日本作物学会紀事
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85 巻, 1 号
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研究論文
栽培
  • 松波 寿典, 能登屋 美咲, 松波 麻耶, 金 和裕
    2016 年 85 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    水稲の疎植栽培は育苗箱数を低減できることから,播種および育苗作業の省力化技術として期待されている.しかし,秋田県において15.1株/m2または11.2株/m2で疎植栽培したあきたこまちは21.1株/m2で標準栽培したものに比べ,玄米タンパク質含有率が高く,食味が劣ることが示唆されている.そこで,本研究では,15.1株/m2と11.2株/m2で疎植栽培したあきたこまちへの追肥の有無が収量性や品質に及ぼす影響を明らかにし,秋田県において疎植栽培したあきたこまちの収量を確保し,低タンパク化と食味改善が両立できる栽培技術について検討した.その結果,15.1株/m2と11.2株/m2で疎植栽培したあきたこまちでは減数分裂期の無追肥により収量は年次により減収する可能性はあるものの,玄米外観品質への有意な影響は認められなかった.一方,両栽植密度区とも無追肥により主茎および全ての分げつにおいて玄米タンパク質含有率は低下する傾向がみられた.特に,無追肥区の高節位・高次位の分げつの玄米タンパク質含有率は追肥区の低節位・低次位の玄米タンパク質含有率と同程度にまで低下した.そして,11.2株/m2では無追肥により炊飯米の味と粘りの評価が向上する傾向がみられた.したがって,秋田県におけるあきたこまちの疎植栽培では標準栽培よりも減数分裂期の追肥量を減じることで,玄米タンパク質含有率は低下し,食味を改善できる可能性が示唆された.
  • 池尻 明彦, 高橋 肇
    2016 年 85 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    ダイズ品種「サチユタカ」は,2001年に採用された山口県の奨励品種である.山口県ではダイズは慣行栽培で6月中旬に播種するが,梅雨の雨で播種が7月にずれ込むことがある.本研究では,「サチユタカ」が7月上旬に播種すると6月中旬に播種したものに比べて収量および収量構成要素にどのように影響を及ぼすかについて明らかにした.さらに,それぞれの播種期でこれまでに山口県で慣行栽培されてきた品種と比較した.その結果,「サチユタカ」の収量は7月上旬に播種しても6月中旬に播種したものに比べて少なくなることはなかった.7月上旬に播種したものは,6月中旬に播種したものに比べて稔実莢数が少なく,全重が軽かったものの,百粒重が重く,収穫指数が高かった.6月中旬に播種したものも,7月上旬に播種したものも,収量は,稔実莢数だけでなく,1莢粒数や百粒重との間に高い正の相関関係を示した.7月上旬播種での栽培環境は,6月中旬播種のものと比べて結実期間中の平均気温が低く,7月上旬播種で百粒重が重く,減収しなかった一因と考えられた.なお,6月中旬に播種したものは,従来の品種「タマホマレ」,「ニシムスメ」,「オオツル」よりも多収になる傾向を,7月上旬に播種したものも,従来の品種「フクユタカ」よりも多収になる傾向を示した.
  • 鎌田 英一郎, 高橋 肇, 池尻 明彦, 内山 亜希, 金子 和彦, 松永 雅志, 内田 早耶香, 荒木 英樹, 丹野 研一
    2016 年 85 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    裸麦品種トヨノカゼは穂肥を増施すると穂数が増加し,子実収量が増加する.本研究では,穂肥の増施および穂肥の重点化がどのように穂数を増加させているかを明らかにするため,2012/2013年と2013/2014年の2作期において,トヨノカゼを用い分げつの発生数や発生節位,分げつの有効化に係る形質を調査した.施肥は基肥−分げつ肥−穂肥の分施とし,基肥と穂肥の量を異にした処理区を設けた.その結果,穂肥を増施すると分げつを発生させた個体の割合が高まり,高位節においてまでも分げつの発生率が高まった.一方,同じ総施肥量のもと穂肥を重点化すると,高位節での発生率を高めた.有効分げつの展開葉数はどの処理区,発生節位においても5葉から8葉であり,1本の乾物重は主茎ではそのほとんどが1000 mg以上であった.分げつの糖含有率は有効分げつでは10~20%であったが,無効分げつでは乾物重の重いもので20%以上のものが,乾物重の軽いもので10%以下のものがあった.穂肥を重点化した4–2–6区では第1節,第3節,第4節からの1次分げつ発生率が高く,第1節1次分げつの多くが有効化した.一方,基肥を重点化した6–2–4区と比べて,1本の乾物重が500 mg前後の軽い有効分げつが多くみられ,一方で重い無効分げつも多かった.穂肥を増施し重点化する後期重点型施肥では主茎に加えて有効分げつを2本以上有する個体が多く,本法が穂数を確保するために有効な施肥方法であると考えられた.
