日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
75 巻 , 4 号
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研究論文
栽培
  • 後藤 英次, 野村 美智子, 稲津 脩
    2006 年 75 巻 4 号 p. 443-450
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    寒冷地の北海道は冷害対策の観点からも様々な窒素追肥・分施技術が確立されてきたが, これら技術の追肥時期と白米タンパク質含有量の関係については十分な検討がなされていない. そこで, 寒地水田(上川農試圃場, 褐色低地土)において重窒素標識硫安および普通硫安肥料を用いた水稲の追肥窒素に関わる試験を行い, 水稲への利用率, 稲体各器官への分配および白米タンパク質含有量に及ぼす影響を検討した. 幼穂形成期~幼穂形成期後7日目の追肥は白米への利用率が小さいため, 白米タンパク質含有量に与える影響は小さい反面, 追肥による増収効果が認められた. 止葉期(減数分裂期)の窒素追肥は追肥窒素の利用率および白米への利用率が高く, さらに吸収された窒素の穂部への分配も高いことから, 白米タンパク質含有量を高めることが認められた. これらの傾向は, 基肥窒素量の多少に関わりなく, ほぼ同様に認められた. 出穂期以降の窒素追肥は, 出穂期~出穂期後10日目の間で追肥窒素の利用率および白米タンパク質含有量が最も高くなり, それ以降は漸減した. 追肥窒素の穂部への分配も出穂期をピークにそれ以降で低下し, 追肥が遅くなると稈・葉鞘への分配が高まった. このことから, 低タンパク質米生産のためには窒素追肥を幼穂形成期後7日目までに行い, それ以降は実施すべきではないと判断した.
  • 後藤 英次, 野村 美智子, 稲津 脩
    2006 年 75 巻 4 号 p. 451-458
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    近年, 北海道米の食味は良食味品種の育成と肥培管理技術の開発などにより大きく向上してきたが, 依然として白米タンパク質含有量の低減と変動幅の縮小が求められている. 白米タンパク質含有量の変動は水稲の窒素吸収の影響が大きく, 水稲の窒素吸収量は施肥量と施肥法に関係していることから, 重窒素標識硫安を用いた水稲の窒素施肥法に関わる試験を行い, 水稲への利用率, 稲体各器官における分配及び白米タンパク質含有量に及ぼす影響について検討した. 全層施肥の窒素利用率は32.4~41.2%であり, 窒素施肥量の増加とともに利用率や白米タンパク質含有量が高まった. また, 全量全層施肥窒素8 g m-2区において吸収された施肥窒素の分配率は茎葉部36.5%, 穂部63.5%であり, 白米には45.4%が集積した. 全層+表層施肥は白米タンパク質含有量を低下させるが, 全量全層施肥および全層+側条施肥よりも窒素利用率が低く, 収量性が劣っていた. 側条施肥の窒素利用率は全量全層施肥より高いが, その吸収は止葉期以前に集中しており, 穂および白米への分配率が全量全層施肥と比較して低いことから, 白米タンパク質含有量は低かった. 全量全層施肥された窒素の次年度以降の利用率は, 2年目が2.9~4.0%, 3年目が1.3~1.8%, 3カ年を合計した窒素利用率は41.9~48.6%であった. また, 施肥後3年目でも, 施肥された窒素のうち20%近くが土壌に残存していた. したがって, 低タンパク質米生産には, 施肥窒素量の適正化を図るとともに生育初期の窒素吸収を促進させる側条施肥を組み合わせることが合理的と判断できる.
