日本作物学会紀事
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78 巻 , 2 号
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総 説
  • 古畑 昌巳
    2009 年 78 巻 2 号 p. 153-162
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    現在,我が国の水稲移植栽培では,育苗および田植え作業が労働時間の1/4を占めているため,直播栽培の導入によって稲作の省力・低コスト化が進むことを期待されている.しかしながら,現在,直播栽培の普及面積は水稲栽培全体の約1%であり,一般的な技術として普及していない.この原因として,水田に直接播種することによって出芽・苗立ちが不安定になりやすいことが大きな要因になっていると考えられる.本稿では,播種後落水の効果,播種後落水を効率よく行うための圃場条件,過酸化カルシウム剤・鉄コーティングおよび種子予措の効果,播種後の気象条件,良出芽となる品種が持つべき特性および育種への利用,出芽・苗立ちに関与する種子の糖代謝についての知見を整理して,今後の研究方向を論じる.
研究論文
栽培
  • 内川 修, 田中 浩平, 宮崎 真行, 松江 勇次
    2009 年 78 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    7月下旬の晩播,無中耕無培土栽培を前提とした水田転換畑作ダイズの省力安定多収生産技術の確立に資するため,2002~2005年の4カ年にわたり「サチユタカ」を供試して培土の有無や栽植密度が,ダイズの生育,収量,窒素固定能に及ぼす影響を検討した.サチユタカを晩播で無中耕無培土栽培した場合,収量は適期播の収量に比べ劣る傾向にあったが,年次によっては適期播と同程度の収量が得られ,条間を縮小する狭畦栽培により地上部乾物重が増加し,子実収量も増加の傾向が認められた.一方,無中耕無培土栽培では倒伏が問題となった.また,m2当たりのアセチレン還元能(窒素固定能)と地上部乾物重および子実収量との間に有意な正の相関関係が,倒伏程度との間には有意な負の相関関係が認められた.したがって,窒素固定能を高めるには地上部生育量の確保と倒伏回避の重要性が示された.以上のことから北部九州において,7月下旬以降の晩播で省力かつ安定多収生産を図るためには,生育量を確保し窒素固定能を高める狭畦栽培を実施し,かつサチユタカ以上の耐倒伏性を持った品種を導入することが重要であると考えられた.
  • 古畑 昌巳, 帖佐 直, 松村 修, 湯川 智行
    2009 年 78 巻 2 号 p. 170-179
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    寒冷地においてエアーアシスト条播機と鉄コーティング種子を利用した直播栽培法を確立する目的で,湛水直播栽培における鉄コーティング種子の防鳥効果とその要因について検討し,湛水土中播種条件における鉄コーティング種子の出芽・苗立ち特性を催芽種子および過酸化カルシウムコーティング種子と比較した.鉄コーティング種子は,圃場条件において過酸化カルシウムコーティング種子に比べて防鳥効果があることが確認された.この要因の一つとして,鉄コーティング種子表面の色差は,過酸化カルシウムコーティング種子に比べてL*値(明度)が小さく,酸化に伴ってa*値とb*値が大きくなる(赤みと黄みが増す)ことによって土壌表面と似た色となるため,鳥害が生じにくいことが示唆された.一方,鉄コーティング種子は過酸化カルシウムコーティング種子に比べて低温条件や播種深が深くなるのに伴って出芽・苗立ちが遅れ,出芽・苗立ち率は低下して初期生育量が小さくなることが示唆された.以上の結果,鉄コーティング種子を利用する場合には表面播種とし,寒冷地では出芽・苗立ちを早進化させる技術の導入が必要であると考えられた.
品質・加工
  • 横江 未央, 川村 周三
    2009 年 78 巻 2 号 p. 180-188
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    3年間にわたり12品種の北海道米および府県米計56試料の玄米と精米の理化学分析と官能試験を行い,品質と食味を評価した.その結果,北海道米のタンパク質含有率,アミロース含有率と糊化特性は府県米と同程度であった.味度値,炊飯米外観と米飯粘弾性は北海道米と府県米に差は認められなかった.官能評価では北海道米は府県米に比較して精米外観と炊飯米外観が良く,総合評価が高かった.また北海道米は炊飯後の時間が経過しても食味の低下が府県米と同程度,もしくは府県米に比べて小さかった.本試験では,タンパク質含有率およびアミロース含有率と官能試験の総合評価との負の相関は認められず,食味評価の観点から見て大部分のタンパク質含有率およびアミロース含有率は適切な範囲にあると思われた.以上の結果から,北海道米の品質と食味は,府県米と同程度もしくはそれ以上であり,従来に比較して向上していることが明らかとなった.北海道米の品質と食味の向上は,品種改良,栽培管理技術の向上,ポストハーベスト技術の向上よるものと推察された.