  • 田澤 純子, 三浦 重典
    2016 年 85 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    わが国の有機ダイズの生産量は需要に対して少なく,生産拡大のための有機栽培技術の確立が求められている.茨城県つくば市における3年間の無農薬無化学肥料栽培条件下のダイズ栽培試験において得られた結果から,有機栽培に向けた品種特性および栽培体系の構築に関する知見を得た.早晩性の異なる4品種を比較したところ,中晩生や晩生のダイズ品種では早生品種より整粒重が高く,対慣行区比も高い傾向にあった.開花盛期までの栄養成長期には有機区と慣行区の間に生育量の差はみられなかったが,子実肥大中期には有機区では慣行区よりカメムシ等による吸汁害率が高まり,莢乾物重が低かった.早生のタチナガハと晩生のフクユタカの播種時期を4水準とし,各種要因と整粒重の関係をみたところ,有機区ではタチナガハでは8月中旬に,フクユタカでは8月上中旬に開花期を迎えた場合に整粒重が最も高かった.特にフクユタカは7月中旬までに播種し,8月中に開花期を迎えれば200 g m-2以上の整粒重が得られると推察された.有機区では成熟期の子実の吸汁害率は播種時期が遅くなるほど低くなる傾向が認められたが,食害粒率は極晩播で高まった.これらのことから,関東地域のダイズ有機栽培では,早生品種を標準播種適期よりやや遅い7月中旬ごろに播種するか,もしくは晩生の品種を7月上旬,遅くとも中旬までに播種する栽培体系が適しており,それにより収量ポテンシャルを維持しつつ虫害等を回避できると考えられた.
  • -省力化を目的とした栽植密度の改善-
    黒崎 英樹, 唐 Seiji, 小野寺 政行, 竹内 徹
    2016 年 85 巻 1 号 p. 33-40
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    北海道の虎豆の生産において,栽植密度は支柱の竹本数を決定する.竹の設置と撤去の大部分は手作業であり,全農作業時間である35時間/10 aの3/4を占める.しかし,現行の栽植密度は生産者の経験に基づいており,栽植密度の検討は未実施であった.そこで,栽植密度を単位面積当たり株数および株当たり本数 (個体数) に分けて,栽植密度,子実重および収益性の関係を明らかにした.2006,2007年の試験においては,生産者慣行の株数である2300株/10 aと同20%減の1800株/10 aのいずれの栽植密度においても,株当たり本数1~6本について比較したところ,株当たり本数4本が最適であった.2011年の試験においては,単位面積当たりの株数について比較したところ,生産者慣行の35%減の1500株/10 aでは,慣行に比べて子実重が平均で11%低下したが,1800株/10 aでは平均で5%の低下にとどまった.また,生産者慣行株数での子実重が低い値を示した圃場ほど疎植による減収が大きい傾向にあった.さらに,熱水抽出性窒素が低い圃場ほど低収になり,疎植による減収率も高い傾向があった.2012年における資材費と労働費による試算例では,栽植密度を1800株/10 aとした場合の収益が2300株/10 aと一致する減収比率は,単収が400 kg/10 aの高収圃場で約5%,300 kg/10 aの平均収量圃場で約7%,200 kg/10 aの低収圃場で約10%であった.生産者9圃場の試験で,栽植密度を慣行から1800株/10 aに減らして栽培しても平均収量以上を示す7箇所の圃場における減収程度は,いずれにおいても5%以下であり,慣行の栽植密度で栽培した以上の収益の確保が可能であり,支柱竹を扱う労働時間を2割減らすことができると推察した.
品質・加工
  • 阿部 珠代, 柳原 哲司, 杉川 陽一, 菅原 章人, 須田 達也, 高松 聡, 井上 哲也, 唐 星児
    2016 年 85 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    コムギ品種「ゆめちから」の子実品質について,2012年産および2013年産の北海道内栽培圃場のべ131地点から子実を採取して調査した.その結果,子実タンパク質含有率は10.9~16.7%と広範囲に分布し,2カ年の平均値は14.5%で,これまでの硬質コムギに比べて高タンパクであることが明らかとなった.調査した半数以上の生産物において,品質評価基準値である11.5~14.0%の範囲を超えていたが,他の品質評価項目 (容積重,灰分,フォーリングナンバー) について差異は認められなかった.軟質コムギ品種「きたほなみ」と2~8割で混合したブレンド粉について調査した結果,子実タンパク質含有率13.0%未満の「ゆめちから」では,パン品質やミキシングタイムで評価が低かった.また,子実タンパク質含有率が13.0%以上の「ゆめちから」では,6~8割混合することで高い評価が得られた.これらのことから,「きたほなみ」とのブレンドに使用する「ゆめちから」の子実タンパク質含有率は,13.0%以上であることが必要と判断される.以上のような現地実態と加工適性調査に加え,タンパク質含有率に対する品質評価基準を考慮すると,「ゆめちから」の子実タンパク質含有率は14.0% (13.0~15.5%) を目標とするのが妥当と考えられ,これらより調製したブレンド粉では,市販粉相当あるいはそれ以上の評価が得られた.