  • 藤井 弘志, 小田 九二夫, 柴田 康志, 森 静香, 今川 彰教, 安藤 豊
    2006 年 75 巻 4 号 p. 459-464
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    2004年の台風15号に伴い東北地方の日本海側で発生した潮風害の発生要因を台風の特徴から総合的に解析して, 今後の東北地域の日本海側における潮風害発生に対する資料とするとともに, 台風の特徴から潮風害の発生を予測する手順についても考察する. 台風の特徴からみた潮風害の発生要因としては, (1)南西風で風速が強く(15 ms-1以上), 風速10 ms-1以上の継続時間が長いこと(5時間以上)によって, 飛散した海塩粒子が平野の内陸部まで運搬されたこと, (2)高い波が海岸線に打ち寄せられ波しぶきが上がったこと, (3)降雨が少ないことによって, 農作物に付着した塩分が洗い流されなかったこと, (4)水稲の生育時期が潮風害の被害を受けやすい時期であったことが相互に重なりあって潮風害の被害地域および被害程度の拡大につながったと考えられる. 市町村によって収量的には大きな差が認められ, 北部地域または海岸に近い地帯ほど減収割合が高かった. 北部地域で南部地域に比べて収量が低下した一つの要因としては, 南部地域に比べて北部地域で風が強く, 海塩粒子が内陸部まで運搬されたことが考えられた.
  • 福嶌 陽, 楠田 宰, 古畑 昌巳, 中野 洋
    2006 年 75 巻 4 号 p. 465-471
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    早播き栽培に適した品種特性を明らかにすることを目的として, 早播きした秋播性コムギ系統西海185号の生育・収量を, 秋播性コムギ品種イワイノダイチ, 春播性コムギ品種チクゴイズミと3カ年にわたって比較した. 西海185号は, イワイノダイチと同様に, チクゴイズミと比較して二重隆起形成期や茎立ち期は遅いが, 出穂期・成熟期はほぼ同じであった. これに伴い, 西海185号は, 最高分げつ期の茎数が多い, 1穂小穂数が多い, 上位節間が相対的に短い, 開花期のLAIが大きいなど春播性のチクゴイズミよりも秋播性のイワイノダイチと類似した生育特性が認められた. 西海185号の収量・収量構成要素をみると, 穂数はイワイノダイチよりやや少なくチクゴイズミより多く, 1穂粒数はイワイダイチよりやや多くチクゴイズミとほぼ同じで, 千粒重は他の2品種よりも小さく, 子実重は他の2品種と同等であった. また, 西海185号は開花期以降にフレッケンの発生が顕著に認められたが, フレッケンの発生は登熟期間の乾物生産を抑制することはないと考えられた. 以上の結果から, 早播き栽培においては, 本研究で用いた3品種の間で生育特性に様々な差異が認められるが, 秋播性コムギと春播性コムギの間には収量性に大きな違いはないと推察された.
  • 義平 大樹, 唐澤 敏彦, 中司 啓二
    2006 年 75 巻 4 号 p. 472-479
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    1980年代以降にポーランドで育成された秋播性ライコムギは, 北海道中央部において適応し, 多収を示す. その多収要因を明らかにするため, 起生期における窒素追肥量が子実収量に及ぼす影響を調査し, 窒素施肥効率(起生期の窒素追肥量(FN)当りの子実収量(G)の増加量, ΔG/ΔFN)を4ヶ年にわたり, コムギおよびライムギの間で比較検討した. ライコムギの子実収量はすべての窒素追肥処理区においてコムギとライムギに比べて高く, その作物間差異は窒素追肥量にともなって拡大し, ΔG/ΔFNはすべての年次においてライコムギがコムギとライムギに比べて高かった. ライコムギの高いΔG/ΔFNは登熟期間における高い平均葉面積指数(MLAI)に由来した. 登熟期間のMLAIのコムギとの差は乳熟期までの吸収窒素(N)当りの葉身重(ΔLW/ΔN)の大きさに起因した. これに対して同期間のMLAIのライムギとの差は葉身窒素含有量(LN)の差に起因し, それは乳熟期までの吸収窒素当りの葉身窒素濃度(LNC)の上昇量(ΔLNC/ΔN)の大きさによってもたらされた. すなわち, ライコムギの多収性はライムギの具備する吸収窒素の葉面積拡大効率の高さと, コムギの具備する登熟期の葉身への窒素分配量の多さをあわせもつことによりもたらされていると推察した.