品種・遺伝資源
  • 原 貴洋, 松井 勝弘, 生駒 泰基, 手塚 隆久
    2009 年 78 巻 2 号 p. 189-195
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    西南暖地の春まき栽培向けに育成された「春のいぶき」と国内品種の収量関連形質と穂発芽の品種間差異を明らかにするために,4ヵ年にわたって熊本県合志市において4月中旬播種の作期で栽培試験を実施した.中間夏型品種の子実重は,他の生態型の品種より高かった.春のいぶきの子実重は,夏型品種や秋型品種より有意に高く,中間夏型品種と同等であった.中間夏型品種と春のいぶきは夏型品種と比べて,花房数が多く,花房当たり子実数と千粒重は同程度であった.鹿屋在来と中間秋型品種の常陸秋そばは,調査を行った7月上旬までに成熟に至らず,子実重は他の生態型の品種より低かった.鹿屋在来と常陸秋そばは他の生態型の品種と比べて,花房数は多かったが,結実率が低く花房当たり子実数が少なかった.春のいぶきの穂発芽は,全ての試験年次で,夏型品種および中間夏型品種より有意に少なかった.穂発芽と子実重の年次間相関は,千粒重や草丈の年次間相関と同程度であったため,穂発芽と子実重の品種間差異は年次の影響を受けにくいと考えられた.春のいぶきは既存品種に比べて,春まき栽培における難穂発芽性と多収性をバランスよく兼備する品種であり,実用性が高いと判断された.
  • 池田 奈実子, 向井 俊博, 池ヶ谷 賢次郎
    2009 年 78 巻 2 号 p. 196-202
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    茶栄養系適応性検定試験(系適試験)に供試した16品種・系統について,近赤外分光分析法によって,1988年,1989年の一番茶の全窒素,全遊離アミノ酸,カフェイン,タンニン含有量を分析した.系適試験のデータは,多数の欠測値を含むため,分散分析の前に欠測値の推定を行った.推定値を含めて各化学成分含有量について,品種および環境(地域・年次)を要因とする二元配置分散分析を行った結果,すべての化学成分含有量について,1%水準で,品種間および環境間に有意差が認められ,全分散に対する環境間分散の比率は,品種間分散の比率より大きかった.一番茶の化学成分含有量は,地域・年次による環境条件の違いによって,大きく変動する形質であるが,品種間には遺伝的変異が認められた.これらの化学成分の中では,カフェイン含有量は,品種間分散の割合が他の形質より大きかった.
形態
  • 趙 仁貴, 塩津 文隆, 劉 建, 辺 嘉賓, 豊田 正範, 諸隈 正裕, 楠谷 彰人
    2009 年 78 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    水稲品種オオチカラとその短根性準同質遺伝子系統IL-srt1を異なる栽植密度下で栽培する圃場試験,および異なる施肥窒素条件下で栽培するポット試験を実施し,これらの環境変化に対する生育反応の比較調査を通じて,短根という形態特性が水稲の生育に及ぼす影響を検討した.株当たり地上部乾物重および穂数は,品種・系統に拘わらず栽植密度が増加するほど減少し,施肥窒素量の増加に伴って増加した.また,疎植条件下や高窒素条件下のIL-srt1の株当たり地上部乾物重と穂数は,密植条件下や低窒素条件下のオオチカラの値を上回る場合も多かった.栽植密度および施肥窒素量のいずれの試験でも株当たり地上部乾物重は茎当たり地上部乾物重よりも株当たり穂数と密接に関係していたが,株当たり地上部乾物重および穂数と総根長との関係は,栽植密度の試験の場合のみ有意な正の相関関係が認められた.また,IL-srt1とオオチカラとの株当たり地上部乾物重と穂数の差は,栽植密度が低いほど拡大する傾向を示したが,施肥窒素量の変化に対しては一定の傾向を示さなかった.これは,栽植密度の試験では疎植下ほど根域の差が養水分供給能力の差として生育に大きく反映されるのに対して,窒素量の試験では根域の影響を介さずに与えた窒素量の差が地上部の生育差として反映されたためと推察された.以上の結果から.水稲における短根という形態特性は,個体当たりの根長が短く,根域が狭いことで根系の養水分供給能力が低く,そのため,分げつの発育抑制などを介して地上部生育を低下させる可能性が示唆された.
