日本作物学会紀事
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76 巻, 1 号
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総 説
  • 柏木 孝幸, 廣津 直樹, 円 由香, 大川 泰一郎, 石丸 健
    2007 年 76 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    イネにおいて倒伏は収量や品質を低下させ,生産者の作業効率を低下させる栽培上最も重要な障害である.倒伏は倒れ方から湾曲型,挫折型,転び型の3つに分類され,その中で湾曲型倒伏がコシヒカリ等の栽培で最も多く生じる.湾曲型倒伏は穂を含む植物体上位部の重さや風雨等の外部の力により稈が湾曲することにより発生する.「短稈化」,「強稈化」及び「下位部の支持力強化」が湾曲型倒伏に対する抵抗性のターゲットである.これまでの倒伏抵抗性の育種では主に短稈化がターゲットとされてきた.一方で短稈化のみで倒伏抵抗性を向上させていくにはいくつか問題がある.収量性の観点から考えると,草丈を下げる短稈化には限界が生じる.さらに抵抗性を向上させるには短稈化以外に強稈化及び下位部の支持力強化をターゲットとして育種を進めて行くことが必要である.本総説では,近年の分子・遺伝生理学的な研究の成果を中心に湾曲型倒伏に対する抵抗性に関する研究成果をまとめ,倒伏抵抗性向上に向けた研究の方向性を論じる.
研究論文
栽培
  • 古畑 昌巳, 岩城 雄飛, 有馬 進
    2007 年 76 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    湛水土中直播栽培の出芽の遅速と鞘葉の伸長特性との関係を明らかにするため,国内外の水稲128品種を供試して品種比較を行った.すなわち,コンクリート枠水田で催芽種子を播種した後に落水状態とした場合の出芽・苗立ちと,脱気水中の嫌気条件下における鞘葉の伸長速度との関係を検討した.コンクリート枠水田においては,出芽速度と播種後14日目の出芽率との間には有意な正の相関関係が認められた.また,播種後14日目の出芽率と第2葉抽出率および第3葉抽出率との間には有意な正の相関関係が認められ,播種後14日目の出芽率,第2葉抽出率,第3葉抽出率と地上部乾物重との間にも有意な正の相関関係が認められた.一方,嫌気条件下における鞘葉の伸長速度とコンクリート枠水田を用いた実験での出芽速度および出芽率との間には有意な正の相関関係が認められた.これらの結果から,嫌気条件下における鞘葉の伸長速度は出芽速度に影響し,早期の出芽によって出芽・苗立ち率は向上して初期生育も促進されることが示唆された.
  • 福嶌 陽
    2007 年 76 巻 1 号 p. 18-27
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    水稲品種ヒノヒカリ,タカナリおよびアケノホシを用いて,生育時期別窒素追肥が穂・葉・茎の形態的形質および乾物生産特性等に及ぼす影響を解析した.極早期追肥(出穂約39日前),早期追肥(出穂約29日前),標準期追肥(出穂約19日前)および晩期追肥(出穂約8日前)を行った.1穂分化穎花数は早期追肥区で多く,1穂退化穎花数は標準期追肥区で少なく,その結果,1穂穎花数は早期追肥区と標準期追肥区で多かった.葉身長および葉鞘長は追肥時期に急伸長中の葉位で長くなったが,節間長は追肥時期による差異が小さく不明確であった. LAIは,極早期追肥区および早期追肥区で増加したが,全乾物重は,追肥時期による変化が比較的小さかった.茎数は極早期追肥区で増加したが,穂数は極早期追肥区,早期追肥区,標準期追肥区の間で差異は認められなかった.総籾数は早期追肥区と標準期追肥区で多かった.品種間で比較すると,追肥による1穂分化穎花数,葉身長,およびLAIの増加程度は,タカナリで最も大きかった.このことから,形態的形質の制御のためには,施肥反応の品種間差異に着目する必要があることが示唆された.
  • 池永 幸子, 松本 二香, 稲村 達也
    2007 年 76 巻 1 号 p. 28-36
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    1998年から2003年にかけて,水稲-コムギ-ダイズの2年3作の田畑輪換を行う2つのブロックで栽培されている田畑輪換田水稲と一毛作田の収量および収量構成要素の変動要因を解析した.収量変動は,総穎花数によって支配されており,総穎花数32800個m-2までは,穂数と一穂穎花数が収量に強く寄与し,それ以降は登熟歩合,千粒重が収量に強く寄与していた.総穎花数を支配する穂数は栽培体系間およびブロック間で異なる土壌からの窒素発現量の影響を強く受けていた.本試験地では,穂数が輪換田および一毛作田の施肥等栽培管理の重要な対象となりうると考えられ,田畑輪換ブロックおよび一毛作田毎に穂数制御を目的とする栽培管理計画を設計すべきである.
