本研究では,緑肥として栽培する期間中に種子を形成するため雑草化の懸念のあるSesbania cannabinaと種子形成をしないS. rostrataの生育量と各種成分吸収を比較調査した.沖縄の国頭マージ,島尻マージおよび黒ボク土を充填したポットで45日間栽培した場合,いずれの土壌でも生育量はS. cannabinaよりS. rostrataで大きくなり,両種ともリン施肥量を変えた国頭マージではリン施肥反応は同程度に小さく,低リン耐性は同程度と考えられた.マグネシウム含有率はS. cannabinaよりS. rostrataで高く,それ以外の各種成分含有率は同程度であった.圃場で87日間栽培した場合でも葉と茎の生育量はポット試験と同様にS. cannabinaよりS. rostrataで有意に大きかった.ただし,S. cannabinaでは地上部重の1/3程度を莢が占めていた.莢を含めた地上部重でもS. rostrataで大きかった.莢を含めた地上部の各種成分含有量はリンでは同程度であったが,窒素,カリウム,カルシウムおよびマグネシウム含有量はS. rostrataで大きくなり,S. rostrataの施用効果はS. cannabinaと同程度以上であることが明らかになった.
水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培における,根出し種子の現地生産規模量の種子処理や,根出し種子の苗立率と初期生育の向上効果の実証を目的に,2017年~2019年の3年間,寒冷地である秋田県の2箇所で現地実証試験を行った.根出し種子は,催芽時に根だけを伸ばした種子である.水稲品種「ちほみのり」と「萌えみのり」の種子15~48 kgを30℃の育苗器で根出し処理した.「ちほみのり」は36~41時間,「萌えみのり」は30~45時間の処理で適切な根長の根出し種子が得られた.根出し種子と催芽種子を代かき同時浅層土中播種機を用いて散播するとともに,慣行の直播として鉄コーティング種子を動力散布機で散播した.根出し種子は催芽種子より出芽期の草丈と葉齢が有意に大きく,苗立率や苗立期の草丈,葉齢,茎葉乾物重も大きい傾向にあった.また,根出し種子は鉄コーティング種子より苗立期の草丈,葉齢,茎葉乾物重が有意に大きかった.倒伏程度と収量は催芽種子や鉄コーティング種子と同程度であった.以上より,根出し種子は,育苗器を用いることで現地生産規模量の種子処理が可能であることや,現地圃場においても苗立率や初期生育の向上効果があることが示された.
愛知県北設楽郡設楽町のエゴマ栽培では,台風や早霜を回避するために,早生で収量性の高い品種の育成が求められている.本研究では,設楽町で栽培される晩生の名倉在来と極早生の黒種系統,ならびにそれらの交雑後代から育成された1番,7番および9番系統を中山間地の稲武町と平地の春日井市で2015年と2016年に栽培し,生育と収量関連形質に関する各系統の特徴を解析し,栽培地の違いがそれらに及ぼす影響を調査した.いずれの育成系統も開花始期が名倉在来の9月下旬より早く,1番系統,7番系統,9番系統の順に早生であった.また,いずれの系統も栽培地による開花始期の違いがほとんどなかった.1番系統は他の系統よりも花房あたり着果数が多く,子実千粒重も重い傾向があり,いくつかの収量関連形質が優れていた.すべての系統において,春日井の個体あたり子実収量は稲武よりも少なく,それは春日井での栽培により子実千粒重が稲武よりも軽くなったことが主な要因であった.また,春日井において8月上旬から9月上旬に高温が続いた2016年では,その時期に登熟を迎える1番系統と7番系統の登熟子実割合が著しく低下した.子実含油率は,早生系統が低くなる傾向があり,1番系統と名倉在来を除いて春日井が稲武よりも低かった.以上のことから,標高が比較的低い地域でエゴマ栽培を拡げていくには,登熟期が夏季の高温期と重ならない系統を選定するか,高温登熟耐性を有する系統の育成が必要である.
