日本作物学会紀事
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89 巻, 4 号
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研究論文
栽培
  • 南 さやか, 薮田 伸, 富永 克弘, 山本 夕菜, 中之内 亜紀子, 壹岐 香代, 石川 大太郎, 石黒 悦爾, 箱山 晋
    2020 年 89 巻 4 号 p. 277-284
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    熱帯・亜熱帯に広く適応し高い生産性を持つキャッサバを,バイオマス資源作物として温帯地域へ導入・利用が可能か否かを知るため,2007~2009年にブラジル国育成のデンプン含有率が高い品種 IAC-576-70を鹿児島で圃場栽培し,その生育,乾物生産の推移と収量を調査した.年平均気温18.3℃,年平均降水量2280 mm,冬期に降霜もある鹿児島の気象条件で,栽培可能期間は4月下旬~12月上旬までの7~8ヶ月間に限られた. 3ヵ年間における最大生産量は全乾物重が 1793 g m–2,塊根乾物重が 524 g m–2,生鮮塊根収量が2000 g m–2であり,熱帯地域の植え付け8ヶ月後における収量と同程度の生産であった.

  • 安本 知子, 小島 誠, 岡村 夏海, 澤田 寛子, 松㟢 守夫
    2020 年 89 巻 4 号 p. 285-298
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    乾田直播(乾直)栽培の生育予測モデルの構築のため,早晩性が極早生から中晩生まで広い変異幅を有し,近年育成された品種を含む水稲8品種を用いた作期移動試験を茨城県つくばみらい市で行い,播種や移植から成熟までの生育ステージの進行を乾直栽培と移植栽培で比較した.播種や移植から成熟までの積算気温は栽植日が遅いほど小さく,減少の程度は中晩生品種で大きく極早生品種では小さかった.播種や移植から出穂までの積算気温も栽植日が遅いほど小さく,その傾向は両栽培法に共通していた.しかし,乾直栽培では初期生育段階で環境条件の影響を受けやすいことが一因で積算気温の年次間変異が大きく,また育苗期間の差を反映して移植栽培よりもその温度は高かった.一方登熟期間については,作期移動による積算気温の変異は小さく,出穂期が同等な個体間では栽培法による違いも小さかった.ただし,両栽培法とも降雨やそれに伴う気温低下など気象条件の影響が大きかった.これらの作期移動試験で得た出穂期のデータを既存の出穂期予測モデルへ導入した結果,遅い栽植日の極早生品種程適合度が高まる傾向で,移植栽培の既存の予測モデルを改良することで乾直栽培の出穂期は予測が可能となることが示唆された.これらの情報は,乾直栽培の生育予測モデルの構築や現行の栽培体系に乾直栽培を導入する際に有用な生育ステージ(出穂期)の進行に関する基礎知見になると考える.

  • 水田 圭祐, 荒木 英樹, 高橋 肇
    2020 年 89 巻 4 号 p. 299-306
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    生育診断とそれに基づく窒素の可変施肥は,コムギの高品質多収栽培に有効であるが,診断時期の生育量や診断指標,窒素の追肥量や施肥時期,収量や子実タンパク質含有率との関係についての知見は少ない.本研究では,穂肥重点施肥をベースに可変施肥を行うには,茎数の管理がとくに重要であると考え,少播種量区を設けることによって人為的にm2あたり茎数不足となった群落を作り,分げつ期の窒素追肥量を増やすことによって収量の減少を軽減できるかどうかを検証した.少播種量区は,苗立ち数が約80本 m–2と標準播種量区の約120本 m–2に比べて有意に少なかった.4葉期でも少播種量区は茎数が少なかったが,茎立ち開始期には分げつ肥を施用しなかった0–0–6–5区でも茎数400本 m–2以上となった.基肥を施用しない穂肥重点施肥体系で栽培した少播種量区では,茎の有効化率が85%以上と高く,成熟期の穂数および収量がそれぞれ約400本 m–2および約700 g m–2と,標準播種量区並みとなった.異なった栽培条件や品種でも検証する必要があるが,穂肥重点施肥では分げつ期に茎数を計り,それに応じて追肥量を決定する意義は薄く,むしろ苗立ち数80本 m–2以上を確実に確保することが重要であると考えられた.