  • 岩渕 哲也, 田中 浩平, 松江 勇次, 松中 仁, 山口 末次
    2007 年 76 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    北部九州において,開花期の窒素追肥とパン用コムギの品質との関係を明らかにするため,「ミナミノカオリ」と「ニシノカオリ」を供試して,開花期窒素追肥量を変動させて,製粉性,生地の物性および製パン適性について検討を行った.子実タンパク質含有率は,開花期の窒素追肥量を2 g m-2増やすごとに約1%高くなり,両品種とも2 g m-2施用でタンパク質含有率の基準値である11.5%に達した.開花期の窒素追肥量を多くするほどバロリメーターバリューが大きくなったが,「ニシノカオリ」は「ミナミノカオリ」と比較して,ファリノグラムの生地の形成時間,バロリメーターバリューおよびエキステンソグラムの各特性値が小さかった.「ミナミノカオリ」では4 g m-2施用でパン比容積が大きくなったが,「ニシノカオリ」では開花期の追肥量による処理間の差は小さく,この一つの要因として,「ニシノカオリ」は「ミナミノカオリ」より沈降量とグルテンインデックスが小さく,グルテンの品質が劣るためであると考えられた.パン総点は開花期の窒素追肥が多いほど優れる傾向がみられ,重回帰分析を行った結果,パン総点へはバロリメーターバリューと60%粉タンパク質含有率の寄与が大きかった.開花期の追肥量間と品種間の分散成分の比較により,60%粉のタンパク質含有率は開花期の追肥量,生地の物性やパン比容積は品種の影響が大きいことが示唆された.
  • 杉本 秀樹, 杉山 久枝, 森元 めぐみ, 山本 敦洋
    2007 年 76 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    西日本における夏ソバ栽培(春まきソバ)への緑肥レンゲ利用技術の確立に資するため,レンゲの播種量,播種時期およびすき込み時期が,夏ソバの生育・収量に及ぼす影響について検討した.実験1では1998年10月下旬に3 g/m2のレンゲを播種し,すき込み時期をソバ播種の20,10,2日前と変えた.すき込み時のレンゲ生重はすき込み時期が遅くなるほど増えたが,ソバ収量に有意差はみられず,ソバの播種20日前にレンゲ生重がおよそ2000 g/m2以上あれば,すき込み時期を特に考慮する必要はないことがわかった.実験2,3では肥沃度の異なる圃場でレンゲ播種期を1999年10月中旬に設定し,播種量を1.5,3.0,6.0 g/m2と変えた.すき込みに際しレンゲ地上部を刈り取った処理区も設けた.レンゲ生重,ソバ収量とも肥沃度の劣る圃場で小となったが,両圃場とも刈り取りの有無にかかわらず播種量3.0 g区と6.0 g区はソバ収量がほぼ等しく,1.5 g区は低かった.実験4ではレンゲ播種量を1.5,3.0,6.0 g/m2とし,播種期を2000年11月下旬に設定したところ, いずれの播種量でもレンゲ生重は著しく少なくソバの生育・収量も実験2,3と比較して顕著に劣った.実験2,3,4より,レンゲ播種の適量は3 g/m2であること,播種は10月中には終える必要があることが明らかになった.また,ソバの播種2日前にレンゲ生重が5000 g/m2以上あった実験2では刈り取りの有無にかかわらずソバ収量がほぼ等しかったことから,地上部を飼料や他の作物の緑肥として利用しうることが明らかになった.
  • 穴澤 拓未, 吉田 智彦, 栗田 春奈
    2007 年 76 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    ワイルドライス(Zizania palustris L.)は湛水条件下で生育するので,休耕田対策の作物として導入することが考えられる.草丈は水稲よりやや高く,穂数は多く,多収の可能性があった. 畑条件では根が成長に十分な養水分を吸収できずに枯死した. CGRは生育期間の前半ではLAIが大きく寄与しており,後半ではNARに支配される傾向を示した.太陽エネルギー利用効率は最大で2.1%であった. 子実収量は2年平均で141 kg/10 aであった.導入した集団の選抜を行い,早生・晩生系統,短稈・長稈系統を作出した.根,茎および葉に破生通気組織が観察された.その他の諸形態でイネとの共通点が多く認められた.ワイルドライスの花粉飛散量は晴天では午前中に最大値を示し,晴天時に比べ,曇天時は花粉の飛散するピークの時間帯が遅くなった.自家受粉率は4.7%であった.