  • 上田 卓司, 加藤 盛夫, 丸山 幸夫, 横尾 政雄
    2009 年 78 巻 2 号 p. 209-218
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    遺伝的にホモ接合体とみなされているイネの品種内において,個体によって主稈総葉数に主に1葉の差が生じ,それに伴って2つの生育型が出現することが報告されている.本研究では,水稲48品種の主稈総葉数,出穂日,稈長,穂長,各節間長を個体ごとに調査することにより,この現象の普遍性を検証した.また,2つの生育型の出現比率を偏り指数 [((N+1)葉型個体数−N葉型個体数)/((N+1)葉型個体数+N葉型個体数)]で表すことによって,年次および移植期による偏り指数の変動を調査した.その結果,水稲48品種全ての主稈総葉数に主に1葉の差が生じ,それに伴って2つの生育型が出現した.この2つの生育型の各形質間にはほとんどの品種で有意な差が見られ,N葉型個体はN+1葉型個体に比べ早生,短稈,長穂,上位節間伸長型の傾向を示した.したがって,このような事象はイネにおいて普遍的であると考えた.複数生育型の出現比率は年次や移植時期によって変動したが,48品種中の12品種は2移植期で偏り指数が0.6以上あるいは-0.6以下となり,いずれか1つの生育型に80%以上の出現比率で偏った.また,2か年の4移植期に栽培した10品種のうち4品種は,いずれか1つの生育型に80%以上の出現比率で偏った.主稈葉数や出穂期に関与するQTL(量的形質に関与する遺伝子座)の集積度のわずかな差が品種間で異なることにより,2つの生育型の出現比率が安定して偏る品種と,不安定な品種が存在すると推察した.
作物生理・細胞工学
  • 千田 洋, 国立 卓生, 島田 信二
    2009 年 78 巻 2 号 p. 219-224
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    ダイズの発芽時の湿害軽減効果を有する調湿種子の実用性を高めるため種子調湿後の保管方法が保管時の種子水分の変動,および種子の発芽力へ及ぼす影響について検討した.その結果,調湿した種子の水分維持には,常温(約25℃),低温(10℃)のいずれの温度下においても外気との接触を避けることが重要であり,市販のブルーシートで種子袋の全面を覆うような簡便な方法によっても水分維持が可能であった.保管方法と種子の発芽力の維持に関しては,調湿種子を密閉して常温保管した区のみ,保管後4週間目から発芽力が低下し始め8週間目には大きく低下したが,調湿種子を密閉して低温庫内(10℃)に静置した場合,および乾燥種子を常温保管した場合は保管後8週間を経過しても発芽力は低下しなかった.また,ポットを用いて播種直後の冠水条件を再現した出芽実験から,播種後の過湿ストレスが強い場合には,調湿種子の常温保管は出芽に悪影響を及ぼすことが示された.以上から,乾燥種子と比べ調湿種子は常温下の長期保管には適さないが,外気と接触しないように密閉して保管することで,常温(約25℃)では2週間程度,低温(10℃)では8週間程度は十分な発芽力を維持できることが明らかになった.本結果に示した保管方法は,2週間程度であればブルーシートなど既存の資材を用いて室内,常温保管可能という安価,簡便なものであり,保管可能な期間についても調湿種子製造工程の作業分散を考慮すると農業現場の播種作業に十分に適用できる技術であると考えられる.
