日本作物学会紀事
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91 巻, 2 号
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研究論文
栽培
  • 服部 太一朗, 安達 克樹, 田村 泰章
    2022 年 91 巻 2 号 p. 111-119
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    ハーベスターで採苗した蔗茎を植え付けるビレットプランターの導入により,植え付け作業の大幅な省力化が期待されているが,採苗時の芽子損傷による発芽率低下が問題となっている.本研究では,ハーベスター採苗時の種苗重量当たり健全芽子数の確保に寄与する品種特性の解明を目的とした.熊毛地域の奨励品種群を人力またはハーベスターで採苗し,芽子の損傷など種苗の状態を調査した結果,品種によらずハーベスター採苗時に5~10%程度の芽子が消失し,また,残存した芽子における損傷程度には品種間で一貫した傾向を認め難かった.他方,ハーベスター採苗後の種苗重量当たり健全芽子数は,細茎あるいは多節の品種で多い傾向にあった.芽子の休眠性が異なる2品種のみを用いた比較試験では,伸長芽子は採苗時に非伸長芽子より損傷しやすく,非伸長芽子の割合が高い「はるのおうぎ」より,芽子が伸長しやすい「NiTn18」の方が採苗後の芽子損傷が多かった.脱葉茎と非脱葉茎の比較では,非脱葉茎で芽子の損傷が少なかった.以上から,細茎,多節,芽子の休眠性の強さ,難脱葉性といった特性が,ハーベスター採苗時の芽子損傷の抑制や健全芽子数の確保に有利に作用し,これらの特性を有する品種はハーベスター採苗への適性に優れると考えられた.

  • 柏木 めぐみ, 大石 千理, 村田 和優, 尾崎 秀宣, 山田 哲也, 金勝 一樹
    2022 年 91 巻 2 号 p. 120-128
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    水稲の種子温湯消毒法において,温湯処理前に種籾の水分含量を10%以下にする(事前乾燥処理) と高温耐性が強化され,防除効果の高い高温域の65℃での消毒 (高温温湯消毒) が可能となることが示されている.「高温温湯消毒法」を安定した技術として普及させるためには,実用的な事前乾燥処理法を確立することが重要である.そこで本研究では,種籾を乾燥機で加温して事前乾燥を行うときの処理条件について検討した.温湯消毒時の高温耐性が低い「日本晴」の種籾を40~60℃で最長72時間加温して事前乾燥を行なった結果,①温度が高い方が短時間で効率的に乾燥でき, 40℃の乾燥では水分含量を10%以下にするまでには12時間要する場合があること,②40~50℃の乾燥では水分含量8%程度までは急激に乾燥するが,その後の水分の減少は緩やかになり,50℃で24時間乾燥させても7%以下にはならないこと,③水分含量が7%を下回っても発芽能に影響はなく,高温耐性は強化されることなどが明らかになった.しかしながら60℃で72時間乾燥させた場合には発芽能が低下する試験区もあった.さらに温湯消毒時の高温耐性が高い「コシヒカリ」の種籾を50℃で水分含量9.5%以下まで乾燥させた場合には, 72℃・10分間の温湯処理でも, 90%以上の発芽率を確保できた.以上の結果から,「日本晴」と「コシヒカリ」の種籾の高温温湯消毒を実施するための事前乾燥処理の条件としては,「40~50℃の温度で12~24時間乾燥処理して水分含量を7~9.5%とすること」が最も適していると結論付けた.

  • 荒井(三王) 裕見子, 岡村 昌樹, 吉永 悟志, 矢部 志央理, 荻原 均, 小林 伸哉
    2022 年 91 巻 2 号 p. 129-135
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    作業競合を回避し作付けの多様化の可能性を探るために,近年育成された多収・良食味米品種「あきだわら」,「やまだわら」,「とよめき」について,異なる移植時期(早植栽培,普通植栽培,晩植栽培)での収量および収量構成要素と関連形質を3年間評価した.3品種とも精玄米重は,移植時期が遅いほど小さかった.また,シンク容量(m2あたり籾数×千粒重)と出穂期から成熟期までの乾物増加量(出穂後乾物増加量)は,移植時期が遅いほど小さい傾向があった.そこで移植時期の違いによる精玄米重の変動と気象条件との関係を検討した.精玄米重(Y)を出穂前30日から出穂後20日までの積算日射量(S)で除した値(Y/S)とこの期間の日平均気温の関係は,約23.4~24.0℃で最大値となる二次式に近似でき,この期間の気温と日射量で精玄米重をよく説明できた.しかし晩植栽培で精玄米重が特に小さいことには,出穂前後の日平均気温ではなく,日平均日射量が少ないことが影響したと考えられた.