  • ―第1報 子実収量からみた関東地方南部における播種適期の検討―
    氏家 和広, 笹川 亮, 山下 あやか, 磯部 勝孝, 石井 龍一
    2007 年 76 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,我が国でキノアの経済栽培を行う際に必要な基礎データを集収するために行ったものである.一連の研究の最初に,我が国の気象条件下でのキノアの播種適期を検討した.実験1では,南米の高地で栽培されているValleyタイプの品種と,高緯度・低地で栽培されているSea-levelタイプの品種を人工気象室内で栽培し,日長,気温が子実肥大および収量に及ぼす影響を調べ,播種適期を予測しようとした.Valleyタイプは,長日条件によって子実肥大が著しく抑制された.このため,関東地方南部においてValleyタイプを栽培する場合には,子実肥大期が短日条件にあたる7月以降に播種する必要があると考えられた.一方,Sea-levelタイプでは,子実肥大に日長は影響しなかったが,高温条件下で多収となった.そのため,子実肥大期が高温期にあたる3月~5月が播種に適すると考えられた.実験2では,上記のことを実証するために,屋外で播種時期を変えてポット栽培した.その結果においても,Valleyタイプは7月播種が,Sea-levelタイプは3月あるいは5月播種が,他の播種期に比べて高い収量を示したので,これらが関東地方南部における各タイプの播種適期であることが確認された.また,二つのタイプ間で収量を比較すると,Sea-levelタイプの3月,5月播種区の方がValleyタイプの7月播種区よりも多収であったことから,関東地方南部ではValleyタイプよりもSea-levelタイプの品種の方が適していると考えられた.
品質・加工
  • 佐藤 弘一, 吉田 直史, 大谷 裕行, 吉田 智彦
    2007 年 76 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    栽培特性,餅加工特性の優れた糯品種を育成するために,餅硬化性の優れるこがねもちと耐冷性,穂発芽性の優れる育成系統福島糯8号を交配し,選抜実験によりRVAによる糊化特性,玄米千粒重,玄米白度の遺伝率を検討した.ピーク温度,玄米白度の遺伝率が高く,最高粘度,ブレークダウンの遺伝率が低かった.糊化温度,ピーク温度と玄米千粒重は,値は低いが負の遺伝相関にあった.糊化温度,ピーク温度と玄米白度については,どちらを直接選抜するかで符号が異なることから遺伝相関は0に近いと考えられた.表現型相関係数では,糊化温度,ピーク温度と耐冷性については,値は低いが有意な正の相関関係が認められた.また,糊化温度,ピーク温度,玄米白度は登熟気温と有意な正の相関関係にあり,稈長,穂長は登熟気温と有意な負の相関関係にあった.なお,糊化温度,ピーク温度は稈長と有意な負の相関関係が認められた.本研究の交配組合せから短稈で,餅硬化性の優れる品種を育成することが可能であると考えられた.餅硬化性に優れ,耐冷性の強い,玄米白度の高い品種を育成するには集団の個体数を多くし選抜する必要があると考えられた.また,選抜において玄米千粒重の低下に留意する必要があった.
  • 若松 謙一, 佐々木 修, 上薗 一郎, 田中 明男
    2007 年 76 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    水稲の登熟期間の高温条件が玄米品質に及ぼす影響について検討した結果,出穂後20日間の平均気温27℃以上の高温条件で背白米,基白米が多発し,それ以下の温度ではほとんど発生が認められなかった.但し,背白米の粒厚は乳白米に比べて厚く,タンパク質含有率も乳白米に比べて低いため,食味低下への影響は乳白米に比べて小さいものと考えられた.また,千粒重は出穂後30日間の平均気温26℃以上の高温条件で,整粒割合は27℃以上で低下傾向が認められた.玄米品質からみた登熟適温は,千粒重が最大となる約24℃と考えられた.また,不完全米発生割合で品種間差異がみられ,その発生様相,程度が異なることが認められた.中でも背白・基白米発生割合について品種間の違いが顕著であった.ヒノヒカリ,黄金晴,初星,ミネアサヒといった高温登熟性が「弱」の品種は,いずれも高温登熟性が劣る喜峰に由来しており,高温登熟性の優劣は遺伝的影響を受けていることが考えられた.