収量予測・情報処理・環境
  • 宮野 法近, 国分 牧衞
    2009 年 78 巻 2 号 p. 225-233
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    近年,宮城県産米の玄米品質等級は東北の他県と比べ低くなる傾向があり,さらに年次によっては大きく低下する場合がある.特に宮城県の南部,いわゆる仙南地域の玄米品質等級の低さが指摘されている.この原因として仙南地域の登熟期の気象要因が玄米品質等級を低下させているのではないかと推察されてきたが,これまでその気象条件を詳細に検討した事例は少ない.そこで本研究では,宮城県における水稲玄米品質低下要因を明らかにするために,仙南地域を中心に過去28年間で1等米比率が大きく低下している年次について,幼穂形成期から出穂期,出穂期から20及び40日間における気温,日照時間の特徴を県内各地域と比較した.その結果,幼穂形成期から出穂期の日最低気温が20℃以下の場合,出穂後20日間の日平均気温が25℃以上でかつ日最低気温が22~23℃を越す場合には,地域を問わず玄米品質の低下が顕著であることが分かった.また,出穂期前に低温となった年次や出穂後高温となった年次のいずれにおいても,同程度の日最低気温に対する1等米比率は,仙南地域が他地域より低いことから,仙南地域の品質低下には気温以外の要因の関与も示唆された.幼穂形成期から出穂期の日最低気温が20℃以下となった年次や,出穂後20日間の日平均気温が25℃でかつ日最低気温が22~23℃を越えなかった年次は,出穂後20日間の少照が品質低下の要因と推定された.
  • 宮﨑 成生, 関和 孝博, 吉田 智彦
    2009 年 78 巻 2 号 p. 234-241
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    栃木県内の主要農業用用水85 地点および農業用排水6地点の水質を1996~1998年の3年間にわたり,水稲栽培期間を中心に調査した.その結果,農業用用水の水質基準値内の割合はpHが70%,ECが88%,CODが84%,T-Nが30%,SSが100%であった.調査時期による水質の変化は小さかった.水質汚濁は渡良瀬川流域と鬼怒川流域で進行していた.また,汚濁の激しい地点は県南部および西部の都市下流域で,人口,下水道普及率との関係が示唆された.農業用排水は用水に比較してSiO2を除き栄養塩類濃度が高かった.調査地が同一である53地点について10年前と比較したところ,栄養塩類の濃度は低下する傾向にあり,特にT-Nで顕著であった.
研究・技術ノート
  • 古畑 昌巳, 帖佐 直, 松村 修, 湯川 智行
    2009 年 78 巻 2 号 p. 242-249
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    エアーアシスト条播機と鉄コーティング種子を利用した湛水直播栽培体系を確立する目的で, 異なる酸化程度とした鉄コーティング種子を供試してホッパーおよびバットに集積して酸化を進めた条件において種子の発熱と発芽率の推移を調査し,同時に圃場を使った機械播種条件で出芽・苗立ちを検討した.ホッパーに集積した条件では,還元鉄(密封)区では集積後,短時間で発熱および発芽率の低下が確認され,酸化鉄(密封)区では発熱および発芽率の低下は緩やかに進行した.また,圃場およびポット試験の結果,播種後(集積後)の発芽率は酸化鉄(密封)区,還元鉄(密封)区,還元鉄(酸化)区の順となり,この結果が苗立ち率および茎葉部乾物重に反映された.以上の結果,催芽種子に酸化鉄をベースに鉄コーティングした種子では,発熱リスクを回避し易く,圃場の大規模化あるいは大区画化に対応した機械播種体系において出芽・苗立ちを確保しやすいことが示唆された.
  • 赤木 功, 西原 基樹, 上田 重英, 横山 明敏, 佐伯 雄一
    2009 年 78 巻 2 号 p. 250-254
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    九州南部の秋ダイズ栽培における晩播栽培がダイズ子実中のイソフラボン含有量に及ぼす影響について調査し,西南暖地に位置する当地域においてもイソフラボン含有量の向上に晩播栽培が有効であるか検証した.8月上・下旬播種の晩播栽培は,7月中旬播種の標播よりも登熟期後半(成熟期前30日間)にあたる平均気温が0.4~1.7℃低く経過し,成熟期は3~9日遅延した.イソフラボン含有量は晩播によって高まり,標播に対する増加率はアキセンゴクが16.1~34.9%,クロダマルが5.9~15.3%,ヒュウガが31.1~37.9%,フクユタカが44.4~58.0%であり,品種によって晩播に対する反応に差異が認められた.子実中のタンパク質,カリウム,マグネシウム含有量は晩播による影響は認められないものの,カルシウム含有量は晩播によって低下する傾向にあった.また,個体当たりの子実重は晩播によって最大で78%低下した.以上のことから,晩播栽培は収量低下を軽減できれば,西南暖地における高イソフラボン含有ダイズ生産のための栽培技術の一つとして有効であると考えられた.
情 報
日本作物学会シンポジウム紀事
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