肥法の影響はみられなかった. これらの結果から, 窒素施肥区においては窒素インプット合計の12~16%が地下浸透により流出したが, その大部分は湛水後10日間に地下浸透した硝酸態窒素としての地力窒素であった. 地下浸透あるいは表面流出により相当量の施肥窒素が流出する一般の生産圃場と違って, 本実験では基肥窒素の多くは脱窒あるいは粘土含量が高い供試土壌に吸着したこと, 追肥窒素の多くはイネに吸収されたことに加え, 基肥および追肥窒素施用直後に顕著な降雨がなく表面流出が生じなかったことにより施肥窒素の窒素流出は少なく, 施肥量の5%程度であった.
連載ミニレビュー
  • 阿部 淳, 森田 茂紀, 安 萍
    2006 年 75 巻 2 号 p. 217-219
    発行日: 2006年
    公開日: 2009/07/06
    ジャーナル フリー
     電子顕微鏡は,植物の微細構造を明らかにすることで,形態のみならず生理や生化学なども含めた多様な課題について研究の進展に寄与してきた.この連載ではすでに,透過型電子顕微鏡について解説しているが(三宅 2005),本稿では,低真空走査電子顕微鏡による形態観察をかいつまんで紹介し,さらにX線微量分析装置と組み合わせた分析法を取り上げる.高額な機器ではあるが,学部や研究所の共用備品として保有している機関も少なくないので,形態を機能と関連づけて検討するための道具のひとつとして活用されたい.
  • 井上 吉雄
    2006 年 75 巻 2 号 p. 220-222
    発行日: 2006年
    公開日: 2009/07/06
    ジャーナル フリー
    作物個体や群落の形態・生理・生態的諸特性を,対象に触れることなく追跡的に調査できれば,作物研究上きわめて魅力的である.さらに,それを広域的に取得できれば,圃場や生態系のスケールで種々の問題を追究する際に,優れたツールとなる.その意味で,光・電磁波・超音波などの測定媒体を用いる非破壊計測やリモートセンシングは,作物の葉~個体~群落~生態系の量・形態・機能についての多様な特性を定量化する上できわめて有用である(Inoue 2003).本稿では,そのうち特に形態的な情報に着目して上記媒体を用いた非破壊的計測手法について概観する.
  • 和田 富吉
    2006 年 75 巻 2 号 p. 223-225
    発行日: 2006年
    公開日: 2009/07/06
    ジャーナル フリー
    樹脂包埋切片法は,もともと透過型電子顕微鏡観察のための生物試料作製法,すなわち超薄切片法の技術のひとつとして発達したものである.電子顕微鏡観察の方法とともに,樹脂包埋切片の光学顕微鏡観察法として発展したのが,以下に紹介する樹脂包埋準超薄切片法(準超薄切片法と略称)である.その植物材料への代表的な応用例は,Feder and O'Brien(1968),O'Brien and McCully(1981)である.なお本レビューと関連する超薄切片法については三宅(2005)を,パラフィン切片法については新田(2005)を,それぞれ参照ください.
  • 山田(川合) 真紀
    2006 年 75 巻 2 号 p. 226-228
    発行日: 2006年
    公開日: 2009/07/06
    ジャーナル フリー
    動物ではプログラム細胞死の一形態としてアポトーシスの研究が進められている.アポトーシスの特徴とされるのはクロマチン凝縮やDNAの規律ある分解等で,これらの変化を伴うプログラム細胞死を称してアポトーシスと呼ぶ.植物においても発生段階や環境ストレス下で細胞が死ぬ際に,アポトーシス様の変化が起きることが報告されており,進化的に保存された共通の機構が存在すると考えられる.アポトーシスを起こしている細胞の検出には,細胞の生死判別法と,さらに分子的指標とされるDNAラダー化や断片化の検出法を併せて用いることが必要である.ここでは,細胞の生死判別を行う為のエバンスブルー染色法と,DNAのラダー化の検出法,さらにTUNEL法によるDNA断片化の同定法について概略を述べる.
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