  • 中津 智史, 佐藤 康司, 佐藤 仁, 神野 裕信
    2007 年 76 巻 1 号 p. 79-85
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    アミロ値は重要なコムギ品質の特性値であるが,穂発芽の過程で活性化されるα-アミラーゼによって低下すると,低アミロコムギとなり加工適性が劣る.秋まきコムギ新品種のキタノカオリについて,2001~2005年に北海道内のべ52地点で成熟期の子実試料を採取し,穂発芽粒率およびα-アミラーゼ活性,フォーリング・ナンバーを調査した.その結果,2003年の7地点で穂発芽は認められないが,高α-アミラーゼ活性で低フォーリング・ナンバーの低アミロコムギが認められた.一方,主要品種であるホクシンではこのような現象は認められなかった.成熟期前の気象条件とキタノカオリの成熟期のフォーリング・ナンバーとの相関を検討した結果,降水量,日照時間との相関は低く,成熟期前4週間の平均気温とはr=0.635(p<0.01,n=52)の比較的高い正の相関が認められ,17℃以下でフォーリング・ナンバー300以下の試料が複数認められた.登熟期の温度処理試験の結果,成熟期前約3週間が低温条件(平均気温15℃)であったキタノカオリでは,高温条件(平均気温20℃)の場合よりも成熟期直後のα-アミラーゼ活性が高い傾向を示した.成熟期以降の降雨処理試験の結果,キタノカオリはホクシンよりも穂発芽粒率およびα-アミラーゼ活性が高く,低アミロ化しやすい傾向を示した.以上のことから,キタノカオリは登熟期の低温条件により成熟期のα-アミラーゼ活性が高まりやすく,成熟期以降の降雨に対してもホクシンより穂発芽しやすいことを明らかにした.
品種・遺伝資源
  • 原田 光, Nguyen Van Huan, 杉本 秀樹
    2007 年 76 巻 1 号 p. 86-92
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    四国山地西部の山村農家から黄色種子25系統,黒色種子17系統,褐色種子2系統および緑色種子10系統からなる計54のダイズ地方品種系統を採集し,圃場で育成して生育・収量構成要因と種子形態の変異を調べた.枝分かれ分散分析の結果,これらの形質の多くに系統間で有意な差違が認められた.また開花まで日数および成熟までの諸形質と100粒重以外の収量構成要因相互間に有意な正の相関があった.100粒重と他の生育・収量構成要因との間には負の相関があり,生育と子実の充実の間にトレードオフがあることを示唆した.また,種子形状比(厚み/幅)と栽培高度との間に有意な正の相関が認められ,栽培高度が形質多様性創出の一因と成り得ることが示唆された.調べた生育・収量構成要因と種子形態について主成分分析を行い,形質の類似性と地理的分布との関係を調べたが,愛媛県広田村(旧名)の系統を除いて,明らかな関係は認められなかった.系統間の遺伝的距離と地理的距離の間には正の相関が見られる一方で,遺伝的距離の近い系統間にも大きな形質の差違が認められた.
  • 小林 俊一, 吉田 智彦
    2007 年 76 巻 1 号 p. 93-99
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    ユウガオにおける保存品種の選定を目的として,栃木県育成品種5品種を含むユウガオ14品種とユウガオの変種であるヒョウタン10品種の合計24品種についてRAPD分析とクラスター分析を用いて分類を試みた.その結果,44種類のランダムプライマーを用いて31種類のDNAマーカーが得られた.その内,栃木県内の品種間では4種類の多型がみられたのみであり,近縁関係が極めて近いと示唆された.一方,県外や海外からの導入品種は近縁関係の遠いことが示唆された.これらのことから,今後も品種を維持するにあたり,栃木県内の品種については表現型で分類した後,代表的な品種を,導入品種については広い地域から数多くの品種を保存することが望ましいと判断した.
作物生理・細胞工学
  • 古畑 昌巳, 岩城 雄飛, 有馬 進
    2007 年 76 巻 1 号 p. 100-107
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    水稲の湛水土中直播栽培における出芽・苗立ちに影響を及ぼす鞘葉の伸長特性および種子の糖含量について国内外の水稲30品種を供試して検討した.すなわち,コンテナ実験で催芽種子を播種した後に落水状態とした場合の出芽・苗立ちおよび初期生育と,脱気水中での嫌気発芽時の鞘葉の伸長特性および種子の糖含量との関係を解析した.コンテナ実験では,出芽速度,第1葉および第2葉の抽出速度を早めることは最終的な出芽率,第1葉および第2葉の抽出率を高め,初期生育を促進することが示唆された.嫌気発芽時は,鞘葉の初期伸長性の優れる品種で鞘葉の最大長が長く,鞘葉長と種子の胚および胚乳のグルコース含量の間に有意な正の相関関係が認められた.コンテナ実験における最終的な出芽率と嫌気発芽時の鞘葉長との間に有意な正の相関関係が認められたことから,嫌気発芽時の鞘葉長が湛水土中直播用品種の選抜指標になることが示唆された.