日本の水稲栽培において,最適管理条件で得られる試験場収量と生産者収量にどの程度の差があるのか広域で評価された例はない.本研究では,まず試験場収量を収録した奨励品種決定基本調査成績データベースを活用して,主要8品種について土壌可給態N,施肥量や日最高・最低気温,日射量を説明変数とする収量推定モデルを構築することを目的とした.次に,モデルによる推定値と作況調査の収量を比較することで,試験場と生産者との収量差を評価した.モデルは,部分的最小二乗回帰 (PLS),ランダムフォレスト (RF),勾配ブースティング決定木のXGBoost (XGB) により構築し,推定残差の大きいデータを除去する選別処理の効果と,モデルごとの推定精度について評価した.モデル構築において,学習データに選別処理を行うことでPLSではテストデータの推定精度は向上したが,RFやXGBでは多くの品種で推定精度が低下した.この結果を基に,各手法に適した学習データを用いてテストデータの推定精度を比較すると,品種により精度が優れる計算手法は異なった.またXGBとRFのいずれにおいても生殖成長期の日最低気温の変数重要度が最も大きく位置付けられていた.秋田県から大分県までの21府県を対象に,各計算手法により推定した府県別平均収量は,作況収量と直線的な相関関係があり,個々の構築したモデルは収量の環境反応を良く説明できていると考えられた.これらの比較から,試験場収量は生産者収量よりも平均すると56.1 kg 10 a–1高いことが明らかとなった.
水稲乾田直播栽培における除草剤の適期散布に資するため,ノビエ葉齢の推定式を作成した.場内圃場での作期移動試験および現地乾田直播圃場における年次,作期,場所等多様な条件下でノビエ最大葉齢を調査し,メッシュ農業気象データの日平均気温を用いて検討した.その結果,乾田直播圃場ではノビエの葉齢進展が耕起起点と除草剤起点とで異なり,起点事由別に分ける必要があること,控除値を7℃とする有効積算温度が推定に適していることが明らかとなった.さらに,圃場では温度以外の要因により葉齢進展が遅れる可能性があることを考慮し,推定式の作成には実測した最大葉齢と算出葉齢の回帰直線以上のデータのみを用いることとし,このデータから算出した回帰式を推定式とした.このように作成した推定式は,実測葉齢と推定葉齢の差が+0.5葉以内に全データの内96%が収まっており,実測が推定を大きく上回ることが少なく,早期播種や高標高地を含む現地データで検証しても適合が悪くなる特定の要因は認められなかった.したがって,作成した推定式は中国地方において多様な条件下にある乾田直播圃場で実用上問題ないと判断した.
北陸地域において早生で極良食味の水稲新品種「つきあかり」は,同熟期の「あきたこまち」に比べて10%程度の多収を示す品種として栽培地域が拡大している.本研究では北陸地域での成熟期の諸形質の解析を通じ,「つきあかり」の多収条件を明らかにしようとした.2017~2019年の3年間で計47区の調査を行った結果,「つきあかり」における精玄米重は750 g m–2程度で頭打ちになった.また精玄米重750 g m–2の多収を達成し得る収量構成要素の理論値を,精玄米重や単位面積あたり籾数,その他の収量構成要素との有意な相関関係から算出したところ,籾数は35.7千粒 m–2,穂数は423本 m–2,登熟歩合は83.8%,千粒重は25.1 gであった.地上部窒素吸収量は14.0 g m–2であった.登熟期に異常高温であった2019年を除いた2017年と2018年の単位面積あたり籾数と整粒歩合との負の相関関係より,籾数の制御は高い外観品質の維持に重要であり,籾数35.7千粒 m–2のとき,整粒歩合は72.5%,玄米タンパク質含有率は7.1%であった.また精玄米重750 g m–2のときの稈長は80.4 cmであり,稈長を80㎝程度に制御することは倒伏の回避に重要であることが分かった.以上の結果より,北陸地域において「つきあかり」は登熟期の異常高温に遭遇しない限り,精玄米重750 g m–2の多収かつ整粒歩合70%以上,玄米タンパク質含有率7.0%程度の高品質なコメを倒伏を抑えつつ栽培することが可能な品種であることが示された.