  • 島村 聡, 高橋 幹, 野原 努, 中村 卓司, 中山 則和, 山本 亮, 金 栄厚, 島田 信二
    2006 年 75 巻 4 号 p. 480-486
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    根粒超着生ダイズ品種「作系4号」は, 耕起栽培よりも不耕起栽培において安定して多収を示すことが明らかになっている. この原因として作系4号では根粒が多量に着生するために, 根系が小さくて, 土壌乾燥ストレスに弱いことが想定される. そこで, その要因解明の一環として, 不耕起条件のモデルとして土壌鎮圧処理を行い, 土壌硬度が異なる圃場で栽培したときの作系4号と親品種エンレイの生理・生態的特性を比較解析した. その結果, 作系4号は, 鎮圧区, 非鎮圧区の両方において根の発達程度がエンレイより劣り乾燥ストレスを受けやすい状態であったが, 鎮圧区では非鎮圧区より出液速度および気孔コンダクタンスは高く, 土壌の鎮圧処理により乾燥ストレスが緩和された. 作系4号では, 鎮圧区の地上部乾物重は生育初期から非鎮圧区に比べて高く, 鎮圧区の収量は2003年, 2004年ともに非鎮圧区より50 g m-2以上高まって約360~380 g m-2であり, 鎮圧処理効果に1%水準で有意性が認められた. 一方, エンレイでは同様の効果は認められなかった. 作系4号は根の発達がエンレイより劣るために土壌の乾燥ストレスを受けやすくなるが, 鎮圧処理により土壌体積含水率が高まると根からの吸水性が改善されて乾燥ストレスが緩和され, その結果, 作系4号の物質生産能力が高まり子実収量が向上したと考えられた.
品質・加工
  • 中津 智史, 松永 浩, 沢口 敦史
    2006 年 75 巻 4 号 p. 487-491
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    2002~2004年, 十勝中央部における農家栽培の秋まきコムギ品種ホクシン試料128点について, 収量およびコムギ子実品質(容積重, α―アミラーゼ活性, タンパク含有率, 灰分含有率)の実態を調査するとともに, その変動要因について解析した. その結果, (1)コムギ収量と子実品質との間に明瞭な相関関係は認められず, 各子実品質項目間でも相関は判然としなかった. (2)容積重は各年次とも千粒重と正の相関(r=0.67**~0.91**)が認められ, 整粒率ともr=0.65**~0.90**の正の相関が認められた. 千粒重の平均値は2003年>2002年>2004年で, 登熟期の平均気温が低い方が高まる傾向を示した. (3)3箇年とも成熟期前後に雨が少なかったためα―アミラーゼ活性は全般に低かった. (4)タンパク含有率の平均値は2003年が9.4%と低かったが, 2002年は10.2%, 2004年は10.3%でほぼ適正範囲にあった. タンパク含有率は麦稈のN含有率と比較的高い正の相関(r=0.56**~0.80**)が認められ, 麦稈のK含有率とも同程度の相関が認められた. (5)灰分含有率の平均値は2003年が1.44%, 2004年は1.53%であった. 灰分の内訳としてはPおよびKでほぼ4割を占めており, 特にP含有率とはr=0.92**以上の高い正の相関が認められた.
品種・遺伝資源
  • 塩津 文隆, 劉 建, 豊田 正範, 楠谷 彰人
    2006 年 75 巻 4 号 p. 492-501
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    水稲における登熟性の品種間差を解析するために, 25品種の登熟歩合および精籾比重を比較した. 登熟歩合(Y)と出穂期後の積算平均気温(X)との関係は, 次の式によって表された.