  • 猪野 剛史, 加藤 尚
    2007 年 76 巻 1 号 p. 108-111
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    モミラクトンBがイネのアレロパシーにどの程度関与しているかを検討するために,8品種のイネ芽生えのアレロパシー活性と,これらのイネ芽生えからのモミラクトンB放出量を測定した.すべてのイネ品種は検定植物に対して生長抑制活性があり,その生長抑制活性は品種間で異なっていた.また,モミラクトンBはすべてのイネ品種の培養液中から検出され,これらのイネ品種がモミラクトンBを培養液中に放出することが明らかになった.また,モミラクトンBの放出量は品種間で異なっていた.イネ8品種の生長抑制活性とモミラクトンBの放出量の間には有意な相関があり,モミラクトンBの放出量が多い品種ほど生長抑制活性も強かった.以上の結果から,モミラクトンBはこれらのイネ品種のアレロパシーに重要な役割を持つことが示唆された.
収量予測・情報処理・環境
  • 神田 英司, 鳥越 洋一, 小林 隆
    2007 年 76 巻 1 号 p. 112-119
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/02/28
    ジャーナル フリー
    水稲栽培地域内に異なる発育ステージが混在することは冷温による被害程度を推定する上で問題となる.そこで,地域内の特定の発育ステージにある有効穂や穎花の存在割合を評価する手法を作成した.この手法は,地域内の個々の圃場における移植日の幅と,移植する苗の葉齢を基本とし,個々の圃場内の有効穂や穎花の発育ステージ変異と組み合わせることで,地域内の発育ステージの変異を推定するものである.この手法を1999年,2001年,2003年の青森県のアメダス地点のうち,青森,蟹田,五所川原,弘前,黒石,八戸,十和田,三沢,作柄表示地帯の青森地帯,津軽地帯,南部・下北地帯に適用し,実用性を検討した.出穂期の始期,盛期,終期の推定誤差は,1999年はアメダス指標地点の平均で2.4日,作柄表示地帯別で2.8日であった.冷害年である2003年はアメダス指標地点の平均で7.8日,作柄表示地帯別で6.5日でとくに太平洋側の地帯,地点では誤差が大きかったが,日本海側の津軽地帯および五所川原,弘前では推定精度が良かった.これは太平洋側の地帯,地点では冷害回避のため深水管理で水温を高く保ったため,出穂期が早くなったものと推察される.危険期間の冷却量を推定すると不稔歩合と一定の関係がみられた.この手法でその年度の地域内の発育ステージの変異の特徴を推定することができた.
連載ミニレビュー
  • 1.構造間の連結および位置情報の記述方法と3次元デジタイザによる形状計測
    渡邊 朋也
    2007 年 76 巻 1 号 p. 120-123
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/07/03
    ジャーナル フリー
    作物形態の3次元構造と個々の器官の機能・生長をコンピュータ上に再現するFunctional-structural plant models(FSPMs)の研究が盛んになってきつつある(Godin and Sinoquet 2005).われわれは3次元デジタイザを用いて複数のイネ個体の葉の生長,角度の継時的変化を測定し,その結果にもとづいてコンピュータグラフィックス技術を利用した3次元形態生長モデル「仮想稲virtual rice」を作成した(Watanabe ら 2005).ここでは仮想植物作成のためのトポロジカルな情報の取り扱いならびに3次元デジタイザによる形態計測例について紹介する.
  • 2.形態と生長のモデル化 L-studioの利用
    渡邊 朋也
    2007 年 76 巻 1 号 p. 124-127
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/07/03
    ジャーナル フリー
    植物各器官の連結状態およびそれらの生長規則をL-systemの文法により記述し,前回報告した3次元デジタイザを利用して収集した形態情報,生理的生育情報と併せて,3次元「仮想植物」を作成する手順を紹介する.
  • 林 八寿子
    2007 年 76 巻 1 号 p. 128-130
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/07/03
    ジャーナル フリー
    電子顕微鏡用の試料作成法としては,簡便な化学固定法が主流であるが,細胞内のより微細な構造の解析や,瞬間的な動きを捉えるため,また,免疫電子顕微鏡法のための抗原性の保持のためには,凍結固定法が優れている.近年,高圧下で凍結することで,構造を破壊する原因である氷結の形成を防ぐことができる高圧凍結装置(Bal-Tec, HPM010S型)が開発され,組織を材料とした凍結固定法による試料作成が可能となっている.そこで,この装置を用いた高圧凍結および凍結置換法について紹介する.
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