品質・加工
  • 小舘 琢磨, 藤岡 智明, 仲條 眞介, 太田 裕貴, 岡留 博司, 小出 章二
    2022 年 91 巻 2 号 p. 136-146
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    近年,中食需要の増加とともにおにぎり・弁当向けや冷凍米飯需要が拡大している.それらに対応するには粘りが強く冷めても硬くなりにくい低アミロース米が最適と考えられるが,栽培面では低収量,加工製造面では米飯成形における「べたつき」による作業効率の低下が課題として挙げられる.そこで,課題解決に向けた知見を得るため,岩手県育成の低アミロース水稲品種「きらほ」を用い,異なる窒素施肥条件が収量性および物性を含めた食味に与える影響について検討した.基肥窒素量が6 g m–2および12 g m–2 の両試験区とも,幼穂形成期および穂揃期の2回の追肥の合計窒素量が6 g m–2 以上の区では無追肥区と比べ,精玄米重が有意に増加した.また,追肥窒素量の増量により白米タンパク質含有率は有意に高くなる傾向がみられ,白米アミロース含有率は有意に減少する傾向がみられるものの差は小さかった.さらに,炊飯米の物理性についてみると,白米タンパク質含有率は米飯粒表層の硬さとの間に正の相関関係が,表層の付着性との間に負の相関関係がみられたことから,追肥窒素量の増量により米飯成形時の「べたつき」低減が推察された.一方で,追肥窒素量の増量による米飯粒全体の硬さへの影響は小さく,食味官能評価における総合評価の低下も小さかった.したがって,低アミロース米「きらほ」は追肥窒素量を増量することにより増収するとともに,食味が低下することなく,加工製造時の米飯の「べたつき」による作業効率の低下が抑えられるものと考えられた.

品種・遺伝資源
  • 杉浦 和彦, 濱頭 葵, 井手 康人, 池田 彰弘
    2022 年 91 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    アカスジカスミカメ (Stenotus rubrovittatus) に対するイネ系統「CRR-99-95W」の斑点米カメムシ抵抗性について検討した.「CRR-99-95W」は比較品種である「あいちのかおりSBL」と同様に,登熟の進展に伴いアカスジカスミカメによる斑点米発生率が低下した.特に加害時期が出穂後7,14日では,「CRR-99-95W」は「あいちのかおりSBL」に比べて有意に斑点米発生率が少なく,出穂後7日では不稔粒発生率についても有意に少なかった.以上のことから,「CRR-99-95W」は登熟初中期では斑点米発生率を抑制させ,さらに登熟初期では不稔粒の発生を抑制させることが明らかとなった.従って,アカスジカスミカメに対する斑点米カメムシ抵抗性の検定には,斑点米発生率に有意な差があり,かつ不稔粒の発生が少ない出穂後14日に暴露するのが適していることが見出された.また,アカスジカスミカメの被害に大きな影響を与える割れ籾の発生についても検討した.「CRR-99-95W」は出穂前の低温・寡照条件によって割れ籾が増加したが,その発生数は比較品種の「あいちのかおりSBL」と変わらなかったことから,「CRR-99-95W」のアカスジカスミカメに対する抵抗性は,割れ籾の有無が要因ではないと推察される.

