日本作物学会紀事
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78 巻, 4 号
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総 説
  • 間野 吉郎, 小柳 敦史
    2009 年 78 巻 4 号 p. 441-448
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    コムギ,オオムギおよびトウモロコシなどのイネ科畑作物について,耐湿性の品種間差異,その遺伝性,そして通気組織などの耐湿性関連形質に関する研究の状況を取りまとめる.また,今後に期待される耐湿性研究の新しい方向について触れたい.イネ科畑作物の耐湿性は種間では異なることが知られているが,品種間・系統間差異は不明瞭で,いずれの作物においても実用的な耐湿性品種の開発には至っていない.最近,近縁種・野生種において耐湿性の改良に利用できる遺伝資源が見つかってきており,それらが持つ根の通気組織や浅根性などの耐湿性に関連する遺伝子をマーカー選抜によって栽培種に導入することで画期的な耐湿性作物を作出することも現実的な目標となってきた.
研究論文
栽培
  • 岩渕 哲也, 田中 浩平, 松江 勇次, 松中 仁
    2009 年 78 巻 4 号 p. 449-454
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,2002/2003年,2004/2005年および2005/2006年の3シーズンにわたり,北部九州におけるパン用コムギ品種「ミナミノカオリ」の収穫時期が製粉性,生地物性および製パン適性に及ぼす影響について検討した.収穫時期は,成熟期前2日~成熟期後1日に収穫したものを早刈り,成熟期後3~7日で収穫したものを標準刈りとし,成熟期後8~12日で収穫したものを遅刈りとした.早刈りは,3シーズンとも子実の水分含量が26.1~37.0%と標準刈りの11.4~19.6%に比べて高かった.早刈りでは,グルテンインデックスが低かったことからグルテンの質が低いと判断され,生地物性を評価するファリノグラムの生地の形成時間が短く,バロリメーターバリューが低く,製パン適性を評価するパン比容積は標準刈りとの間に差はみられなかった.遅刈りは,容積重や製粉性を評価するフォーリングナンバー値が遅刈りの収穫前に100mmを超える多量の降雨が認められた2005/2006年で低かった.また,遅刈りは,成熟期後の降水量が少ない2002/2003年でも容積重が軽くなった.以上のことから,パン用コムギ品種「ミナミノカオリ」では,収穫時期は子実水分含量が20%以下に低下する成熟期後3~7日の標準刈りが,製粉性,グルテンの質および生地物性が高くなると期待されることから最適であると考えられた.
  • -深水栽培が水稲の生育と米粒外観品質に及ぼす影響-
    千葉 雅大, 松村 修, 寺尾 富夫, 高橋 能彦, 渡邊 肇
    2009 年 78 巻 4 号 p. 455-464
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    深水栽培による籾数制御と草姿の改善により,水稲の登熟期における高温による白未熟粒の発生抑制を試みた.2004年から2007年に,水稲3品種(初星,ササニシキ,コシヒカリ)を分げつ盛期から最高分げつ期にかけて水深18 cmで深水処理し,生育,収量と白未熟粒割合を調査した.深水処理により, 2次分げつおよび上位1次分げつといった弱小分げつが減少して,強勢な下位の1次分げつの穂を中心とした分げつ構成となり,有効茎歩合が高まった.その結果,深水処理により穂数は減少したが,一穂籾数と玄米千粒重が増加し,年次変動はみられたが,慣行栽培と同程度の収量が得られた.深水処理により白未熟粒発生が抑制され,特に,乳白粒の発生を顕著に抑制した.また,深水栽培は,オープントップチャンバーによる高温処理においても白未熟粒発生を抑制し,高温による品質低下防止に効果があった.この効果は,高温登熟耐性の弱い品種ほど顕著であった.しかし,深水処理は茎数を減少させるため,十分な茎数が確保できない場合には減収した.このため,高品質米の収量確保には,有効茎数を確保してから深水処理を開始することが必要であり,深水処理開始時の茎数が330本/m2程度確保できれば,慣行栽培と同程度の収量と,白未熟粒発生抑制の両立が期待できる.