        Y=100-a・exp(-b・X)
    常数bとX切片は品種によって異なっていた. そこで, この常数b×105を登熟係数(RI), X切片を登熟開始温度(∑Ts)とし, 登熟歩合(R)および精籾比重(S)との関係を検討した. RはRIと有意な正の相関関係を示し, Sと∑Tsとの間に有意な負の相関関係が認められた. さらに, 出穂期における茎葉中の貯蔵炭水化物量(C)と出穂期後の乾物生産量(ΔW)との和を収量内容物(C+ΔW), 総籾数(N)と精籾容積(V)との積を収量キャパシティ(NV)とし, これらとRIおよび∑Tsとの関係を検討した. (C+ΔW)/ NVはRIと有意な正の相関を示した. ∑Tsとこれらの要因との間に直接有意な相関関係はみられなかったが, Cが多い品種は∑Tsが低くなる傾向が認められた. これらより, 収量内容物/収量キャパシティ比の高い品種は登熟係数が大きいために登熟歩合が高くなり, 出穂期までに大量の貯蔵炭水化物を蓄積している品種は登熟の開始が早く, 精籾比重が大きくなると判断された.
  • 石崎 和彦
    2006 年 75 巻 4 号 p. 502-506
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    水稲粳26品種を, 4種の高温処理条件, 即ち温水かけ流し圃場, ビニルハウス, 温水循環プール, 人工気象室と一般圃場で栽培し, 検定方法の特徴を把握するとともに, 高温登熟性検定における基準品種を選定した. 玄米品質を示す良質粒歩合は, いずれの検定方法においても低下し, 品種間差が拡大したことから, 登熟期間の高温処理は高温登熟性の把握に有効であると考えられた. また, 品種の高温登熟性の順位には, 検定方法の間に0.58~0.73の相関係数が認められ, いずれの方法を用いても同様の検定結果が得られることが推察された. 高温登熟性の基準品種として, 高温登熟性ランク強にふさおとめ, やや強にてんたかく, はなひかり及び越路早生, 中にひとめぼれ, はえぬき及びホウネンワセ, やや弱に味こだま, 加賀ひかり及び扇早生, 弱にトドロキワセ及び越の華を選定した.
  • 石崎 和彦, 金田 智, 松井 崇晃
    2006 年 75 巻 4 号 p. 507-510
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    いもち病真性抵抗性マルチラインを構成する同質遺伝子系統の混合割合が収量性に与える影響を調査するため, 抵抗性遺伝子型Pia, Pii, Pita-2, Piz及び抵抗性を持たない原品種を混合してマルチラインを構成し, いもち菌レース137を接種源とした穂いもち多発条件下で栽培した. 4種の真性抵抗性系統を原品種に25%づつ混合する要因実験を行った結果, 精玄米重, 精玄米重歩合及び減収率においてPita-2及びPiz系統の混合の有無が大きな寄与率を示し, 収量性は優占するレースに対する抵抗性系統の割合に大きく左右されることが明らかであった. また, 収量性を維持するためには, Pia, Pii, Pita-2及びPiz系統をすべて混合する条件が最適であり, 精玄米重は411.7 g m-2, 減収率は抵抗性系統の単植栽培と比較して10.6%であった. 一方, 原品種の単独栽培においては, 精玄米重は259.1 g m-2, 減収率は43.7%となった. 以上のことから, 抵抗性及び罹病性系統を同じ比率で混合したマルチラインは, 穂いもち多発条件下において, 精玄米重を152.6 g m-2増収し, 減収率を33.1%改善する効果を持つことが示された.
  • 池田 奈実子, 堀江 秀樹, 向井 俊博, 後藤 哲久
    2006 年 75 巻 4 号 p. 511-517
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    同一の施肥管理を行った茶園のチャ36品種について, 1992~1995年の一番茶新芽の全窒素, 全遊離アミノ酸, カフェイン, タンニン, 6種類の遊離アミノ酸及び1993~1995年のアスコルビン酸含有量を分析した. 各化学成分含有量について, 品種, 年次を要因とする二元配置分散分析を行った結果, すべての化学成分含有量について, 1%水準で, 品種間及び年次間に有意差が認められた. カフェイン, タンニン, アルギニン含有量は品種間分散が年次間分散に比べて大きく, 短期間で評価しやすい形質であるといえた. グルタミン酸含有量は年次間分散が大きかった. 1994年は, 全窒素, 全遊離アミノ酸, 各遊離アミノ酸の含有量が多く, タンニン含有量が少なかったが, 前年の中切りの影響によるものと推察された.