研究・技術ノート
  • 林 怜史
    2022 年 91 巻 2 号 p. 153-162
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    農研機構北海道農業研究センター(北農研)において育成された業務用米向け多収水稲品種「雪ごぜん」の収量性を既存品種「ななつぼし」と比較し,施肥量や栽植密度が収量などに及ぼす影響を明らかにするために,北農研本所(札幌,火山性土)で3か年,美唄試験地(美唄,泥炭土)で2か年の圃場試験を行った.両品種について,施肥量2水準(標肥と多肥),栽植密度2水準(標植と疎植)を組み合わせた4区を設けた.「雪ごぜん」は2015年札幌で「ななつぼし」より有意に多収となり,2016年札幌,2018年美唄では「ななつぼし」より有意に高い整粒歩合を示したことから,「雪ごぜん」は「ななつぼし」よりも多収で整粒歩合の高い品種であると考えられた.多肥区は2015年札幌でのみ標肥区より有意に多収となったが,それ以外では多肥区における倒伏や,総籾数と登熟歩合あるいは千粒重とのトレードオフのため,多肥化による増収は見られなかった.疎植区は,低日照であった2018年美唄においてのみ標植区より低収となった.「雪ごぜん」標植区では成熟期窒素吸収量12 g m–2,稈長80 cmを上回る条件で倒伏が見られたが,疎植区では倒伏程度は最大でも1.0と,標植区より倒伏の程度が小さかった.施肥量が収量に及ぼす影響は有意ではなかったが,不良年であった2018年美唄の「雪ごぜん」疎植区においては多肥化によって28 g m–2の増収の傾向が見られた.これらのことから,多肥と疎植を組み合わせることで,不良年における減収の危険性と生育が旺盛な条件での倒伏の危険性の両方を小さくし,省力化を達成できると考えられた.

  • 石川 哲也, 横田 修一, 平田 雅敏, 小川 春樹, 小笠原 慎一, 中村 隆三, 吉永 悟志
    2022 年 91 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    大規模稲作経営において,網羅的に収集した圃場立地ブロック・移植日・窒素施肥法などの栽培管理情報と,圃場別推定収量(以下,収量と略記)との関係を2019年に解析して得られたコシヒカリの収量向上のための改善策を,2020年に茨城県南部の農業生産法人を対象に検証した.改善策として2020年の対象圃場139筆のうち,13筆は他品種からコシヒカリに変更して5月13日までの適正時期に移植した.また,コシヒカリを継続作付した113筆および新規13筆のうち,移植時期が5月21日以降になる圃場53筆に対して,栽植密度を高めたり,基肥窒素を増施するなどの改善策を適用した.その結果,2020年の収量加重平均値は2019年より5.7%高くなったが,茨城県南部における作況指数の年次間比率107.4%を考慮すると,改善策全体としての収量向上効果は明確ではなかった.改善策別の比較では,他品種からコシヒカリに変更して適正時期に移植した圃場の収量スコアはすべてプラスとなった.また,より窒素施肥量の多い条件で栽培できる中生・晩生品種に変更して遅植えした41筆の収量スコアの平均は-2.46となり,圃場立地の影響は比較的小さいと推察された.栽培法の改善では,栽植密度を単独で高めた場合,低スコア圃場の比率が52.0%となり,有効性は認められなかったが,基肥窒素施肥量の増加と併用すると,低スコア圃場の比率は14.3%で,栽培法を維持した圃場の23.3%より低く,一定の効果が認められた.このように,栽培管理情報を網羅的に収集した圃場別データセットは,改善策の有効性検証においても利用できることが示された.

  • 古畑 昌巳, 黒川 誠
    2022 年 91 巻 2 号 p. 170-175
    発行日: 2022/04/05
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

    現在,鉄コーティング直播栽培が広く普及しているが,鉄コーティング種子の作成時にコーティング後の発熱によって種子の発芽率が低下する場合がある.これまで著者らは酸化鉄をコーティング資材として利用することによって発熱リスクを低減できることを報告してきた.また,近年,酸化鉄をベースとする鉄黒コート資材が開発されたことから,鉄黒コート種子のコーティング後の発熱,発芽および出芽苗立ち特性を調査した.鉄黒コート種子は鉄コーティング種子と異なり,コーティング後に明確な発熱が確認できなかったことから,催芽種子にもコーティング可能だと考えられた.また浸種(活性化)種子を利用した場合でも鉄黒コート種子の発芽は従来の鉄コーティング種子に比べて早く,圃場条件で機械播種した結果,「鉄黒コートと催芽種子」,「鉄黒コートと浸種(活性化)種子」,「従来鉄と浸種(活性化)種子」の組み合わせの順で苗立ちが優れる傾向を示した.

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