品質・加工
  • 渋川 洋, 島崎 由美, 南雲 芳文, 関 正裕
    2020 年 89 巻 4 号 p. 307-316
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    新潟県内の砂丘地と水田転換畑においてパン用コムギ品種「ゆきちから」を栽培し,開花期の窒素追肥と子実灰分との関係を検討した.砂丘地では,開花期窒素追肥により子実灰分および子実リン含有率は増加したことから,リンが子実灰分の増加に寄与したことが明らかになった.水田転換畑では開花期窒素追肥と子実灰分との間に明瞭な関係は認めなかった.これは,砂丘地では開花期窒素追肥による整子実重の増加に対して子実リン含量の増加の度合いが大きかったのに対し,水田転換畑では開花期窒素追肥により子実リン含量は有意に増加しなかったことに起因した.開花期窒素追肥により登熟期リン吸収量は増加し,その増加量は砂丘地の方が多かった.砂丘地の可給態リン酸含量 (トルオーグリン酸) は水田転換畑に比べて多かったことから,可給態リン酸含量が登熟期リン吸収量に影響を及ぼした可能性が示された.以上のことから,開花期窒素追肥と子実灰分との関係は,子実リン含量増分と整子実重増分のバランスにより異なることが明らかになった.また,可給態リン酸含量が多い土壌では,開花期窒素追肥により子実灰分は増加する可能性が示唆された.

品種・遺伝資源
  • 中込 弘二, 藤本 寛, 松下 景, 笹原 英樹, 重宗 明子, 出田 収
    2020 年 89 巻 4 号 p. 317-324
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    遺伝子の変異により極短穂性を示す品種系統の効率的な種子生産方法の確立のため,一穂籾乾物重に影響を及ぼす極短穂品種系統に共通した要因を明らかにすることを目的とした.早晩性が異なり極短穂性を示す64品種系統を用いた延べ125試験区の栽培を2015~2018年に西日本農業研究センター内の圃場において6月上旬移植,栽植密度18.5株m–2,窒素施用量15 g m–2の条件で行った.また,極短穂性を示し早晩性が異なる「中国飼224号」,「中国飼225号」,「つきすずか」および「つきことか」の4品種系統を2018年5月20日,6月25日,7月20日移植の3作期を設け,栽植密度18.5株m–2,窒素施用量12 g m–2の条件で栽培した.出穂期,到穂日数,籾乾物重,穂数および一穂籾乾物重を調査した.その結果,極短穂性品種系統の籾乾物重には,穂数よりも一穂籾乾物重が大きく寄与することが確認された.また,いずれの試験においても到穂日数が80日以下となる品種系統や移植時期では,到穂日数と一穂籾乾物重との間に高い負の相関がみられ,到穂日数が短くなるに従い一穂籾乾物重は増加した.

形態
  • 金井 一成, 森田 茂紀
    2020 年 89 巻 4 号 p. 325-330
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    エネルギー作物のエリアンサス (Saccharum spp.) が高いバイオマス生産性を発揮できる背景として,大型の群落構造を持つことがあると考えられる.すなわち,長大な葉身が比較的直立し,群落内の光環境が良好に維持されることが群落の物質生産に有利に働いているはずである.そこで,エリアンサスの群落構造を解析する一環として,長大な葉身が自重を支えて直立している実態を形態学的な観点から検討した.その結果,葉身が支えている自重,すなわち,葉身重は葉身先端から基部に向かうにしたがって大きく,葉身の挫折時荷重も同様の傾向を示した.そこで,挫折時荷重を利用して葉身の各部位が支持できる最大の重さ (支持重) を推定し,葉身重との大小関係を検討した.その場合,葉身先端からの距離と葉身重および支持重との,それぞれとの間に得られた回帰曲線を利用して解析した結果,実際に存在する葉身長の範囲では支持重>葉身重であり,葉身が自重を支えている事実と整合した.また,葉身の挫折時荷重は,主に中肋に規定されていることが明らかになった.そこで葉軸に沿って中肋の横断面を観察した結果,葉身先端から基部に向かって中肋は大型化し,同時に円形から半円形を経てU 字型に変化していた.このような中肋の大型化と形態変化も,葉身の機械的強度を保つことに貢献していると考えられる.

作物生理・細胞工学
  • 岡本 正弘, 原 貴洋
    2020 年 89 巻 4 号 p. 331-336
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    自然光型人工気象室 (最高気温30℃,最低気温22℃,平均気温26℃) において,九州の水稲品種「シンレイ」に短日処理 (9時間日長) を施したところ,到穂日数が約85日から約60日に短くなるにつれて,不稔歩合は約3%から約28%に高まった.短日条件下では葯が湾曲化・短小化し,葯長 (50%エタノールで固定) は長日条件下 (14時間日長) の約1.7 mmから約1.2 mmに短縮した. 葯当たり充実花粉数は葯の短小化にともなって減少し,葯長が約1.5 mm,葯当たり充実花粉数では約600個を切ると不稔歩合が上昇に転じた.葯長は幼穂分化までの期間の長さに加え,幼穂分化後約3~9日間 (出穂前25~19日頃) の日長条件に大きく影響され,この期間の日長が短日条件になると葯は顕著に短縮し,葯当たり充実花粉数が減少して不稔歩合が増加した.