  • 下田代 智英, 五位塚 のぞみ, 佐々木 修, 松元 里志
    2009 年 78 巻 4 号 p. 465-470
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    西南暖地の普通期水稲栽培において,同地域の主力品種であるヒノヒカリを供試し,4施肥条件を設定し3ヵ年にわたり,生育期間中の出液速度を経時的に測定して,株あたりの根系活力の推移と,根系活力が登熟に与える影響を検討した.株あたりの出液速度は水稲の生育にともなって増加し,出穂期の約7日前に最大となった.その後,出穂期から乳熟期にかけて減少し,出穂期にはすでに根系活力が減衰過程にあることが示唆された.また,株あたりの出液速度は年次と施肥条件に大きく影響され,施肥条件より年次の変動が大きかった.次に,株あたりの出液速度と,各収量構成要素,登熟期の乾物増加量ならびに穂重増加量との相関関係を検討した.登熟期における株あたりの出液速度と乾物増加量ならびに穂重増加量との間には有意な相関関係は認められなかったが,出穂14日後の株あたりの出液速度は登熟歩合ならびに精籾千粒重との間に有意な正の相関関係を示した.以上より,登熟期の出液速度は根系活力が登熟に及ぼす影響について検討するための有効な指標となりえること,および乳熟期の根系活力の維持が登熟歩合を向上させる可能性が示された.
  • 三原 千加子
    2009 年 78 巻 4 号 p. 471-475
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    水田で無代かきで栽培した水稲について慣行の代かき栽培と比較し,生育特性,収量および生育後半の根の生理的活性として出液速度を比較した.その結果,無代かき栽培では前半の生育が旺盛になりやすく,さらに,生育後半の出液速度が高く,根の生理的活性が高く維持されていたと考えられた.しかし,収量は,慣行の代かき栽培を下回ったことから,収量が多く,品質が常に安定する栽植密度・施肥等の栽培条件と前半の適正な生育量を把握することが課題と考えられた.
品質・加工
  • 若松 謙一, 佐々木 修, 田中 明男
    2009 年 78 巻 4 号 p. 476-482
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    水稲の登熟期間の日射量および湿度が玄米品質,特に背白米の発生に及ぼす影響について解析するため,水田において遮光処理を,人工気象室において高温条件下で日射量および湿度を変えて試験を行った.その結果,背白米は高温条件で多発したが,遮光処理によって減少し,逆に乳白米の増加傾向が認められた.高温条件下で,日射量が多いほど,また,湿度が高いほど背白米が多く発生した.高温条件下における穂の表面温度は,湿度が高いほど,また,日射量が多いほど高い値を示し,背白米の発生割合とほぼ同様の傾向を示した.以上のことから,同じ高温条件下でも日射量や湿度条件の違いで背白米の発生割合が異なり,穂の表面温度の影響が大きく,気温以外に日射量と湿度が密接に関係していることが示唆された.一方,乳白米の発生は高温よりむしろ低日射の影響が大きく,さらに籾数が多い場合に助長されることが示唆された.
形態
  • 小林 和広, 宮根 光昭
    2009 年 78 巻 4 号 p. 483-491
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    1穂穎花数の順位が主茎>1次分げつ>2次分げつになるのは穂首分化期(PI)の茎頂分裂組織(AD)の基部直径に関係づけられるのかを明らかにするために,穂数型品種のIR72と穂重型品種のIR65564-44-2-2の2つの水稲品種をポット栽培し,分げつ次位別の穎花数および1次枝梗数(PB),2次枝梗数とADの基部直径の関係を相関分析した.各ポットには1個体を栽培し,すべての分げつについて分げつ次位と出現した節位を記録した.主茎,主茎の第4,5,6,10葉節位から出現した1次分げつおよび主茎の第4,5,6葉節位から出現した1次分げつの第3葉節位から出現した2次分げつについて,PIにおけるADの基部直径,分化PB,分化穎花数などを調査した.PIにおけるADの基部直径はIR72では主茎が最も大きく,IR65564-44-2-2では主茎と主茎第5葉節位から出現した1次分げつが大きくなった.IR65564-44-2-2,IR72ともに分化PBの順位は主茎>1次分げつ >2次分げつとなった.その結果,両品種においてそれぞれPIにおけるADの基部直径と1穂PBの間に正の相関関係が認められた.このことから1穂穎花数の順位が主茎>1次分げつ>2次分げつになるのはPIにおけるADの基部直径が分化PBと関係づけられる可能性があると結論した.