形態
  • 前田 和美
    2006 年 75 巻 4 号 p. 518-525
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    莢つきラッカセイ種子の寿命が小粒品種で優れることと莢の役割との関係を2実験で調べた. 実験1 : 外果皮, 中果皮, そして, 内果皮からなる未熟莢実の莢で, 外果皮と中果皮を加えた厚さは, 極小粒・薄莢の品種Chicoでは大粒・厚莢の品種ナカテユタカの約60%であったが, それぞれの細胞層の数には大きな差異が認められなかった. 外果皮と内果皮のほとんどが脱落, 崩壊している完熟莢実の莢で大部分を占める中果皮では, その最内層の厚膜組織が維管束の周辺に派生して隔壁状に発達していた. そして, 維管束と維管束の間に破生間隙様の空隙が観察されたが, それと莢の水分やガス交換におけるフィルター機能との関係が示唆された. 実験2 : 乾燥莢実1個あたりの, 莢実重, 子実重, 子実容積(VS), 胚室容積(VOC), 莢実表面積(PSA), 莢重(SHW), 莢の容積(PSA×ST), 及び胚室内空隙容積(VOC-VS)は, いずれも大~中粒性品種群h(バージニア・タイプと亜種間交雑育成の22品種)が小粒性品種群f(スパニッシュ・タイプ, 18品種)よりも約2倍と大きかったのに対して, 莢実表面積/胚室容積比は品種群fが品種群hよりも約30%大きく, 莢の厚さ(ST)では両品種群の差が小さく, そして, 莢密度(SHW/PSA×ST)では差がみられなかった. 莢つき種子の長期発芽力保持の品種間差異とその機構については, 莢の構造や物理的特性の差異が子実の水分やガス交換の動態に及ぼす影響の面からさらに詳しく調べる必要がある.
収量予測・情報処理・環境
  • 中園 江, 井上 君夫, 脇山 恭行, 大原 源二
    2006 年 75 巻 4 号 p. 526-534
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    気象データよりコムギの登熟の進度を推定することを目的として, 農林61号およびシロガネコムギの2品種を供試し, ガラス室で登熟期間の平均気温を13℃から25℃の範囲で変化させ, 子実の乾物重および含水率の推移を調査した. 子実の乾物重増加過程はロジスティック式によくあてはまり, パラメータを用いて最大粒重, 増加速度, 増加期間等を算出し比較した結果, 高温下での粒重の低下は, 主に乾物集積期間の短縮に起因するものと考えられた. 子実への乾物の集積がほぼ完了し, 粒重が最大となる生理的成熟期の含水率の平均値は両品種とも約41%となり, 従来からいわれている生理的成熟期の目安となる含水率40%が, 気温により登熟のパターンが変化した場合においても成り立つことが示された. 開花期を0, 生理的成熟期を1とする発育指数(DVI)の考え方を用いて, 気温に対する発育速度(DVR)の関係式を求め, 圃場における生理的成熟期の推定を行った結果, 二乗平均平方根誤差は2.1日であった. また開花期から生理的成熟期までの子実含水率は登熟の進度に依存し, DVIとの間に曲線の関係が得られた. この関係式を用いて推定された圃場の子実含水率は二乗平均平方根誤差が1.7%と精度が高く, 気温データを用いて生理的成熟期および子実含水率が予測可能であることが示された. さらに, 胚と胚乳の発育段階を観察した既往の文献をもとに, 登熟ステージの積算気温を算出して本研究の結果と比較した結果, 穂発芽と関連の深い種子の休眠は, 含水率がおよそ50%の時期から形成されることが示された.