収量予測・情報処理・環境
  • 今野 智寛, 高橋 智紀, 中野 恵子, 新良 力也, 大橋 優二, 工藤 忠之, 谷川 法聖, 森谷 真紀子, 南雲 芳文, 青木 政晴, ...
    2020 年 89 巻 4 号 p. 337-345
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    ダイズの低収要因は圃場ごとに異なるが,その低収要因の背景には,土壌水分の過湿,過乾燥が存在することが指摘されている.本研究では,FAO56モデルによって土壌水分を推定し,これをもとに土壌の乾湿害の両リスクを評価するために指標WI (Wet Index) を作成した.WIは0に近づくほど乾燥,1に近づくほど湿潤であることを示す指標とした.また,FAO56モデルの性質を考慮して,湿害のリスク評価には,各生育ステージにおいてモデルが仮定する最大水分 (WI=1) になる日数割合 (RWI) を採用した.これらの指標を用いて,2015年から2017年の3か年で全国16道県の現地農家圃場から収集した337データを解析したところ,どの生育ステージにおいてもWIの最小値は0.22以下,RWIの最大値は50%以上であったことから,地点や年次の違いによって,同じ生育ステージでも乾燥条件の地点もあれば,湿潤条件の地点もあることが示された.WI及びRWIと収量の関係を偏相関係数で評価すると,WIは栄養生長中期,子実肥大後期~成熟期に正の相関があり,RWIは栄養生長初期及び後期に負の相関,子実肥大後期に正の相関があった.以上の結果は既往の報告とよく一致し,我が国のダイズ作における乾湿害の実態をよく評価し,乾湿害のリスクが高い生育ステージを明らかにしたと考えられた.

研究・技術ノート
  • 浅見 秀則, 橘 雅明
    2020 年 89 巻 4 号 p. 346-352
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    近年,低コスト・省力化の観点から水稲直播栽培の面積が増加傾向にある一方で,漏生イネの発生が直播栽培の普及阻害要因になっている.そこで,本研究では水稲乾田直播栽培における漏生イネの防除体系を確立するため,作物の播種の2週間前に耕起を行い,雑草の出芽を促す偽播種床(False Seedbed;以下FS)を作成し,後に非選択性除草剤で枯殺する手法や晩播等の耕種的防除手段と化学的防除手段との組み合わせが漏生イネの出芽の推移および残存個体数に及ぼす影響を調査した.漏生イネとして供試した「たちすずか」および「ヒノヒカリ」はいずれも6月上旬に累積出芽率がおおよそ100%に達したが,「たちすずか」はやや出芽時期が遅い傾向を示した.2017年の漏生イネ残存個体数は,FS処理と晩播を組み合わせることで有意に減少した(対慣行区比4~9%).一方,漏生イネの残存個体数に乾田直播の播種法による差異は認められなかった.また,イネの実生への生育抑制効果があるとされるビスピリバックナトリウム塩液剤高濃度処理の漏生イネ枯殺率は低かった.2018年にはFS処理後の鎮圧処理およびFS処理自体の漏生イネ防除効果を検討したが,漏生イネの残存個体数に有意な処理間差は認められず,FS処理を行わずに晩播にするだけでも慣行と比較して漏生イネの残存個体数は大幅に減少した(対慣行区比38%).以上より,播種時期(晩播)がFS処理や選択性除草剤処理と比較して漏生イネの残存個体数低減に最も寄与することが明らかになった.

  • 松波 寿典, 関矢 博幸, 齋藤 秀文, 阿部 敏之
    2020 年 89 巻 4 号 p. 353-359
    発行日: 2020/10/05
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル フリー

    分散圃場を伴う大規模経営体が増加するなか,分散圃場の生産効率の向上と高い所得増大効果が期待できる省力的なダイズ栽培技術の確立が期待されている.本研究では大豆作において高能率で簡易的な栽培技術である散播浅耕栽培における低苗立ち密度下でのダイズの生育,収量,品質を明らかにすることを目的とした.苗立ち密度が最も少ない圃場四隅 (以下,低密度区) の苗立ち本数は各四隅の内側に隣接する平均的な苗立ち本数を示した区 (以下,対照区) の約35%であった.低密度区の地上部乾物重は対照区に比べ,開花期までは軽かったが,その後,旺盛な葉面積指数 (LAI) の増加に伴い,子実肥大期以降は対照区と同程度となった.群落地際部の相対光量子密度の推移は低密度区で高く,開花期頃においても10%に到達しなかった.低密度区は対照区に比べ,m2あたり総節数は少なかったが,個体あたりの分枝数や分枝節数,一節あたり稔実莢数が多かった.このため,稔実莢数および収量に有意差は認められなかった.また,一節あたり稔実莢数は開花期から子実肥大期頃にかけてのLAIとSPAD値の増減程度と正の相関関係が認められた.これらのことから,散播浅耕栽培において苗立ち密度が最も少ない圃場四隅のダイズでは個体あたりの分枝の発育が促進され,開花期から子実肥大期にかけての旺盛な葉面生長と葉色の向上により一節あたり莢数を増加させることでm2あたり莢数を確保し,苗立ち本数が確保された箇所のダイズと同程度の収量性を発揮することが明らかとなった.

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