研究・技術ノート
  • 髙橋 真実, 大野 智史, 髙橋 明彦, 中山 則和, 山本 亮, 関 正裕
    2016 年 85 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    ダイズ栽培において,欠株が生じた際の個体群における収量補償作用を明らかにするために,北陸地域の水田転換畑で栽培されるエンレイに人為的に欠株を生じさせて,欠株の周辺株の整粒重を調査する試験を2ヵ年実施した.2ヵ年ともに,欠株の隣の株のみ整粒重の増加が認められたが,1株単独で欠株となった場合,両側の株の増収分は,対照区の1株当たりの整粒重の42%に過ぎず,減収を補償するには不十分であった.また,欠株の連続数の増加に伴い,隣の株の整粒重は増加傾向を示したが,増加の程度は非常に小さく,連続する欠株数が増加するほど更に減収することが示された.以上のように,収量補償作用は,1株分の減収も補いきれないことから,生育初期の湿害や播種の不備等により,少数の欠株が散在する場合でも,必ず減収することが明らかとなった.安定した収量を確保するために,欠株を避ける圃場管理が求められる.
  • 崔 中秋, 豊田 正範, 楠谷 彰人
    2015 年 85 巻 1 号 p. 59-66
    発行日: 2015/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    2012年から2014年までの3年間,香川県高松市の農家水田において水稲品種ヒノヒカリを供試し,幼穂分化期前の潅水停止による節水栽培が生育,収量,品質,食味に及ぼす影響を調査した.節水処理区における潅水停止期間は,2012年は22日間,2013年と2014年は30日間であり,節水率はそれぞれ20.7%,27.4%,24.3%であった.節水処理区の収量は,対照区(湛水栽培区)に比べて,2012年では5%程度の減少にとどまったが,2013年と2014年では25%前後減少した.2013年と2014年の節水処理区での減収原因は,潅水停止に伴う茎数の増加抑制による穂数の減少にあった.また,外観品質および食味に関しては,処理区間に有意差は認められなかったものの,節水栽培によって品質,理化学的食味特性および官能試験による食味評価が向上する傾向がみられた.これらより,幼穂分化期前の潅水停止による節水栽培では,22日間位の潅水停止(節水率20%程度)が限度であり,それ以上の潅水停止では大幅に減収すると考えられた.
  • 松波 寿典, 能登屋 美咲, 三浦 恒子, 金 和裕, 松波 麻耶, 佐藤 雄幸
    2016 年 85 巻 1 号 p. 67-76
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    これまで寒冷地北部における水稲の疎植栽培で安定した収量を得るためには穂数の確保が重要であるとされてきた.しかし,茎数の発生が著しく多く,穂数が多い年次において疎植栽培したあきたこまちで低収となる現象が認められた.そこで,本研究では,15.1株/m2と11.2株/m2の栽植密度で疎植栽培したあきたこまちに関して,低収となった2012年と平年並であった2010,2011,2013年の生育特性,収量および収量構成要素,品質について比較し,寒冷地北部において疎植栽培した水稲の茎数過剰に伴う低収要因について検討した.その結果,寒冷地北部において疎植栽培したあきたこまちで,移植期以降,好天に恵まれ,苗の活着が良好となり,葉齢の進展も著しい場合,初期分げつの発生は旺盛となり,加えて,中干し期間の降水量が著しく多くなると無効分げつの抑制が不十分となり,有効分げつ決定期以降まで茎数が多く経過する.一方,草丈は短めに推移し,最高分げつ期頃から葉色が淡く経過した場合,減数分裂期の葉色は著しく低下し,2次枝梗籾数の減少に伴い一穂籾数が減少し,m2当たりの総籾数が不足することで,低収になることが明らかとなった.したがって,寒冷地北部における疎植栽培で安定多収を達成するためには,m2当たりの穂数を確保することに加え,最高分げつ期以降の葉色を適度に保ち,一穂籾数の減少を防ぐことも重要であると考えられた.
  • 塩路 未帆, 堀元 栄枝, 中元 朋実
    2016 年 85 巻 1 号 p. 77-82
    発行日: 2016/01/05
    公開日: 2016/01/26
    ジャーナル フリー
    作物栽培システムの多様化に向けて,油料アマの緑肥作物との混作を試み,アマの生育と収量について調査した.試験は播種日を2014年3月4日 (S1) と3月18日 (S2) として2回実施し,それぞれにアマの単作を対照(単作区)とし,アマとクリムゾンクローバー (CC),アカツメクサ (RC),野生エンバク (WO),シロガラシ (WM) との混作区を設けた.アマと緑肥作物は交互に条播し条間は20 cmとした.単作区,CC区,RC区では,S1播種においてCC区とRC区での低位節からの一次分枝と花序の分枝の発生が単作区より劣ったこと以外に,アマの生育,収量,あるいは収量構成要素には差がみられなかった.これに対して,WO区とWM区では単作区に比べて,アマの開花期以降の地上部乾物重が小さく,収量が低かった.この収量低下は,単位面積あたりの蒴数,蒴あたりの種子数,一粒重の値のいずれもが小さかったためであり,アマの開花以降に野生エンバクとシロガラシがアマの光環境を著しく悪化させたことが原因とみられた.以上のことから,アマをクリムゾンクローバーおよびアカツメクサと混作することによって,種子の生産と土壌への有機物や窒素の供給のバランスを図った栽培が可能と考えられた.
情 報
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