研究・技術ノート
  • 山本 晴彦, 岩谷 潔
    2006 年 75 巻 4 号 p. 535-541
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    九州・山口地方へは水稲の穂ばらみ期から収穫期にかけて5個の台風(15・16・18・21・23号)が接近・上陸した. これらの台風に伴う強風により, 葉ずれによる葉身光合成能力の低下, 倒伏等による草姿悪化, 籾ずれによる登熟不良, 脱粒, 倒伏による穂発芽の発生などの複合的な要因により, 減収や品質劣化の被害が発生した. 作況指数は, 福岡県南筑後(70), 熊本県県北(74), 山口県西部・佐賀県佐賀(76)となり, 山口県, 福岡県, 熊本県では水稲玄米の品質が低下して1等米がわずか13~15%となった. とくに, 山口県では台風18号の通過時に周防灘からの強風, 通過直後からの少雨の継続により海岸地域を中心に潮風害が発生し, 著しい減収・低品質となった.
  • 高橋 行継, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 4 号 p. 542-549
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    稲作の低コスト・省力化技術への関心を探るために, アンケート調査を実施した. 対象は群馬県平坦部および中間地帯の稲作農家とし, 稲作経営面積や専業・兼業別, 経営主の年齢等のバランスも考慮しながら, 県内16市町村計109戸に対して戸別訪問面接調査法で実施した. その結果, 筆者らがこれまでに検討してきた低コスト・省力化関連の諸技術の普及率は概して低かった. この要因として, 農家側の栽培技術の現状や新技術への考え方に関する試験研究機関の認識不足, 農家の固定概念から生じている新技術に対する誤解や不安, 普及指導機関の情報伝達不足などがあげられた. 稲作農業の主力である50~60歳代は, 自身の技術に自信を持つ経営主が多く, 新技術に対する関心はあるものの, 積極的に導入しようとする意欲は低かった. 一方, 70歳以上の高齢者農家や稲作主体の兼業農家では, 稲作経営の維持のために省力化技術に対する関心は概して高く, 導入に前向きな農家もみられた. 技術の普及のために対象農家の絞り込みや方法の検討が必要である. 農家は技術情報の入手先として普及指導機関, 農業協同組合に次いで「口コミ」をあげており, 技術を地域に波及させるための鍵を「口コミ」が握っていると考えられた. 新技術普及のためには, 普及指導機関が農家に正確な技術情報を提供し, 正しく理解してもらうことが必要である. さらに展示圃において農家に自ら新技術を体験し, 正しい技術を身につけてもらうことで栽培を必ず成功させ, 「口コミ」による波及効果を狙うことが望ましいと考えられた.
  • 伊田 黎之輔
    2006 年 75 巻 4 号 p. 550-553
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    水稲品種コシヒカリを用い, 登熟期間(本報の場合, 傾穂期~成熟期間を示す)における止葉の窒素含量の化学分析値(ケルダール法), CCN値(近赤外透過方式), SPAD値(光学濃度差方式)の関係について検討した. 登熟期間における止葉のSPAD値とCCN値との間には高い相関(r=0.942***)が認められ, y=0.105 x-0.460の一次回帰式で示される. ただし, y : アグリエキスパート(CCN-05A)によるCCN値の推定値(窒素含有率, %), x : 葉緑素計SPAD-502によるSPAD値である. この回帰式による回帰推定の標準誤差は0.19%であり, 従来のSPAD値からCCN値への変換を実用的な精度で行うことが可能であることがわかった. 一方, 糊熟期における止葉のCCN値と窒素化学分析値との間には高い相関(r=0.837***)が認められ, y=16.12-2.70 x+1.51 x2の二次回帰式が成立する. ここで, y : 乾物当たり窒素含量の化学分析値の推定値(g kg-1 DW), x : アグリエキスパート(CCN-05A)によるCCN値(窒素含有率, %表示)である. CCN値による窒素化学分析値の推定誤差(RMSE)は6.14 g kg-1 DWと大きかった. しかし, この回帰式を用いることにより推定誤差は1.96 g kg-1 DWまで低下し, CCN値は止葉の窒素含量を示す実用的な指標値となることがわかった.