  • 乙部 和紀, 大野 智史
    2009 年 78 巻 4 号 p. 492-496
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    ダイズ種皮にみられる縮緬じわは,品質分類上の格落ち要因である.本研究では,レーザ走査型三次元微細形状計測顕微鏡を用いて,ダイズ種皮表面の三次元微細構造の特徴を定量化し,縮緬じわ粒と正常粒での種皮微細構造上の違いを明らかにした.微細構造上の特徴として,一般的に透水性のあるダイズ種皮表面にみられる微細凹凸構造の多寡に着目し,上記顕微鏡により計測した三次元構造データから表面粗さ指標のひとつである二乗平均平方根粗さ(RMS)を求め,縮緬じわ粒と正常粒の比較を行った.その結果,子葉中央部における縮緬じわ粒のRMSは平均で0.9~1.1µmに対して,正常粒では1.4~1.6µmと,表面粗さに有意(1%水準)な違いが認められ,縮緬じわの発生は種皮表面の部分的な滑面化を伴うことが示された.加えて,滑面化した種子を用いて短時間吸水時のしわ発生様態観察を行うと共に,目視選抜した正常粒による,吸水・乾燥による縮緬じわの再現を試みた.滑面化した種子では,子葉中央部の種皮吸水を示すしわの発生頻度が滑面化していない種子に比べて有意に低く,滑面化と透水性低下との関連が示唆された.再現試験では,供試種子中の1割超に種皮表面の滑面化が認められたにもかかわらず,縮緬じわの発生は認められなかった.以上の結果から,縮緬じわの発生には種皮構造の変化に起因する透水性の違いだけでなく,種子登熟過程における他の影響が示唆された.
研究・技術ノート
  • 松波 麻耶, 張 文会, 国分 牧衛
    2009 年 78 巻 4 号 p. 497-502
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    近年育成された大粒品種秋田63号は,千粒重が大きく,高い収量ポテンシャルを持つことから,大粒品種を活用した新たなイネ多収技術の開発が期待されている.本研究では,秋田63号の収量ポテンシャルを効率的に発揮させるための窒素(N)施肥法の基礎的知見を得るため,異なるN施肥法(前期重点[基肥,分げつ肥,穂肥,実肥:6,2,2,0 kg N/10 a],後期重点 [4,0,4,2 kg N/10a],均等[4,2,2,2 kg N/10a])が秋田63号の生育およびソース・シンクに与える影響を解析した.前期重点施肥法は分げつの発生を促進するが,その多くが無効分げつとなり,穂数増加への顕著な効果は認められなかった.また,前期重点施肥法では出穂期以降,Nが不足するため光合成能が低下した.後期重点施肥法では分げつの発生が緩慢であり,結果として穂数が他の区に比べ減少した.そのため,シンクサイズが最も小さく,収量は最も低い結果となった.均等施肥法は,他の施肥法よりも穂数,籾数が多く,N吸収能,登熟期の光合成能も優れ,最も高い収量となった.したがって,秋田63号の収量ポテンシャルを効率的に発揮させるためには,生育期間を通したN供給が必要であると判断された.
  • 柴田 康志, 小田 九二夫, 森 静香, 藤井 弘志
    2009 年 78 巻 4 号 p. 503-508
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    2004年の台風15号以降に日本海を北上した2005年台風14号および2006年台風13号が山形県の庄内沖を通過する時の庄内地域の水田における塩分付着量と海岸線からの距離,風向別の海岸線からの距離等の違いによる海塩粒子の飛散状況を調査したところ,南西方向の海岸線からの距離と塩分付着量には強い負の相関関係が認められた.このことから,2004年台風15号,2005年台風14号および2006年台風13号が山形県の庄内沖を通過する時の海塩粒子が最も飛散しやすい時の風向は南西方向であると考えられる.風向が南西方向の場合,塩分付着量の多い北部地域の採取地点では海塩粒子が日本海から砂丘を経て平野部に進入可能であると考えられる.一方,塩分付着量の少ない南部地域の採取地点では,標高100m以上の丘陵・山地があるとともに海岸線からの距離も25km以上と遠くなって,海塩粒子の平野部への進入が抑制されたと考えられる.これらのことから,潮風害に対する被害程度が北部地域と南部地域では異なることが推定される.そこで,2004年台風15号の南西方向の海岸線からの距離と1穂塩分付着量および被害度から山形県庄内地域の潮風害リスクマップを作成した.
  • 森下 敏和, 山口 博康, 出花 幸之介, 清水 明美, 中川 仁
    2009 年 78 巻 4 号 p. 509-514
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/10
    ジャーナル フリー
    アキウコン11系統,ハルウコン6系統,ガジュツ3系統を供試して関東で2004年と2005年の2年間,各形質を評価した.アキウコンの形態および根茎収量は,国内産および台湾産を中心とした8系統から成る生育量と根茎重が大きいグループ(グループI)と東南アジアの3系統から成る生育量と根茎重が小さいグループ(グループII)に分けられた.ハルウコンはアキウコンのグループIより草型と根茎重はやや小さかった.ガジュツはアキウコンと同様に生育量が大きい系統と小さい系統に分けられた.根茎重の年次相関は有意で,根茎重の系統間の序列は年次が異なってもほぼ安定であった.一方,2005年よりも2004年の方が根茎重の高い系統が多かった.2005年は2004年より生育初期の気温が低く日射量が少なかったためと推察した.
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