本研究では,稲発酵粗飼料用として普及が進んでいる極短穂性の水稲の品種について,収穫時期による飼料成分含有率の把握とその変動要因を明らかにすることを目的とした.西日本農業研究センター(広島県福山市)において,2017年に極短穂性の「たちあやか」を2作期に分けて栽培した.また,2018年に早晩性の異なる「つきはやか」,「つきあやか」,「つきすずか」および「つきことか」の4品種を栽培し,出穂期から出穂期後70日の地上部乾物重,飼料成分含有率を調査した.その結果,出穂期後の飼料成分含有率は,出穂期から出穂期後30~40日にかけて大きく変動し,特にCP(粗タンパク質)やADF(酸性デタージェント繊維)の含有率は低下する一方で,CA(粗灰分)やヘミセルロースの含有率の変動は小さく,また,NFC(非繊維性炭水化物)の含有率は上昇した.地上部乾物重はいずれの作期・品種ともに出穂期後30~40日に最大に達したが,全作期・品種を平均すると出穂期後の地上部乾物増加量の71%をNFC,19%をヘミセルロース,8%をCA の乾物増加量が占めた.以上のことから,出穂期後の飼料成分含有率の変動は,主にNFCの乾物増加によるものであり,NFC乾物重の増減が小さくなる出穂期後30~70日の飼料成分含有率は安定した.
東北北部に位置する秋田県でも登熟期の高温による品質低下が1999年,2010年,2019年に問題となった.高温登熟における対策技術として移植の晩期化や,高温登熟耐性品種は活用場面が限られ,現行の作期および品種における対策技術が求められる.そこで,2007年と2010年に秋田県の主要品種であるあきたこまちの育苗箱全量施肥と密植による無効分げつ抑制栽培を,全層施肥基肥と追肥による慣行栽培と比較した.さらにビニルハウスを用いて登熟気温を最高気温で1.4℃~2.1℃上昇させ,整粒率低下要因の1つである白未熟粒の発生抑制技術として検討した.2007年は平年気温より気温は高かったが高温登熟条件ではなく,一方で日照時間が少なかった.2010年は気温が高く高温登熟条件となった.無効分げつ抑制栽培は玄米品質が高くなる主茎の第4葉~第7葉の基部から発生する1次分げつを高い有効茎歩合で確保し,密植による穂数確保で収量も維持した.また6月下旬から7月下旬および出穂期から成熟期までにおける葉色の低下が少ない傾向を,登熟期間中の出液速度は大きい傾向を示した.精玄米の白未熟粒率は慣行区を100としたときに高温処理なしで83,高温処理ありで80に,有意差はないものの減少した.また精玄米重,玄米タンパク質含有率は同等であった.以上のことから,無効分げつ抑制栽培は,日照時間が少ない条件や高温登熟条件で白未熟粒発生が減少し,かつ収量低下が小さいことから,作期移動が難しい地域での有効な高温登熟対策技術であることが示された.
わが国のコムギ・オオムギの発育調査基準は50年以上前に整理されたが,その後,品種や栽培条件が大きく変化し,また各地で調査基準の若干の相異が見られる.そこで,幼穂の発育を中心に発育調査基準の再整理を試みた.ムギの発育上重要な時期として,出芽期,二重隆起形成期,茎立期,出穂期,開花期,成熟期などを取り上げ,その調査基準を提案した.またこれらの調査基準と,分げつ期,幼穂形成期などの定義があいまいな用語などとの関連,および海外で広く用いられているZadoksの成長スケール(Growth Stage : GS)との関連を整理した.そして,コムギ,オオムギの発育経過の品種や地域による差異を,北海道,東北,北陸,北部関東,および北部九州における圃場試験の事例によって示した.