  • 藤井 敏男, 吉田 智彦
    2006 年 75 巻 4 号 p. 554-556
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/29
    ジャーナル フリー
    アジサイ属に属する西洋アジサイのブルースカイと甘茶向け品種であるアマギアマチャの交配組み合わせから, 甘味成分を持ち, 草型が優れ, 2倍体で稔性も良いと思われるうどんこ病抵抗性系統を育成した. この系統は甘茶向け品種のうどんこ病抵抗性系統の育成を行う際に母本として有用である.
情 報
日本作物学会シンポジウム記事
日本作物学会ミニシンポジウム要旨
連載ミニレビュー
  • 芝山 道郎
    2006 年 75 巻 4 号 p. 579-582
    発行日: 2006年
    公開日: 2009/07/06
    ジャーナル フリー
    作物個体群は一般に複雑な三次元的構造を有し,さらにそれが時間的,空間的に変動する.作物診断,栽培・育種研究支援,品質把握から精密農業に至るまで,作物学の広範な応用分野において,非破壊・非接触で作物の形態情報を取得する技術開発の意義は大きい(井上2006).本稿では,作物の葉群構造を探査する目的で作物個体群反射光の偏光情報を測定する方法を紹介する.作物個体群反射光に含まれる偏光成分の多くは個体群表層部の葉表面における反射によって生起し,その強度は,照明,観測および反射面相互の相対角度関係に依存する(Vanderbiltら 1985).個体群を上方から照らす太陽光の反射光を斜め上から観測する場合,一般に葉の着生角度が垂直葉型よりも水平葉型に近いほど偏光は強く観測される(Talmage and Curran 1986).葉面の傾斜角分布などをパラメータとする偏光推定モデルが提案されているが(Rondeaux and Herman 1991),偏光情報から葉群構造を定量的に推定する方法は研究途上である(Herman and Vanderbilt 1997).
  • 高橋 宏和, 中園 幹生
    2006 年 75 巻 4 号 p. 583-585
    発行日: 2006年
    公開日: 2009/07/06
    ジャーナル フリー
    高等植物は機能の異なる数十種類の細胞より構成されている.個々の細胞・組織の役割について理解するためには,それらの細胞・組織を純粋に単離して,DNA, RNA,タンパク質,代謝産物等を抽出し,解析する必要がある.しかし,これまでの遺伝子発現解析などの研究は,主に葉,根,茎,花といった器官レベルで行われてきた.器官レベルの解析では,特定の細胞・組織で機能する遺伝子を見逃す可能性があったが,近年,標的細胞・組織のみを単離することができるレーザーマイクロダイセクションの植物への適用が実現したことにより,細胞・組織レベルでの精度の高い遺伝子発現解析が可能となった.本稿では,このレーザーマイクロダイセクション法の概略について紹介する.
  • 川崎 通夫, 松田 智明
    2006 年 75 巻 4 号 p. 586-589
    発行日: 2006年
    公開日: 2009/07/06
    ジャーナル フリー
    走査型電子顕微鏡は,数十倍から数十万倍ほどの高倍率に及ぶ幅広い観察倍率で,試料をあたかも三次元像であるかのように映し出す.そのため,走査型電子顕微鏡は現在でも様々な科学領域で利用され,研究目的に応じた走査型電子顕微鏡試料の作製方法が数多く開発されている.この連載ではすでに低真空走査型電子顕微鏡について解説されているが (阿部ら2006),本稿では通常の走査型電子顕微鏡の特徴や著者らが作物研究に適用している走査型電子顕微鏡試料の作製方法としてA-O-D-O法と急速凍結-真空凍結乾燥法の概要を説明する.
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